Pokemon Legends YAKUZ−A! 作:洋菓子職人II
たまには休むのも悪くないかも。
タウニーによる地獄の「手加減ブートキャンプ」がようやく終わりを迎えた頃、彼女はふと手元の時計に目を落とした。その瞬間、タウニーの顔がガチガチに引きつる。
「うわあああ、大変っ! もうこんな時間じゃん! ごめんカズマ、あたしちょっと用事があるから、じゃあね!」
嵐のように荷物をまとめ、今すぐ駆け出そうとするタウニーの背中に向かって、カズマは静かに声をかけた。
「おい、タウニー。一体何の用事があるんだ?」
「あはは、また今度説明するね〜っ! それじゃあ後でホテルで!」
タウニーはひらひらと手を振りながら、ミアレの大通りへと猛スピードで走っていき、あっという間に人混みの向こうへと消えていった。
静かになった1番ワイルドゾーンの入り口で、カズマは手元のスマホロトムの画面を見つめる。
「……さて」
画面の図鑑アプリを確認すると、先ほどの壮絶なトレーニングの過程で、ヤヤコマをはじめとする野生のポケモンを、いつの間にか合計で5種類以上も捕獲していた。そのどれもが、カズマの『てかげん』を覚えるための尊い犠牲?となった強者たち?だ。
「とりあえず、これだけのデータがあれば十分だろう。約束通り、一度ポケモン研究所に行くか」
カズマはスマホロトムの地図機能を起動し、開発途中のミアレシティのマップをじっと眺め、地図を指でなぞりながらカズマは顔を上げてポケモン研究所の方角を指差した。
「場所は……あっちか。行くぞ、ニシキ、ススム」
腰のボールからポンと抜け出ていたニシキが、ようやく自分の出番が来たとばかりに、床の上で元気よく跳ねます。
『おう、次は研究所だなカズマ! 5種類も新入りをデータに送ってやったんだ、あのインテリの学者どもがどんな顔して驚くか、今から見ものだぜ!』
その後ろでは、ススムが『親分、ワシも前を向いて真っ直ぐついていきますわ!』と短い足で力強く足並みを揃えていた。カズマはグレーのジャケットの襟を軽く正すと、タウニーの残していった賑やかな余韻を感じながら、次なる目的地へと重厚な足取りを進めるのだった。
◆
スマホロトムの地図を頼りに大通りを進み、カズマたちは近代的な佇まいを見せる『ポケモン研究所』へと到着した。カズマは自動扉を潜ると、職員が出迎えてきた。
カズマはグレーのジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、受付カウンターにいた一人の女性職員の前へと歩み寄った。
「なぁ…。……表のキャンペーンで、ポケモンを5種類捕まえてきたんだが、ここでいいのか?」
カズマが低い声で問いかけながら、スマホロトムの画面を差し出す。幾多の修羅場を潜り抜けてきた男の、あいも変わらず顔面凶器さながらの仏頂面と、カタギにはとても見えない圧倒的な圧。至近距離でそれを受けた女性職員は、一瞬だけ書類を持つ手をピクリと止めた。
だが、彼女は次の瞬間には、何事もなかったかのようにパッと顔を輝かせ、満面のビジネススマイルをカズマに向けた。
「なんと素晴らしい! ご協力、心から感謝いたしますわ!」
女性職員はカズマのスマホロトムからテキパキとデータを読み取ると、嬉しそうに何度も頷いた。
「これでまたミアレの生態系調査が大きく進みます! ――データは確かに確認いたしましたので、3階にいる『所長代理』にこの旨をお伝えいただければ、素敵なプレゼントが貰えますよ!」
「あぁ。分かった。ありがう」
カズマは無骨に短く応え、3階へ向かうエレベーターへと歩き出す。その背後で、受付カウンターの上からカズマに抱え上げられようとしていたニシキは、丸い目を限界まで見開いたまま、固まっていた。
『おいおいおい……マジかよカズマ。今の職員のお姉ちゃん、お前のその『今から組事務所に殴り込みに行きます』みたいなツラを正面から拝んどいて、1ミリも腰を抜かさなかったぞ……?』
ニシキはハァハァと息を荒くしながら、胸ビレを頭に当て、深刻な顔で去っていった受付の背中を見つめた。
『……いや、待てよ? 昨日からタウニーの姉ちゃんにデウロちゃん、さっきのポケモンセンターのジョーイさん、そして今の職員さん……。どいつもこいつも、カズマのオーラを前にして平然と笑ってやがる。……おいカズマ、これってもしかして、ミアレの女子の『肝が据わってる』んじゃなくて……この街じゃあ、これが『普通』なのか……? 俺らの感覚の方が、実はおかしいんじゃねえだろうな……?』
まだ軽度ではあるものの、ミアレの女性たちのあまりの打たれ強さに、ニシキの脳内ではちょっとしたアイデンティティの危機(疑心暗鬼)が芽生え始めていた。
一方、ニシキがミアレシティの実は終わってる治安に気付きかけてる傍らでススムはというと…
『ええなぁ…この姉ちゃん!見た目に臆さず屈さず笑顔で対応できとる!ええ母親なるでぇ…乳も豊満やし!』
いつも通りであった。
「おい、ニシキ、ススム。行くぞ」
カズマの声に、ススムが鼻から火の粉を散らして元気に返事をする。ニシキも『……あ、あぁ。分かってるよ』と、未だに拭いきれないカルチャーショックを小さな頭で抱えながら、慌ててカズマの腕の中へと収まるのだった。
エレベーターが静かに3階へと到着し、金属製の扉が開いた。カズマが足を踏み入れた瞬間、フロアの奥にある広いオフィスから、壁を突き破らんばかりの凄まじい怒号が早口で響き渡ってきた。
「くっそ! あのくそ市長め! 都市開発に予算つぎ込みすぎだっつうの! 街にポケモンと観光客が増えるのは嬉しいけど、こっちの調査が追いついてないんだってのが、どうしてあのガチガチの頭でわからないわけ!?」
書類が激しく机に叩きつけられる音が響く。
「ポケモンと人との適切な距離はポケモンごとに違うのに、バカな観光客はズカズカ突っ込んでいくから身の安全も確保出来てないし! それで野生のポケモンに襲われて怪我人が出たら、どうせ全部あたしたち研究所のせいになるんだからさぁ! もっとこっちに予算を使って、都市開発のペースを落とせっての、あのハゲ市長ぉぉぉーッ!!」
「……随分と…荒れているな」
カズマはグレーのジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、あまりの剣幕に少しだけ眉をひそめた。だが、用件を済ませないわけにはいかない。カズマは満を持して、書類の山に頭を抱えて狂乱している所長代理の女性のデスクへと歩み寄り、静かに声をかけた。
「すまねぇ。……下で5種類捕まえてきたと言ったら、ここへ行くように言われたんだが」
「――はっ!?」
カズマの低い声に、女性は弾かれたように顔を上げた。髪はボサボサ、目は血走り、まさに修羅の如き形相はカズマに引けを取らないレベルである。しかし次の瞬間…
―――
スウッ、と一瞬で血走った目を細め、何事もなかったかのようにふにゃりと気の抜けた笑顔を浮かべた。
「あら、お一人?」
「……あ、あぁ。一人だが」
あまりの急変ぶりに、カズマの言葉が珍しくわずかに詰まる。すると所長代理の女性は、人差し指でカズマの分厚い胸板をツンツンと小突きながら、ケラケラと笑い出した。
「 あらあら~ポケモンのこと忘れちゃって~このこのぉ~」
「…………」
先ほどまで市長への呪詛を呪文のようにぶちまけていた人物とは到底思えない、あまりにも脳天気で気の抜けた対応。さしものカズマも、完全に言葉を失って唖然と立ち尽くすしかなかった。
そしてその様子を、カズマの腕の中からじっと見つめていたニシキは、口をあんぐりと開けたまま、魂が口から抜け出しかけていた。そして、次の瞬間、ニシキの脳内で先ほど芽生えかけていた『これが普通なのか?』という繊細な疑念は、音を立てて粉々に砕け散った。
『撤回だっ!!! 前言撤回だ、クソッタレがァァァーーーッ!!! おいカズマ、やっぱりこの街の女は普通じゃねえッ!! 肝が据わってるとかいうレベルじゃねえぞ、完全にネジが何本もぶっ飛んでやがる!! さっきまで鬼瓦みたいなツラして怒鳴り散らしてたクセに、お前を前にして『このこのぉ~』だと!? 恐怖遺伝子が欠落してやがんだよ、ミアレの女子はよぉぉぉッ!!あ、デウロちゃんは悲鳴上げてたから例外か』
所長代理を前にとうとうニシキは気づいてしまった…ミアレの治安は多分終わっているのだと…それも多分思った以上に終わっているのだと…ミアレに夢馳せていたニシキはゲシュタルト崩壊を起こしてしまった…
一方その頃ススムは…
『この姉ちゃん、二面性は激しいがそのどちらもが本来の姿なんやろな。子ども相手に甘やかすだけやなくてちゃんと叱ることの出来る、飴と鞭両方とも持っとるええ母親になれるでぇ!』
やはりいつも通りであった
日常に潜む危機、危険じゃない異常とかは桐生ちゃんより錦山の方が先に気づくと思うんですよね。ニシキはツッコミキャラとして苦労人?苦労ポケモン?枠として過ごしてもらうつもりです。
あ、そうだ。カズマの手持ち募集してます。
条件
1.龍が如くキャラの生き様とポケモンの生態がマッチしていること
2.入れ墨とポケモンがマッチしていること
3.作者が納得すること
この内、1.2の片方と3の条件を満たしている場合、マチエール、もしくはモミジさんからの依頼で外来種、危険種の捕獲という名目でカズマの手持ちに加わります。
活動報告を作成致しましたのでそちらへ、もしくは当作品でのコメントをお願いします。
因みに郷田龍司はポケモンとして登場予定です。