Pokemon Legends YAKUZ−A!   作:洋菓子職人II

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今回は哀れな犠牲者が2人増えます。


タウニーへの恩返し

「はい、ここが202号室だよ!」

 

 タウニーが勢いよく扉を開けると、そこにはカロス地方の最先端が集まった、上等な客室が広がっていた。

 

 「ここにはね、最新式のオイルヒーターがあるんだ。じんわり暖かくなるから、夜の冷え込みもへっちゃら。奥にはお風呂もあるから、今日の旅の汚れは全部そこで洗い流しちゃってよ」

 「……あぁ。ありがたい。上等な部屋だ」

 

 カズマは重厚な体躯を揺らし、グレーのジャケットの襟を正しながら低く応えた。その風格は、やはりおよそ一介の観光客のそれではない。

 

 ──ポンッ。

 

 カズマの意思を無視してニシキがモンスターボールから飛び出した。ニシキは床の上で器用にバランスを取りながら、丸い目をパチクリとさせてホテルの内装を物珍しそうに見回すと、尾ビレをご機嫌に揺らした。

 

 『へえーっ、悪くねえ部屋じゃん! おいカズマ、最新式のヒーターだってよ。お前いっつも不器用だから、こういうメカの使い方が分からなくて冷え込んだまま寝るなよ? 風呂も広いし、今日の旅の疲れを落とそうぜ!』

 

 「心配いらん。風呂の入り方くらいは分かる。……それにお前、怪我が治ってねぇんだから勝手に出てくるな」

 「あはは、ニシキもこの部屋が気に入ったみたいだね!」

 

 タウニーが二人のアイコンタクトに笑いつつ、パンと手を叩いた。

 

 「じゃあ、最後に『ホテルZ』自慢の特等席へ案内するよ。ついてきて!」

 

 タウニーの弾んだ足取りに続き、カズマはニシキをボールに戻そうとしたが、こういう時に無理やり戻すと後で面倒臭いことになると思い、結局そのまま腕に優しく抱え上げ、エレベーターで上に上がっていく。

 

 屋上へ続く重い扉を押し開けた瞬間、夜の冷気と共に、圧倒的な光景が目に飛び込んできた。

 

 「──ほう」

 

 カズマの目が、わずかに見開かれる。眼下に広がるのは、都市再開発の真っ只中にあるミアレシティ。あちこちでラシーヌ工務店の足場が組まれ、鉄骨の骨組みを晒している。

 

 だが、街を彩る灯の明かりと、ひっきりなしに行き交う人々の熱気、そしてさっきのバトルゾーンでは誰かが戦っている。そこは混沌としながらも確かな生命力に満ち溢れていた。

 

 カズマの腕の中で、ニシキは目を輝かせてその光景を見つめていた。その瞳には、ミアレの夜景がキラキラと純粋な輝きとなって反射している。

 

 『おいおいカズマ、見ろよこの街! すげえ活気じゃねえか。なんかこう、見てるだけでこっちまでワクワクしてくるよな!』

 

 タウニーは屋上の柵に背中を預け、夜風に髪をなびかせながら、愛おしそうに街を見下ろした。

 

 「……綺麗でしょ。今はあちこち工事ばかりだし、ゴチャゴチャしてて、危ない場所もたくさんあるんだけどね」

 

 タウニーはカズマの顔を見上げ、悪戯っぽく、しかし真っ直ぐな目で微笑む。

 

 「今日は色々あったけど、あたしはそんなミアレシティが好きだよ。カズマはどう? ミアレが気に入った?」

 「……あぁ」

 

 カズマは不器用な、しかしどこか優しい笑みを浮かべ、低く呟いた。

 

 「騒がしくて、お節介な奴が多い街だ。だが……悪くねぇな」

 

 その言葉に応えるように、カズマの腕の中でニシキが嬉しそうに身をよじり、ペちりと尾ビレを揺らした。まるで『だろ? 俺もこの街、気に入ったぜ!』と、カズマの言葉に全力で同意するかのように。

 

 「ねえ……いきなりなんだけどさ」

 

 夜風が、タウニーの髪をさらりと揺らす。

 

 「あたし、AZさんに恩があるんだ……」

 

 カズマは何も言わず、ただ静かに彼女の言葉を待った。腕の中のニシキも、空気を察したようにピタリと跳ねるのを止め、丸い目でタウニーを見つめている。

 

 「詳しくは話せないんだけどね。あたしが本当に困って、どうしようもなかった時……あの大きな背中で、あたしを助けてくれたの。だから、あたしはAZさんに恩返しをしたくて……それで、このホテルZの宣伝をしようと思ったの。このホテルがたくさんの人で賑わえば、きっとAZさんも喜んでくれるから」

 

 そこまで一気に語ると、タウニーは柵から背を離し、正面からカズマの目を真っ直ぐに見つめてきた。その瞳には、少しの不安と、それを上回る強い願いが宿っている。

 

 「ねえ……もう一度聞くけど、カズマは本当に力を貸してくれるの?」

 

 じっと見つめてくるタウニーの視線を、カズマは逸らさずに受け止めた。カズマにとって、「恩」とは何よりも重いものだ。男が一度受けた情けを忘れて生きるなど、彼の生き様が許さない。

 

 「タウニー、お前には世話になった。この街に来て右も左も分からない俺を助けてくれたのは、他でもないお前だ」

 

 一歩、タウニーの方へ足を踏み出す。

 

 「お前がAZさんに恩返しをするように……俺も、お前に恩を返さなければならない。俺に二言はねぇ。お前の恩返し、俺も最後まで付き合うぜ」

 

 カズマの言葉に、腕の中のニシキが『おうよ! カズマの言う通りだ、俺たちも一枚噛ませてもらうぜ!』と言いたげに、力強く尾ビレをパシャリと鳴らした。

 

 「──っ!」

 

 タウニーの顔が、パッと明るくなった。不安そうだった瞳が一瞬で潤み、それから、今日一番の飛び切りの笑顔が弾ける。

 

 「ありがとう、カズマ! ニシキもありがとう! ……あはは、なんだかあたし、すっごく安心しちゃった」

 

 タウニーは胸に手を当てて深く息を吐き出すと、少し照れくさそうに頭を掻いた。

 

 「もう夜遅いのに、こんな真面目な話に付き合わせちゃってごめんね。あたしの話を聞いてくれて、本当にありがとう」

 

 タウニーは小さく伸びをして、屋上の扉の方へと歩き出す。

 

 「それじゃ、おやすみなさい! 明日からホテルZを盛り上げるために、ガッツリ働いてもらうからね!」

 

 元気よく手を振って降りていくタウニーの背中を、カズマとニシキは静かに見送った。静かになった屋上で、カズマはもう一度、眼下に広がるミアレシティの灯りを見つめる。

 

 「……さて、ニシキ。忙しくなりそうだな」

 

 カズマの呟きに、ニシキは『望むところだぜ、兄弟』とでも言うように、相棒の腕の中で心地よさそうに身を委ねるのだった。

 

 ◆数日後

 

 「カズマ!もう一度!」

 

 

「ホテルZ最高!」

 

 「もっと笑顔で!!」

 

 

「ホテルZ最高!!!」

 

 「拳を空に突き上げて!!!」

 

 「…スゥ~……」

 

 

「ヴォ゛デル゛Z(ゼッ゛ド)最高(ざい゛ごゔ)!!!!!」

 

 「……ねえ…ピュール……」

 

 「…………なんです………デウロ………」

 

 「…………………市役所行きたくない…………」

 

 「………ボクもですよ…………」




やったねムクちゃん!市役所でお友達が増えたよ!
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