モンスターハンターオルタナティブ   作:雨垂夜詩乃

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114 仲間なのは

 

だがヴァリオンの気持ちは決して折れてはいなかった。

しかし、体がまったく動かない。

デッドウィングスペシャルで不意に殴られ、次いで殺傷力の高い双剣で斬りつけられて正直ダメージは大きい。

頭部を集中的に狙ってきた風牙の本職が今となっては容易に想像できる。

 

ヤツは、はモンスターハンターというよりもヒューマンハンターであることは間違い無いだろう。

荊琴にしても同じことが言える。

こいつらの技術は狩猟技術というより戦闘技術だ。

なぜ、見抜けなかった。

なぜ、気づけなかった。

直感をたぐれば、何度か不審に感じたことがあったはずだ。

その時、なぜ、俺は…問い詰めなかった…ッ!

 

「しゃあないやん。ボクらがアンタと違う世界を生きてることなんか思いもよらんやろ。」

「あなたが自分の甘さを悔いる時間は、もう残されてませんわ」

 

エーアガイツの先端からぽたぽたとルルリアの血を滴らせながらヴァンに近づいた荊琴はさもあたりまえのようにその右腕を振り下ろす。

ヴァリオンの右腕にエーアガイツのサイドブレードが深々と突き刺さり、ヴァンはその猛烈な痛みと流し込まれた猛毒で気が触れたような咆哮を上げた。

 

「風さま、甘いですわ。この方はこれぐらいしませんとなにをなさるか、わかりませんから」

「『愚者使い』か。確かにアレを呼ばれるのは勘弁やな」

 

脳内に走る感覚の渦が右腕から全身に広がる痛覚の激流と強烈なスパークを起こし、ヴァンはそのキーワードを聞き逃してしまう。

 

だが、ルルリアは気づく。

この人たちは、ヴァンの大剣を恐れている。

ヴァリオンは何も教えてくれないけど、あの大剣がなんらかのキーポジションなのは感覚でわかってる。

なら、なにがあっても、是が非でも一度街に戻ってアレをヴァンが手に取らなければならない。

 

きっと、きっとあの剣は。

 

『わたしを殺せる』剣だから。

 

きっとこの人たちはあたしの中の血が欲しいんだろう。

さっき風牙は自分たちのことを『モンスターの力を宿した人間』みたいに表現していた。

 

…それは、まるで。

それは、まるで『竜化するあたし』と同じ…ということじゃないのか。

 

あろうことか荊琴が棘竜エスピナスだった。

その棘竜は、ふだん自分たちが狩猟していた棘竜とは全く違うスタンスを持っていた。

自分が知っている棘竜の常識からかけ離れていた。

アレが荊琴の『竜化』だと、したら…。

だとしたら、あたしは。

 

『わたしは、いったい何の、チカラを宿しているの?』

 

そのことを考えた瞬間ばちんと、ルルの視界が黒くなる。

彼女は思考が乗っ取られた事を自覚し、しかもその何者かに身体を委ねることにあえて抵抗しなかった。

考えまいとしてきた自分の闇を、受け入れてもよいと、思ってしまったのだ。

途端、彼女の銀糸がざわざわと蠢き、その躰がブルブルと震えだした。

地面に尻餅をついた格好のまま、ルルリアの四肢の先端に光が灯り、ソレは段々と強くなりつつあった。

 

「……あれは、マズい…わね」

 

スコープを覗き込んだまま、少女がつぶやいた。

 

「ガガ、温度センサー…それと、もう少し、視界絞って」

『アイアイ、マム』

 

その言葉と同時に映像がクローズアップされ、ややノイズの目立つ画像が拡大された。

映し出されたルルリアにフィルターがかかり、緑色の人型となった彼女の両手足が赤から橙、黄色から白へと移行し、その変化は間もなく頭や体全体まで及ぼうとしていた。

 

「ち。まだこない…つもりなの、あいつ」

プローンポジションでロングバレルライフルを構える彼女は焦れていた。

フィールドを俯瞰で観察していた彼女はルルリア達になにが起きたか、正確に把握していたし、実際のところこの事態を予想していたのだ。

 

「…ルギ、ナ…」

『焦らないで、あるじ様』

 

自分をたしなめるガガの言葉に、少女はギリとグリップを強く握りなおすことで答えた。

 

◆

 

「させんよ!」

 

風牙が名前通り風となって変体途中のルルリアを押し倒す。

金色に包まれてゆくルルリアの喉元を左手で掴みあげ、地面に押し付けた。

一瞬で呼吸を止められ、ルルリアは苦悶の表情を浮かべその瞳に紅色が滲む。

 

「まさかおまえ、自由に喚べる、のか?」

 

ルルの体に馬乗りになり、あくまでも細首を締め上げながら風牙が問う。

 

「さあ、な、んのこと…?ぐぅ、ッ」

 

ニヤリと笑ったルルリアの表情が気に入らず、風牙は締め上げる力を強めた。

 

「お前はその力が…なんであるかまるでわかっちゃいない!お前が、一体何のために存在しているか、考えたことがあるのか!」

 

風牙の喉から絞り出された嗚咽のようにもとれるそのセリフ、真意を理解出来るのはヴァリオンの背に乗り、胡座をかいてうつむいている荊琴だけだ。

 

「ルルリア、お前は…キミは、鍵なんだ」

「ここでは人間が【モンスターハンター】を名乗り、我が物顔で世界を牛耳っている…偉そうにギルドだなんだと大言を吐いても所詮は営利行為だ」

 

ルルリアの首に現れかけたウロコの硬さを感じて、だが風牙はあの握る力を緩めずに言葉を続けた。

 

「【あの方】は人間の蛮行を嘆いていた…ボクらも昔は何も知らない【モンスターハンター】だったからな」

「そんなボクらに【あの方】はこのチカラをくれた。そして『意思を探せ』と言った」

「ええか、よぅ聞けルルリア。お前のその力は呪いなんかやない。お前の力は、ボクらが望む本物の『フロンティア』にたどり着くための鍵なんだよ」

 

風牙の言葉に含まれる微量の迷いがルルリアの精神を刺激し、龍化する速度が落ちる。

喉元を締め付ける彼の圧力は確かに変わらないがしかし、ルルの耳に届いた彼の声はなぜかひどく彼女の心を揺さぶった。

 

「ボクらはキミの敵やぁない。敵どころか、味方…いや、仲間だ」

「な、なにを…いま、さら」

 

しかしその一言でルルリアの感情に火がともる。

風牙がしたことは紛れもない敵対行為、いや暴力だ。

さっきこの二人が自分とヴァリオンにしたことは許せる行為ではない。

大抵のことを『あふぅ』で済ませるルルリアだが、自分だけでなくヴァリオンまで巻き込んで、しかも彼に大怪我を負わせた風牙と荊琴を責める気持ちはとても拭えない怒りの篭った物だった。

それに今思うに、現状姿が見えないシンバとデイジーをきっとどうにかしたのもこの二人に間違いないだろう。

そのような状況でぬけぬけと『仲間』などとよく言えたモノだ。

 

「ああ、勘違いするなや。『仲間』なのはキミだけや。そこで情けなく寝そべってるのんや上で無様に気ぃ失ってるのんはあくまでも排除対象や」

 

風牙のあごがクイと頭上を指した。

その動きにつられて視線を走らせたルルリアの目に映ったのは、なにか糸のようなものでぐるぐる巻きにされ、そのミノムシのような状態で太い枝から吊り下げられたシンバとデイジーの二人だった。

一体、いつの間に縛り上げられたのか、二人はまるで宙に浮くようにか細い糸で吊られゆらりゆらりと揺れていた。

風牙の言葉が正しければ二人は気を失っているだけ、死んでいるわけではないようだが、それでも彼らが絶望的にひどい状況にいることには変わりはない。

それにルルリアの予想通り、風牙と荊琴はシンバとデイジーも巻き込んでいた。

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