実のところルルリアもシンバの痛がり方が普通ではない事に気づいてはいた。
だがそこはそれ、持ち前の素直じゃない性格が災いして謝れず、シンバもシンバで納得のいかないこの状況でルルに負けてあげる事は出来なかった。
双方無言のまま数分が過ぎ、ルルは脱いだフィアラルスーツのビキニを拾い上げて丸めてワンピースの内側に突っ込むとドアに向かった。
そしてチラとシンバに視線を投げ、そのまま廊下にでてドアを閉めてしまった。
シンバはまだ腹部に痛みが残っていたし、それと同じくらいルルの乱暴に対しての怒りも残っていた。
「結構良い雰囲気だと思ったのに、な」
そんな独り言がぽろりとベッドにこぼれ落ちた。
先程までルルが座っていたところは彼女の温もりが残っているような気がして、無意識にその部分に触れた掌を介して彼のペニスに血流が流れたが、ぶり返す痛みがあり、彼自身は勢いを潜めた。
彼が浅いため息を吐き出した時、かちゃりと音をたててドアが細く開いた。
ちらりと銀髪がのぞき、ついで小さな小さな声で彼女は言う。
「ごめん」
返事を待たずに再度ぱたんと閉じられたドアに駆け寄り大きく開くも既にルルの姿はなく、シンバは少し考えた。
そして出しっぱなしのナニをズボンに押し込みチャックを上げると寮の出口へと走った。
まだ少しお腹が痛い。
神経の集まった部分を攻撃された痛みはまだ残っている。
それに対する文句も残っている。
でも、自分はアイツを守っていくと決めた。
その気持ちに嘘偽りは無いし、後悔も無い。
だから、自分の過去がアイツを泣かせるなら、それは自分が取り返さなければならない失点だと思う。
きっと、ゆっくりきちんと話せばアイツも、ルルリアもわかってくれるはずだ。
革底のブーツが立てるゴツゴツという響きがやけに大きく聞こえ、それがシンバに自らのオス臭さを再認識させた。
きっと、アイツは初めてのことで不安があったはずだ。
ああいうヤツだからそれを必死に押し殺していたはず。
「…俺はいつも後になって気づくんだよな。」
ボソッとつぶやいたにもかかわらず、自分のセリフはシンバを痛烈に責めた。
寮出口の観音扉が近づき、夜と言うにはちょっと早い仄明かりが差し込むエントランス。そこからいそいで走り出るシンバの背中にこれから彼が探しに行こうとしていた本人から声がかかった。
「よぅ兄ちゃん。どこ行くの?」
随分と年季の入った寮宿舎の壁に寄りかかり、ルルは少し緊張した面持ちながらそうシンバを呼び止めた。
シンバは自分を追ってきてくれはしたが、もしかしたら怒っているかもしれない。
きっとさっきの自分はマナー違反というか、結構ヒドイ事をしてしまったのではないかという意識は承知している。
だから彼が怒るのも無理はないはず。
だからさっき、謝ったのだ。
立ち止まってこちらに近づいてくるシンバをちゃんと見つめ、ルルリアは彼の反応を伺った。
「あのなルル。お前は知らないようだから教えておくけど。アレは叩いたり殴ったりデコピンしちゃいけないモノなんだからな。覚えてくれよ?今後のこともあるから。以上!」
今後、という部分を強調してシンバは言葉を終えた。
『なるほど、今日はもういいけどそのうちまたエッチしようってことか。』
ルルリアはまた彼の優しさに甘えている自分に気づく。
シンバはきっとこうやって許してくれるという確信めいたものがあったからここで待っていたのだろう。
でも、それはきっと彼も同じ。
さっき顔に出された時の焦り具合は私の気持ちを理解できていないからこそのことだろう。
『こうやって少しずつ探りながらお互いを知っていくんだろうな』
普段以上に素直な気持ちで理解したルルリアはぺこりと頭を下げた。
「はーい、気をつけます」
「うん、俺もお前のイヤがることしないようにするから、な?」
「別に顔にかけられたのヤじゃなかったよ?」
「え?そうなの?」
「うん」
「そうなのか…そうだったのか」
「…なんだよ、次はどんな事するつもりなんだよエロシンバ」
「エロってお前、人聞き悪いなぁ」
「エロいじゃんか。あたしのおっぱいすんごいモミモミしてたじゃん」
「おま、声がデカいよ」
「ふーん、だ♪」
お互いに晒した肌の分だけ近づいた距離。
それはまだ少しだけぎこちなさの残る距離。
だけど昨日よりは縮まっている、そんな感じ。
シンバもルルリアも、伸ばせば手が届く、触れ合える距離。
ルルはちょっと勇気を出して右手を伸ばしてシンバの指先に触れた。
彼はちょっとだけ驚くものの直ぐに微笑み自分から手を繋いでくれた。
『そんな優しいあなたが、結構好きです』
ルルはそんな言葉を口に出せないもどかしさを楽しみつつ苦しみながら彼の隣を歩く。
シンバもそんなルルのぬくもりを掌で感じながら幸せを感じていた。
【鋼鉄のリューシェ】の女子寮は男子寮から二ブロック先。
恋人が手を繋いで相手を感じる時間としてはやや短い。
だからか女子寮の門が見えるとどちらともなく立ち止まり、なんとなく別れを惜しんだ。
ここ数日色々あったが、全体的にルルリアのペースなのは間違い無い。
今日だって別にエッチするつもり無かったのにルル、脱ぎ始めるし。
「なんだよ、嬉しくなかったの?」
「いや大歓迎」
「ばーか♪」
そんな会話に含まれる糖分がお互いを甘く染め上げる。
それは決して不快なものではなく、どちらかといえば楽しくて、嬉しくて。
「なんか、お前今日俺の部屋に泊まる?」
「じゃ、また明日ね。バイバイ」
「っておい」
「フヒヒ」
そんな頭の悪いセリフの後にルルは背伸びをして、シンバはちょっと屈んで。
ささやかな口づけをチョンチョンと二度交わして身体を離した。
都合よく人通りのない路上で交わした愛の確認に照れながらお互いにかけた「おやすみ」の一言の温かさ。
それはひとりになって部屋のドアを閉じた後も続く心地よさをルルに与え、彼女はいつになく穏やかな気持ちでベッドに倒れ込んだ。
ワンピースの化繊生地がうつ伏せになったルルの胸を刺激する。
「そういやノーブラだったっけ」
誰に言い訳するわけでもないがちょっとテレ隠しに舌をペロリと出し、起き上がって部屋着に着替えようとワンピースを脱ぐ。
と、彼女は襟元のボタンにかけた指を止めおもむろにその手のひらのニオイを嗅いだ。
ちっこい鼻をひくひくさせそのニオイを確認する。
「ふーむ、コウバシイ……これなんて表現する?なんか、ショウグンギザミの、潮……臭い?」
「そうか、シンバのちんちんはギザミのニオイか」としょうもない独り言をつぶやきながら石鹸で手を洗うルルリアであった。
ルルリアが鼻歌混じりに着替えを抱えて浴場に向かった頃、シンバはというと。
ルルの残した生焼け肉の胡椒まみれというポンコツ手料理を前に食うか食わざるか長考しているのだった。
「食わなかったってバレると今度はタマ潰されそうだもんなぁ…」
嘘のつけない難儀なシンバくんであった。
スケベ終わり