「あー、もう!帰ったらいくらでも脱いでやるから今は止めてよディズ!」
そう叫んでデイジーを振り払ったルルリアの右手の盾がなんかをひっぱたいた。
ルルの盾はパパガイのオリジナルである。
『マテンロウ』に合わせたデザイン、ではなく。
十字架のように突起が伸びた形状で刺々しい攻撃的なシルエット。
存外強く当たったその盾の攻撃力はルルの腕の振りと相まってその『なんか』を向うの大木に叩き付けた。
ソレは『むきゅうぅぅぅぅっ』と甲高く鳴くと地面にボドリ、と落ちて絶命する。
「あ」
「げ」
ルルとディズが同時に気付き、一目散に遁走を開始する。
仲間の断末魔を受けた群れがその後ろを霞のように群がりながら追い始めた。
60センチ程の大きな蜂のようなモンスター『ランゴスタ』が仲間を殺めた下手人に復讐しようと怒りに燃えてルルリアとデイジーにその尻から伸びる鋭い針を振りかざす。
ハンター達を悩ませるのはなにもエスピナスのような大型で目立つ連中ばかりではない。
どちらかといえば、細かくて邪魔になる攻撃をしてくる小型のモンスター達のほうがやっかいな時が多い。
一見すると目立たない存在で、実際にアタックやディフェンスはさほどではない小型の彼ら。
見上げるほど大きな存在のトカゲや猿どもと戦って生死の境を潜り抜けてきたハンター達にとってはとるに足らない存在なのは間違いない。
だが、しかし。
今まさにルルとデイジーを襲っているランゴスタなどはその大型モンスターに集中したい狩人たちを引っ掻き回す非常にやっかいな存在だったりする。
まず、見てくれがえげつない。
でかい蜂だ。
リアルで散々刺されたことがある作者はあの見た目だけでもう…。
紫と黄色の縞々がどんなフィールドでも目立ちそこに厄介者がいることを教えてくれる。
もちろん、彼らの素材を使って装備を作ることも出来るが、ガワがモロい為に中々素材を剥ぎ取ることが出来ずにバラバラに壊してしまうことが多く、そういった点でもハンター泣かせのヤなヤツらである。
耳障りな羽音は集中力を奪い、なおかつ尻から突き出す太い針、その針には当然のように麻痺を引き起こす毒が備わっているから困ったものである。
ランゴの攻撃力それ自体はそれこそ無いに等しいが、もし、あの尻の毒針にブスゥッ!とヤられて麻痺したときに『ブチギレ』たエスピナスが空気を読まずに突進してきたら如何であろうか。
別にエスピナスじゃぁなくっても結構。
ティガレックスでもディアブロスでもリオレウスでもなんでもいい。
痛い攻撃を持ってる大型のモンスターに絶好の反撃チャンスを差し上げることになってしまうのだ。
だからヴァリオンは言う。
「周囲に気を配って、一つだけの事に集中し過ぎないことだ」
だが、妹もカノジョも今ひとつ彼の言うことに耳を貸さない。
だからこうなる。
「完全にルル狙いだな、アイツら」
「のん気に言ってる場合かよ」
自分たちは被害を受けない遠目で観察しながら状況を冷静に述べる。
が、シンバがヴァンにツッコんだその時、ルルが例の麻痺針を受け地べたに転がった。
シンバがやたら焦って地面にうずくまって痺れているルルに向かった反面、ヴァンは別段動こうとしない。
まぁ、今は狩猟対象とやりあってる最中ではないし、ランゴスタの傷なんぞツバつけておけば勝手に治るようなもんだからな。
「いつまでも騒いでるからだ」
と、自分の元に走って逃げてきたデイジーにデコピンを一発。
「痛っ…もぅ止めてよいつもデコピンするの!」
「ああ、すまんな」
とおざなりに謝りつつ、前髪が八分れになっているディズのおでこは常にデコピンを望んでいるように思えて仕方が無いとヴァリオンは思う。
向うでシンバが麻痺したルルを抱え上げるのを確認し、ヴァンは背中のハンマー『エクエスアルベル』を取り出し構えた。
アェスレーゼンを装備出来ない以上、武器なんてなんでも一緒との判断から彼は防具を借りる一方でヒルデから武器のモニターチケットもせしめていたのだった。
『エクエス』の白い装いに合わせた白いハンマー。
細長い柄の先端にプレス機の頭のような円盤状の頭が装備されている。
そこかしこにエクエスの文様が装飾されて武器というよりはなにか儀礼用の装備品のようにも見えるが、彼が振り上げ、それを振り下ろした時の衝撃波は『エクエスアルベル』がマジモノの武器だということを表していた。
デイジーを追ってきたランゴスタの群れはヴァンのたった一振りでバーベキューの後に積み上げられたエビの殻のように粉々になってしまう。
あいもかわらず『一発』で物事をどうにかしようとするのが大好きなヴァリオンであった。
一方、ルルは不覚にも連中の麻痺針の餌食となってしまった訳だが、動けないところをランゴスタに袋叩き…袋刺しにされる前にシンバに救出されていた。
シンバの背中にはヒューマがくれた『デッドウィングスペシャル』があるのでおんぶは出来ない、ということで彼は彼女を『お姫様抱っこ』していた。
ランゴスタの群れから逃げるために走るシンバの動きと同調し、ルル嬢の胸が揺れる、揺れる。
『ストレガ』シリーズは鎧というより服の様相が濃い。
胸部分は厚手の装飾布があるだけ。
大きなルルのおっぱいはその装飾布の横からその膨らみを主張するかの如く揺れ動くのだった。
わき腹とフトモモに回されたシンバの手が何かを求めているようで気になる。
ガントレット越しでも感じられる『ワキワキした』動きの彼の指が気になる。
この数日、あたしの体を散々触り倒しておいてまだ足りないのか。
自分が麻痺っているときにまでイジってこようとするシンバの執念にはホント脱帽だ。
まぁ、仕方ない。
そんだけあたしがカワイイってことなんだろーけどね、うへへへ。
「なぁ、ルルよ」
ランゴスタの群れを十分に引き離し、おバカなことを考えている彼女をを岩陰に下ろしてガンランスを構えたシンバはまだ若干シビレが残っているルルにちょっと呆れながら言う。
「…ブラ着けないと、形崩れるぜ?」
彼の言葉に耳まで真っ赤になったルルリアが言い訳しようとした瞬間、彼は追いついてきたランゴスタの群れに向かって竜撃砲の引き金を引いた。
多大な熱量を帯びた炎の渦が空中を走り、ランゴスタの群れを貫いていく。
それを確認しながら強烈なキックバックを靴底でしっかりと受け止め、個別に火の玉になりながら崩れ落ちてゆくランゴスタを尻目にシンバはまだ立ち上がれないルルに向き直りキズ薬をさしだすのだった。
二人はそのまま岩陰に座りヴァリオンとデイジーが追いつくのを待った。
樹海の深緑の空気が周囲を包み込み穏やかで静かな時間が過ぎる。
ルルリアの麻痺はとうに消えてなくなり、二人は支給品の干し肉をしゃぶりながら他愛ない雑談をしている。
その内容はそれこそ下らない、先日のランチの話だったり、ボルドーを揶揄する話だったり、昨日のエッチを反芻する話だったりと色々。
樹海の中にぽっかりと出来上がった木々の空間、そのドーム上の広場の片隅に二人きり。
彼らのために作られたようなこの時間、この隙間を有効利用してプチデートをする二人は幸せそう。
シンバが言った『たった一言』は彼女の心境を劇的に変化させ、ルルリアの勝手気ままな部分を良い意味でコントロールしていたのだった。
狩りよりもなによりも会話を優先し、二人で並んで岩に背を預けながら話に花を咲かせるルルとシンバ。
パーティを組んでのお仕事の最中とはいえハプニング後のひと時、コレぐらいのインターバルは良いじゃない?と笑いあう二人だ。
狩猟という血なまぐさい殺伐とした行為を生業とする二人が、その仕事場とも言えるフィールドでこんなにもゆっくりした時を過ごせることに可笑しさを感じてしまうくらいの時間が経った時、立ち並ぶ木々の間にちらちらとエクエスの白い装備とピンク色の房髪が揺れているのが見えた。
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