底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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17話 仮面の裏

 

 

「はぁっ……はぁっ、はぁっ」

 

 

 薄暗いダンジョンの迷宮。

 赤い仮面を被った男の激しい息づかいだけが聞こえてくる。

 下層ダンジョンといえば上位モンスターが多数跋扈する危険な空間であるが、今日のそれは信じられないくらい静かであった。

 恐らくモンスターたちも自分より格上の存在を認識し、さらにそれをぶっ潰す存在がいることに恐怖しているのだろう。

 

 

「クソッ、インビジブル・リザードが破られるなんて。池袋ダンジョンの下層ボスだぞ」

 

 

 大分距離は稼いだ。

 ここまで来れば大丈夫だろう――そう考え、ダンジョンの土壁にもたれかかりながらベギーアデは座り込んだ。

 

 

「バケモンかよアイツ……!」

 

 

 額に滲む汗を拭いながらそう吐き捨てる。

 その肩に、俺はトンと手を置いた。

 

 

「バケモンとは失礼だな」

 

「は――!?」

 

 

 振り向く暇すら与えない。

 俺はヤツの首根っこを掴んで取り押さえる。

 

 

「な、なんで!?」

 

 

 地面に額を擦り付けながらも、ベギーアデはそう叫んだ。

 何バカなことを言ってるんだ。インビジブル・リザードさえいなければお前を捕まえるのなんかわけない。

 が、まぁそんなことを説明する義理もないので。

 俺はヤツの胸ぐらを掴んで凄んだ。

 

 

「よくもまたしょうもない事をしてくれたな。こっからは尋問タイムだ」

 

「くっ……」

 

 

 その時、ベギーアデが口をモゴッとしたのを見逃さなかった。

 顎をガっと掴み、中に指を突っ込んでかき回す。指に触れる、歯とは違うこの感触は――

 指でつまんで取り出したのは、黒っぽい丸薬だった。

 多分、自殺用の毒だ。

 最初にライカを襲っていた初代ベギーアデはまんまと自殺されて記憶を失ってしまったが、今度はそうはさせない。

 

 

「もう自殺なんかさせねぇからな。おとなしく知ってること全部吐け」

 

 

『おっぱいチャンかっけえええええ!』

『やれやれやっちまえ!』

『いいぞ!』

『他のベギーアデメンバーたちにも見せしめだ』

『大丈夫?BANされない?』

『DANTUBEは流血程度じゃBANされないから大丈夫』

『じゃあ安心だね!』

『言うほど安心か?』

 

 

「やっちゃえ、やっちゃえー!」

 

 

 リスナーとライカに煽られて、俺は大きく肩を回した。

 

 

「まずはその汚ねぇ面見せろ!」

 

 

 ベギーアデの仮面をむんずと掴み、思いっきり剥がしてやる。すると。

 ブチブチブチブチブチッ。

 

 

「――は?」

 

 

 思わず間の抜けた声が漏れる。

 仮面を剥がしたときのものとは思えない音と手応え。

 例えるなら、大量の点滴の管をいっぺんに掴んで腕から引き抜いたみたいな。

 なんだそれ。意味分かんねぇよな。そんなことを思いながら、なんとなしに仮面を裏返して。

 絶句した。

 仮面の裏には、たくさんの足がウネウネと蠢いていた。まるでムカデのそれのように。

 

 

「ギャーッ!?」

 

 

 生理的嫌悪に駆られて仮面を叩きつける。

 さて、仮面を叩きつけた時の音と聞いてどんなのが浮かぶだろうか。

 仮面の素材が金属製なら「カラン」かもしれない。陶器なら「パキッ」と音を立てて割れてしまうかもしれない。

 しかし今回はそのどれでもなかった。

 

 ベチャッ。

 

 湿った肉塊を叩きつけた時のような音。

 それだけでも意味が分からないが、次の瞬間もっと意味の分からないことが起きた。

 仮面が逃げたのだ。

 無数の足を動かし、まるで虫のような動きで。呆然とする俺たちを嘲笑うかのように、それはダンジョンの闇の中へと消えていった。

 

 

『!?』

『キッショ!!』

『なにあれ…』

『ヤバいヤバいヤバいヤバい』

『※鳥肌注意』

『どゆこと!?』

『モンスター…なのか…?』

『なんでモンスターを顔に貼り付けてたんだよ!?』

『さすがに変態すぎだろ…』

 

 

 意図しない衝撃映像にリスナーたちも沸いている。

 俺たちはしばし動くことすらできなかったが、我に返ったかのようにライカがピンクの頭を掻きむしった。

 

 

「あああっ! 失敗しました! あれを捕まえて『ベギーアデの仮面飼ってみた』って動画作れたのにぃ!」

 

 

 ハッとする。

 なるほど、その発想はなかった。思わず呟く。

 

 

「さすがライカ。すごいプロ意識だ……」

 

 

『えぇ……』

『これプロ意識って言っていいの?』

『さすがは配信狂い』

『ライカは配信に人生を捧げすぎている』

『おっぱいチャン!ライカの言葉鵜呑みにしちゃだめだぞ!』

 

 

 ん? なぜかリスナーたちが引いているな。

 俺は気を取り直してベギーアデに向き直るが、しかしまだタコ殴りにした訳でもないのに白目を剥いて気を失っていた。

 一応揺すったりつねったりしてみたものの応答はない。

 

 

「仕方ない。それじゃあコイツはまた自警団に引き渡すとして、配信はこのへんで終わりに――」

 

「ちょっと待ってください。まだ少し時間に余裕があります」

 

 

 ライカは俺の言葉を手で制し、スマホの画面を見ながらそう呟いた。

 事前打ち合わせなどほとんどしていないに等しいが、DM上で待ち合わせの場所と時間、それからざっくりした終了時刻だけは決めてあったのだ。

 確かにまだその時刻まで余裕がある。

 

 

『あれ?配信してからまだ2時間も経ってないのか』

『この短時間にいろいろありすぎだろ』

『下層爆走してベギーアデ再登場してボス部屋から出た下層ボスをおっぱいで倒してベギーアデ捕まえたと思ったら仮面の裏が激キモで…俺は一体なにを言っているんだ?』

『錯乱してて草』

『でもこれ以上なにすんの?』

 

 

 カメラに向けて、ライカは笑顔を見せる。

 

 

「ボス不在のボス部屋に行ってみるというのはどうでしょう? こんな機会そうないですから」

 

 

 上層・中層のボス部屋は中にいるボスを倒すことで床の一部が開き、次の階層に進むための階段が現れる。

 しかしダンジョンの底とされている下層ボス部屋では勝手が違ってくるらしい。

 

 

「下層ボス部屋の床にも地下に続く扉みたいなものがあるんですが、ボスを倒しても開かないんです。長居するとボスが復活する危険があるからあまり詳しく調べられないし……というか、下層ボスを倒したあとに部屋を調べる余裕なんて普通はありませんからね」

 

「なるほど。今なら十分調べられるってこと?」

 

「ええ。リスナーさんたちもきっと喜んでくれますよ!」

 

 

 そういうことで俺たちはふたりで(気絶したベギーアデは背負って)空のボス部屋へと向かった。

 正直、ライカも本気でなにかが見つかると思っていたわけではないように思う。

 ライカは配信に関して本当に貪欲だ。少しでも撮れ高になりそうなものがあればドンドン突っ込んでいく。

 たとえ期待させた挙句、なにもなかったとしてもそれはそれで良いのだ。リスナーをドキドキさせて期待をさせる。それ自体が尊いことなのだから。

 が、今回は期待外れには終わらなかった。

 

 ボス部屋に通じる金色の扉は俺たちを迎え入れるように大きく開け放たれていた。

 ボス不在のボス部屋はだだっ広くて、自分の脈が聞こえそうなほど静か。

 静謐な空気に思わず背筋を伸ばして足を踏み入れた、その瞬間。

 

 

「……えっ」

 

 

 開かないはずの床の扉が、音もなく開いた。

 

 

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