白を基調としたギルド指定の制服に身を包み、ガイドの証であるフードから突き出た長い二本のブロンドの尻尾が目を引く娘。
クエスト受注カウンターの中で明るい仕草が目立つ彼女はヒルデという名前のスレンダーな美少女。
余談だが、彼女のロングツインテールがその頭巾を押し上げた部分が『ネコミミ』に見えることから一部の『濃い趣味』のハンター達から絶大な支持を得ていたりする。
ところが実は関心がコロコロ変わり昨日と今日で好みが違うという多分AB型じゃないのこの子という若干扱いづらい部分もある。
そんなヒルデ嬢が最近ハマッている時代劇をリスペクトしまくった口調でルル達に声をかけてきた。
「おぅ、ヒルデ。なんか用か?…すまんがこれこの通りちっとばかりイテェッ!!!」
よせばいいのに、シンバの女難スキル発動。
ヒルデはデイジーに声をかけた、が当のディズはルルのほっぺたを引っ張るのに夢中。
ならしかたがない、と代わって返答したシンバは気を利かせたつもりである。
が。
その親しげな答弁にイライラを逆撫でされたルルリアに肘鉄を喰らうハメになってしまった。
「なんでそんなにヒルデと親しげなんだよ、シンバ。あぁ?」
さっきまで引っ掻きあっていたデイジーのことなど既に忘れ、カレシに詰め寄るルルリアさん。
「あ、いや…そんなつもりは全く、無い、ぞ?」
小柄なルルの放つジェラシーな剣幕に押され、掲示板の端っこの方に押しやられてゆくシンバ。
そんな二人をじっと見ていたヒルデがデイジーとヴァリオンに向き直る。
「…あの二人がデキたってウワサはホントだったんだ?」
「まぁね。見ての通り、ルルが完全に勝ってるけど」
「というか、あいつあんなに嫉妬深かったんだな。知らなかった」
それなりに驚きを隠せないヴァンにヒルデはニヤリと唇をつりあげる。
「おなごはみな同じじゃて。お主もせいぜい、気をつけることじゃの」
ケタケタと笑うヒルデと仏頂面なデイジーを交互に見て、ヴァンは無言で頭をガリガリと掻いた。
「で、何よヒルデ。誰がビビってるって?」
ルルとのケンカの余韻が冷めないディズがヒルデにも噛み付こうとする。
しかしそれをさらっとかわした彼女がデイジーに一枚の紙切れを差し出す。
『エクエスシリーズモニターチケット』
「今度ね、ギルドがハンターさんたちの標準装備になるようにって新しく開発した防具なんだ」
そういいながらヒルデがポケットからパンフレットを引っ張り出し、デイジーに女性用装備を、ヴァリオンには男性用装備の写真をそれぞれ渡す。
そのエクエスという防具、ベースになる厚手の布にはギルドの紋章が刺繍され、その周囲になにやら魔術チックな文様がしたためられて属性強化されているようだ。
もちろんその文字だけではなく、肩口や胸部、腰周りなど要所を打ち鍛えられた金属で補強されていて防御力は高そう。
腰飾りや直垂はアウターのベースと同じ布製だがそのエッジはいかにもギルドが受注しそうな豪華な装飾で飾られていた。
レガースやガントレットはオールメタルで重厚ながらも光り輝き、その頑強さは申し分無さそうではある。
ヘルムは件の布で拵えてあるようだが、それもまた部分々々強化されているのだろう、それよりはハンター達の激しい動きに柔軟に追従してくれそうなイメージがあり逆に好感が持てた。
◆
「ちょっと、この布ってもしかして…」
ハンターズギルドの施設にあるレンタルブースの更衣室内。
下着姿で例の『エクエス』なる防具に相対したディズであるがその表情はなんとも微妙なものだった。
いや、この『エクエス』に不満があるわけじゃない。
ついさっきヒルデに聞かされた通り、かなり性能は良さそうだし着心地も良さそうだし。
「いや、でもさ…なんだってこんな高い布を…ちょい待ち、この糸、コレも」
「例のアレじゃん…」
と呟いた挙句にそのまま固まってしまうデイジー。
どうやら職人として『なんらかのビョーキ』が発症したようで「染め方に無駄が無い」とか「糸細ッ!ほそッ!」とか「合金の割合が知りたい…何が入ってんだろコレ」とブツブツ。
挙句の果てには脱衣カゴに投げ込んだ手荷物からルーペを引っ張り出してその防具をマジマジと調べ始めてしまった。
眉間にはその端整な顔に不似合いなしわを刻みその拡大鏡を覗き込む。
装備を照明にかざしたり舐めてみたりカジッてみたり分析に余念が無い。
その調査結果なのか感想なのかをまた細かい字でびっしりと手帳に書き込んでゆく…その姿は見上げた職人魂の表れかただの装備オタ…マニアか。
だが、更衣室の床にどっかとあぐらをかいて背を丸めて生地や装甲を凝視する彼女はブラとパンティのみのあられも無い姿。
ルルとはタイプの違う美乳を隠す幸せな布切れは彼女の若々しさを表すようなライムグリーン。
ワイヤーラインとカップ部分のモールドに細やかなレースをあしらい、女性というよりまだやや幼さを想像させる。
しかし、その鎖骨から乳房の谷間部分、いわばデコルテから見える素肌と胸当ての隙間からは『詰め物』がチラチラと顔を出すか出さないかと迷っている。
まぁ、身近にあんな『凶悪な乳』を装備しているヤツがいるのだからディズの気持ちも解らないでもないが…。
「うるさいな、コレは型崩れしないようにしてんの。別にボリュームアップしてるわけじゃないモン」
…左様ですか、そりゃ失礼しました。
まぁとにかく。
うら若い女性が自らのいでたちすら忘れ没頭する姿というのはなんともはや、諸兄の趣味思考によってはたまらないシチュエーションではあるがあまりにもマニアックなのもまた事実であろう。
「…おいディズ」
自らはとっくに着替え終わったヴァリオンが彼女がもぐりこんだ更衣ブースの前でため息混じりに呼びかける。
が、返答は無い。
「まぁ、予想はしてたが、な」
彼は次のため息で諦めの気配を色濃く混ぜつつ吐き出した。
デイジーの七大悪癖の一つである(そんなにあるんか)『未知の武具に対する好奇心』がものの見事に発動、その効果は少なくとも20ターンは続く(長いよ)。
だからヴァンはその『呪い』を強制解除する行動に出るのだった。
数秒後、更衣室のカーテンをフルオープンされて我に返ったデイジーの金切り声が広場まで届き、その後すぐに破裂音が炸裂、ヴァンの左ほっぺたに真っ赤な紅葉が貼り付けられた。
その音だけで何が起こったか把握したもう一組のバカップルの談。
「ディズはやっぱかわいいね」
「どこがさ」
問いかけたシンバに向き直るとルルはにべも無く言い放つ。
「あたしなら、グー」
そういって左手を握り締めるルルリア嬢。
ああ、そりゃ確かに…ビンタのほうがまだ『カワイイ』わな。
ぼそぼそと呟きながら自分の右頬をさり気なくガードしたシンバ君であった。
シンバの脳裏に、ルルの鉄拳を嬉しそうな表情で喰らっている自分の姿がよぎる。
上あごと下あごのジョイント部分にめりこむ様にえぐり込まれたコークスクリューを甘んじて受ける自分。
極上の笑顔をきらめかせながら、その左拳を完全に振りぬいたルルリアの嬉しそうな『あははは』という笑い声が周囲に広がってゆく。
それぞれの鼻の穴からそれぞれ一筋の、計二筋の鼻血を噴出しつつ口の端っこからはヨダレを撒き散らし、空中をサイコクラッシャりながら吹っ飛んだ挙句まるで乙女のように地面にくずおれた自分。
しかしその表情は恍惚とし、頬は朱にそまり、何かに目覚めてしまったかのように絶頂感をほとばしらせる。
いやいや、ないない。
…いや、ホント無いから。
無いって、うん。
「あン?どしたのシンバ」
紅い瞳が自分を見上げている。
その無垢と言えば聞こえは良い、なにも考えてないナチュラルな視線をトレースしたシンバ。
彼は自分をしこたま殴りつけてくれた脳内のルルリアに仕返しするかわりにと眼前のヤツのほっぺたに唇を押し付けた。