「んなッ!?」
急に身をかがめて目線が交錯したと思ったら、ヤツらしからぬ暴挙。
シンバのいきなりのほっぺキスにルルは固まる。
その一次接触はほんの短い一瞬の出来事とはいえ、油断しまくっていたルルのハートを事のほか高鳴らせるのには十分の威力。
しかも若干ドヤ顔で、ぴっと右目ウインクを寄越す彼はカッコよかった。
そんで放った台詞が
「仕返し」
何ソレ?
あたし彼に何した?
ヤツの頭の中のあたしがなんかやらかしたわけ?
ていうか今のシチュエーション、結構ツボなんですけどあたし的に。
普段以上に澄ました顔のシンバを見上げながらルルは口をぱくぱくさせ言葉が上手に出てこない模様。
とはいえそのちゅーされたほっぺはピンク色で上記の通りまんざらでもねぇってカンジで。
『ふむ、これはレアなリアクション、思わぬ収穫。さっそく脳内ルルリアフォルダにセーブ、と』
ルルとの仲が着実に深まっていることが自覚できているシンバはもはや遠慮しなくなっているようで。
今までやや臆病になっていた自分を解き放っちゃえたこの一週間で十分本来の変態っぷりを発揮出来る様になっていたりする。
(変態行為は書いていいの?ねえ、いいの?いやダメでも書くけど←)
いやさ当人同士はそれでいいかもしんないけれど。
そーいうのを見せ付けられる周囲の人の身にもなってみなさいよと。
うむうむ、と頷くシンバにヒルデとユニスがそれぞれ一刺し。
「…そういうのは他所でやってくんない?」
「ルルの身内はバカばっかね」
ええ、最近作者もそう思います。
『モンハン』って、ゲーム知ってますか?
どうやらこの話、その『モンハン』ってゲームをリスペクトしたいらしいですよ?←
◆
「ねぇ、ルル」
「やだって」
「いいじゃん、ちょっとだけ」
「だからやだってヴぁ!」
もう何度目だろうか。
デイジーがルルリアを追いかけては懇願している。
ルルは心底面倒くさそうに彼女をあしらうが、ディズは決して引こうとはしない。
彼女が何をそんなにしつこく食い下がっているのかというと。
ルルの着ている防具である。
デイジーとヴァリオンがギルドガールのヒルデから受け取ったレンタルチケットは前述した『エクエス』という白い鎧。
その聖なるオーラに職人魂(マニア魂)をいたく刺激されたデイジーお嬢様が我を忘れて危なく借り物の防具を犯しそうになったのはついさっき。
そしてあの時、ヒルデに色目を使ったシンバ(誤解だッ!:シンバ談)と相方の浮気で悲しみに沈んだルルリア(待て待て待てッ!:シンバ叫)の間に入ったのが、やはりギルドガールのユニスであった。
一風代わった趣味をもつユニス。
彼女を一言で表すなら『無口無表情無愛想』である。
とはいえギルドガールとしての仕事は有能にこなし、自ら(言葉少なくではあるが)主張する『溶岩竜ヴォルガノス』をイメージしたグレーのセミロングヘアが良く似合う、すらっとした少女である。
声の大きなギルドガールが多い中で、物静かで薄幸の美少女的な立ち位置を確立しているが実際はそうでもなく、気を許した人間の家に唐突に出向き、あまつさえ上がりこんで居座り、ヴォルガノスについてぽつぽつと語っていくという十分にクセの強い面があったりするのだ。
事実、ルルの部屋にも留守中に忍び込んで、帰宅したルルリアを驚かせたことがある。
そんな彼女が口数少なく差し出したのが『ストレガシリーズモニターチケット』であった。
エクエスより若干厚めの装甲板が縫い付けられ、布を飾る文様もまた『エクエス』とは違ったルーンが描き込まれているものだからディズ殿はまたぞろ病気が発動したという件。
「ちょっとだけ!ね、んじゃ上だけ!」
「ヤダよ!こんなとこで乳出せってのかよ!」
「いつも丸出しみたいなものじゃない」と続けるデイジーにいよいよ噛み付くルルリアである。
そんなルルも普段の格好よりずっとマシな装備をしているせいか、至極真っ当なモンスターハンターらしく見える。
ただ一点『ストレガヘルム』はヘルムとは名ばかりのメイドさんが付けるカチューシャみたいなのが乗っかっているのだが、そこのところはおそらくギルドの遊び心の一つだと思いたい。
当然『エクエス』の方もそんな感じだから、見様によっては白いメイドさんと黒いメイドさんがじゃれあっているカンジである。
…いや、どんなフェチだよ、ギルドの開発部よ。
一行は既に棘竜エスピナスのテリトリーである樹海の深部まで到達してる。
周辺部とは違い、鬱蒼としたジャングルは日中とは思えないほど陽の差し込まない別世界。
木陰からこちらを窺う小型鳥竜種のランポスの群れの視線が鋭く感じられ、油断すれば今すぐにでも連中の巣にお持ち帰りされてしまうだろう。
時たま仲間同士で情報交換しているのか、別々の場所から聞こえるヤツらのやり取りがやけに生々しく耳にまとわり付く。
間違いなく、ルルご一行は彼らの晩御飯候補に上がっているのだろう。
一匹なら大した脅威でもなんでもないランポスも自分達で個々の弱さを知っている。
時折、やたらと大仰なパーティを形成してハンター達に襲い掛かる。
ソレはまさに集団の恐怖。
鋭いクチバシと小さいが鋭利な爪で繰り出される多角的な攻撃は獲物が事切れるまで休むことなく繰り返され、彼らもまたこの世界の住人として侮れない存在であることを証明する。
あるとき連中が大型のイノシシ『ドスファンゴ』を集団で狩っている場面に出くわしたことがあるヴァリオンはその時の様子を克明に記憶していた。
ものの数分でドズファンゴは文字通り跡形も無くなり、それぞれのコロニー獲物を持ち帰るために素早く散って行くランポス達はまるで統率された軍隊のように彼の目に映ったという。
だからヴァンはどんな小型のモンスターでもナメてかかることはない。
それこそ彼が学んできた『モンスターハンター』としてのセンスであった。
なのに、まるで緊張感の無いルルとディズ。
いくら注意しようと基本的にルルリアはモンスターをナメてかかるし、いくら口を酸っぱくして危なさや恐怖を説明しようとデイジーはまだ経験が足らない。
ヴァリオンはパーティリーダーとして全く敬意を払って貰えない自分に嫌気がさして仕方が無い。
「ところで、ヴァン」
「あんだよ」
前を行くじゃれあう女ハンターの動向を注意しながら横からかけられた声にぶっきらぼうに反応する。
「…何怒ってるんだよ」
「うるせぇ」
お前にわかるか、俺のこのモヤモヤした気持ちがよ。
今朝、アイツとオマエの姿を見て直ぐに感じたよ。
このヤロー、ルルをキズモノにしやがって。
いつか絶対殴ってやる。
パパガイ親方もヴァリオンに対して同じ事を思っているとはつゆ知らず、ヴァリオンがシンバに対して怒っている。
シンバもソレは何となく感じ取ってはいたのだが、どうしても我慢できずにツッコむことにした。
「なぁ、アレってあんたの趣味なのか?」
「悪いかよ」
即答かよ。
それってどうなんだろ。
まぁ、二人が良ければそれでいいけどサ。
パパガイが見たらきっとキレるんじゃないかなぁ。
一体何かというと、デイジーのヘアカラーである。
今回の新装備『エクエス』に着替える時、ついでに理容ネコに変えてもらったらしい。
樹海の薄暗い空間でも目立つローズピンクのポニーテール。
それは彼女のビリジアンの瞳と相まって強烈な存在感を放っている。
デイジーのはにかんだその姿を見たルルとシンバが言葉をなくしたのに対し、ヴァンは大喜びであった。
そう、元来のカナリヤ色の金髪を特殊な染料で染めあげたデイジーはこの行為がヴァンの趣味に基づいていることを隠そうともしていない。
それがヴァリオンの株をどれだけ下げることか、彼女は全く理解していないのだ。