「アンタね、一目でわかっちゃうわよコレが何なんだか」
「コレって、そんなに変なの?」
いや、そこを素で返すルルリアも常識知らないというか、抜けているというか…。
自らの乳やヘソ周りや首筋に多量の痣…夢のある言い方をすればキスマークを晒しながらルルはそれを特別意識してはいなかった。
「いや、変じゃないわよ…でもコレっていわゆる『そういうことしました』って証拠だかんね?そんな無防備さで大丈夫か?あんたら」
「大丈夫だ、問題ない」
「あんたねぇ…」
はぁ、と大げさにため息をつくデイジー。
確かに自分だけが空回りしただかもしれない。
ヴァンに付けられたキスマークをパパガイに見咎められた時の居心地の悪さは記憶に新しく、ルルの肌に『ソレ』を見つけた時にその記憶がフラッシュバックしてディズを突き動かしたのだろうか。
確かに、愛情を乗せたその痣は二人にとって愛の証であり、ある意味勲章ともいえる位誇らしいものなのは解る。
でもソレはあくまでも二人だけの間で通じる理屈だ。
周囲の視線は好奇や憶測、邪推を孕んだものでしかない。
そんなの、悔しいじゃないか。
「うん、でも、まぁ…ディズの言いたい事も、わかる」
「ルル?」
「経験してみてわかったけど、やっぱしエッチはおおっぴらにするものじゃないよね」
「…あ、あたりまえじゃない」
いまさらながら、ではあるが。
ルルはシンバと、そういうこと…つまり『エッチ』をしたと認めた発言。
「やっぱ二人だけのヒミツにしときたいよね」
うんうん、と腕組みしながらやたらと頷くルルリアを見て、デイジーは軽いめまいを覚えるのだった。
ともあれ、曰くありげな四人組は久しぶりに顔を合せ、ルルとシンバの行為については暗黙を持って沈黙を貫き、朝食を再開した。
「で、あんたたちの謹慎は解けたわけだ」
「んだ」
デイジーの言葉に頷きながらパンを飲み込んだルルリアがテーブル中央のピクルスの皿を引き寄せる。
新しいパン切れにニンジンやらキュウリやらの酢漬けを乗せ、バリバリと豪快な音を立てながら食事を続けるルル。
こういうところは相変わらず女の子らしくない。
まぁ、ダイエット云々言わない健啖さなのは良いが、もうちっとばっかり粛々としてくれてもいいと思う。
その隣でシンバがルルの引き寄せたピクルス皿から玉葱だけを選んで自分の皿に取り分けていた。
「なに、シンバって玉葱好きなんだ」
その大人げない行為を目ざとく見咎めた銀髪がつっこむ。
「ん、ああ、そうだな。酢漬け玉葱は好きだな」
一緒に漬かってる大根は苦手なんだけどな、と続けたシンバを数秒じっと見続けた後、この小柄な少女は唐突に、いやさルルにとっちゃ唐突でもなんでもない行動なのだが。
「ん。いっぱい食べてよね」
だん、とシンバの前に置いた皿にはてんこ盛りなオニオンピクルス。
自分たちが陣取っているテーブルと、その隣のテーブルと、そのまた隣のテーブル、ついでにその隣の隣のテーブルの漬物皿から玉葱だけをより分け掠めさらってきた物である。
「あ、えっと…。あ、りがと、ルル」
彼女に対して礼を口走りながら周囲の視線を気にするシンバ君。
まぁ、その嬉しそうなルルリアの表情とまっこと対照的に突き刺さる白けた視線の数々ったらもう…。
「…まぁ、なんだ」
「うん、ルルだからね…」
スープにパンを浸しながらヴァンがニヤリとし、玉葱のすっかり無くなったピクルスからセロリだけを抜き出しながらディズが鼻をならした。
◆
「これがいい!」
今日も山ほど貼られた狩猟依頼掲示板。
その前は多くのハンターたちで賑わい、ごった返す。
特に時間が自由になる午前中は顕著で、狩猟に時間がとられがちな大型モンスターや難度の高い依頼に受注が殺到する。
そんな中、ルルの当たり前の暴挙のせいで針のむしろな朝食を終えた仲良し四人組はまたまたそのくせっ毛銀髪のたっての希望で特殊依頼掲示板の前に来ていた。
一週間やそこらでブランクもあったものでは無いルルリアは無性に大物を相手にしたかった。
別にシンバとのことで浮ついているわけでもないのだが、今ものすごく気分が高揚していた。
自分にとって当たり前の狩猟生活が、ハンターライフというものがいかに大切なモノであったのか、この一週間の狩猟禁止命令で強く感じたルルリアであった。
そして彼女は例のランス、マテンロウを背負った気合も十分の装備で盤面から一枚の依頼を引っこ抜く。
「いいんじゃないか?」
引き抜いた勢いのまま真っ先に依頼書を突きつけられたシンバは内容にざっと目を通すと頷きつつソレをヴァンに手渡した。
「…なんだよ大剣禁止かよ。俺はランスガンス得意じゃないんだがなぁ…」
「えぇーっ!?…私初めてだよエスピナスなんて!」
シンバとは違い、ルルの選択にぶつくさ言うヴァンとディズ。
ヴァリオンはランス及びガンランス、ハンマー及び弓以外使用不可という、大剣アェスレーゼンを帯剣出来ないという条件に、デイジーは未だにリオレウスの狩猟に行くのもビビッているというのにエスピナスに連れて行かれそうな状況ゆえに、とそれぞれがあまり乗り気ではない。
「やだよ、わたしこないだやっとフルフル狩猟したばっかだよ?無理に決まってるじゃない!」
新たなスリルを喜びとするハンターが多い中で、このようにのたまうデイジーは珍しいほうだろう。
だが彼女の言い分も最もかもしれない。
誰でも心の準備や知識や経験の蓄積というものは必要であろう。
が。
「なぁに言ってンだか。パパが昔モンハンで、しかも自分も武器職人の端くれだって豪語してる方の言葉とは思えませんナァ」
あふぅ、と馬鹿にしたため息をつきながらダメだこりゃポーズのルルの言葉にデイジーがカチンとくる。
「あんただって初見は怖いでしょうが!」
語尾を荒げたデイジーに対し、ルルは余裕だ。
「いや、ディズ。コイツはそんな真っ当な神経を持ってないんだ、残念ながら」
自分を擁護してくれたヴァリオンの台詞にルルリアが勝ち誇ったように胸を張る。
「怖いもの知らずというか、常識はずれというか…とりあえず突っ込む事しか知らんのだ。コイツは」
諦めたようにしょぼくれた口調で自分の残念な性格を暴露されたルルリアは張った胸を戻し、犬歯をむき出しながら兄貴の脛を蹴り上げる。
そのルルの行動を皮切りに、いつものガチャガチャした言い合いを始めたルルとディズをなだめるシンバとヴァン。
ある意味、クエスト受注掲示板の前の風物詩みたいに思われているルルとディズの口げんかである。
遠巻きに見ているその他大勢のハンター達は二人の剣幕にヒキまくって掲示板に近づけず、もう一回り遠巻きに見ているギルドガール達は二人が発する聞くに耐えない明け透けな暴言をくすくすと笑いをかみ殺し、それら周囲の視線が気になって仕方が無い彼氏二人は肩身が狭くてコソコソと小さくなっていくのだった。
「まぁまぁ、デイジー殿。そんなに怖がらなくても大丈夫じゃて」
つかみ合いに発展しそうな勢いの二人をヴァンとシンバが引き剥がしたときにのんびりと時代がかった言い方で一人のギルドガールが近づいてきた。