Pokemon Legends YAKUZ−A! 作:洋菓子職人II
研究所を出て大通りを歩いていると、カズマのジャケットのポケットからピピッ、ピロッと電子音が響いた。画面を見ると、タウニーの連絡先から通信が入っていた。
「あ、カズマ! キャンペーンの報酬はちゃんと貰えた?」
「あぁ。モミジという所長代理から受け取った」
カズマがスマホロトムに低く応じると、タウニーの弾んだ声が返ってくる。
「よかった! ……あ、でも、カズマのことだから『俺が生身で割るから要らねぇ』とか言って断ろうとしなかった?」
「……。まぁ、俺たちにはあまり必要ないものだったからな。だが、モミジに諭されて、新入りのススムには使っておいた」
カズマが少しバツが悪そうに視線を逸らすと、タウニーは画面の向こうで「やっぱり!」とケラケラ笑った。
「あはは、モミジ所長代理ナイス! でもねカズマ、わざマシンって本当に便利なんだよ? なんたって、そのポケモンが覚えることができる技なら、事前に厳しい特訓とかで鍛えてなくても、インストールした瞬間から使えるようになるんだから!」
「なるほどな。便利な世の中になったもんだ」
「でしょ? あ、そうそう。ススムに使ったのなら、さっそく試し切りならぬ『試し割り』というか……今のミアレは再開発の工事中で、近くに邪魔な岩なんていくらでもあるから、適当なやつで効果を試してみてね! 終わったらホテルZに帰ってくること、おいしい食べ物買って待ってるから!」
「あぁ。分かった、すぐ戻る」
通話が切れると、カズマはスマホロトムをポケットに収め、足元でフンス!と鼻の穴から火の粉を散らしているススムを見下ろした。
「ススム。タウニーの言う通り、一度その『いわくだき』ってやつを試してみるか」
『おうよ親分! ワシ、さっきから身体の奥がバブバブ燃えて、何かブチ壊したくてウズウズしとったんですわ!』
ススムは短い前足で自分の胸をドンと叩くと、近くの歩道に転がっていた、大人が抱えるほどの大きさの岩石の前へと鼻息荒く進み出た。
「よし、行け。ススム、『いわくだき』だ」
カズマの重厚な号令が下る。ススムはニヤリと不敵に笑うと、一瞬だけ得意のプリケツを岩へと向けたが、すぐにクルリと反転。モミジのデータによって最適化されたエネルギーをその小さな拳――いや、硬い蹄へと凝縮させ、凄まじい踏み込みとともに岩石へと叩き込む!
ドゴォォォンッ!!!
凄まじい衝撃音が響き、硬質な岩が文字通り粉々に爆散して消え去った。カズマやニシキの力任せな破壊とは違い、ポケモンの技としてのエネルギーが岩の分子構造そのものを砕いたような、見事な一撃だった。
『これや! これが新しいワシの力やぁぁい! 親分、見ましたかワシの雄姿ッ!!』
「あぁ、見事だ。いい根性してるじゃねぇか」
カズマはどっしりとしゃがみ込み、興奮して鼻から火を噴いているススムの頭を、大きな手で力強く撫でてやった。
『へっ、やるじゃねえか新入り! 技の使い方を覚えるのが早えのは、素直に褒めてやるよ。……よし、カズマ! 試し割りも終わったことだし、タウニーの姉ちゃんが待つホテルへ戻ろうぜ。美味いもんが俺たちを呼んでるからな!』
カズマの腕の中で、ニシキが「負けてらんねえ」と思いつつも、後輩の成長をご機嫌な様子でパタパタと尾ビレを揺らして祝福していた。
カズマは立ち上がり、グレーのジャケットの襟を正す。ポケットの中には、ゴローからの不穏な手紙が眠っている。だが、今は美味しい食べ物を買って待ってくれている仲間がいる『家』へ帰るのが先だ。男たちはカロス地方の温かい風を背に受けながら、ホテルZへと向かって歩みを速めるのだった。
『けどよ?街のド真ん中が大岩で塞がっているのに街の連中は何も気にしないのはやっぱり異常だろ…どうなってやがんだこの街はよぉ…』
◆
「おかえり、カズマ! ニシキもススムも、試し割りはお疲れ様!」
ホテルZのロビーに入ると、タウニーが弾んだ声で一行を出迎えてくれた。彼女は地面に降りたススムの元へ駆け寄ると、その引き締まった足腰を見て、嬉しそうに目を丸くする。
「うん! ススムってば、なんだか今朝よりずっと凛々しくなって、成長してるのがよく分かるよ!」
『やろ? お姉ちゃん! ワシ、親分のために一肌脱いできましたわ!』
ススムが誇らしげに鼻の穴から小さな火の粉をぷすぷすと吹くなか、カズマの腰から勝手に出てきたニシキが、床の上でパタパタと激しく跳ね回った。
『おうおう、タウニー! 成長の確認はそこまでだ! それより、美味いもんはどこだよ!? 試し割りのガヤで、俺の腹はもうペコペコなんだよ!』
「……あぁ。俺も少し、小腹が空いたな」
「あはは、ニシキったら食いしん坊なんだから。待ってて、すぐ持ってくるし」
タウニーは微笑むと奥から大きな紙袋を抱えて戻ってきた。
「はい、まずはニシキ! ミアレシティの大人気名物『ミアレガレット』だよ!」
『うおおおっ、これがあの噂のガレットか! 香ばしい匂いがたまんねえじゃねえか、いただきまーす!』
ニシキがガレットに大喜びでかぶりつく。タウニーは続いて、ススムの分もガレットを差し出そうとしたが、ススムはその小さな鼻をフンッと鳴らし、短い前足でおくるみに包まれるようなジェスチャーをしてみせた。
『お姉ちゃん、気持ちは嬉しいんやが、ワシは固形物より、冷たくて濃厚な『モーモーミルク』が飲みたいんや! 哺乳瓶に入れてバブバブさせてんか?』
「あはは! ススムはガレットよりも『モーモーミルク』が飲みたいんだ? よしよし、ちゃんと冷えたやつを用意してあるからね」
タウニーが哺乳瓶に入ったミルクを差し出すと、ススムは『これや、これがワシのガチの主食や!』と目を輝かせて吸い付き始めた。その徹底したバブみっぷりに、カズマはフッと小さく笑う。
「そして……はい、これがカズマの分! 焼きたてのクロワッサンだよ!」
タウニーが紙袋から取り出したのは、表面がキツネ色に美しく焼き上がった、大ぶりのクロワッサンだった。しかも、彼女は笑顔でもう一つ、同じものをカズマの手へと握らせる。
「はい、もう1個! カズマのその立派な体格だもん、1個じゃ全然足りないでしょ?」
「……あぁ。気が利くな、ありがたく頂戴する」
カズマは不器用に応え、ソファーにどっしりと腰を下ろすと、まずはそのままクロワッサンを一口、豪快にかじりついた。パリッ、と心地よい音を立ててバターの芳醇な香りが口いっぱいに広がる。
カズマが純粋に感動していると、タウニーが淹れたての温かいカフェオレが入った大きめのマグカップをカズマの前に置き、悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふ、でしょ? 普通に食べてもすっごく美味しいんだけどさ……。カズマ、もしよかったら、そのクロワッサンを、そのカフェオレにちょっと『浸してから』食べてみて?」
「……浸す、だと? せっかくのサクサク感が台無しになるんじゃないか?」
眉をひそめる堅物なカズマに、タウニーは身を乗り出して熱弁を振るう。
「違うんだな〜、これが! 浸して食べると、生地にコーヒーの苦みとミルクのコクがじんわり染み込んで、普通に食べるのとはまた全然違った、しっとりした美味しさを感じるんだよ! これがミアレシティ流の粋な食べ方なんだよ!フェール・トロンペットって言う、ミアレ住民が特に朝食でやる定番の食べ方だよ」
カズマは少しだけ躊躇したものの、郷に入っては郷に従え、とばかりにクロワッサンの端をカフェオレへと深く浸した。たっぷりと水分を吸った生地を、静かに口へと運ぶ。
「――っ」
カズマの目が、わずかに見開かれた。バターの甘みと、カフェオレのほろ苦さが絶妙に絡み合い、口の中でとろけるような深い味わいへと変化していた。サクサク感とはまた違う、重厚で贅沢な食感…
「……驚いたな。見た目は少々行儀が悪く見えたが、味は一級品だ。悪くねぇ……いや、寧ろ美味い…!」
カズマが満足そうに何度も頷くのを見て、タウニーは「 気に入ってくれてよかった」と満面の笑みを浮かべていた。
『ぎゃはははは! おいカズマ、お前がそんなおしゃれな食い方してるの、なんか妙にウケるな! でも美味そうじゃねえか。おい新入り、俺たちのガレットとミルクも、そのカフェオレってやつに浸してみるか?』
『先輩、それはさすがにドロドロの修羅場になりますわ!』
足元でニシキとススムが賑やかに掛け合う声をBGMに、カズマは温かいカフェオレにクロワッサンを浸しながら、旅の疲れを静かに、そして心地よく癒やしていくのだった。
クロワッサンとカフェオレの極上の組み合わせを堪能し、カズマたちがひと息ついていた、その時だった。
グレーのジャケットのポケットの中で、スマホロトムがピピピッ、ピロッと甲高い電子音を鳴り響かせた。新着の通知を告げるバイブレーションが、カズマの太ももを小突く。
「……ん? アプリからか」
カズマがロトムを取り出して画面を点灯させると、そこには今朝モミジの研究所で導入したばかりの『ZAロワイヤル』の専用画面が強制的に立ち上がっていた。画面の最上部には、赤黒い文字で不穏なヘッダーが踊っている。
『ランクアップ戦のお知らせです』
カズマが画面をスクロールさせると、無骨なフォントで現在の自分のステータスと、決定した対戦相手の詳細が次々と表示されていった。
『ランク・Z トレーナー名・カズマ ランクアップ戦でのあなたの対戦相手が決まりました ランク・Z トレーナー名・ザック ランクアップ戦に勝利した方が、ランク・Yにランクアップします』
カズマが静かに呟くなか、ロトムの画面はさらに下へとスクロールし、親切な案内文の後に、ピカピカと赤く点滅する警告マークを映し出した。
『※ランクアップ戦への挑戦には「チャレンジチケット」が必要です。現在、チャレンジチケットを未所持の為、まずは最寄りのバトルゾーンでの通常バトルをお願いします』
「チケット、か。映画を観るわけじゃねえんだ、戦うのにもいちいちチケットが必要とは、面倒なシステムだな」
カズマが少しだけ面倒そうな顔をして溜息をつくと、横から画面を覗き込んでいたタウニーが「あ、ついに通知が来たんだね!」とポンと手を叩いた。
「まぁ…ルールだから仕方ないね。それと、対戦相手はタクシードライバーのザックね。あいつ、何回もランクアップ戦に挑んでは負けてる、悪い意味での『ベテランさん』として有名なの。万年ランクZだから、みんなからこっそり『永遠のZ』なんて呼ばれてる人だよ。正直、カズマの実力なら余裕で勝てちゃうと思う!」
「永遠のZ、か……」
カズマは不器用な正義感で最強を目指すタウニーとは対照的な、その男の哀愁漂う二つ名を喉の奥で反芻した。
「あ、そうだ! そろそろ日が暮れて『バトルゾーン』が生成される時間だから一緒に行こうよ。……それにね、そこに『MZ団』のもう一人のメンバーを呼んであるの。カズマに会わせたくてさ!」
「MZ団の、もう一人の奴……?」
カズマはグレーのジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、タウニーに鋭い視線を向けた。
「そいつは、一体どんな奴なんだ?」
「うーんとね、名前はピュールっていうの。今日はポケモン研究所の近くを彷徨いていたはずなんだけど……カズマ、さっき来るときに会わなかった?」
「いや……。ハブネーク柄のジャケットを着た眼帯の変態の部下なら見かけたが……ピュールという奴には会っていないな」
カズマが首を横に振ると、タウニーは「おかしいなぁ」と不思議そうに首を傾げた。その様子を見て、カズマはふと胸騒ぎを覚え、低い声で尋ねる。
「……ところでタウニー。お前、そのピュールって奴に、俺のことはなんて伝えてあったんだ?」
「え? ああ、うんとね!」
タウニーは今日一番の親切心といった様子で、胸を張って笑顔で答えた。
「『顔がおっかなくてガタイが良すぎる、16歳の男性が新しく入るよ』って伝えたけど……あ」
タウニーはそこまで言って、ハッと自分の口を押さえた。カズマの圧倒的な体格、幾多の修羅場を潜り抜けてきたとしか思えない圧のある顔…その風格を1ミリも知らないピュールが「16歳の青年」という情報を元に街を探したら、一体どうなるか…
「…………」
カズマは静かに天を仰ぎ、片手で顔を覆った。脳裏によぎるのは、さっき研究所の周辺を歩いていた際、近くで何かを探すようにキョロキョロ見渡していた見知らぬ誰かの姿だ。カズマは少しだけ悲しげに、ぽつりと寂しそうな声を漏らした。
「……なるほどな。多分、そのピュールって奴は、街中で『16歳の男』を頑張って探した挙句……俺の目の前を何度も通り過ぎて、最後まで見つけられなかったんだな……」
『ぶはははは! おいカズマ、そりゃそうだろ! ピュールって奴、きっとお前のこと完全に三十代か四十代のどっかの部長クラスの人間だと思ってスルーしてたんだぜ! そりゃお前みたいなツラした16歳、探したって見つかるわけねえだろ!』
「笑いすぎだニシキ…」
腕の中のニシキが、カズマのあまりの貫禄ゆえに起きた悲しいすれ違いに、床の上でのたうち回って大爆笑していた。
『親分……ドンマイですわ。ワシは親分のその渋い貫禄、一六歳でも大好きですぜ……』
「…ありがとうな…ススム」
大爆笑するニシキの隣ではカズマから漂う哀愁を見てられなくなったススムが慰める事態になっていた。カズマとススムの絆が少し強固になった瞬間である…。
「ご、ごめんカズマ……! あたしの言い方が悪かったよ!」
タウニーが申し訳なさそうに手を合わせるなか、カズマはゆっくりと立ち上がり、グレーのジャケットの襟を軽く正した。
「いや、いい……。お前が俺の歳をサバ読まずに伝えてくれた証拠だ。……それよりもタウニー、日が暮れる。そのバトルゾーンへ案内してくれ」
「あー……うん、任せて」
タウニーは慌てて荷物をまとめ、夕暮れに染まり始めたミアレシティの街へとカズマたちを先導した。年齢という最大のカモフラージュで、期せずしてピュールをすり抜けたカズマは、ランクアップを賭けた次なる戦場へと、重厚な足取りを進めるのだった。
そういえばピュールのズルッグなんですけど…はい。龍が如くのとあるキャラの性格をインストールします。
ヒント、0ではサブストーリー、極ではサブキャラとして登場する桐生一馬と関係のある人物です。
どうしようかな…全く思いつかないけどデウロのヒトデマン、スターミー、メガスターミーにも如くキャラインストールしようかな…?