Pokemon Legends YAKUZ−A! 作:洋菓子職人II
「…ちょっと、本当にコイキングのじたばたでロブスターの殻を粉々にした挙句、なんでそんなハードボイルドな雰囲気で和解しちゃってるのよ、意味わかんないんし……。」
ブロスターとニシキの激突時の風圧で足場アスレチックの残骸と共に吹き飛んでいたタウニーが駆け足で戻ってきた。
「でもまぁ……二人とも無事ならいっか!」
頭を抱えつつも、どこかホッとしたように笑うタウニー。トウマもまた、ブロスターの入ったボールを優しく撫でながら、穏やかな表情で小さく頷いていた。激しい戦いの跡地であるストリートに、奇妙な、しかし確かに温かい和解の空気が流れる。
――だが、そのほんわかとした静寂を切り裂くように、ラシーヌ工務店のひしゃげた足場の影から、下劣な薄笑いと共にいくつかの足音が近づいてきた。
「ヒャハハハ! 素晴らしい熱戦だったじゃねえか! 感動のあまり涙が出そうだぜぇ!なぁ?お前ら?」
「ああ、涙がちょちょぎれるかと思ったよ。あははははは!」
現れたのは、都市再開発計画中のミアレシティの治安を乱す不逞の輩――『サビ組』を破門にされたゴロツキどもだった。その数は五人。ごろつきのうち、鋭い爪を研ぐアリアドス、異臭を放つダストダスが居た。他に並び立つ三匹のポケモンの姿を見た瞬間、タウニーの顔が驚愕に引きつった。
「ドクロッグとスカタンクにアローラのベトベトン?!あなたたちなんでミアレシティには居ないポケモンを連れているのよ!」
「ヒャハハ! よく知ってるじゃねえかお嬢ちゃん! カロスのヌルい環境じゃお目にかかれねえ、他所の地方の『極上品』さぁ。裏のルートを使ってわざわざ密輸して持ち込んだんだが…カラスバの野郎はこれが気に入らねぇらしい…んなわけで今はサビ組を破門されたわけだ」
「カラスバっ…!いや、自業自得じゃない!密輸なんて破門されて当然よ!」
タウニーが毅然と言い放つが、ゴロツキどもはそれが気に食わなかったのか、顔を歪めて次々と声を荒らげ、元ボスへの悪態を吐き散らし始めた。
「あァ!? 破門されて当然だと? 笑わせんじゃねえよ! あの石頭が時代遅れなんだよ! 今のこんな稼ぎ口、裏社会じゃやって当たり前だろ!」
「そうだぜ! あの『豆粒ドチビ』のクソオヤジがよォ! 体が小さいだけじゃなくて、器まで豆粒以下なんだよ! 見た目通りチョコマカと裏でしか行動を起こしやがらねぇ!」
◆ブルー地区のサビ組事務所◆
ピキッ…!
静寂に包まれていた室内に、不穏な音が響く。カラスバの手元で、湯呑がミチミチと悲鳴を上げた。
「…いかがなさいましたか?カラスバ様」
明らかに不機嫌オーラを撒き散らすカラスバを前に、ジプソは額から滝のような汗を流しながらも、努めて冷静さを保ち、気遣うように声をかけた。
「……いやな?ジプソ、お前……今、街の風に混じって、誰かがオレのことを『豆粒ドチビ』言うた気するんやけど…気のせいか?」
「……はい…?」
ジプソは完全に困惑しきった様子で、気の抜けた返事を出してしまった。あまりの緊張感のなさに、部屋の空気が一気にフニャフニャと抜けていく。
「………いや、やっぱええわ。忘れろ」
「えっ?あ、はい……ヒビ割れた湯呑、お替えしますね」
「すまんな、ジプソ。新しい茶も頼むわ。…あ、熱めのやつな」
「承知しました」
◆
「……裏でコソコソと、一度は身内としてメシを食わせてもらった親のツラに泥を塗るような真似をしやがって…!体のサイズがどうだの、器がどうだの知ったこっちゃねぇが……お前らみたいな仁義の欠片もねぇ外道どもはなぁ、このミアレの夜にも居場所はねぇんだよ!」
「偉そうに語ってんじゃねえよ! テメェ、自分の立場がわかってねぇのか?!」
男の言葉に合わせるように、密輸された凶悪なポケモンたちが一歩前に踏み出す。ドクロッグが不気味に喉を鳴らし、スカタンクが尾を持ち上げ、アローラのベトベトンが不気味に体色を蠢かせながら毒ヘドロを滴らせる。その凶悪なプレッシャーが、ストリートの空気を一気に支配した…
「あのニシキってコイキングも、トウマのブロスターももう指一本動かせねえほどの『ひんし』じゃねえか! ポケモンが戦えねえトレーナーなんてなぁ、ただの
「ちょっと、カズマ、トウマ……! これ、本当にマズいし…」
後ろで見守るタウニーの顔から、完全に血の気が引いていた。彼女とて、『ZAロワイヤル』の過酷な環境を生き抜く一人のポケモントレーナーだ。、自分の腕前にはそれなりの自信を持っていたし、腰のモンスターボールに手をかければ、いつでも相棒を飛び出させられる。だが…
(あたしの手持ちなら、アリアドスとダストダス相手なら遅れはとらない……! でも、あの3匹は例外だし……! ミアレシティにはいない未知のポケモンばかりで、どの技が飛んでくるかも分からないし、そもそも5対1の状態だと嬲られるのが関の山!)
タウニーは勝ち目がないことを理解していた。カズマの額からも、一筋の冷たい汗が頬を伝って流れ落ちた。
(……チッ、ここまでか)
鋭い眼光のまま腕を組み、不敵な構えを崩してはいない。だが、その胸の内はかつてないほどの危機感に支配されていた。
(人間が相手なら、5人だろうが100人だろうが、近くにあるパイプやら看板を振り回して全員叩きのめす自信はある。だが……あのポケモンどもは別だ。生身の人間じゃ到底太刀打ちできねぇ、触れただけで肉体を溶かす毒のヘドロ、一瞬で五感を奪う悪臭…その他諸々含めてあの化け物5匹を、一度に生身で相手取るなんてことは……いくら俺でも不可能だ)
いつもならどんな窮地でも頼りになるニシキのモンスターボールは、先ほどの死闘の負荷で静かに沈黙している。隣に立つトウマのブロスターも同様だ。
じりじりと狭まっていく包囲網。タウニーは後ろに下がり、カズマは無言のまま奥歯を噛み締めて冷や汗を流し続ける。突破口が一切見当たらない、文字通りの『絶体絶命』が、三人へと重くのしかかっていた。
――だが、その一触即発の極限状態の真上から。緊迫した空気を完全に無視するように、一匹の小さなポケモンが、ふわり、ふわりと舞い降りてきた。
「あ!フラエッテ!」
「キュルルッ!キュル、キュルルルルッ!!」
何やら文句を言っているようだ。その鳴き声自体は非常に愛らしいのだが、タウニーたちには何を言っているのかさっぱり分からない。
「…なぁタウニー、このフラエッテさっきから俺たちになんか言ってるが分かるか?」
「…多分、カズマとトウマが外で騒がしくしたから怒って出てきたのかも…」
「………そうか………」
カズマは鋭い眼光のまま、呑気に降りてきて文句を垂れるフラエッテを見つめ、静かに目を細めた。
(ただのフラエッテじゃねぇな。あの小さな身体……とんでもねぇ生命力と、底が知れねえ歴史を背負ってやがる)
だが、サビ組を破門されたゴロツキどもには、その尋常ならざる気配がまるで理解できていなかった。
「アハハハ! ねぇ見てよ、随分と可愛い助っ人が来たじゃん! お嬢ちゃん、そんな可愛いお花ちゃんじゃ、あたしたちのポケモンの相手は務まらないわよ?ふふふ…」
他のゴロツキどもも一斉に下卑た笑い声を上げ、フラエッテをこれでもかと小馬鹿にし始めた。
その侮辱の言葉が耳に入った瞬間、タウニーたちへの愚痴をこぼしていたフラエッテの動きがピタリと止まった。ムッとした表情こそ変わらないがその目には明らかに怒りの炎が灯っていた。
「キュルルルルゥ…」
フラエッテは静かに花をごろつきたちに向け、エネルギーを『えいえんのはな』へ凄まじい密度で凝縮し始めていく…
「…!フラエッテ!その技は…!」
抱えた『えいえんのはな』が、不気味なほどの輝きを放ち始めた…
「お、おい……なんだよこの光は……!?フラエッテの使う技の光じゃねえぞこれ!?」
密度が更に高まり、『えいえんのはな』の輝きが増していく…さすがのごろつきたちもこれが普通じゃないことに気付いた…彼らが従える密輸ポケモンも、本能的な死の恐怖を感じ取ったのか、ガタガタ、ビクビクと震えて一歩も動けなくなっている…
フラエッテは激怒したまま、エネルギーを極限まで溜めた花の大砲を、怯えきったゴロツキたちの正面へと真っ直ぐに向けた。
「それだけは当てちゃ駄目ッ!」
ドゴォォォォォンッッッッ!!!!!
ミアレシティの夜が、一瞬だけ光で塗りつぶされた。フラエッテの花から放たれた『はめつのひかり』は、ゴロツキたちを掠めることなく一直線に空に向かい、ミアレの分厚い夜雲を綺麗に丸く消し飛ばして、夜空の彼方へと消えていった。
「…キュルッ♪」
ド派手な天穿ちを終えると、フラエッテはよほどスッキリしたのか、先ほどまでの怒りが嘘のようにと上機嫌な笑顔を浮かべ、カズマたちに向かって満面の笑みを振りまいた。
一拍。あまりの不条理な破壊力を前に、彼らの脳がようやく「今、自分たちは消滅しかけた」という事実を理解した。
「バ、バケモノだぁぁぁっ!! 死ぬ、ここにいたら確実に消されるぞぉぉぉっ!!」「どけッ! 俺を先に逃がせッ!」「押さないでよ! 前が見えないでしょ!?」
ごろつきどもは完全に正気を失い、我先にと逃げ出そうとしてお互いの肩や顔面を激しくぶつけ合い、もつれ合いながら、大パニックを起こして路地裏の奥へ消えていった…
「フッ……随分と、ド派手な打ち上げ花火だな」
「彼らを巻き込んでたら汚い花火になってましたがね」
「いや2人とも『はめつのひかり』を見てよくそんな感想が出るね…」
タウニーがカズマとトウマの気の抜けた会話に呆れている
「まあいいや…カズマ、トウマ、この子はフラエッテ、3000年も生きてる特別なポケモンなんだって」
「3000年?!この見た目でばb」
「
「いや、なんでもね…ないです。フラエッテ姐さん」
「キュルル♪」
何やら禁句を言いかけたカズマに『えいえんのはな』を向けた瞬間、カズマは本能的に白旗を上げてしまった…ドラゴンタイプはフェアリータイプに勝てないのだ…
「うん、今のはカズマが悪いよね」
「ええ…わたしもあのフラエッテが何を言ったのか分かりましたからね」
((それ以上先を言ったら『はめつのひかり』撃つわよ?))
トウマは抱えていたブロスターのモンスターボールを優しく撫でると、カズマに向かって再び深々と一礼した。
「さて、カズマさん。元サビ組の無法者どもも散り散りになったようですし、私もそろそろ仕事に戻るとしましょう」
「ああ。……本店に行くのを、楽しみにしているぞ」
「ええ。腕によりをかけておもてなしさせて頂きます」
トウマはそういうとごろつきと同様に闇の中へ消えていった。きっと近い内にまた会うだろう…
「……よし、タウニー。俺たちもホテルZへ入るぞ」
「ちょっと!案内するのはあたし!ってもう入っちゃったし!」
一歩、中へ足を踏み入れた瞬間――。カズマの全身の毛穴という毛穴が、一斉に逆立った。
(…なんだ…この
「……ずいぶんとデカいお出迎えだな。俺はカズマだ。タウニーに案内されてきたんだが……ここはあんたの『城』か?」
「よく来たな、若き旅人よ。このホテルZをわたしの『城』と言う客は初めてだ」
ホテルのロビーの奥には、腰を曲げているにも関わらず、その身長は天井に届かんばかりの影がそこにあった。
「わたしはAZ。当ホテルのオーナーとして君を歓迎しよう」
「ホテルのオーナー…な」
カズマはAZの『眼』をじっと見つめている…
「…わたしの『眼』がどうかしたかな?」
「死んじまった眼だ。だが、ただ絶望してるわけじゃねぇ。何か重てぇもんを背負って、何百年も……いや、もっと長い間、自分の犯した罪に縛られ続けてる。そんな男の眼だ」
カズマは語る。その間も、その目はAZの『眼』を見つめていた…
「……フッ。鋭いな、『異邦の龍』よ。私は3000年の時を生きる亡霊。愛する者を失った怒りで世界を焼き、その罰として、終わらぬ生を彷徨う者……。きみにも、あるのだろう? 守れなかった者、そして、捨て去ることのできない『名』が…」
「……ああ。あの時の自分の選択が正しかったのか、今でも分からねぇ。だがな、どれだけ過去が重くても、犯した罪から目を背けて逃げ出すわけにはいかねぇんだ。……あんたがこのホテルで何をしようとしてるのかは知らねぇ。だが、その命がある限り、あんたはケジメをつけなきゃならねぇはずだ」
(えっと…これ…どういう状況…?)
AZはしばらく沈黙した後、愛おしそうに傍らのフラエッテを見つめる
「ケジメ、か……。そうだ。わたしの旅は、まもなく終わる。この命の灯火が消える前に、わたしは過去と向き合わねばならない。……カズマ、きみのような男が、わたしの終の棲家に現れたのも、何かの因果かもしれん…」
「……そうか……タウニー、案内感謝する。どうやら俺がミアレシティに呼ばれたの気がしたのは、このデカいオーナーの『背中』を少しだけ押しにくるためだったのかもな」
「え?ああ…うん…どういたしまして…」
(なんかとんでもない人ホテルに誘ったのかも…いや今更か…)
AZはカウンターから鍵を取り出した
「ふふふ…久し振りに楽しい雑談が出来た。…部屋は202号室を使うといい。タウニー、案内しなさい」
「うん、分かったよAZさん。カズマこっち、部屋にはこのエレベーターを使うの」
「ああ…分かった。…随分と年季の入ったエレベーターだな」
「でもこの雰囲気が落ち着くでしょ?」
「だが客足は少ない」
「それを改善するために、カズマには明日から広報活動にじゃんじゃん協力してもらうからね!」
カズマとタウニーがエレベーターに乗り込み静まり返るロビーでAZは一人呟く…
「……ふむ……カズマ………いや…………」
「きみの生き様、このホテルZでじっくりと見せてもらうとしよう…」
「ジガルデセルに導かれた訳ではないきみが…」
「ここで何を成すのか…何を見つけるのかを…」
因みにトウマは前回再登場のフラグは立てましたけど…実はこの元サビ組5人も再登場させる予定です。
エイジは務所に入っとれ!