いくら言っても、何時まで経っても「モンスターハンター」に成りきれないデイジー。
その行動には常に甘さや油断をまとわりつかせ、それを見せつけられるヴァンは正直困り、また呆れてもいたのだった。
普段はのんびりしていても構わない、いやむしろのんびりした女は好みだ。
だがしかし、ハンターとしてフィールドに立つ以上は然るべき気構えと思考を持たねばならない。
それは男だろうが女だろうが関係ない。
グラムに教えられた「モンスターハンターとは生き方である」という教示を信じ今までハンターとして生きてきたヴァリオンには到底、受け入れることのできない緩いハンターであるデイジー。
だが、彼女の「モンスターハンター」というにはあまりにもおこがましい、一般人のそれとほとんど変わらない考えや行為をフォローするうち、彼の中に確固と確立されていたいわば「モンハニズム」が少しずつ感化されてきたのもまた事実であった。
こういうハンターが居ても、いいのかもな。
自分が身を置いてきたのはあくまでも純血種のモンスタハンター。
子供の時代から憧れて自ら選びとった道だ。
運良く師事出来たのは、その時代に存在した中でも最高の実力を持ったハンター。
これまでに大きく身体を損ねる事なく狩猟を達成してこれたのは師の教えの賜物に他ならないだろう。
これまでの狩猟生活、そこに一片の後悔もあろうはずがない。
そんな自分自身が断言する、こんな毛の先ほども危機感を覚えない状況を彼女は震えおののき、そして心配する…。
優しすぎる、そういうことなんだろうな。
えぐられた切り傷を消毒しようとフリスクを傾け中のブランデーを口に含むディズを見つめながらヴァンは思う。
自分を含めたハンター達からは決して理解されることはないであろうデイジーの在り方。
でもきっとそれは本来、ハンター達が無くしちゃいけないものだったはずで。
本当はとても大切なものなんじゃなかろうか。
ごっくん。
「あ、呑んじゃった。てへ♪」
「おいーーッ!」
せっかく良い感じにまとめようと思ってたのにそのベタオチかよッ!
「てへぺろ(・ω<)」
「思い出したように繰り返すんじゃねぇーっ!」
がーっ、と吠えるヴァリオン。
いやきっとデイジーは素で天然なだけだと思うぞ。
万事ソツなくこなすように見えて大切なところでバナナの皮を踏むタイプだからな。
「天然にも程があるだろ」
「ちくしょう」
「あん?」
「あたしもあーいう可愛いキャラ付けしてみてぇよ!」
「・・・。」
とはいえ、いくらデイジーがのんきな治療行為を続けようとしても、ルルの馬鹿発言にシンバが呆れたとしても、今は戦闘中である。
仲間の心配をするくらいなら、今、自分たちの置かれた状況を思い返せとばかりにすぐ背後で大地を踏みしめる音が響いた。
頭上から垂れる棘竜のヨダレがシンバのすぐ脇にボタリと落ちて粘ついた水たまりを作る。
電光石火で我にかえったシールド組が左右に分れヴァンとディズのガードに回った。
怒っていないエスピナスはそんなに集中力は高くな…いや低…ぶっちゃけそんなもん無いのでそんなにいそいでフォローに着かなくても大丈夫。
な、ハズだったのだが。
大仰に翼を広げたエスピナスは確固とした意思を持ってその羽ばたきを開始した。
大ぶりの翼膜が樹海の淀んだ大気を掻き回したかと思った矢先、それはまるで意思を与えられたかの様にまっすぐと渦を巻いてヴァンとディズを吹き飛ばした。
デイジーを支える間もなく一緒になって転がってゆくヴァンの姿を捉えたルルリアは戸惑うことなく左腕に携えている槍を突き上げていた。
いつの間にこの棘竜は怒っていたのか。
こいつ達は怒り状態でないと攻撃力のある大振りなアタックはしてこない。
だけど、ヴァンも言ってた通りエスピナスとの戦いはヤツを「怒らせて」からが本番なのも事実だ。
確かに受ける一発も強烈に痛くなるが、頭に血が上った棘竜は自身の攻撃を重要視するあまりに防御がおろそかになる。
普段はアホみたく硬い甲殻、でもその隙間に走る毒腺が活性化するからそこんとこが柔らかくなる。
つまりは莫大な攻撃力と引き換えに鎧はツギハギな状態になってしまう。
狙い目は、まさにその「ツギハギ」。
なんども修羅場をくぐり抜けてきたモンスターハンターならその「ツギハギ」に刃を合わせることくらい朝飯前だ。
「当たらなければどうということはない、ってね」
そうつぶやきながらルルはまっすぐに棘竜の首元にマテンロウの切っ先を伸ばした。
過去より黄泉帰りし古の槍先が彼女の手首のささやかな捻りを受けて錐と化し、彼の重厚な装甲の隙間に捻じりこまれる。
ハズだった。
嘘のように甲高い金属音が木々の隙間を木霊してゆく。
左腕に逆流した電撃のような痺れが、ルルリアの肘から突き抜けていった。
その顔は痛みに歪むというより予想外の出来事に対しての驚愕の表情。
そしてエスピナスは。
ルルの一撃を難なく弾き返しさらにその口を大きく開きそして。
呼気と毒気をその舌上で一纏めにした上で。
体制の崩れたルルに向かってカウンターブレスを放った。
「…う、そ?」
腕にはまだ痺れがありありと残る。
この堅さは。
あの硬さは。
通常時の、怒ってない棘竜のもの。
目の前に迫るこの毒ブレスも怒りに任せた乱射でなく精度の高い攻撃。
…この棘竜、普通じゃない…。
「ルルッ!」
シンバの声が響く。
その焦燥に彩られた叫びは臆面もなくその空間を飛び回り、外野に追いやられていたヴァリオンとデイジーをも否応なしに巻き込んだ。
あの至近距離で、エスピナスの毒ブレスをまともに食らったら…いくらルルでも無事ではすまない。
しかもヤツの毒ブレスは継続する毒効果にくわえて麻痺成分も多量に含まれているはず。
それは先のランゴスタなど比べるまでもなく、体の自由など一つも残らず意識丸ごと刈り取って行くような神経毒だ。
「マズいぞッ!」
「ディズッ!撃てッ!早く!」
はからずもシンバとヴァンの怒号が重なった。