底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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15話 無知無知おっぱい

 

 ベギーアデの出現に戸惑っているのは俺たちだけじゃない。

 リスナーたちからも困惑のコメントが噴出し、視界を流れていく。

 

 

『は!?』

『なんで変態仮面いんの?』

『捕まったんじゃ…』

『俺は死んだって聞いたけど』

『警察なにやってんだよ』

 

 

 俺もまったく同じ意見だ。

 さっきのライカの話は一体なんだったんだ?

 俺たちを油断させるために記憶と気力をなくしたフリをして、出家まで偽装したということか? そんなことあり得るのか?

 いろいろな考えが頭の中を駆け巡り――そして、ある違和感を覚えた。

 

 

「ん? アイツ、もしかして……」

 

 

 ユニークスキル〈TS(爆乳)〉を使うことで俺の体は様々な機能がパワーアップする。脚力や体力や腕力など体の機能が向上するのはもちろんだが、あらゆる感覚器官も鋭敏になる。

 顕著なのは視力。この薄暗いダンジョンの中でも、俺はヤツの顔をハッキリと認識できている。

 そしてベギーアデの仮面は目元だけを覆うタイプ。顔の下半分は丸出しだ。

 だから気付いた。

 先日タコ殴りにしてやったベギーアデと、いま目の前にいる男の顔が違うことに。

 

 

「お前、この前のベギーアデと別人だろ」

 

 

 指摘すると、隣でライカが息を呑むのがわかった。

 

 

「本当だ。あの日の人と違う」

 

 

『マジ?』

『うわ本当だ』

『だからパンツ脱いでなかったのか…』

『どういうこと?』

『後継者とか?』

『二代目ベギーアデとか最悪だろ!』

『ベギーアデは個人じゃなくて集団、とか?』

『じゃあまだメンバーがいるかもってこと?』

『それヤバすぎ』

 

 

 思わず顔をしかめる。

 コメントで言われていること――つまりベギーアデが個人の配信者ではなくチームなのだとしたら、こんなヤバいヤツがあと何人もいるということになってしまう。世も末だ。

 が、まぁなんだろうとやることはひとつ。

 俺はマチェットを構え、姿勢を低くする。

 

 

「これは正当防衛ってことでいいんだよね?」

 

 

 多分必死で隠そうとしているんだろうけど、ライカが怯えていることには早々に気付いていた。

 当然だ。自分を殺そうとしたやつが目の前に現れたら誰だってそうなる。

 ベギーアデが怖かったからこそ、ライカはヤツが今どこでどうしているのか調べ上げたのだろう。

 ライカの苦しみをすぐに取り除いてやらなくちゃ。その一心だった。

 

 

『正当防衛に決まってる』

『俺たちが証人だ』

『いいぞやっちまえ』

『1回負けてんのにしつこいやつだな』

『おっぱいチャンがただの人間に負けるわけないだろwww』

『死にに来たのかな?』

 

 

 コメントにも後押しされ、俺は地面を蹴った。

 なにも恐れることはない。リスナーたちの言う通り、負ける気なんてまったくしなかった。

 だから、どうして足を止めたのかは自分でも説明ができない。

 スキルにより強化された超感覚――第六感とでも言うべきものが、脳内で警報を鳴らしたのだ。

 地面を蹴り、後ろへ跳ぶ。

 舞い上がった砂煙とコメントで視界が埋まった。

 

 

『?』

『どうした?』

『なに?』

『早くやっちゃえ!』

 

 

 リスナーたちはまだ気付いていないらしい。

 しかしライカは違った。

 

 

「へ……う、ウソでしょ……?」

 

 

 ライカは間の抜けた声を上げる。砂煙が浮かび上がらせたものを見たのだろう。

 それはまるで、限りなく透明に近いガラスの置物が置かれているみたいだった。

 4つの手足と長い尻尾を持ったなにか。シルエットと壁に張り付いている様子から、獣というよりはトカゲを彷彿とさせる。いや、サイズから考えるとワニに近いか。

 恐らくは体を透明にできる能力を持ったモンスターなのだろう。

 肉眼でなければその姿を捉えるのは難しいのかもしれない――と思ったが、どうやらライカの所有している高性能カメラは少し遅れながらもそれの姿をリスナーに届けることに成功したようだ。

 

 

『は?』

『なんかいるwwwww』

『おいおい嘘だろ』

『マジかよ』

『あり得ないよな?』

『アレって…まさか…』

 

 

「〈インビジブル・リザード〉……!?」

 

 

 ライカも呆然とそう呟き、そして間を置かず動いた。

 俺の腕を掴む。と同時に手の中で青いピンポン球を握り潰した。〈抜け道〉である。

 これで俺たちは杭を打った場所に逃げられる――はず、なのに。

 

 

「どうして!?」

 

 

 ライカは絶叫した。

 高額の〈抜け道〉をなんの躊躇いもなく潰していくが、そのどれもが不発。

 最初に出会ったベギーアデの時と同じだ。目の前の男――二代目ベギーアデもまた、〈抜け道〉を無効化するスキルを持っているということなのか?

 しかしユニークスキルがそう簡単に被るなんてこと、あり得るのか?

 それからもうひとつ、俺には気になることがあった。

 

 

「ど、どうしよう。どうしたら……」

 

 

 パニックになっているらしいライカに、俺はそっと耳打ちする。

 

 

「インビジブルリザード? ってなに? 有名なモンスター?」

「……え。あれ、下層のボスですよ」

「へぇ」

 

 

 瞬間。

 ベギーアデについての考察合戦を繰り広げていたコメントがピタリと止まり。

 やがて堰を切ったように流れ出した。

 

 

『知らんかったんかいwwwwww』

『へぇ、は草』

『事前リサーチは探索者の基本だゾ』

『まぁ下層ボスなんて普通の探索者なら会う機会ないし、情報も少ないしな…』

『無知無知おっぱいチャン‼️』

 

 

 声を潜めていたつもりだが、どうやらマイクに拾われてしまっていたらしい。

 くそ、リスナー共め。煽りやがってぇ……。

 俺はモンスターを、というかリスナーを威嚇するかのごとくぶんぶんとマチェットを振り回す。

 ボスは通常、ボス部屋からは出てこない。

 だからこの状況が異常なのは俺にだって分かるが、だからなんだというのか。

 

 

「知ってても知らなくても関係ないね。ようはアイツをぶっ殺せばいいんだろ?」

 

「待って待って!」

 

 

 ライカが慌てたように俺の腕を掴んだ。

 

 

「ここは逃げましょう。こんな場所で、しかもたったふたりでインビジブル・リザードと戦うなんてムリですよ」

 

「なんでだよムリじゃないよ場所が変わっただけで強さ変わんないでしょ」

 

 

 そう返答すると、またリスナー共がにわかに盛り上がりを見せた。

 

 

『草』

『wwwwwww』

『なんでこのおっぱいはこんなに頼もしいんだwwwwww』

『脳筋。いや、脳おっぱい』

『脳おっぱいは草』

 

 

「おいリスナー! セクハラって言葉知ってるか!?」

 

 

 なにも言うまいという決意はどこへやら。俺はとうとう我慢できずリスナー共に文句を言った。

 どうやらそのやりとりがベギーアデは気に入らなかったようだ。

 

 

「余裕こいてんじゃねぇぞ。いけ!」

 

 

 ベギーアデが手を振り下ろした瞬間、それまでダンジョンの壁にへばりついていたインビジブルリザードが動き出した。

 どうやらヤツがあのモンスターを従えているらしい。

 ユニークスキルはなんでもあり。〈TS(爆乳)〉なんてふざけたスキルがあるくらいなのだ。モンスターを従わせるようなスキルがあってもおかしくない。

 いや、しかしそれだと〈抜け道〉を使用不可にされたのはどういう理屈なんだ?

 ユニークスキルはひとりひとつ。まぁレベルを上げてスキルが強化されることで、できることが増えるというパターンはあるが今回の場合は違う気がする……。

 分からないことだらけだ。

 ベギーアデとは、一体――

 

 

「まぁいいや」

 

 

 俺は呟いた。考えても仕方のないことをうだうだ考えるのは無駄だ。

 今はできることをやるだけ。

 マチェットをインビジブルリザードへ向ける。

 

 

「モンスターをぶっ殺して、お前にいろいろ吐かせてやる!」

 

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