Pokemon Legends YAKUZ−A!   作:洋菓子職人II

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という訳で再び龍が如くキャラがポケモンになって登場します。後半に出てきますが誰でしょう?


苦労人は変われない

 カズマは一つ、大きなため息をつくと、ジャケットの襟を正し、未だに「うふふ~」と笑っている所長代理に向かって、努めて冷静にスマホロトムを差し出すのだった。

 

カズマが差し出したスマホロトムの画面を覗き込みながら、所長代理の女性はふにゃりとした笑顔のまま、軽く頭を下げた。

 

 「おっと、失礼。あたしはこの研究所で所長代理を務めているモミジです。――ここにきたということは、表のキャンペーンの参加者さんかな?」

 「あぁ。5種類以上捕まえてきたんだが、ここでいいんだな」

 「はーい、バッチリですよ! 早速データを確認させてもらうね……。うん、うん……おほ〜6種類ね! 素晴らしい、ありがとうございます!」

 

 モミジは画面をテキパキと操作してデータを研究所のサーバーに転送すると、ふっと少しだけ真面目な顔をしてカズマを見上げた。

 

 「データのお礼(プレゼント)を渡す前に……少し長くなっちゃうんだけど、あたしの話を聞いてくれるかな?」

 「あぁ。構わん」

 

 カズマが腕を組んでどっしりと頷くと、モミジはデスクの上の書類をトントンと揃えながら語り始めた。

 

 「どうしてだか、このミアレシティの周辺には、最近になって野生のポケモンが急激に集まるようになっちゃってさ。それで臨時の『ワイルドゾーン』が設置されたわけ。ですが、具体的にどういったポケモンが増えているか、そしてそれらが人間や街の生態系にどう影響を――」

 「モミジさん…」

 

 カズマが低い声でモミジの言葉を遮った。

 

 「その話なら、知り合いからすでに一通り聞かされている。……だから、知っている」

 

 モミジは一瞬目を丸くしたが、すぐに「ラッキー」と言わんばかりに手をポンと叩いて破顔した。

 

 「あ、じゃあ色々すっ飛ばして本題に入っちゃうね! ――そういうわけで人手が全く足りてないの! ミアレの未来のために、カズマさん、このまま『ミアレシティのポケモン生態調査』、本格的に引き受けてくださりますね?」

 

 いきなり核心を突いたモミジの超ショートカットな勧誘。普通なら面食らうところだが、カズマはグレーのジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、微動だにせずモミジの目を真っ直ぐに見据えた。ハナからタウニーの恩返し、そして『MZ団』としてこの街の未来に身を打つ覚悟はできている。

 

 「あぁ。元よりそのつもりだ。俺の拳とこのロトムで良ければ、いくらでも使ってくれ」

 「わぁっ、ありがとうございます! 必ず引き受けてくれると思っていました!」

 

 モミジは今日一番の飛び切りの笑顔を浮かべ、嬉しそうにデスクを叩いた。

 

 『おい〜! 話が早すぎるだろっ!? お前もあっさり受けるんじゃねえよカズマ! どんだけすっ飛ばしてんだあのお姉ちゃん! 普通はもうちょっとこう、ドラマチックな交渉とかあるだろ!?』

 

 カズマの腕の中で、ニシキが丸い目を白黒させながら、あまりのスピード解決に心の中で激しくずっこけていた。隣ではススムが『さすが親分、即断即決の漢やでぇ……』と、惚れ直したように鼻から小さな火の粉をぷすぷすと吹き出している。

 

 「それじゃあ、カズマさん。本格的にリサーチを引き受けてもらう前に、あたしからの調査依頼――通称『モミジリサーチ』について、軽く説明しておくね」

 

 モミジはペンを回しながら、何処からか持ってきたホワイトボードにミアレシティ周辺の地図をいくつかの色で塗り分け始めた。

 

 「これからの依頼はね、マナーの悪い観光客が外から持ち込んで、そのまま勝手に放しちゃったことによる『外来ポケモン』の調査兼捕獲の他に……『オヤブン個体』と呼ばれる、通常よりも身体が大きく、獰猛性と危険性が極めて高いポケモンの鎮圧、そして可能ならば捕獲をしてもらうことが多くなると思います」

 「オヤブン、か……。なるほどな」

 

 カズマはグレーのジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、『オヤブン』というさぞかし凶暴な響きに、静かに目を細めた。

 

 「まあ、カズマさんの実力が高いことを証明し続けたら、ゆくゆくは……野生じゃない危険なポケモンの対応をしてもらうこともあるかもしれませんけどね」

 「野生のポケモンじゃない……? ならば、一体何に対応しろと言うんだ」

 

 カズマが不審そうに問いかける。人間のトレーナーが操る悪意あるポケモンか、あるいは街の治安を脅かす別の何かなのか。だが、モミジは「うふふ~」と人差し指を口元に当ててウインクした。

 

 「それはね、その依頼をするときにまた説明しますね! ――というわけで!」

 

 モミジはデスクの引き出しを勢いよく開けると、中から最新のデータディスクを取り出し、カズマの目の前へと満面の笑みで差し出した。

 

 「じゃ〜ん!こちらがリサーチ受託記念のプレゼント!ポケモンに覚えさせればポケモンが岩を簡単に壊せるようになる便利わざ――『いわくだき』になりま〜す!」

 

 ジョーイさんが教えてくれた図鑑のプレゼントとは、まさにこの貴重なわざマシンのことだったのだ。これがあれば探索の幅が広がる、とモミジは誇らしげに胸を張る。

 

 しかし、差し出されたわざマシンを見つめるカズマの顔は、完全な仏頂面のまま、ピクリとも動かなかった。

 

 「……モミジさん。気持ちはありがたいが、それは他の参加者にやってくれ。俺には必要ねぇ」

 「えぇっ!? どうして!? これがあれば道を塞いでる大きな岩とか、ポケモンに頼んで簡単に壊してもらえるんだよ?」

 

 モミジが不思議そうに目を丸くするなか、カズマはふっと息を吐き、自分の右の拳と右の足を静かに見つめた。

 

 「わざわざポケモンに頼むまでもない。……別に、生身でも岩くらいは砕けるからな。さっきも外の路地で、ニシキと俺の二人で大岩を粉々に叩き潰してきたばかりだ」

 「…………え?」

 

 カズマが事もなげに言い放った瞬間、モミジの動きが完全に停止した。先ほどまでふにゃふにゃと気の抜けた笑顔を浮かべていた彼女の顔から、一瞬で表情が綺麗に消え失せる。

 

 『ぎゃはははは! 言ってやったぜカズマ! 確かに俺たちのパワーがありゃ、そんなインテリのディスクなんか必要ねえもんなぁ!それと安心したぜ?ちゃんと驚くとかのほかの感情は欠如してねぇんだな!』

 

 「な、生身で、岩を……? 冗談、だよね……?」

 

 冷や汗を流しながら引きつった笑みを浮かべるモミジに、カズマは至って真面目な顔のまま、無骨に頷いてみせるのだった。

 

 モミジは一瞬だけ唖然としたが、すぐに「研究者」としての鋭い視線を取り戻し、人差し指をチッチッと左右に振りました。

 

 「あはは、確かにニシキくんが岩を砕けるのはデータを見て分かったし、カズマさんが人間離れしてるのも分かったけどさ……。そっちのススムちゃんは、まだ岩を砕けないでしょ? 研究者だから見れば分かるわよ?」

 

 モミジはしゃがみ込み、ススムの身体をまじまじと観察します。

 

 「ニシキくんはコイキングなのに、どういうわけか物凄く頑丈な鱗と筋肉を持ってる。だけど、ススムちゃんはまだ産まれてからそんなに時間が経っている感じじゃないわよね?」

 「……あぁ。卵から還ったばかりだと、本人が言っていたな」

 

 カズマが肯定すると、モミジは立ち上がってデータディスクをもう一度突き出しました。

 

 「でしょ? なら、ススムちゃんのためにも貰っておいてよ。自分が強いからってポケモンを甘やかしちゃダメ! ポケモンが強くなるためのサポートをするのも、立派なトレーナーになるためには必要なことなんだからね?」

 「……なるほどな。俺の都合で、コイツの成長の機会を奪うわけにはいかねぇか」

 「そういうこと!」

 

 タウニーに言われた「相棒への負担」という言葉が、カズマの脳裏をよぎる。自分がいくら生身で戦えようとも、ススムを一人前の(ポケモン)に育て上げるのが親としての務め。カズマは無骨に頷き、わざマシンを受け取った。

 

 「ありがたく頂戴する。――ススム、お前のために使うぞ」

 

 カズマがわざマシンをススムにかざすと、ディスクのデータが光となってススムの身体へと吸い込まれていった。その瞬間、ススムの短い手足にグッと力がこもり、鼻の穴から勢いよく火の粉が噴き出す。

 

 『おぉっ……! なんか知らんけど、身体の底から力が湧き上がって、物凄く強くなった気がしますわ、オヤブン! 今ならどんな硬い岩でもプリケツで粉砕できる気がしますぜ!』

 

 ススムは新しく『いわくだき』の技を覚え、己の成長に目を輝かせて大喜びしている。

 

 それを見たモミジは、満足そうに何度も頷きながら、両手を広げて告げた。

 

 「ふふ、いい感じ! こんな感じでね、これから『モミジリサーチ』を進めてくれると、新しいわざマシンや、育成に便利なアイテムをどんどんプレゼントしますよ!

  これであたしは研究が捗る! あなたもポケモンに詳しくなるし、強くなれる! お互いにwin winで素敵な関係、というわけ! というわけで、これからの『モミジリサーチ』、よろしくお願いしま〜す!」

 

 「あぁ。街のため、ポケモンのためになるなら、いくらでも協力してやるさ」

 

 カズマはそう言い残し、ニシキとススムを連れてモミジのオフィスを後にした。

 

 研究所の自動扉が開き、カロスの眩しい太陽の光がカズマのグレーのジャケットを照らし出した、まさにその瞬間だった。

 

 トトトトトトッ!

 

 街の喧騒を縫うようにして、一匹のデリバードが猛烈な勢いでカズマに向かって走ってきた。そのデリバードは、背中に抱えた大きな袋の重みだけでなく、何か言葉では言い表せない、あまりにも深い『中間管理職の哀愁』と『苦労人の雰囲気』を全身からドバドバと放っていた。

 

 デリバードはカズマの目の前でピタリと止まると、ハァハァと激しく息を切らしながら、縋るような目でカズマを見上げた。

 

 カズマはその独特すぎる気配を放つ小鳥をじっと見つめ、静かに眉根を寄せた。

 

 「お前……もしかして、『ニシダ』か?」

 「デリッ! デリデリィィーーッ!!」

 

 名前を呼ばれたデリバード──『ニシダ』は、丸い目から感動の涙をボロあきと流しながら、狂ったように激しく首を縦に振った。間違いなかった。ゴローというあまりに破天荒な男の傍らで、常に胃に穴をあけながらも忠義を尽くしてきたあの『ニシダ』がここにいると言うことは…

 

 ニシダは背中の袋に無骨な翼を突っ込むと、一通の手紙と、一つの連絡先が書かれた紙切れをカズマへと恭しく差し出してきた。カズマがそれを受け取ると、手紙の封には、ハブネークの鱗の模様を模した、ひどく見覚えのある歪なマークが殴り書きされていた。

 

 手紙の主の名前は──『ゴロー』。左目に眼帯をつけ、ハブネーク柄のジャケットを素肌に羽織り、『ウーラオス』を引き連れて、昨日このミアレへと乗り込んできた、あの男からのメッセージだった。

 

 「……なるほどな。手紙の中身は、読まなくても薄々理解できている。ゴローの兄さんのことだ、どうせ『早くワシと新天地(ミアレシティ)喧嘩(バトル)せんかいカズマちゃん!』とでも書いてあるんだろう。……コイツは、ホテルに帰ったらゆっくり読ませてもらう」

 

 カズマが手紙をグレーのジャケットの内ポケットへと仕舞うと、デリバードのニシダは、まるで最大の重責から解放されたかのように、深く、長いため息を漏らした…。

 

 「……だが、ニシダ」

 

 カズマは去ろうとするニシダの元へ一歩踏み出し、低い声で、どこか同情を込めた眼光を向けた。

 

 「ゴローの兄さんの元へ戻ったら……『カズマは見つからなかった』と、そうお前から伝えておけ」

 「デリッ……!」

 

 ニシダは深くペコリと頭を下げると、再びトトトトッと足早にミアレの人混みの中へと消えていった。

 

 『なあ、カズマ。やっぱりあの眼帯の変態、もうこの街に来てやがったのかよ』

 『あの鳥、結構苦労がありそうやなぁ〜…大人の姉ちゃんに癒してもらうなりして発散せんと爆発するで?』

 

 カズマはジャケットの襟を正すと、ポケットの中で重みを持つゴローからの手紙に意識を向けた。どれほど逃げようとも、あの男からは逃げられない。いずれミアレの街を巻き込むであろう大喧嘩の予感を背中に感じながら、カズマは次なる目的地へ向けて、ドッシリとした足取りで歩き出すのだった。




という訳で真島の兄さんの苦労人枠、『西田』がデリバードとして登場しました。ニシダはゴローの手待ちとして加わります。
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