底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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23話 偽の記憶

 

 クソ! クソ! クソ! クソ!

 一体どういうことなんだ。

 ライカはダンジョンマスターのことを覚えている?

 つまり池袋の記憶操作が不完全だったのか? そもそも池袋の放った矢で気を失ったとばかり思っていたが、実は起きていて話を聞いていたのか?

 どちらにせよそれって俺のせいじゃなくね? 池袋の不始末だろ! なんで俺が責任取らされるんだよ!?

 

 頭の中で池袋への罵詈雑言を吐きながら、俺はライカとの待ち合わせ場所である池袋ダンジョンへと向かう。

 ライカは俺を呼び出してダンジョンマスターのより詳しい情報を聞き出そうとしているのだろうか。

 そうならば、不本意ではあるが改めて池袋に記憶操作をしてもらうしかない。

 そういう意味では池袋ダンジョンに呼び出されたのは幸いではあるが、しかしライカはどうしてわざわざ池袋ダンジョンに俺を……?

 

 ダンジョンに到着。

 いつも通りある程度まで潜りひと気のないところでユニークスキルTS(爆乳)を発動。またダンジョンを駆け上がり改めてロビーに戻る。

 で、驚いた。

 先ほどは急いでいて気づかなかったが……つい数日前まではなかった、個室のブースのようなものがズラリとできていたのだ。

 駅やビルの中に自習室みたいなのがあるのはたまに見るが、ダンジョンのロビーにそんなものがあるなんてちょっと聞いたことがない。

 

 

「な、なんだこれ。こんなの前までなかったよな……?」

 

 

 呆然と立ち尽くしていると、個室ブースの中からライカが顔を出した。

 笑顔でこちらに手を振っている。

 

 

「カオルさん、こっちこっち」

 

「ラ、ライカ!」

 

 

 俺は恐る恐る、ライカのいる個室ブースへと入る。

 そして扉を閉めた瞬間――ライカが俺の腰に腕を回し、体を密着。

 

 

「え!? え!?」

 

「そのまま動かないでください! はい、チーズ」

 

 

 パシャリ。

 自撮りを終えたライカは満面の笑みをこちらに向ける。

 

 

「ありがとうございます。どうしても話題のスポットで写真を撮りたくて。あとでミンスタに上げてもいいですか?」

 

「そ、それは構わないけど……」

 

 

 困惑しつつ、俺は辺りを見回す。

 中は思ったよりも広かった。

 ダンジョンの壁にめり込むように作られているらしく、外からは公衆電話ボックスくらいのサイズしかないように見えたが、実際にはファミレスのボックス席くらいある。

 俺はライカの対面に腰を下ろしつつ呟く。

 

 

「ええと、ここは……?」

 

「会議スペースです。わたしたちがコラボ配信をしたあと、突然できたんですって。ダンジョンって本当に不思議ですよね」

 

 

 突然できた……?

 確かにダンジョンというのはたまにその形を変えることがある。

 迷宮のマップが変わってしまうこともあるし、モンスターとの戦闘によってあいた壁の穴がすぐに塞がったりもするのだ。

 しかしこんな人為的な建造物が新たに作られるというのは聞いたことがないが。

 と、そこまで考えてからあの男の顔が浮かんだ。

 池袋だ。

 まさか、女の姿でダンジョン外に出られない俺のためにライカと落ち着いて話せるスペースを作ってくれた?

 しかし一体なんのために。俺は池袋からの依頼を断ったというのに……。

 

 

「安心してください。完全防音だし、鍵をかければ外からは開けられず、中をのぞくこともできません。あの仮面が心配ではありますが、さすがにロビーにまでは来られないと思います。ここならふたりでゆっくり話すのにピッタリだと思って」

 

 

 俺が神妙な顔をしているのを気遣ってか、ライカはこの会議スペースについてそう説明を加えた。

 そうしながらも流れるように席を立ち、そして俺の隣に腰を下ろす。

 

 

「……ん?」

 

「なんですか?」

 

 

 ライカは俺にピトッとくっつくようにしながら上目遣いで小首を傾げる。か、可愛い……いや、そうじゃなくて!

 普通ボックス席みたいなところにふたりで座るってなったら、対面になるように座らない?

 いや、別にどこに座ろうが全然構わないのだけど。むしろ隣に座ってくれて正直嬉しくはあるのだけど……。

 もしかして色仕掛けで俺からダンジョンマスターの情報を吐かせようという作戦ではあるまいな! だとしたら効果バツグンだっ……くそ、マズい。

 

 

「今日は来てくれてありがとうございます」

 

 

 ライカはそう一礼して、話を続ける。

 

 

「実は、事務所を通じてギルドから呼び出しがあって。一応カオルさんにもお話しておこうと思ったんです」

 

「呼び出しって?」

 

「下層の扉の件です」

 

 

 思いもよらない話に思考が停止する。

 ギルド。

 それは探索者を束ねる組合のようなものである。

 ダンジョンに関する情報を集めるのも彼らの役目だ。

 まさかギルドにダンジョンマスターのことを喋ってしまったのでは……と一抹の不安を覚えたが、これも杞憂だった。

 

 

「扉の中にはなにもなかったって言ってるのに、全然信じてくれなくて困りました。そんなこと言われてもないものはないんだから仕方ないのに」

 

「……え?」

 

 

 思わずライカの顔をまじまじと見る。

 どうやら彼女は本気でそう言っているらしかった。

 つまり下層の扉の中にいたダンジョンマスターのことなど、ライカはまったく覚えていない。池袋の記憶操作もちゃんと機能していたということ。

 なんだよ。俺としたことが、早とちりの勘違いだったのか……。

 ん? じゃあ『昨日のことは誰にもナイショ』っていうライカのポストはなんだったんだろう?

 俺の「?」など知る由もなく、ライカの話は進んでいく。

 

 

「それで、提案なんですけど……カオルさんもうちの事務所に入りませんか?」

 

「……えっ、事務所って、ビビッドスライム?」

 

「ええ。大きい事務所に所属するとギルドからの信頼も厚くなりますし、いろいろとサポートも受けられますよ」

 

 

 ビビッドスライムといえば主にダンジョン配信者を擁する大手事務所のひとつである。

 ライカをはじめとした人気配信者が多く所属していることもあり、ビビッドスライムから所属のお誘いなんて受けたら大抵の配信者は泣いて喜ぶに違いない。

 しかし。

 

 

「あのー……事務所ってダンジョンの外にあるよね?」

 

「ええ、もちろん。池袋ダンジョンのすぐ近くですよ。カオルさんさえ良ければこれから一緒に――」

 

 

 もちろん素晴らしいお誘いだ。俺にはもったいないくらい。それもライカからの直接のオファーだなんて、本当だったら一も二もなく飛びつくところだ。

 でも、ダメだ。ダメなんだ。

 なぜなら俺はこのTS(爆乳)姿でダンジョンの外へ出ることができないから!

 事務所なんかに所属したら外で事務所の人間と会わなくてはならない機会も多くなるに違いない。

 人の口に戸は立てられないものだ。

 誰であろうと、このスキルと俺の正体のことを知られるわけにはいかない。

 だから。ここは涙を飲むしかないのだ。

 

 

「ご、ごめん。その、嬉しいお誘いなんだけど……」

 

「もしかしてもうどこかの事務所に所属予定なんですか?」

 

「ああいや! そうじゃないけど、いまはどこの事務所にも所属するつもりはないんだ」

 

「そうなんですね……でも、気をつけてください」

 

 

 そう言ったライカの顔に、なにかを思い出したように嫌悪感が滲む。

 

 

「有名になると悪い意味でも注目を集めるというか……ストーカーとか、週刊誌の記者とか暴露系みたいなハイエナ配信者につけ回されるなんてこともよくある話です」

 

「うっ……」

 

 

 なるほど。確かにそういった類いの連中は俺にとって天敵と言えるかもしれない。

 万一、そんなヤツらに俺の秘密――本当は男であるなんてことがバレたらそれこそ一巻の終わり。

 そんな不安を感じ取ったかのように、ライカは俺の手をそっと握った。

 

 

「大手事務所ならそういうののあしらい方も分かってます。気が変わったらいつでも来てください。わたし、待ってますから」

 

「え!? うん! ありがとう!?」

 

 

 な、なにをドギマギしているんだ俺は。

 これは単なる女の子同士のコミュニケーション。学校でもよく女子同士がキャッキャと抱き合ったりしてるじゃないか。単なる戯れだ。

 いや、でも、確か、コラボ配信のときに――

 

 

『百合“営業”じゃなくなっちゃったかもしれません……』

 

 

 いっ……いやいやいやいや!

 あれも単なるリップサービスというか。場を盛り上げるための戯れというか!

 一体なにを舞い上がっているんだ。バカみたいだ!

 そう自分に言い聞かせ、なんとか頭をクールダウンさせようとする俺を嘲笑うかのようにライカがその身をすり寄せてくる。

 

 

「ふぇへっ!?」

 

 

 ヤバい、テンパりすぎてキモい声出ちゃった!

 しかしライカに気にする様子はなく、俺の探索服のガバ開き胸元をその細い指で甘えるようにそっとつまむ。

 

 

「この服、もちろんカオルさんに似合っていて素敵ですけど、ちょっと露出多くないですか?」

 

 

 もちろんちょっとどころではなくものすごく露出は多いが……。

 ど、どうしたんだライカ。

 コラボ配信の時も距離は近かったが、その時とは違う。なにか妙だ。ポップさがないというか、ガチっぽいというか。

 ……誤解を恐れずに言うなら彼女ヅラされてるというか。

 い、いやいや! おこがましすぎるだろ。ファンに殺されるぞ!

 もういいや、話変えよう!

 

 

「こ、この前はありがとうね! コラボ配信すごい楽しかった!」

 

「こちらこそ。とっても楽しい夜でした」

 

 

 ……ん? 夜?

 あの日、俺は池袋と別れたあとは速攻で自宅へ帰った。ライカといたのはせいぜい夕方まで。

 なんのことか分からず戸惑っていると、ライカはそっと俺の耳元に艶々と輝く唇を寄せた。耳をくすぐるような、吐息たっぷりの声。

 

 

「カオルさんって、意外とカワイイ声出すんですね」

 

 

 ギョッとして、思わずライカを見る。

 潤んだ瞳。紅潮した頬。艶めく唇からもれる「ふふふ」という声が妙に色っぽい。

 女子同士のじゃれ合いなんて言葉ではもはや誤魔化しようがない。

 なんだこれは。どういうことだ。

 これは、まるで、まぁ経験はないが――まるで男女の睦言のようではないか!

 もちろん俺とライカはそんな関係じゃない!

 が、ひとつだけ思い当たる節がある。

 俺は、あの日に池袋が言った言葉を思い出していた。

 

 

『悪いけど彼女の記憶も改竄させてもらう。ここのことを怪しまないよう、偽の記憶を植えさせて貰うよ』

 

 

 偽の記憶。

 俺はそうとしか聞いていない。

 具体的な内容まで確認しなかったのだが、大きな間違いだった。

 

 “昨日のことは誰にもナイショ”というポスト。

 “カオルさんって、意外とカワイイ声出すんですね”というライカの言葉と恋人のような態度。

 そして池袋による“偽の記憶”

 点と点が繋がり、ひとつの真実が浮かび上がる。

 

 ――アイツ、ライカに一体どんないかがわしい記憶植えたんだよ!

 

 

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