底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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24話 厄介な百合豚

 

「おい、いまのおっぱいチャンじゃなかった?」

 

「マジ? 早すぎて見えなかった」

 

 

 ロビーを飛び出し、探索者を追い抜かし、モンスターを斬り伏せ、俺はひたすらに爆走した。

 モンスターの血で濡れたマチェットの刃に、俺の鬼の形相が映り込む。

 

 

「ゴルァ! 池袋ォ!」

 

 

 この前、下層に潜った際に道はだいたい覚えた。モンスターを殺しまくっていると、恐れをなしたのかだんだんモンスターとのエンカウントが少なくなっていった。

 そんなこんなであっという間に下層のボス部屋にたどり着いた俺は、その金色にかがやく扉を蹴破って中に入る。

 ボスモンスターは倒しても復活するのが基本なのだが、ボス部屋の外で倒した場合はそれが適応されないらしい。

 俺がぶっ殺したインビジブル・リザードのかわりのボスはまだ見つかっていないらしく、下層ボス部屋は空のまま。

 しかしまるで俺が来ることが分かっていたかのように地下へ通じる開かずの扉は開いていた。

 脇目も振らず扉の中の階段をくだり、例の精神と時の部屋みたいな池袋のワンルームに乗り込む。

 

 

「どうしたんだい。血相変えて」

 

 

 やはり俺が来ることが分かっていたのだろう。

 池袋は椅子に腰掛け、手元に視線を落としたままそう言った。どうやら本を読んでいるらしい。

 俺はその妙に薄い本を取り上げて、池袋に凄んだ。

 

 

「ライカにどんな記憶を植えたんだよ!」

 

 

 確かに記憶を操作することは了承した。どんな記憶を植えるのか聞かなかったのは俺のミスだったかもしれない。

 とはいえ、まさかそんないかがわしい記憶を植えられるなんて思わないだろ普通! なんの嫌がらせだよ!

 しかし池袋に動じる気配はない。

 

 

「いい機会だから言っておくよ」

 

 

 そう言って、池袋はまっすぐな目で俺のおっぱいを見た。

 

 

「僕は百合豚だ」

 

「なっ……!?」

 

 

 こ、こいつ。真面目な顔で一体なにを!?

 と、そこで気が付いた。

 ヤツから取り上げた薄い本。その表紙で絡み合っているふたりの少女のイラストが俺とライカそっくりなことに。

 

 

「なっ、なんだよこれ!」

 

「同人誌。それもアダルトなヤツだよ。ちょっと前からハマっていてね」

 

「こんなもの俺は許可してねぇぞ!」

 

「そりゃそうだ。同人誌ってのはそういうものだからね」

 

 

 そう言って、池袋は部屋の片隅にある本棚を視線で示した。

 本棚を埋めているのはおびただしい数の薄い本。

 まるで小さなアニマイトが出現したかのような錯覚を覚えた。

 

 

「同人誌というのは素晴らしい文化だね。本編では果たされなかった願い、こうだったら良いのにといった純粋な願望、それらを勝手にカタチにする。感銘を受けたよ」

 

 

 池袋はゆっくりとした動きで、しかし力強く拍手をした。

 ここにはいない、でも世界中のどこかにいる、顔も知らない数多の創作者たちを讃える拍手。

 そしてそれは池袋自身にも向けられていた。

 

 

「だから僕もそうさせてもらった。僕は絵は描けないけれど、記憶をイジるのは得意なんだ」

 

「人の記憶で二次創作すんな!」

 

 

 俺は池袋の胸ぐらを掴んで無茶苦茶に揺さぶる。

 

 

「どうすんだよ! もっと健全なのに書き換えろよ!」

 

「無理な相談だね。一度書き換えた記憶をさらにイジるのはリスクが高すぎる。それに、君だって憧れのライカとそういう関係になれるのは満更でもないんじゃないのかい?」

 

「は!? そんなわけ――」

 

 

 そんなわけない、と断言すべきだ。しかしできなかった。

 そりゃそうだろ! 満更でもねぇよ! だって憧れのライカだぞ!?

 そんな俺の動揺を汲み取ったかのごとく、池袋は囁く。 

 

 

「ダンジョンを出られない君のために個室を作ったんだ。ロビーにあるのを見ただろう? いまは机と椅子を置いてあるけど、実はベッドも置けるようになってる」

 

「なっ!?」

 

「君が望むなら――」

 

「ふざけんな!」

 

 

 俺は悪魔の甘言を振り払うかのごとく首を振った。

 確かに魅力的な提案であることは認める。というか認めざるを得ない。

 でもっ……でも本当の俺は男だしっ……ライカを騙すことになってしまう……それは不誠実だ。良くないことだ。他のファンの皆さまにも申し訳ない。

 なによりそんな爛れた関係は、きっとライカの配信者人生の妨げになるだろう。

 だから俺はライカと健全な関係でいなければならないのだ!

 

 

「とにかく! 次勝手な真似したら許さねぇからな!」

 

「有名税、というものがある」

 

 

 池袋はまたもや「本質を突いています」みたいな顔をしてよく分からんことを言い出した。

 

 

「知名度が上がるのに伴い、ついて回る代償のことだ。勝手な真似をされて勝手なことを言われるのは人気者の証だよ」

 

「うるせぇ!」

 

 

 俺は奴の頭を脇に抱えて締め上げた。いわゆるヘッドロックである。

 なんかゴチャゴチャ言ってきてムカついたからだ。

 とはいえ、相手はダンジョンマスター。

 どうせ不思議な力が働いて反撃されるなり逃げられるなりするんだろう。

 

 

「ふふふ……いい攻撃だ」

 

 

 やはりな。強キャラめいたセリフが鼻につく。

 俺は悔いのないようにますます強くヤツの頭を締め上げた。

 ……が、いつまで経っても反撃の気配はない。

 やがて頭蓋骨がミシミシと軋みはじめたころ。

 池袋は俺の腕を弱々しくタップした。

 

 

「そろそろやめてくれないか。死んでしまう」

 

「は?」

 

 

 嘘じゃなさそうだ。池袋の顔が赤紫色になっている。

 死んでしまうというのも大袈裟ではなさそうだったので、腕の力を弱めてヤツを解放してやる。

 が、疑問は残る。

 

 

「じゃあなんでさっきなんで笑ったんだよ」

 

「頭を包むおっぱいの感触がなんとも心地よくてね」

 

「死ねゴミムシ。てかダンジョンマスターのくせに弱すぎだろ」

 

「ふふ。僕らダンジョンマスターが強ければ、わざわざ君たち人間に頼る必要ないだろう?」

 

 

 まぁ、言われてみればそうだ。

 

 ロビーに個室を作ってみせたように、ダンジョン内の構造を変えることはできるのだろう。

 ライカに光の矢を放った時のように、ダンジョン内に罠という形で武器を配置することは可能なのかもしれない。

 しかしダンジョンマスター本人の戦闘力は一般人と変わらないようだ。

 

 

「とにかく、今まで以上にたくさんの注目を集めることになる。君を見ているのは君のドローンカメラだけではないと肝に銘じるんだね」

 

「なんだ偉そうに。おっぱい星人のくせに」

 

 

 俺はヤツの助言をそう吐き捨てた。

 ……が、結論から言えば池袋の助言は正しかった。

 これからそれを嫌というほど分からせられることになる

 

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