底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜   作:夏川優希

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9話 おっぱいばっかり見るな!

 

 ダンジョンというのはいくつものフロアで構成されたミルフィーユのような形をしている。

 それらは上層、中層、下層と大きく3つのエリアに分類され、出現するモンスターの強さなどが大きく異なってくる。

 それらの層を隔てているのがボス部屋だ。

 門番のごとく中で待ち受けるボスモンスターを倒さないと下の層に行けない仕組みになっている。

 俺が踏み入ろうとしているのは中層最後のフロア――つまり下層へと続く階段を守っているボス部屋なのだが。

 

 

『あああ、貴重なおっぱいがぁ』

『頼むから無茶なことするなって!』

『放送事故待ったなし』

『グロ動画なんか見たくないよ…』

『お散歩&雑談配信じゃなかったのかよ!』

 

 

 俺を制止するコメントが視界いっぱいに流れていく。

 誰も彼も、俺がダンジョンボスに負けると確信しているみたいな口振りだ。

 まぁ確かに中層階最後のボスをソロで倒せる探索者はそう多くない。リスナーが心配するのも無理からぬこと。俺はまだイロモノおっぱい配信者と見られているしな……。

 しかし、だからこそここで中層ボスのソロ討伐を達成できればリスナーたちも俺の実力を認めるはず。

 俺はマチェットを構え直した。

 

 

「それじゃ、いきます!」

 

 

 分厚い銀の扉に手を当てて体重を乗せる。

 表面の文様に光が走るようなエフェクトがかかり、扉が耳を塞ぎたくなるような金属音を立てて開いた。

 瞬間、生ぬるい風が俺の髪を撫でる。

 

 

「グオオオォォォォッ!」

 

 

 ギリシャの神殿を思わせる柱に支えられた白亜の空間。その真ん中で咆哮を上げるのが池袋ダンジョン中層のボスモンスターである。

 それは巨人だった。

 身の丈数十メートルはあろうかという筋骨隆々の巨人。手に持った大木のようなこん棒が武器である。

 が、このモンスターの特徴はそれだけじゃない。

 目だ。顔に6個。首にはネックレスのようにぐるりと10個。そして……身体には大小様々な目がなんの規則性もなく大量に。

 

 百々目鬼(どどめき)と呼ばれている。

 

 その醜悪さは折り紙付きであり、あるトップ探索者が百々目鬼の姿を見て卒倒したのは有名な話である。

 しかし恐ろしいのは集合体恐怖症泣かせの見た目だけではない。

 文字通り背中にも足の裏にも目がついている百々目鬼に死角はない。隙をつくのは至難の業。かといって真正面からやり合うには体格差がありすぎる。

 

 

『ぎゃあああああああ!!』

『出たああああああああああああああ』

『何度見てもエグい見た目だな…』

『見た目だけじゃないぞエグいのは』

『百々目鬼ってソロでどうやって倒すん?』

『普通は魔法で目をくらますか、見えてても反応できないくらい大勢で囲んで殴るとかだけど』

『まぁ魔法使えるならワンチャン……』

『おっぱいチャンって魔法は使えるの?』

 

 

()()()は、」

 

 

 俺は己の名前を強調した。

 おっぱいチャンと呼ぶなとまでは言わないが、それを公式名称として認めるようなマネはしたくなかった。

 

 

「魔法は使えないので、マチェット1本でいきまーす!」

 

 

 ポップさを演出して場を和ませるために、笑顔でマチェットを振り上げる。

 が、結論から言うと逆効果だった。

 

 

『は!?』

『待て待て待て待て待て待て待て』

『え?魔法装備?じゃないよね?普通のマチェット?』

『正気か?』

『怖い怖い怖い怖い』

『手の込んだ自殺』

『っていうかカメラ見なくていいからモンスター見て!』

 

 

 あれ、ヤバいな。結構みんな引いてる。

 このままだと同接が減りそうだ……ここはサクッとテンポよく明るくポップに――

 なんて考えていた矢先。

 大きな影が辺りに落ち、一瞬遅れてこん棒が降ってきた。

 

 

『あ』

『え?』

『死』

『ほらあああああああああああああ』

『南無……』

『RIP』

 

 

 視界に流れるコメントが完全お通夜モードに入っている。

 俺は慌てて声を上げた。

 

 

「死んでません! カメラ、こっち!」

 

 

 天井ギリギリから俯瞰で戦闘の様子を撮っていたドローンカメラが急降下。俺はそのレンズに向かって微笑みかけた。

 こん棒の攻撃はマチェットでしっかり受け止めている。もちろん俺は無傷だ。

 こん棒をマチェットで弾き、素早く百々目鬼から距離を取る。

 

 

『良かった……潰されたかと思ったぞ……』

『こん棒の陰になって見えなかったのか』

『ん?てか百々目鬼の攻撃を受け止めたの?そんなことできる?』

『防御力に秀でたタンクタイプってことか?』

『っぽくないけどな』

『そうじゃなきゃ説明がつかない……よな?』

 

 

 まぁそのように思うのもムリからぬこと。

 でも違う。

 俺は別に防御力に特化しているわけではない。

 ただ単に――

 

 

「見てろリスナー! 俺は強い!」

 

 

 ダンジョンというのは人間に不思議な力を授けてくれる。

 外では到底できないような、常識を越えた動きができる。

 物理的に不可能な動きでさえ、この体なら可能性となる。

 地面を蹴り、高く高く跳躍。

 ダンジョンの壁を足場にし、さらに跳躍。

 着地先は、百々目鬼の巨木のような腕。

 体は羽のように軽い。ギョロギョロと動く目玉を足蹴にし、風のごとくいっきに駆け上がる。

 

 

『は!?』

『なにこれ』

『俺は一体なにを見ているんだ?』

『こんなの見たことねぇぞ』

『マジかよ』

 

 

 ふふ……そうだろうそうだろう。俺は駆け上がりながらも内心でほくそ笑んだ。

 この体には素晴らしい力がある。自分の身の丈よりも大きなバケモノを圧倒する力が。

 ようやくだ。ようやく俺の力が日の目を見て――

 いや、待て。

 俺はそこでようやく気が付いた。

 眼前を流れるコメントに妙なものが混じっていることに。

 

 

『おっぱい!』

『おっぱいぶるんぶるんで草』

『おっぱい凄すぎwwwwww』

『OPI!』

『(゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!』

『おっぱいは地球を救う』

 

 

 俺は唖然とした。

 どうして。よりによってどうして今おっぱいなんだ?

 確かに揺れている。走ったり跳ねたりしてるんだ、揺れるのなんか当然のこと。それが人の目を引くのもまぁ、理解はできる。

 でもいまは違うだろ! おかしいだろ! ここは俺の戦いを褒め称える場面だろ! 一体どうしちゃったんだよ、おかしくなったのかリスナー!?

 そんな疑問に答えるかのように、俺の目の前をコメントが通り過ぎていった。

 

 

『百々目鬼がおっぱいに動揺してて草』

 

 

 ……百々目鬼がおっぱいに……なに?

 意味が分からず、俺は百々目鬼の腕を駆けながらふと足下に視線を落とした。

 意味が分かった。

 

 男性はどうしても大きなおっぱいに視線を向けてしまうもの。そして女性はその視線を敏感に感じ取るものなのだという。

 今回、俺はそれを痛感した。

 

 

「なっ……」

 

 

 思わず声を漏らす。

 完全に見ていた。

 百々目鬼の腕に生えた無数の目が、すべて俺のおっぱいに釘付けだった。誇張じゃない。腕に生えた目のすべてが。

 いや――腕だけじゃない。

 ヤツの体中の目、すべてが俺のおっぱいに向いていた。

 しかし俺の視線に気が付いたのだろう。ばつが悪そうに目を逸らす。一斉に、あらぬ方向に。

 そしてさらに気が付いた。

 百々目鬼の動きがぎこちないことに。

 だからこそ、俺は百々目鬼に振り落とされることなく腕を走れているということに。

 

 

『おっぱいTUEEEE!』

『魔物もおっぱい見るの!?』

『百々目鬼あわあわで草』

『硬直してるwwwwwww』

『百々目鬼…オマエさては童貞だな?』

『このおっぱいならしゃあない』

 

 

「違うだろ……」

 

 

 俺は呟いた。

 分かっている。配信中に汚い言葉を使うべきじゃない。

 それでも、俺は我慢できなかった。

 

 

「おっぱいばっか見てんじゃねぇ!!」

 

 

 俺は百々目鬼の肩にまで駆け上がり、そしてまた跳躍した。

 全体重をマチェットに乗せて振り下ろす。

 ザンッ――――

 確かな手応えと共に、百々目鬼の首が宙を舞った。

 胴体と離れてなお、その目は俺の胸に注がれていた。ドチャリと湿っぽい音を立てて地面に落ちるその瞬間まで。

 

 

***

 

 

「……ハイ、じゃあ中層ボスも無事撃破ということで……今日はこんな感じで配信を終えたいと思います……お疲れ様でした……」

 

 

『乙パイ!』

『乙パイでした』

『パイならノシ』

『パイパイ~』

 

 

 また作った覚えのない挨拶が量産されている……。

 俺は配信停止ボタンを今度こそしっかり押し、ちゃんと配信が止まっているのを確認して――

 

 

「だはぁ~」

 

 

 と声を上げてしゃがみ込んだ。

 反響は凄かった。同接もコメントも、凄い数だった。今までと同じやり方だったら決してこんなに注目を浴びることはできなかっただろう。配信としてはこれ以上ないほどの大成功だ。

 でも……でも違うんだ! 俺がやりたいのはこういうんじゃないんだ!

 もっとスタイリッシュでかっこいい配信者をやりたい! 戦闘センスを褒められたい! おっぱいばっかり注目されたくない!

 しかしこのままでは。

 

 

「……はぁ、どうしたらいいんだ。いっそまたボディカメラに戻すか?」

 

 

 とはいえ、そんなことをしたら同接が減るのは目に見えている。

 一体どうすれば。

 頭の中で堂々巡りをしていた、そんなときだった。

 

 

「……ん?」

 

 

 スマホの画面に視線を落とす。

 通知が来ていた。どうやらトイッターにDMが届いているらしい。

 どうせまたエロDMだとばかり思ったが――違った。

 

 

「えっ」

 

 

 俺はスマホを握りしめたまま固まった。

 憧れの人からDMをもらったら、誰だってそうなるだろう。しかもこの内容。

 嘘じゃないよな? 夢じゃないよな?

 俺はベタに頬をつねってみるが、どうやら現実のようだった。

 

 送信者は宝条ライカ。内容は――

 

 

『わたしとコラボ配信やりませんか?』

 

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