「おお、なんだ、ルルじゃねぇか。お?シンバも一緒か?」
広場にたどり着いた二人を、聞きなれた声が出迎えた。目指す掲示板の前でヴァンとデイジーが揃っている。
ヴァリオンは見慣れない大剣を背負っている。
剣先にヒプノックの嘴が模された、片刃の大剣。
その色はルルリアのフィアラルスーツと同じ青白い輝きを放っていた。
今しがたやってきた妹分が、自分の新しい武器に注目している視線にヴァンは気づく。
「ほれ、こないだ討伐した白いヒプノックがいたろ。アレの素材でおやっさんが作ってくれたんだぞ。これから具合を確かめにババコンガに行くんだがお前もいk……なんだ、その格好は?」
にこやかに語っていた彼は、ふと、ルルリアの格好に気づく。
気づいて、しまった。
「ん?」と後ろ手に小首を傾げる師匠の娘。
そのハレンチな出で立ちに彼は言葉を詰まらせる。
いつものガルーダスーツの色違い、青白い羽根のビキニと青白い羽根のベルトってことは、コイツもおやっさんのとこで白ヒプ装備を受け取ったってことだ。
それはいい。
三千大千世界無双刀を背負っているのもいい。
コイツは姐さんが使ってたこの太刀を心の支えにしているのもわかってる。
ヴァリオンが何度言ってもルルリアはエロ装備をやめない。
【見せ装備】にポリシーがあるのも、まぁ、五百歩譲歩して許そう。
だが!
「ルルッ!おまえ、ナンだ!そのはみ出した“下乳”は!けしかrウボァ!!!」
そのセリフを最後まで待たず、彼の凶暴な妹分は【中段レバー入れ強キック】を兄貴分のわき腹にめり込ませた。
ドゴンといい感じにクリーンヒットしたわき腹を抱え悶絶するヴァンに、ルルは半べそをかきながらアレコレ罵声を浴びせる。
その、容赦のない一方的な兄妹喧嘩にシンバとデイジーはやれやれ、と肩を竦めるのだった。
まぁ、ある意味毎度行われる恒例行事のようなものなのだ。
その後、兄貴分にまで乳に突っ込まれて例の怒りがぶり返したルルと、わき腹に叩き込まれたダメージから半分くらい回復したヴァンとで「おまえのかーちゃんデベソ!」だの「おまえ自身がデベソ!」だの、と古典的で稚拙な言い合いをはじめ、広場にいる他のハンター達の失笑を買いだした頃にやっと二人をたしなめる人物が現れた。
「あらあら、ペア同士でケンカしてちゃ、うまく行くクエストもうまくいかないですよ?」
穏やかな声で、微笑みながら仲裁に入ったこの人こそ、ヴァリオンとルルリアの所属する猟団【鋼鉄のリューシェ】を率いる団長、ローナその人だった。
真紅の【ギルドガードベスト】に身を包み、その装備には一分の隙も無い。
背には風を操る古龍【鋼龍クシャルダオラ】の素材を使った強力な弓【シスネ=ダオラ】を誇らしげに担いでいる。
鈍い鋼色に輝くその弓は、レアな古龍の素材をふんだんに使うために持ち手を選ぶクセのある品。
弦を引き絞るだけでも気力を吸い取られるような錯覚を感じてしまう、扱いづらい武器だ。
ローナはそのじゃじゃ馬な弓を軽々と使いこなし、弓一本で大体のモンスターを狩猟する事が出来る、生粋のアーチャーだった。
技術だけでなくその性格も非常に取っ付き易く、団員皆が慕っている。
ハンタースキルと統率力両方を備えた理想の団長、とでもいうのだろうか。
赤色が強いマロンブラウンのサラサラヘアに天色の瞳。その深いブルーの瞳には自信に溢れ、ただ優しいだけではない、芯の強さをうかがわせた。
そしてハンターらしくない透き通るような色白な肌は手入れが行き届き一種の艶かしさを醸し出す。
その薄桃色の唇は穏やかな微笑を浮かべ、仲間であるヴァリオンとルルリアに対する信頼を表していた。
「良い所であえた。二人とも、なにか依頼受けちゃった?」
ローナがいきなり話題をシフトチェンジする。
取りあえず、ヴァンもルルも掴み合いを止めて、団長に向きなおる。
そして「「ババコンガ相手にちょっと」」と異口同音。
その返事を受けて団長は「ババをまだ受けてないなら」と一枚のクエスト依頼書を二人に差し出したのだった。
『【鎧竜グラビモス討伐】繁殖期に入って、サカリのついた鎧竜が大発生し、奴等が所構わず岩を喰らうので、溶岩の流れが変わり、非常に迷惑している。とりあえず目に付くグラビモスを全て討伐してほしい。報酬は言い値で払う。よろしく頼む』
という内容。
その依頼書を二人で覗き込み、顔を見合わせる。
「目に付くグラビモスを全て、って何頭くらいよ?」というルルに団長が一言。
「とりあえず、三頭以上かな」
その団長の言葉にルルリアは「うげぇ」と嫌そうな顔をしたが、ヴァンは案外乗り気だ。
「こりゃ、泊まり込みだな」と嬉しそうだ。
ヴァリオンは広場に設置されたギルド小屋の受付カウンターに依頼書を提出し、そのやたら疲れそうな依頼を受注してしまった。
「グラビ硬いから嫌だなぁ」
ルルリアは胸の谷間から手帳をひっぱり出し、自分の持っている装備リストを確認している。いましがた、遊びついでに狩猟に行こうとしていたピンク色の道化猿と違って、しっかり装備を整えなければ痛い目にあうのは目に見えている。
さすがの彼女も今度はきちんと防具を選択するようだ。
【鎧竜グラビモス】は主に火山に生息し、幼生体のときから火山岩や深成岩といった火成岩を大量に食べ、体の表面にまさしく岩の様に堅い殻をまとっている飛竜種だ。
さすがに自重が重いため、機敏な動きはしないが、その重量ゆえに只の歩行ですら攻撃になる。
体当たりされようものなら脳震盪を起こす前に体中の骨という骨が砕けてしまうだろう。
しかも、ヤツらが好んで食べる岩の中には電気石や石灰華鉱石のように放射線を発生させる鉱石も多い。
グラビモスはそれらのエネルギーを体内に蓄え、口腔や体表から一気に放出するという芸当が出来るのだ。
それはまさしく、必殺の一撃。
使用頻度はそんなに多くないものの、運悪くその熱線攻撃を直に食らったならそれこそ骨も残らないほどの熱さで焼かれる事になる。
「よし、俺も行くぞ。ローナ団長、構いませんよね?」
シンバがそう言って受注切符を一枚引き抜く。
ローナは、にこりと笑顔を返し彼の申し出を了承する。
とにかく、鎧竜を複数狩猟するという面倒くさ……危険な依頼だ。
人手はいたほうが断然良い。
それにシンバなら【リューシェ】と同盟関係にある【キャッツ】の一員だから素性も知れているし、ローナがすんなり許可を出すのも最もであった。
装備を選択し、武装を預けてあるメインテナンスルームに連絡を入れるのに忙しい三人のモンスターハンターの後ろで、デイジーが肉焼き器や痺れ罠といったサポート道具をリストに纏め上げてくれる。
ハンター免許を持たない彼女は、いくら同行希望があってもそれは叶わない。
手伝えるのは、武器や防具をメンテナンスする職人技の他にはこうしてアイテムを整理するくらいしかできないのだ。
それが少し口惜しいのだろう。
彼女はちょっと元気が無い。
しかしルルが近づきその働きに礼を言うと、ちょっと照れながらそれを受けデイジーは「絶対に勝って来なさいよ!」と激励し、二人はこつん、と拳をぶつけ合う。
その様子を見ながら、ヴァンとシンバも互いに健闘を誓うのだった。
「団長」
静かだが、重みのある渋い声がローナを呼ぶ。
白銀に輝く鎧を身に着け、背に【神龍騎槍ゲイボルガ】という幻のランスを背負った中老の男性ハンター。
その眼光は何人よりも鋭く、その立ち振る舞いには重々しい威厳と自信が溢れ出る。
戦槍を使わせたら随一、この国全てのハンターの中でも頂点に立つランサーのボルドー。
団長直属のパートナーでもある彼は、紛れも無く【リューシェ】の最高実力者である。
しかし、自らの実力に誇り高ぶることは決して無い忠実な戦士。
ボルドーの、任務を黙々とそして確実にこなして行く姿を尊敬するハンターは後を絶たない。
だが、彼はランスのマスタークラスでありながら弟子らしい弟子をとっていなかった。
ローナとボルドーの話は此処までは届かない。
だが、二人の眼差しが真剣で、鋭さを増して行くことからただならぬ雰囲気だけは感じ取ることが出来る。
火竜リオレウスの赤銅色にきらめく鎧を着用したルルリアが、自分たちに注目していることに気づき、ローナはその表情を崩し、右手をひらひらと振る。
ボルドーもルルに向かって小さく頷き親指をぐっ、と立てて見せた。
まぁ、団内の運営やらなにやらは自分のあずかり知るところではない。
少し気にはなったが、ルルリアは準備の整った気球に向かって歩みを速めた。
その背には水竜の鋭いヒレを刃に仕立て上げた大剣【蒼刃剣ガノトトス】が納まり、火山の鎧竜の炎気に対抗せんと冷気を携えていた。
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