底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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28話 〈TS(爆乳)〉Lv2

 バキバキ……ポキポキ……。

 指を鳴らしながら、カオルが近付いてくる。

 赤い仮面は、宿主――バクダンマの強い恐怖を検出した。

 バクダンマの視覚情報、聴覚情報ほか、彼の脳内ホルモンを解析し、こう結論づける。

 

 このままでは勝てない。

 

 なので、仮面は次の一手を打つことにした。

 より深く触手を伸ばし、宿主のより深くにまで侵食する。

 

 

「――うぁ」

 

 

 バクダンマは白目を剥いた。

 もはや彼の意思というものはなく、完全に仮面の操り人形と化している。

 こうなると宿主は負荷に耐えきれず崩壊してしまうのだが――構わないと仮面は判断した。

 ここで完全にカオルを潰すつもりだからだ。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

 バクダンマは大絶叫を上げる。

 この世のものとは思えない金切り声はカオルをギョッとさせたが、もちろん効果はそれだけじゃない。

 

 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。

 

 底から響く地鳴りのような音。

 カオルは咄嗟にマチェットを握った。

 その判断自体は正しいが、しかし十分であるとはいえない。

 これから起こるのは、人ひとりとマチェット1本で対処できる事態では決してないのだから。

 

 

「……おいおい、マジかよ」

 

 

 カオルはその作り物のように整った顔を思い切り歪ませた。

 

 

『バクダンマwwww白目wwwwww』

『バクダンマ顔ヤバwwwwww』

『追い詰められておかしくなったか?w』

『顔真っ赤wwwwwww』

『おっぱいチャンやっちゃえ!』

『いや、なんか変じゃね』

『この音はなに?』

『なんか来る』

『なに?』

『なんだ?なんかヤバいぞ…』

『おっぱいチャン気をつけろ!』

 

 

 どんどん大きくなる地響きに、バクダンマの配信を見ていたリスナーたちも異変を察したらしかった。

 仮面はダンジョンの機能を一時的にハック。

 バクダンマが背にしていた銀色の扉、つまり中層ボス部屋の扉がひとりでに開く。

 中からぬっと姿を現したのは、かつてカオルが戦った童貞巨人こと百々目鬼――だけではない。

 中層以上のモンスターとは一線を画すと名高い下層モンスターたちが、土石流のごとく押し寄せたのである。

 

 

『は?』

『え?』

『嘘だろ。AI動画だろ』

『そうだよな。ありえないよな』

『いや……これはマジだ。AIじゃないぞ』

 

 

 リスナーたちが現実逃避を始めるのも無理はなかった。

 上層、中層、下層ではそれぞれモンスターの強さが大きく違う。

 そしてそれぞれのモンスターは層の移動ができないようになっている。中層階以上に下層のモンスターが出るなんてありえない。

 ――そんなダンジョンの常識を、仮面は破壊する。

 

 

『さすがにおっぱいチャンでもこの数はムリだろ!』

『おっぱいチャン逃げて!!』

『いやでも、コイツらってここで食い止めないと上層までいっちゃうんじゃ…?』

『ヤバいヤバいヤバいヤバい』

『警報システムはどうなってんだよ!』

 

 

 ダンジョンでトラブルが起きた際に危険を知らせ退避を促す警報システムというものがあるのだが、今回それは作動しなかった。

 もちろん仮面がダンジョンの機能にハックしてシステムを止めたからである。

 もしもカオルが逃げ出せば暴走したモンスターたちはどんどん上へとのぼっていき、低レベル探索者が多くいる上層へと溢れ出すだろう。

 そうなればたくさんの犠牲が出る。

 その責任をカオルに求める声も出てくるだろう。低レベルの探索者たちを見捨てて自分だけ逃げ出した、と。

 しかし当然、真正面から戦って勝てる数ではない。

 カオルはかつて下層のモンスターをなぎ倒しながら爆走したことがあったが、今回のそれはまるでレベルが違う。

 それはもう強いとか弱いとかいう問題ではなかった。物理的な問題だ。

 どんな最強の戦士でも雪崩には勝てない――これはそういった類いの話だ。

 

 よって、どうあってもカオルは今までの「一点の曇りもない人気配信者」ではいられない。

 

 

『逃げろカオル!』

『勘弁してくれよ俺いま池袋ダンジョンにいるんだけど!?』

『周囲の人間に知らせろ!池袋ダンジョンから逃げろって!』

『池袋ダンジョンにいる人、すぐに逃げて!』

『休日の15時だぞ?何人いると思ってんだよ』

『下手なことしたらパニックで人死に出るぞ…』

『助けておっぱいチャン』

『いくらおっぱいチャンが強くてもこれは…』

『さすがにこの数はムリだろ。のみ込まれるぞ!』

 

 

 災害級の緊急事態を前にリスナーたちもパニックに陥っている。

 一方、押し寄せるモンスターを前にしたカオルは――

 ものすごく、嫌そうな顔をしていた。

 

 

「できるだけ頑張るけど一応みんなも逃げろ。それから、この事態を知らない人にも届くように拡散して」

 

 

 カオルは宙を漂うドローンカメラにそう言って、そして小石を投げてそれを破壊した。

 当然カオルはバクダンマの配信を見ていなかったので、知らない。バクダンマがもうひとつ、予備の小型カメラを隠し待っていることを。メインのドローンカメラが壊れたら、瞬時にバクダンマのカバンから飛び立って、そちらに映像が切り替わるシステムになっていることを。

 

 

『ドローンカメラ壊した?』

『おーい、おっぱいチャンまだ映ってるぞ…って、気付くわけないか』

『なんでカメラ壊したの?』

『逃げるところが映らないようにするためだろ』

『マジか…』

『まぁこの状況じゃ仕方ないかもだけど』

『情けなく敗走するおっぱいチャンなんて見たくなかったな…』

 

 

 リスナーたちが冷ややかなコメントをしていることにも、カオルは気付かない。

 まだ数十万人もの人間の目がカオルに向けられていることなど、当然知るよしもない。

 そしてカオルは行動に移った。

 逃げ出した、のではない。

 マチェットを振り上げて勝ち目のない無茶な戦いに身を投じた――のでも、ない。

 

 カオルはユニークスキル〈TS(爆乳)〉――Lv2を発動。

 

 スキルの発動にともない体が光に包まれる。

 そして光が消えたとき。

 カオルの服がバニースーツに替わっていた。

 そう、バニースーツ。

 かっこいい鎧でも、丈夫な革のジャケットでも、肩からトゲトゲが出ている世紀末を生き抜けそうな強い服でもない。

 バニースーツだ。

 夜のお店や裏世界のカジノで働いているお姉さんがよく着ているあの衣装だ。

 ウサギ耳のヘアバンドに白いふわふわの尻尾。体のラインを浮かび上がらせるピッタリとしたつやつやのボディスーツは胸元の谷間をことさらに強調している。付け襟やカフスや網タイツは機能上の意味はあまりないものの、脱いでいるときより着けているときのほうエロくなるという不思議な小物である。

 突然の変身にもちろんリスナーも大混乱だ。

 

 

『!?』

『なんだ?』

『なにごとwwwww』

『おっぱい!!』

『今際の際のファンサービス?』

『ありがてぇ…けど、今じゃないんじゃ…』

 

 

 もちろんリスナーはユニークスキル〈TS(爆乳)〉Lv2のことなど知る由もない。

 彼らの目には突然カオルのコスチュームが変わった、しかもよりエロくなったとしか思っていない。

 それは仮面も同じだった。

 ダンジョン内のシステムのハックやモンスターの誘導はできるが、宿主でもない探索者のスキルを探知することはできない。

 

 ――が、カオルの纏うオーラが一際強くなったことを仮面は察知していた。

 

 

「クソが。こんな格好させやがって」

 

 

 忌々しく呟き、カオルはその黒いハイヒールで地面を蹴る。

 瞬間、その鋭利なヒールが一瞬だけ雷のようなエフェクトを発し、その胸が一際大きく揺れて――

 バクダンマの動体視力で捉えられたのは、そこまでだった。

 配信上でもそうだ。

 常人には一迅の風が吹いたようにしか見えなかった。

 しかしバニーガールの形をしたその風が通ったあとには、モンスターの死骸が足の踏み場もなく転がることとなった。

 

 

『!?』

『え、消えた?』

『違う。戦ってる!』

『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!速っ!!』

『ええええええええええ!?どうなってんだ!?』

『このバニーガールTUEEEEEEEEEEE!!!!』

『え。下層モンスターって雑魚でも中層ボス並みの強さ…なんだよな…?』

『マジかよ。おもちゃみたいに倒れてくぞ!!?』

『なんであんな格好でこんなに強いんだよ!?』

 

 

 これがユニークスキル〈TS(爆乳)〉Lv2の力。

 普段の胸元ガバガバエロ探索服よりもずっと露出が多く扇情的なバニー服を着せられるかわりに、今のカオルは神速とも言うべきスピードを手に入れた。

 そして神速で繰り出されるカオルのマチェットは下層のどんなに硬い敵をも一刀両断にしてみせる。

 すごい速さで縦横無尽に駆け回りながらマチェットを振るう――小学生が考えたような至極単純な戦い方だが、その強さはまさに一騎当千。

 一匹だけでも熟練の探索者チームを壊滅させる下層モンスターが試し斬りのカカシのように成す術なく斬り伏せられていく。

 ダンジョンの常識を覆してみせるのは、なにも仮面だけではない。

 カオルもまた、常識を超えた力でこの絶望的な状況をひっくり返してしまった。

 

 

『これおっぱいチャンのスキルなのかな…?』

『ユニークスキルのことに突っ込むのはご法度だぞ』

『そうそう。この衣装はおっぱいチャンが好きで着てるだけだよ(棒読み)』

『でもなんでカメラ壊したの?』

『バニーコス見られたくなかったとか?』

『可愛すぎるwwwwww』

『おっぱいチャンって羞恥心あったのか』

『早すぎておっぱいが見えねぇよ!クソッ!』

『童貞巨人がまたキョドってて草』

『童貞にバニーガールは刺激強すぎるわなwww』

『それはキョドってもしょうがないな!』

 

 

 そんな気楽なコメントができるほどに、カオルの戦いは一方的だった。

 土石流のごとく押し寄せていたモンスターが、いまやカオルから逃げようと右往左往している。

 しかし上層へと逃げようとするモンスターをカオルは決して逃さない。

 

 

「オラッ!」

 

 

 上層に向かって走り出したモンスターがマチェットで真っ二つに。

 その亡骸を素早く拾い上げ、カオルは高く掲げた。

 

 

「いいかお前ら! さっさと下層に帰らねぇとお前らみんなこうしてやるからなッ!」

 

 

 勇ましく吠えるカオルに、リスナーたちも大いに沸く。

 

 

『敵将の首獲ったサムライかよwwwww』

『血の気の多いバニーちゃんだなぁ(棒)』

『ヤバい、変な性癖開花しそう』

『勇ましいバニー素敵…抱いて!!!』

『( ゜∀゜)o彡°おっぱい!おっぱい!』

『こんなバニーちゃんに殺されるならモンスターも本望だろwww』

『おっぱいチャン‼️ボクのエクスカリバーとも一戦交えてもらえませんか‼️』

『その粗末なバターナイフしまいな』

 

 

 カオルの言葉がモンスターに通じたかは謎だ。

 しかし少なくともモンスターたちに恐怖を抱かせることには成功したらしい。

 よって、モンスターたちは押し合うようにして自ら下層へと戻っていく。

 

 

『えっ、モンスターたち本当に逃げてく!!?』

『モンスターおうちに帰ってて草』

『J( 'ー`)し 早く帰らないとおっぱいチャンが出るよ!』

『モンスター下層へお帰り!ここはお前の住む世界じゃないのよ!』

『その者 バニーの衣をまといて ダンジョンに降り立つべし』

『ナウシカで草』

『こんな殺戮のナウシカがいてたまるかwwwwww』

 

 

 リスナーたちは早くも快勝モードで各々軽口を叩いている。

 が、戦いはまだ終わっていなかった。

 

 下層モンスターを呼び寄せたのは、単なる時間稼ぎに過ぎない。

 人間を“改造”するのは少々時間がかかる。

 その役目を、下層モンスターたちは十分に担ってくれた。

 

 ミチ……ミチ……ミチミチミチ。

 

 バクダンマの体にエネルギーが満ち、その筋肉が不自然に肥大化していく。

 下層モンスターとカオルの戦いを十分に観察・解析できた。

 カオルの攻撃速度と威力、マチェットを振り下ろす時のフォーム、心拍数に呼吸数。仮面はそのデータをもとに計算し、こう結論づける。

 カオルの戦闘力は確かに素晴らしい。

 しかし――もう見切った、と。

 

 

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