底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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2話 底辺配信者の叫び

 

 今の時代、努力したら報われるとは限らない。

 真面目にコンテンツを作るより、おでんをつんつんしたほうがバズる時代である。

 仕方がないって分かっているが、しかしそれでも納得はできない。

 

 男の周囲を衛星のようにふよふよ漂っているドローンカメラ。あれを使っているということはヤツが配信者であるということを意味している。

 そして。

 

 

「分かってますよ!」

 

 

 仮面の男はそう声を上げた。しかし周囲には誰もいない。

 恐らくは配信中なのだろう。視聴者からのコメントに答えているのだ。

 つまり、その配信を見ている人間がいるらしい。

 

 ヤツの顔に張り付いているのは、仮面舞踏会で貴族がつけているような目元だけを覆うタイプの仮面。

 お陰でヤツが下卑た笑いを浮かべていることがよく分かる。

 手にはこれまた気取った感じの装飾がついた短剣を持っており、振りかざしながら駆けていく。

 

 

「おっぱいチャンも気になりますが、涙を呑んで……いまはターゲットを追います!」

 

 

 腹の底から言いようのない怒りが湧いてきた。

 ヤツが下半身丸出しで女性を追いかけ回しているから……ではない。

 ヤツが俺を胸部の俗称で呼んだから……でもない。

 そんなことはどうだっていい。

 俺の逆鱗に触れたのは、たったひとつ。

 ――ヤツが同接ゼロじゃなかったことだ!

 

 

「おかしいだろ!!」

 

 

 俺は叫んだ。そして走った。

 前を走っている仮面の男が驚いたように振り返った。

 と、同時。

 俺は腕を振り抜いた。

 ポケットに入っていた小銭だ。射出されたそれは弾丸のような速度でドローンカメラを撃ち抜く。

 これから起こるあれやこれをカメラに撮られる訳にはいかない。最後に残った理性がギリギリのところでそう判断をした。

 そしてそれを最後に理性は砕け散った。

 

 

「え? え?」

 

 

 仮面の男は足をますます早く動かした。走り方が追いかけるそれから逃げるそれへと変わる。怯えた顔をチラチラとこちらへ向ける。

 男は自分になにが起きているのか分かっていないようだった。

 ならば分からせてやろうと思った。

 俺は得物を抜いた。

 よく手入れしている、肉厚のマチェット。

 マチェットって知ってる? まぁ平たく言うと鉈なんだけど。「13日の金曜日」でジェイソンが使ってるヤツっていうと分かりやすいかな? 実はジェイソンってチェーンソー使ったことないんだよね。ははは。

 俺はマチェットを男に投げつけた。

 

 

「ひいっ!?」

 

 

 ナイスコントロール。

 マチェットは男のシャツを磔にしながら壁に突き刺さった。

 男は剣を振り回しながら怒声を上げる。

 

 

「テメッ、なにしやがる! 配信の邪魔しやがって、ぜってぇ殺してや――」

 

 

 ペラペラよく動く可愛いお口に、俺は拳を打ち込んだ。

 男はまるで自分が被害者であるような顔で俺を見上げたが、まったくワケが分からなかった。

 どう考えても被害者は俺だろ。

 

 

「なんで真面目にやってる俺の配信が同接ゼロで、下半身丸出しで女追っかけ回してるカスに視聴者がついてるんだよ!」

 

 

 俺は叫んだ。そして男をタコ殴りにした。

 憎かった。

 この男が、じゃない。世界が憎かった。

 途中からなにを殴っているのか自分でもよく分からなくなっていた。

 

 

「意味分かんねぇっ、ことっ……クソ、お前っ、絶対ぇっ、ゆるさっ……」

 

 

 男はタコ殴りにされながらもなんか反撃しようとしてきた気もするが、あんまり良く覚えていない。

 気が付くと、白目を剥いて動かなくなっていた。

 

 

「………………アレ?」

 

 

 勘違いしないでほしいのだが、俺は至って温厚な男なのである。

 それこそ虫も殺さないし、好きな言葉は「平和」だし、右の頬を打たれたら左の頬を差し出しちゃう系男子なのである。

 決して、決して八つ当たりで知らん人間を撲殺しちゃうような野蛮な男などではないのだ。

 しかしなんの事情も知らない心ない第三者がこの状況を見たらなんと言うだろう?

 血に塗れた拳がにわかに震え出す。

 

 

「ど、ど、ど、どどどどどどうしよう」

 

 

 逃げる? いっそ逃げちゃう?

 悪魔の囁きが一瞬脳内をかすめたが、しかし無残にも退路は断たれた。

 

 

「こっちです!」

 

 

 遠くから聞こえてくる大勢の足音。

 まごまごしているうちに自警団がやってきてしまった。

 自警団とは文字通りダンジョンの平和を守るため有志によって形成されたボランティア団体である。

 主にダンジョン上層階をパトロールし、初心者への指導をしたり探索者同士のトラブルを仲介したり、悪質な行為をする探索者を警察に突き出したりなんかもする。

 

 

「おとなしくしろ!」

 

 

 ひえっ。いつもニコニコ笑顔の自警団さんたちがあんなに怒ってるとこはじめて見る!

 俺はすぐさま両手を挙げた。

 

 

「ご、ごめんなさい! けけけ、警察だけは!」

 

 

 と、叫ぶ俺の脇を素通りし、自警団の皆さんは白目を剥いている仮面の男の両脇をガシっと掴んだ。

 え? なに? どゆこと?

 

 

「ようやく捕まえた」

 

「もう逃がさないぞ!」

 

 

 自警団の皆さんは鬼気迫る顔で仮面の男にそう迫る。警察24時でしか見たことない光景。

 それが刺激になったのだろうか。仮面の男がゴホゴホと咳き込んだ。

 

 

「ククク……こんなことで〈ベギーアデ〉は終わらない……」

 

 

 よかった! 死んでなかった!

 そういえばコイツ、下半身丸出しで女の子追っかけ回してたんだったわ。常習だったのかな?

 っていうか下半身丸出しのくせになにかっこつけてんだコイツ。バカか?

 

 

「あの、助けていただいてありがとうございました」

 

 

 背後からそう話しかけられた。

 多分、さっき仮面の男から逃げ惑っていた女の子だ。声で分かる。

 しかしこの声、どこかで聞いた気が。まさか知り合いとかじゃないだろうな?

 俺は恐る恐る振り返り、驚愕した。

 

 

「ん? え? ほ、宝条ライカ?」

 

 

 宝条ライカ。

 率直に言えば、俺は彼女のファンだ。

 配信者界隈にいる者で彼女の名を知らない者はいないだろう。

 登録者数1000万人の超トップ配信者。

 その可愛らしい容姿とトーク力で数多くの視聴者を虜にして――

 

 いや、待ってほしい。

 アイドル売りしてる配信者を散々ディスっておいてと思うかもしれないが、それは違う。断じて違うのだ。

 ライカは可愛いだけじゃないんだ。

 装備を見ればその人のダンジョンへの向き合い方が分かるなんて言葉もあるが、ライカのそれはマジモンのマジ。ひたむきに探索を続ける姿勢と実力をも兼ね備えたまさにハイブリッド配信者なのである(早口)。

 まぁもちろん彼女の容姿が全然好きじゃないといえば嘘にはなるが。

 トレードマークのピンクのくせっ毛はとびきりキュートだし、小動物のような小柄な体で大きな武器を使うギャップも堪らない。

 最近武器としてモーニングスターを持つ人が増えたのは間違いなくライカの影響だ。

 

 俺は口が達者な方でもなく、人前に出ることが好きというわけでもない。

 その上、登録者数も同接も底辺――何度も辞めるという選択肢は浮かんだ。

 それでも俺を繋ぎ止めたのは、「宝条ライカ」の存在だったのだ。

 

 そんな憧れの人間が、いま目の前にいる。

 

 

「俺、あなたのファンです!」

 

 

 と、宣言してから気付いた。

 自分のいまの格好。

 二次元ヒロインも真っ青の爆乳に、それを見せつけるかのようなエロコスチューム。まるで痴女だ。本当は男なのに。

 俺は憧れの人に出会えた高揚感と恥ずかしさで頭が爆発し、なにもかもがワケ分かんなくなって、そして――

 

 

「えっ?」

 

 

 ライカに背を向けて、一目散に逃げ出した。

 

 

 

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