底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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11話 コラボ配信!

 

 朝から最悪の気分だった。

 まず掲示板での自演がバレた。

 しない方が良いと散々言われていたのについついエゴサし、たどり着いた掲示板で勝手な書き込みばかりあるのを見てしまって我慢できなかったのだ。

 まさかあんなにすぐ自演を見破られるなんて……。

 いや、落ち着け。そんなのはどうだって良い。問題は、今日の宝条ライカとのコラボ配信である。

 

 

『先日は助けていただきありがとうございました。陰ながらご活躍を拝見しておりました。お礼もかねてぜひともコラボ配信をしていただけたらと思います』

 

 

 先日受け取ったDMを見てニヤニヤとし、しかしすぐにハァとため息が出る。

 宝条ライカとコラボだなんて嬉しすぎる――というファン根性はもちろんだが、配信者としてもこれはチャンスだ。

 超人気配信者のライカとコラボすれば話題になること間違いなし。

 ますます俺のチャンネルの人気は盤石なものとなるだろう。

 

 正直言って、「カオルのダンジョンチャンネル」はかなり調子が良い。

 先日の配信も評判が良かった。各種SNSでも話題になっていたし、フォロワーも登録者数も誇張無しに毎秒毎秒増えている。

 

 ……と言えば聞こえはいいが、みんなおっぱいしか見てないんだよなぁ。

 それに宝条ライカは言うまでもなく女性だ。しかも真面目にダンジョン攻略配信をしており、長い下積みを経て多くのファンを獲得している。

 ぽっと出のおっぱい売り配信者なんて軽蔑の対象なのでは……。いやいや、ライカはそんな子じゃない。いや、でも心の中でどう思っているかは……。

 なんて堂々巡りをしているうちに、気付いたら配信当日の朝を迎えていた。

 

 

「女湯に男が女装して入って逮捕だって。キショ~」

 

「ああ……」

 

 

 ヒカリに話しかけられてもそんな生返事をするので精一杯。

 朝のニュースからこちらに視線を移し、ヒカリはしばらく怪訝な顔をしていたが、すぐに納得がいったように「ああ」と声を上げた。

 

 

「宝条ライカとのコラボ、今日だもんね。緊張してるんだ?」

 

「うるさいな……放っといてくれよ……」

 

「あはは。サインとかもらったら良いじゃん。ああでも、売り出し中の"カオルちゃん"に彼氏がいるってバレるのは良くないよね。適当にスタッフとか裏方のフリしなよ?」

 

 

 どうやらヒカリはまだ俺ではなく俺の彼女が配信をやっていると思い込んでいるらしい。

 ヒカリは頭がいいのに、変なところで勘が悪いからな。

 俺は「あぁ……」みたいな適当な返事をして、ヒカリから目を逸らすようにテレビに視線を向ける。まだ温泉施設での迷惑行為の特集をやっているらしい。

 

 

『混浴の温泉施設などで女性が来るのを何時間も待ち構える人を俗に"ワニ"と呼び――』

 

 

 ぼんやりとニュースを見ながらのそのそと支度をし、家を出る。

 眠くて仕方がないので休み時間にでも少し休息を取ろうなんて考えて学校へいったものの、残念ながらそれも叶わなかった。

 

 

「見たかよ、カオルの配信」

 

「見た見た。あんなに簡単に百々目鬼を倒しちゃうなんてな」

 

 

 ドキリ。と同時にちょっとニヤリ。

 休み時間に机に突っ伏して眠ろうとした矢先、教室の後ろからクラスメイトの声が聞こえてきたのだ。

 あれだけ話題になっているのだから、当然この学校にも配信を見てる人間がいると頭では分かっていた。

 しかしこうして直接話しているのを聞いていると、なんていうか、まぁ、ちょっと嬉しい――

 

 

「本当にすごいよな。あのおっぱい!」

 

 

 は?

 思わず顔を上げて振り向く。

 が、クラスメイトたちは特に気にせず話を続ける。

 

 

「俺が百々目鬼でも多分似たような挙動になるわ」

 

「お前童貞だもんな」

 

「お前もだろ! ガハハ!」

 

 

 ……前言撤回。

 全然嬉しくない。

 と、そこでヤツらはようやく俺の視線に気付いたらしい。

 

 

「ごめんごめん、気になったか? 名前同じだもんな」

 

「でも別にお前の話してるわけじゃないぞ。配信者のカオルの話」

 

「ああ……はは……」

 

 

 俺の話してるんだよなぁ……

 まさか本人がその場にいるなんてつゆ知らず、クラスメイトたちの猥談は続いた。

 このときだけじゃない。

 教室にいても廊下に出ても食堂に行っても、どこもかしこも俺の話ばかり――いや、というか、俺のおっぱいの話ばかり!

 そしてそれを見る女子たちの冷ややかな目!

 

 

「サイテー」

 

「男子ってホントバカ」

 

「あんな大きい声であんなこと言って、恥ずかしくないのかな」

 

 

 あああっ! 最悪だ! 自重しろよお前ら!

 きっとライカもこの視線を俺に向けてくるに決まっている!

 

 

『そんな格好して、恥ずかしくないの?』

 

 

 なんてライカに言われたら! 俺はもう生きていく自信がない!

 こんなんじゃとても寝るどころじゃない。ただただ今日の配信が心配になるばかり。

 憧れのライカに軽蔑されてたらどうしよう。

 考えるのはそればかり……。

 そうこうしているうちに時間はあっという間に経ち。

 そして。

 とうとうその時が来た。

 

 放課後、俺はすぐに教室を出て待ち合わせ場所である池袋ダンジョンのロビーへと向かう。

 ロビーは地上とダンジョンの狭間にある空間。ダンジョンの中でありながらモンスターは出ず、ロッカーや自販機や休憩スペースも完備。午前10時〜午後6時までは売店もやっている。

 便利な空間だがその分利用者も多く、ここはダンジョンの中で一番混雑している場所だ。

 

 そのため当初は外での待ち合わせを提案されたのだが、さすがにそれは了承できず。スキルが使えるのはダンジョンの中のみだからだ。

 ライカとはいえ、いいやライカだからこそ。男であるとバレるわけにはいかない。

 美少女に化けておっぱい売りしてるなんてバレたらそれこそ絶対に軽蔑される。

 

 よってわざわざ中層付近までいき、スキルを使ってTS(爆乳)化。

 また上へとのぼりながら、用意してきた分厚い探索ジャケットでデカい乳を潰し、髪を結んで帽子を被って変装。

 再びロビーへと戻り――そして不意に気付く。

 これだけ人がいて、俺はライカを見つけられるだろうか、と。

 

 結論から言えば杞憂だった。

 ライカのあふれ出るカリスマオーラは誰がいたって、なにを纏ったって、消せるものではない。

 ピンクのくせ毛。小柄で華奢な体。幼さの残る可愛らしい顔。

 声をかけるのも忘れて見惚れていると、こちらを見たライカと目があった。

 

 

「あっ、カオルさん!」

 

 

 その顔は――満面の笑顔。

 

 

「今日はコラボ受けてくれてありがとうございます」

 

「あっ、こここっ、こちらこそ」

 

 

 俺は慌てて頭を下げる。

 よかった。優しい笑顔に明るい声。配信のときと同じだ。

 そうだよな。冷たい眼差しを向けられるなんてあるわけない。

 いや、それどころか。

 

 

「なにより、変態仮面から助けてくれてありがとうございましたっ!」

 

 

 細い腕を俺の背中に回してぎゅーっとハグ。

 思わず喉から変な音が漏れる。

 待て待て待て待て。いいのか? トップ配信者と公衆の面前でハグなんかしていいのか!?

 俺が頭から湯気を出していることに気が付いていないのか、ライカは俺の胸にぐりぐりと顔を押しつけてくる。

 

 

「本当はその場でお礼したかったのに、カオルさんってば逃げちゃうんですもん……おっと」

 

 

 と、ライカはなにかに気付いたように顔を上げた。

 俺もその時になってようやく気が付いた。

 周囲の探索者たちの視線に。

 

 

「あれって……」

 

「おっぱいチャンじゃない? えっ、となりにいるのってライカ!?」

 

「そういえばコラボ配信って今日だよね。池袋ダンジョンでやるの?」

 

 

 どうやら周囲にバレたらしい。どうして。きちんと変装してきたのに……って、あれ?

 俺は胸を触り、頭を触り――変装用の探索ジャケットと帽子が消えていることに気が付く。どうやら時間切れのようだ。

 

 ダンジョンから与えられるユニークスキルには強力なものも多いが、代償が伴うものも少なくない。

 俺の場合はどうやらこの見た目である。

 素晴らしい力を得る代わりに、ジャケットなどの装備品で露出を減らすことが許されない。短時間は付けていられるのだが、いつの間にかなくなってしまうのだ。

 そうじゃなければおっぱいを隠すことができるのに……クソ!

 

 いや、今はそんな場合じゃない。このままでは騒ぎになってしまう。

 あわあわとする俺の手を、ライカが颯爽と掴んだ。

 

 

「行きますよ、逃げるんです!」

 

 

 ライカが、俺の手を――!

 頭が沸騰しそうになっているのをよそに、ライカがなにかを地面に投げて踏み潰す。

 瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

 

 

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