底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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19話 ダンジョンマスター

 

 ダンジョンを造り管理している存在がいるのでは、というのは昔から言われている。

 それが“ダンジョンマスター”だ。

 とはいえそういった者が存在するという根拠は乏しく、ほとんど都市伝説に近い。

 俺もまさか存在するだなんて思っていなかった。

 というか、今だって別に信じてはいない。

 

 

「安心していいよ。その娘には少し眠ってもらっただけだ。用があるのは君だけだから」

 

 

 自称ダンジョンマスター、池袋は俺のおっぱいを見ながらそう言った。

 確かに光の矢に貫かれたはずのライカの体に目に見える出血や怪我もなく、意識はないもののちゃんと呼吸もしている。

 いまはヤツの言葉を信じるしかなさそうだ。

 

 

「一体俺になんの用があるってんだよ」

 

「そう邪険にしないで。君の活躍は見させてもらったよ。ウチのラスボスをあんなに簡単に倒してしまうなんてね……恐れ入った」

 

 

 池袋はおっぱいを見ながらそう言った。

 

 

「実は、君の力を借りたいんだ」

 

 

 池袋はおっぱいを見ながら――

 

 

「おい、ちょっと待て。さすがにおっぱい見すぎだぞ」

 

 

 俺は堪らず手を突き出してヤツを制止した。

 見すぎだ。あまりにも見すぎだった。

 俺も男だ。おっぱいに目がいってしまう気持ちは分かる。多少であればスルーしてやる気もあったが、そんな寛容な俺でも看過できないレベルだった。

 人と話すときは目を見て話せと教わらなかったのだろうか。おっぱいを見て話すなど言語道断である。

 が、池袋に悪びれた様子はない。

 

 

「すぐれた芸術作品を前にしているにもかかわらず、目を背けるというのは作品に対する冒涜だとは思わないか?」

 

 

 なに言ってんだコイツ。

 ただのスケベ野郎のくせになんか理屈並べ立てやがってぇ……。

 こんなヤツがダンジョンマスターなわけないだろ。

 俺がジト目で睨むと、池袋はニヤリと笑う。

 

 

「そんな顔しないで。僕が助けなかったら、その娘に正体がバレてしまっていたんじゃないかな?」

 

「なっ――」

 

 

 絶句した。

 確かに俺はピンチだった。

 ライカが気を失ったせいか彼女と俺を繋ぐリボンが消えているが、あのままだったら正体がバレるところだったかも。

 しかしどうしてこの男がそれを。

 まさか、俺の正体が男であると分かっているのか?

 いや待て。だとしたら、こんなに胸をガン見するだろうか。だって、男の胸なんだぞ?

 そんな俺の心を読んだかのごとく、池袋は首を横に振った。

 

 

「男とか女とか、そんなのは些末な問題だよ。おっぱいというのは大きければ大きいほど良い。それだけだ」

 

 

 俺は確信した。

 ヤツはおっぱい星人だ。間違いない。

 そして、恐ろしいことにどうやら本当にダンジョンマスターでもあるらしい……。

 

 

「こんなところじゃなんだから、お茶でもどうかな?」

 

 

 ダンジョンマスターのお誘いともあれば、断るわけにはいかなかった。

 池袋に連れられ、ライカとベギーアデを背負って階段をおりた先にあったのは真っ白な空間だった。

 とはいえ何もないわけではなく、普通にデスクとかソファとか本棚とかベッドが置いてある。

 精神と時の部屋を一人暮らし向けに改造しました! という感じの不思議な空間だった。

 

 

「掛けて。お茶を入れるよ」

 

 

 池袋は俺に座布団を勧めて、自分はキッチン台でお湯を沸かし始めた。

 明るい空間のおかげで先ほどまでおぼろげだった池袋の姿がよく見える。

 なんというか、ラノベの主人公みたいだなと思った。

 中肉中背、特徴のない黒髪。顔はまぁ整ってはいるがどことなく陰キャ感がある。

 池袋はキッチン台に立ったまま、俺をここに招いた理由について話し始めた。

 

 

「単刀直入に言うけど――君に“バグ”を倒してほしいんだ」

 

「バグって?」

 

「ああ。君達は“ベギーアデ”と呼んでいるね」

 

 

 俺は思わず首を傾げた。

 だって初代のベギーアデは山寺で修行僧をやっているし、2代目もちゃんとやっつけて連行してきた。

 気を失ったベギーアデは部屋の隅に寝かせてあるから、煮るなり焼くなり好きにしたらいい。

 が、そうではないと池袋は首を横に振った。

 

 

「バグはね、人間に寄生するんだ」

 

 

 そこでハッとする。

 ベギーアデの着けていた仮面――裏に足がたくさんついていて素早く這って移動する、アレこそが池袋の言う“バグ”なのだろう。

 

 

「いや、待て。ダンジョンマスターならモンスターの管理も仕事だろ。なんで自分で退治しないんだよ」

 

 

 その質問に答えるより早く、池袋は俺の目の前のローテーブルに湯呑みをふたつそっと置く。緑が鮮やかな緑茶だった。

 が、俺は手を付けない。

 まだこの男を信じられずにいたからだ。

 

 

「大丈夫。普通のお茶だよ。変なものは入ってない」

 

 

 池袋はまた俺の心を読んだかのごとくそう念を押して、証明するように自分の湯飲みに口をつけた。

 

 

「誓って、君たち人間に危害を加えるようなことはしない。だって君たちは英雄だからね」

 

 

 英雄。

 その言葉に違和感を覚えた。

 

 

「俺たちは別に英雄なんかやってるつもりはないぞ」

 

 

 俺たち探索者は確かにモンスターを倒してはいる。

 しかしモンスターはダンジョンから出ず、地上の人や田畑を襲うわけでもない。

 配信やレア素材の収集など理由は様々だが、俺たちは自分の利益のためにダンジョンに潜って、倒さなくても地上には影響のないモンスターと戦っているだけ。

 それを英雄と呼ぶのは違う気がした。

 すると池袋はさらに説明を付け加える。

 

 

「ダンジョンというのはね、ゴミ捨て場なんだ」

 

「え?」

 

「以前は人間を、君たちの言うところの“異世界”に派遣していたんだ。でも人権団体からクレームが出てね。まぁ人ひとりの人生を潰してしまうわけだし。それから現地人との交配も問題のひとつだった。君たちの文明は多くが一夫一妻制なのに、なんでか派遣先ではそれを無視するんだよね。少子化で悩んでいるとは思えないくらい繁殖力も凄くて――」

 

「え、いや待って待って。それって……異世界転生ってコト!?」

 

「まぁ、君たちはそう呼んでいるね」

 

 

 池袋はなんでもないことのようにそう頷く。

 

 

「まぁそんなこんなで、僕らは逆転の発想をしたんだ。つまり、この世界にモンスターを送って倒してもらうことにした。それがダンジョンだ」

 

 

 マジかよ、と俺は思った。

 にわかには信じがたい話だが――しかし考えてみれば辻褄が合う。

 心躍るスキルや魔法、そしてダンジョンで採れる金銀財宝に魔法素材。それらは全て俺たちをダンジョンに引き込みモンスター退治をさせるためのエサなのだ。

 ん? だとすれば目の前のラノベ主人公みたいな顔のコイツは、神にも近い上位存在なのでは?

 

 

「でも、バグは違う」

 

 

 池袋は、やはりおっぱいを凝視しながらそう言った。

 えっ、神でもおっぱい見るの?

 疑問は尽きないが、しかし話題は次へ次へと移っていく。

 

 

「あれは厳密に言えばモンスターじゃない。僕たちでもコントロールすることはできないし、なにをしでかすか分からない。そこで君に退治をお願いしたいんだ」

 

 

 なるほど。

 それでわざわざ開かずの扉を開け、俺を誘い込んだというわけか。

 俺は一拍置いて、池袋の依頼に対し返答をする。

 

 

「え、イヤだけど」

 

「……理由を聞いてもいいかな?」

 

 

 池袋は大きく表情を変えるようなことはしなかった。

 しかし全身から「断られると思ってなかった」みたいな雰囲気を醸し出している。

 なんでだよ。断るだろ。

 その理由について、俺は懇切丁寧に説明してやった。

 

 

「それって俺にメリットないよね? アンタが正体を明かして配信に出てくれるって言うなら考えなくもないけど、どうせダメなんだろ? ダンジョン中を駆けずり回ってあんなキモい仮面を見つけて倒すなんて地味な配信、誰も見たくないだろうし」

 

「ふーーーーん」

 

 

 唇を尖らせ、半眼でじとっと俺を見る。

 池袋は明らかに不服そうだった。

 思わず身構える。そうだ、忘れていた。ヤツはダンジョンマスターだ。機嫌を損ねたら一体なにをされるか分からない。

 そんなことが頭をよぎったものの、池袋本人が言っていた通り、ダンジョンマスターが俺たち探索者に危害を加えるという選択肢はないようだった。

 

 

「まぁいいや。ロビーまで戻してあげる。君の言う通り、僕のことは決して口外してはいけないよ」

 

「あ、ああ……」

 

 

 正直、思ったよりアッサリで拍子抜けした。

 もう少し縋り付いて懇願したり、あるいは権力をチラつかせて脅したり――やり方はもっとありそうなものだが、池袋はさっさとお茶を飲み干して立ち上がった。

 そして池袋は横たわっているライカの枕元にしゃがみ込み、彼女の頭に手をかざした。

 

 

「それから、悪いけど彼女の記憶も改竄させてもらう。ここのことを怪しまないよう、偽の記憶を植えさせて貰うよ」

 

「わ、分かった。でも俺の記憶はイジらなくていいのか?」

 

「信用しているからね。それに――」

 

 

 池袋はフッと笑みを漏らし、こちらを振り向く。

 

 

「君が嫌がっても、バグの方が君にちょっかい出してくるかもしれない。たわわな果実には虫がつくものさ」

 

 

 池袋はおっぱいを見ながらそう言った。

 なんだコイツかっこつけて。おっぱい星人のくせに……。

 

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