Pokemon Legends YAKUZ−A! 作:洋菓子職人II
「俺は誓って殺しはやってません」
「俺は正当防衛の範囲内で、鳩尾に掌底を叩き込み、一時的に呼吸を止めて意識を刈り取っただけだ。脈を測れば分かると思うぞ?」
その声には、1ミリの曇りもない絶対的な確信と、漢のプライドが宿っていた。16歳にしてすべてを見切ったかのようなあまりの冷静さに、ジュンサーさんも思わず気圧される。
しかし、カズマの圧倒的な恐怖から何としても逃れたい子分は、悲鳴を上げながら床にへたり込み、わずかな希望にすがって叫び続けた。
「ジ、ジュンサーさん騙されちゃいけねぇ!そいつは確実に兄貴を殺した!腹に何度も同じ場所に甚振るように殴りまくって…!」
子分は涙と鼻水を流しながら、大袈裟に身振り手振りでカズマの暴挙(すべて妄想)を訴えかける。現場の空気が一気に張り詰めた、その瞬間だった。
「——ちょっとそこまでよ! あなたたちの言うことは全部大嘘だし!」
大通りの人混みをかき分けて、手元のスマホロトムを掲げた一人の少女が、子分の言葉を遮るように毅然とした態度で割り込んできた。
「ジュンサーさん、これを見て! あたしはこの現場の一部始終をすぐ近くでバッチリ録画してたから!」
タウニーがスマホロトムを操作すると、空中にはっきりとした映像が再生された。
そこには、エイジが「勝ったらコイキングを置いていってもらう」と脅しているシーン、ヘルガーを繰り出して先制攻撃を仕掛けてきたシーン。そして何より、バトルで負けた後にエイジが力任せに殴りかかり、カズマがそれを華麗にいなして、本当に鳩尾への、たった一発の掌底だけで完璧に無力化する瞬間が、一寸の狂いもなく録画されていた。
「これを見れば彼が言った通り『正当防衛の範囲内』だって一目瞭然でしょ? 『何度も甚振るように殴った』なんて、どこをどう見たらそんな風に見えるの?」
「な、何だとォ!? 撮影してやがったのかてめぇ…!」
子分たちは自分たちの姑息な目論見が完璧に潰されたことを知り、絶望で顔を青ざめさせた。
ジュンサーさんは提供された映像をしっかりと確認した後、カズマの言い分を信じてエイジの首筋に指を当てて生存を確認するとすぐに「ふぅ……」と大きなため息をついた。
「……本当ね。脈はしっかりしてるわ。ただの凄まじい威力での気絶、それに映像を見る限り100%そっちのグループが仕掛けたポケモン強奪および暴行罪ね」
「先輩、本部から連絡が来ました。どうやらこいつらは別の街でも人のポケモンを強奪、横流しの容疑が掛かっていて逮捕状が出ているそうでさ」
「そう。ありがとう…さてと…!」ギロッ!
「「ヒッ…!」」
ジュンサーさんは横たわるエイジと怯える子分たちを鋭く睨みつけ、手際よく強固な手錠をかけた。
「決定的な証拠をありがとう、タウニー。それからお兄さん、疑って悪かったわね」
「気にするな。よくあることだ」
すかさず、隣にいたタウニーが勢いよくツッコミを入れる。
「いやないない! 殺人犯に間違えられて包囲されるなんて、普通じゃないし!」
「普通じゃないって言われてもな……。俺が夜に外出歩いてるだけで職質に遭った事が何回もあるぞ?」
カズマが至って大真面目な顔で、どこか遠い目をして告白する。その言葉を聞いたタウニーは、カズマの圧倒的な威圧感と鋭すぎる眼光をまじまじと見つめ、深く納得したように頭を抱えた。
「ああ、うん……。納得した。ジュンサーさんたちもきっと、職務に忠実なだけだっただけだよね。その顔と雰囲気で夜道を歩かれたらあたしだってとりあえず応援を呼ぶし…」
「おいおい…」
目の前で繰り広げられる笑えない漫才にジュンサーさん達も思わず苦笑いを浮かべながら、手際よくエイジたちをパトカーへ押し込んだ。
「あー…とにかく、ポケモン強奪犯の捕縛に協力感謝するわ。本当に大金星よ、あなた。何か困ったことがあったら、いつでも私達を頼ってね」
「ああ。そっちも職務に励んでくれ。…できれば俺への職質は減らしてくれるとありがたい…」
「………善処するわ………」
ジュンサーさんは最後まで複雑そうな表情を浮かべながらも、バシッと敬礼を残し、サイレンと共にパトカーで去っていった。駅前にはようやく大都会らしいいつもの雑踏が戻る。
カズマはポケットに手を突っ込んだまま、深くため息をついた。その時、隣にいたタウニーが我慢しきれないといった様子で、吹き出しながらカズマの顔を覗き込んできた。
「ちょっと! 警察の人にあんなお願いする人、あたし初めて見たよ! でも、ジュンサーさんのあの困り顔、最高に面白かったし!」
タウニーはスマホロトムを胸に抱え、クスクスと笑いながらも、その瞳にはカズマへの強い興味と興奮が満ちていた。生身で大男をのし、警察相手に臆することもなく言葉を発し、自分の協力ありきとはいえ犯人を突き落とす。しかも、カロスには生息していない激レアな「錦模様のコイキング」を相棒にしている!
(この人、ただの観光客じゃない……。あたしが探してた、ホテルZを引っ張ってくれる最高の『人材』なのかもしれない!)
タウニーは広報者としての鋭い直感を走らせた。と同時にカズマがタウニーに話しかけた
「…タウニーって呼ばれてたな?この街だと有名人なのか?」
「違うよ。あのジュンサーさんとは知り合いだっただけ」
カズマはパトカーが去っていった大通りの先をじっと見つめ、何か重大な謎に直面したかのように、神妙な面持ちで眉間を寄せた。
「……全員同じ顔に見えたんだが……」
「よく見ると違うし!」
タウニーは両手を腰に当て、呆れたようにカズマを見上げた。
「前髪の分け方とか、帽子のバッジの角度とか、よーく見れば全然違うの! それにミアレのジュンサーさんはちょっとクール系だけど、お隣のコボクタウンのジュンサーさんはもっとおっとりしてて……って、そんなことはどうでもいいし!」
タウニーはパンッと自分の両頬を叩いて話を戻すと、フンスと鼻を鳴らした。
「あなたって観光客よね?」
「ああ、そうだ」
カズマが短く答えると、タウニーは待ってましたとばかりに目をキラキラと輝かせ、スマホロトムをしっかりと胸に抱え直した。
「だったら好都合! あたしの頼みを聞いてほしいの!」
「頼みだ?」
カズマが怪訝そうに眉を寄せると、タウニーは悪戯っぽくニカッと笑って人差し指を立てた。
「あたし、実は駅前で『ホテルZ』の宣伝に協力してくれそうな、目立つ観光客を探してたの。そしたら、カロスじゃ絶対に見かけない最高に強くて最高に目立つ年齢不詳なお兄さんが現れたじゃない?これって運命だと思うんだし!」
タウニーはカズマとカズマのベルトにあるモンスターボールを指差しながら話す
「早速話しかけようって思った時にこの騒ぎが起きちゃった。すかさずあたしはスマホロトムを構えて録画を開始、結果的にあなたはあたしのおかげで円滑に冤罪を切り抜けることが出来た…なら…」
「自分の頼みを聞くべきだ、そう言いたいのか?」
カズマが至って冷静に、しかし全てを見透かしたような低い声で先を促すと、タウニーは「話が早くて助かるし!」と言わんばかりにパッと顔を輝かせた。
「そういうこと! あたしが働いてる『ホテルZ』の広報として、あなたとあなたの相棒に宣伝活動の協力をお願いしたいの。もちろんタダでとは言わないよ。ミアレでの宿が決まってないなら、あたしの特権でホテルZの一室をタダ同然で用意してあげる!どう!?」
タウニーは悪戯っぽくウインクしながら、条件を提示した 。強奪犯を一撃で沈めた男と、カロス地方にはいない激レアな錦模様のコイキング。この二人をホテルの広告塔にできれば客足の少ない(というよりはいない)ホテルZの知名度が一気に跳ね上がると思っていた
『悪くねぇ交換条件だ、カズマ。あの強奪犯をのしたんだ、これくらいの手打ちは貰っておこうぜ?』
ベルトのモンスターボールから、まるでニシキのそんな不敵な声が聞こえた気がした。カズマはふっと口元を緩めると、ポケットに手を突っ込んだままタウニーを見据えた。
「フッ……。持ちつ持たれつ、ってやつか。いいだろう、その話に乗ってやる。案内してくれ」
「やった! 交渉成立ね! じゃあ、あたしの自慢のホテルZへレッツゴー!」
タウニーは嬉しそうに声を弾ませ、スマホロトムをポケットにしまい込むと、カズマの少し前を弾むような足取りで歩き始めた。
大通りには、さっきまでの喧騒が何もなかったかのようにいつもの都会の雑踏が戻っていた。行き交う人々は、色鮮やかなポケモンたちを連れて笑顔で歩いている。
「改めて自己紹介するね!あたしはタウニー!ホテルZの従業員兼広報担当だよ!よろしくね!」
「俺はカズマだ。よろしく頼むぞタウニー」
「よろしくね!カズマ!」
タウニーの弾けるような笑顔と、差し出された手。カズマがその手を大きな掌で握り返した瞬間、ミアレシティのそよ風が二人を祝福するように吹き抜けた
◆
「所でタウニー、ホテルの広報で俺は何をすれば良いんだ?」
「なーに簡単なことだよ。あたしがスマホロトムを構えるからカメラに向かって『ホテルZ最高!』って言ってくれればそれでいいし!」
「………それ効果あったのか?」
「ない」
「………………」
「………………」
後日SNSにカズマが『ホテルZ最高!』と叫んでいる動画が投稿されてプチバズリを起こし、ある配信者の目に止まるのだがそれは別のお話。
タウニー
カズマは男の子なのでガイは消滅し、タウニーが登場。ミアレ駅でカズマを見た際、彼が観光客であることは一目瞭然であることと、先ずは知名度を上げることを考えた結果最適すぎる人材が現れ運命を感じる。彼女がいなければ彼は頭ジャスティスに染まっていたかもしれない。もしくはスター!ムナンチョヘペトナス教とかありましたしスターミー教とか絶対にやると思います。
借金のくだりをどうするか結構悩んでます。