底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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6話 池袋での決意

「昨日の見た? ライカの配信」

 

「見た見た! 変態仮面ボコられたやつでしょ」

 

「おっぱいチャン配信すんのかな」

 

「あ、今日やるって告知ポストあったよ」

 

「マジかよ。みんなで配信見ようぜ!」

 

 

 ううっ、家にいたらエゴサばっかりしちゃうから早めに外へ出たのに、どこもかしこも俺の話ばかり……。

 スマホ片手に大騒ぎしている若者たちから距離を取り、俺は意味もなくコソコソとしながら電車に乗り込む。

 向かう先は池袋。

 ダンジョンは世界各地にあるが、中でも東京はダンジョンの聖地とも呼ばれる。こんなに多種多様なダンジョンが乱立している都市は世界的に見ても珍しいらしい。

 池袋ダンジョンは昨日配信した新宿ダンジョンに並ぶ大型ダンジョンである。

 上層は人が多いものの、中層以下の難易度は高いく、人も少ないから騒ぎにならず配信ができるはずだ。

 が、配信場所を池袋ダンジョンにしたのはそれだけが理由じゃない。

 電車を降りてまず向かったのは駅前の大型家電量販店。

 目当てはARコンタクトである。

 

 

「ええっと……どれがいいんだ……」

 

 

 売り場の前で右往左往。

 いろいろ選べた方が良いだろうということで大型家電量販店が軒を連ねる池袋にまで来たものの、これほどたくさん選択肢があるとかえって決めきれない。

 クソ、急なことだったから全然下調べができていない。一体どれがいいんだ。

 

 

「うーん、どれがどう違うんだ? ええと、クリアな視界……こっちはドライアイ用……ううむ」

 

 

 ARコンタクトとスマホを同期して目に装着すればリスナーからのコメントを視界に映すことができる。いちいちスマホを見ずともコメントに反応できるというわけだ。

 配信者であれば当然持っているような装備品なのだが……俺の配信にはめったにコメントつかないから……

 いやいや、落ち着け。これから配信をやるってのにネガティブになってどうする!

 

 ここからが正念場なのだ。

 ヒカリが言っていたとおり、ネット民たちは飽きるのが早い。

 いくらバズったとはいえ、バズなんてネットの中では日々起きているからな。

 ここで無様な配信をすればあっという間に電子の海の藻屑となってもう二度と這い上がれない……。

 ううっ、緊張する……いっそ逃げてしまいたい……。

 い、いやいや落ち着け。ヒカリだって応援してくれている……んだよな? そう、多分、応援してくれている。

 ああ、でもリスナーにフルボッコにされたらどうしよう……なんか俺の配信評判悪いっぽいし……なんで俺、こんなことしてるんだっけ……

 

 

「――――あっ」

 

 

 顔を上げたその瞬間、俺は彼女に目を奪われた。

 彼女とはいっても単なる写真だが。ARコンタクトの広告だ。宝条ライカがこちらに向かって無邪気に微笑んでいる。

 彼女の配信を初めて見たときは衝撃だった。

 俺と同じ年齢、俺よりもずっと小さな体躯で巨大なモンスターと華麗に渡り合う。こんなにも誰かに夢中になったのは初めてだった。

 ただアイドルみたいに崇拝の対象にしていれば良いものを、俺は生意気にもライカに並びたいと思ってしまったんだ。

 1年間もずっと底辺配信者だったけれど、いまでもその願いは変わっていない。

 まぁ、いざ目の前にしたらテンパって逃げちゃったんだけど……。

 

 

「……よし」

 

 

 俺は背筋を伸ばした。

 大丈夫。なにを恐れることがあるだろう。俺はいつも通り、俺の配信をやるだけだ。

 さっさとコンタクトを買ってダンジョンへ向かおう。

 もう適当でいいか。俺は目の前のコンタクトの箱を手に取る。ライカが広告塔を務めているものだった。

 

 

「ああそれ。宝条ライカも使ってるモデルなんですよ」

 

 

 販売員だろう。派手な色のベストを着た男性が俺に話しかけてきた。

 俺があんまり長いこと悩んでいるから声をかけてくれたのだろう。

 

 

「ARコンタクトをお探しですか?」

 

「ええ、まぁ。でももうこれでいいかなって」

 

「いやいや。それぞれ機能も違うからちゃんと選んだ方が良いですよ。使用目的は? もしかしてダンジョン配信?」

 

「はい」

 

 

 素直に頷くと、男性はパッと顔を輝かせた。

 誰かに話したくて仕方がなかったとばかりにあの話題を振ってくる。

 

 

「昨日のライカの配信見ました? 凄かったですよねぇ、僕もうゾクゾクしちゃいました!」

 

「ああ、いつものことながらライカは可愛い――」

 

「そうじゃなくて、おっぱいチャンですよ!」

 

 

 うぐっ!?

 油断していただけにダメージがデカい。

 もちろん男性に悪気はなく、ただ喋りたかっただけなのだろうが……。

 おっぱいチャン。

 俺が巷でそう呼ばれているのはもちろん知っている。

 そして俺への注目の大部分が俺の胸部に注がれていることも。

 しかし当然、それは俺の意図するところではない。

 

 

「い、いやぁ、あの子カオルって名前らしいですね?」

 

 

 と、さりげなく修正を試みてみる。

 しかし。

 

 

「ああ、らしいですね。この際おっぱいチャンに名前変えたらいいのに。チャンネル名も"おっぱいチャンネル"にするとか」

 

「……底辺配信者の割になかなか戦闘センスがいいと思いませんか?」

 

「うんうん、本当にすごいおっぱいでした。変態仮面を殴るたびにバルンバルン揺れて」

 

「いや、あの……」

 

「もう本当に素晴らしいおっぱいですよね。この世のものとは思えません」

 

 

 コ、コイツ……おっぱいしか見てねぇ!

 俺は咄嗟に文句を言おうとして――しかしその言葉を飲み込んだ。

 そうなのだ。否定をしても仕方がない。認めよう。これが世間一般の意見。

 今のところネット上で俺は配信が下手すぎるイロモノおっぱい配信者と見なされている。

 ほかにも新人グラドルを売り出すためのやらせだの、偽造動画を流しているだの、エロ衣装でダンジョンをうろつくのが趣味の痴女だの、散々好き放題言われている状態だ。

 ふざけんな! 好きで痴女ってるわけじゃねぇ!

 俺がやりたいのは戦闘で魅せる硬派なダンジョン配信なんだよ!

 

 とはいえ、いくらおっぱいではなく戦闘を見てくれと叫んでも誰も従うわけない。どこを見るかは視聴者に委ねられているのだから。

 よって、俺は目を奪うしかない。あの日ライカにそうされたように。

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

 背中に男性の声を受けながら俺は店を後にした。

 いろいろ説明を聞いたが、結局購入したのは最初に手にしたライカが広告をしているモデル。

 もうおっぱいチャンだなんて呼ばせない。

 今日の配信で分からせてやる。

 俺は憧れのライカのように華麗な戦闘でリスナーを魅了する配信者だということを!

 

 ――という俺の決意は、数時間後にあえなく打ち砕かれることになる。

 

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