Pokemon Legends YAKUZ−A! 作:洋菓子職人II
ニシキ
カズマの相棒にして兄弟分。ホップタウンでカズマに釣られて以降の付き合い。普通は成長限界に達したコイキングは世代交代をするのだが、カズマは頑なに拒み続けた結果、ニシキが常識を破って成長限界(レベル制限)をこえて成長できるようになってしまった。ホップタウンでは「かわらずのいし」をもっていたが必要なくなった今は捨てた。しかし何故かギャラドスに進化することができず悩んでいる。
とある人物と戦う時に進化させる予定ですがそれは当分先の話になります。
カズマの背中から立ち上る凄まじい覇気が、夜のバトルゾーンの空気を震わせた。どう見てもカタギの放つプレッシャーではない。あまりの凄みに、隣のタウニーさえも一瞬息をするのを忘れるほどだった。
しかし、給仕のトウマはその圧倒的な威圧感を前にしても、不敵な笑みを深くするだけだった。
「おやおや……ただの観光客が、これほどの『毒』を纏っておられるとは。ミアレの夜は、本当に退屈しませんね」
二人の魂から放たれた強烈な殺気と闘志が、ホテルZの前で激突し、バチバチと火花を散らす。勝敗を決するのは、もはやゲームのルールではない。己のプライドと存在のすべてを懸けた、一歩も引けない漢の決闘!
「おもてなしの準備は万端です。………おいでなさい、ブロスター!」
「いくぞニシキ!お前の力を見せてやれ!」
漆黒の夜空を背景に、ニシキとブロスター、そしてカズマとトウマの、互いの意地を懸けた一騎打ちの火蓋が今…切って落とされた!
◆
ウェイターのトウマが勝負を仕掛けてきた!
トウマの鋭い目線がカズマの足元でどっしりと構えるニシキに移った瞬間、その眉がピクリと不快そうに跳ね上がった。数々の高級食材や超一流のポケモンを見極めてきた一流レストランの給仕として、その「目利き」のプライドが、目の前の魚を完全に拒絶したのだ。
「……はぁ……これは失礼。どんなポケモンを出すかと思えば、ただのコイキングですか。我々レストラン・ド・キワミの人間から見れば、コイキングなど骨と皮、鱗ばかりで食べる身がほとんどなく、味も粗悪で食材としての価値は皆無。おまけに戦闘力も非常に低いため、バトルとしてもただの雑魚。……
——その瞬間、ニシキの脳裏に、今日のミアレ駅に着いた直後の屈辱が鮮烈に蘇った。
「それに比べてわたしのブロスターは……まさに奇跡の一皿、美と破壊の結晶と言わざるを得ません。ご覧ください、この深海を思わせる高貴な瑠璃色の甲殻を。この殻に閉じ込められた身は、ほんのひと口でミアレの美食家たちを天国へと誘う、至高の甘みと弾力を秘めているのです」
トウマは冷ややかな溜め息をつくと、白い手袋をはめた手で、愛おしそうに自身のブロスターを指し示した。
「それだけではありません。この『大砲』とも呼ぶべき巨大なハサミから放たれる一撃は鉄鋼すらも一瞬で融解させる激流。美食としての価値のみならず、戦場における兵器としての機能美をも完璧に満たしている。…これこそが、レストラン・ド・キワミが誇る『極上のメインディッシュ』なのですよ」
長々と語るトウマであったがその言葉は誰の耳にも届いていなかった。なぜならば…
『……あァ? 今、なんつった…。骨と皮? 味も粗悪のゴミだぁ?』
エイジの時とは比べ物にならない烈火のごとき怒りがニシキを支配しているからだ。あの小物チンピラのエイジからは「戦えもしねえ観賞用の魚」とナメられただけだった。だが今回は自分だけじゃない、今度は兄弟分であるカズマまでもが侮辱された!同じ日に!二度も!己の存在と誇り、そして兄弟分を根底から侮辱された!
怒りの覇気がニシキの全身から噴き出し…全身のウロコが、逆立つように逆鱗の赤みを帯びていく。
(こいつは相当キレているな…ニシキのやつ…)
『おいカズマ……! 聞いたか今の言葉。この気取ったソムリエ野郎、俺だけじゃねぇ、俺を選んだお前の目まで一纏めにして泥を塗りやがった!……許せねぇ!このデカブツのハサミごと、あのすまし顔をグチャグチャにすり潰してやるッ!!』
カズマは鋭い眼光のまま、静かに、しかし地響きのような声でニシキに応えた。
「……ニシキ。我慢する必要はねぇぞ」
カズマの低く、地響きのような声が漏れる。
「カタギの観光客を脅すような外道だ。あのブロスターに手加減のハサミなんて最初から持ち合わせちゃいねぇ。お前のそのプライドでそいつの分厚い殻ごと…力ずくで叩き壊してやれ!」
『おうよカズマァァァッ!! 特上のハサミがどれだけ硬ぇか、この俺のウロコで試してやるぜぇ!!』
「ニシキ! 『たいあたり』だ!」
カズマの鋭い号令が夜の空気を引き裂いた。それに応え、ニシキは凄まじい尾ビレのしなりでアスファルトを蹴る。ただの『たいあたり』とは到底思えない、弾丸のような速度で突進し、ブロスターの巨大な右鋏へと真っ正面から激突する!
キィィィィッッッ!!!!
夜のミアレシティに、激しい火花が飛び散った。激突の瞬間、耳を劈くような金属音が響き渡り、周囲のラシーヌ工務店の足場が風圧で激しく揺れる。ニシキの肉体が、ブロスターの瑠璃色のハサミに強烈にぶつかり合う。
(……何だと!?)
しかし、指示を出したカズマの眉が微かに跳ねた。
ニシキの『たいあたり』は、普段なら工事現場の鉄骨だろうがコンクリートの壁だろうが一撃で粉砕する威力を持つ。だが…今の衝撃はまるで巨大なダイヤモンドの塊にぶつかったかのように、ニシキの肉体を激しく弾き返したのだ。その証拠に、地面に着地したニシキのウロコが強い反動でわずかに軋んでいる…
「フフフ……無駄ですよ」
トウマは風圧で乱れた前髪を優雅に直しながら笑みを浮かべた。
「言ったでしょう、美と破壊の結晶だと。その甲殻は、深海の超高圧に耐え抜き、あらゆる打撃を無に帰す鉄壁の盾。ただのコイキングがどれほど必死に体当たりをしようと、傷一つ付けることなど不可能ですよ」
その言葉通り、ニシキの猛攻を真っ正面から受け止めたブロスターの右鋏には、薄い傷すら付いていなかった。それどころか、ブロスターはビクともせず、その不気味な複眼でニシキを冷酷に見下ろしている。
『クソがッ……! 固ぇ、固すぎるぜこのデカブツ……! まるで分厚い鉄板を何枚も重ね着してやがるみたいだ!』
ニシキは地面に叩きつけられながらも、悔しげにギラついた目をトウマのブロスターにギチギチと向けた。
だが、その程度で折れる二人ではない。カズマは組んでいた腕を解き、ニシキに次の指示を飛ばした。
「焦るな、ニシキ。野郎は伊達に看板背負ってねぇってわけだ。今はひとまず耐えろ、徹底的に攻撃を避け続けろ…!」
「防御に徹しますか……では、遠慮なく攻撃させて頂きましょう!ブロスター、『みずのはどう』!」
ブロスターがその巨大な右鋏の後ろから激しい水の推進力を噴射し、瑠璃色の弾丸がまるで弾道ミサイルのような速度でニシキへと突撃する!
「ニシキ、左へ『はねる』だ!」
直後、ニシキがいた地面を『みずのはどう』が猛スピードで駆け抜ける。凄まじい衝撃波と水飛沫がタウニーの頬を掠め、背後のラシーヌ工務店の鉄骨がグニャリとひしゃげた。
「っ……! なんて威力出してるのよ、このブロスター!?」
「逃げ足だけは一級品のようですね。ですが、この高火力を凌ぎきれますか? ブロスター、逃げ場を無くしなさい。連続で『みずのはどう』!」
間髪入れずに、トウマが次の指示を出す。ブロスターの大砲のようなハサミから、連射される激流のエネルギー弾。一発一発が鉄骨を消し飛ばすほどの破壊力だ。そのせいで近くにあったラシーヌ工務店の足場アスレチックは既に見るも無惨な姿になってしまっている。
『チッ……! 次から次へと…どんだけ弾を仕込んでやがるんだあのデカブツは……!』
ニシキはカズマの指示通り、地面を『はねる』ことで弾丸のような水流を紙一重で回避し、時には『とびはねる』の跳躍力で夜の闇に消えるほどの高度へ逃れてブロスターの狙いを絞らせない。しかし、爆風の余波がニシキの錦模様のウロコをジリジリと削り、その肉体には確実に疲労とダメージが蓄積していた。
一方、カズマは決して取り乱さず、鋭い眼光でブロスターの一挙手一投足をじっと見つめている。凄まじい連射性能に鉄壁の甲殻。一見すると隙のない完璧な兵器。しかし、カズマの数々の死線を潜り抜けてきた「勝負勘」が、ある違和感を捉えた。
(……いや、違えな。どんなに強力な武器だろうが、使い続ければ必ず『ガタ』が来るはずだ…)
ブロスターが『みずのはどう』の反動を逃がす瞬間。あの巨大なハサミの後方、甲殻の合わせ目が超高圧の水流を連射する負荷に耐えるため、ほんの一瞬だけ――コンマ数秒の間だけ、カチリと音を立てて外側へ「開いて」いる!
どれほど外側をダイヤモンドのように固めようとも、内部の機関まで同じ硬さであるはずがない。その
「ニシキ。……奴の弱点が見えたぞ」
カズマの低い声に、空中から着地したニシキがギラリと目を輝かせた。
『へっ……待ってたぜカズマ。あの気取ったロブスターのメッキを剥がす方法が、分かったんだな?』
「ああ。奴が次に大技を撃つ瞬間、ハサミの根元の装甲が開く。そこへ一点突破だ」
トウマはカズマたちのアイコンタクトを「最後の悪あがき」と捉えたのか、優雅に指先を突き出した。
「お喋りはそこまでです。さあ、ディナータイムを終わらせましょう。ブロスター、最大火力の『りゅうのはどう』で、塵にしなさい!」
ブロスターの巨大なハサミが、これまでとは比較にならないほどの禍々しい竜のエネルギーを放ち、周囲の空間を歪ませる。まさにその時、ハサミの根元の甲殻が、エネルギーの負荷に耐えるため、カズマの狙い通り「カチリ」と音を立てて大きく開いた!
「…!今だ、懐へ潜り込め!ニシキ!」
カズマの鋭い怒号が響いた瞬間、ニシキの尾ビレがアスファルトを爆裂させた。同時にブロスターの放つ『りゅうのはどう』の禍々しい光線が、ニシキのわずか数ミリ横を掠めてストリートを白に染める。その猛烈なエネルギーの奔流を、ニシキは恐れることなく真っ正面から潜り抜け…
『オラァァァァァッッ!!この 贅沢病のロブスターがぁぁぁ!!』
照準はただ一つ、最大火力の反動に耐えるため、カチリと音を立てて開いた右鋏の根元の装甲!
ドガァァァンッッ!!!
ニシキの硬質な頭部が、ブロスターの剥き出しになった柔らかな関節部へと容赦なく突き刺さった。鈍い肉声の衝撃音の後、直撃の反動でブロスターの巨大な右鋏が激しく痙攣を始める。
「――っブ、ブロッ!?」
ブロスターが驚嘆の声を上げ、その瑠璃色の美しい甲殻のあちこちから、負荷を逃がしきれなくなった蒸気と火花がパチパチと吹き出した。自慢のハサミがガタガタと震え、エネルギーの供給が完全に途絶える。
「やった! ブロスターのハサミがオーバーヒートを起こして砲弾を撃てなくなった!!」
後ろで避難していたタウニーは信じられないものを見たように目を見開くが、純粋にカズマの采配が上手くいったことを喜んでいた。
しかし、この場最も激しい衝撃を受けていたのは、ブロスターでもカズマ達でもない。トレーナーであるトウマ自身だった。常に優雅に、慇懃無礼を崩さなかった彼の顔から、初めて血の気が引いていく。トウマは乱れた前髪の下から、信じられないものを見る目でカズマを凝視した。
「バ、バカな……! 狙い澄ましたかのように、ハサミの根元をピンポイントで……!? なぜ、あのコンマ数秒の『弱点』に気付いた……!」
トウマは額に冷や汗をにじませ、声を荒らげた。その口調からは、先ほどまでの戦闘狂としての悦びが消え失せ、純粋な驚愕と戦慄だけが濁らせている。
「……例え、例え戦闘の中でわたしのブロスターの
トウマの叫び。それは、合理的な美と計算を信じる彼にとって、カズマたちの放ったカウンターが「あまりにも理不尽で、あまりにも命知らずな暴力」に映ったからに他ならなかった。
だが、カズマはそんなトウマの動揺を、冷ややかに、しかし圧倒的な威圧感で見下ろすだけだった。腕を組んだまま、灰色のスーツの襟を静かに直す。
「正気か、だと。……悪ぃがタイマンの最中に、安全な勝ち方なんて考えてる余裕はねぇんだよ」
『へっ、そうだぜソムリエ野郎。ビビって手加減しちまうようなタマなら、俺たちゃ最初からこんなところで跳ねちゃいねぇんだよ!』
ニシキが着地し、ウロコをギラつかせながら、さらに獰猛にアスファルトの上でパチパチと跳ねる。
「さあ、トウマ。前菜はこれで終わりだろ。……そろそろお前の自慢のメインディッシュとやらを……力ずくで平らげさせてもらうぞ!」