数年前までは、依頼をこなすためには歩いてフィールドに向かわねばならなかった。
しかし、今はそれぞれの場所まで気球がハンターたちを運んでいた。
南方に展開する独自の技術をもった民族と交流が深まり、ギルドに高速で飛行できる気球が準備されるようになったのだ。
それにともなって前には見られなかった、からくり仕掛けの武装も増えてきている。
モンスターハンター達を取り巻く環境もまた、進歩し続けているのだった。
ヴァリオンは白眠鳥の大剣【ヘビィスリーパー】を帯剣している。
この新しい武器の使い心地をモニターしなければならない。
良い武器なら、ガルデニアの生産リストに加えても良いはずだ。
いつも使っている大剣よりもいくばくか長いリーチを持つその剣は、大部分が硬い骨を削りだして造られているために重量はさほどではない。
だが、鋼を使っていないその分切れ味が悪くなりやすいだろう。
純粋な攻撃力よりも睡眠袋から噴出す眠りガスがどれだけ有用か、そこのところを見極める必要がある。
操舵ネコの後ろで、ヴァリオンは何度かその得物を振り回してみる。
長くなっても刀身バランスは良さそうだ。
パパガイの仕事はさすがに隙が無い。
特殊リーチの武器だけあって扱うこちらにも技術が要求されるが、打点が広くなる分、有効な攻撃を広範囲で叩き込めるかもしれない。
直感だが、これは場合によってはメインの武器として使っていけるかもしれないと期待を込めて背負いなおす。
シンバは翠水竜の素材と、老舗の機械工房の技術がコラボレートされたガンランス【三十二式機械槍】を持ち出してきた。
その砲身は普通のガンランスより一回り太目で、装填出来る砲弾数も多目。
火薬を使うガンランスには珍しく、水属性が付加されている逸品だ。
彼は専用の銃剣を鞘から出してボルトで固定する。
次いで、銃身を兆番の部分で折り、砲撃槍専用に作られた弾を込めはじめる。
それらはかつんかつん、と小気味良く滑り、砲身に吸い込まれていく。
全てを入れ終え、握りの部分のリロードレバーをがちり、と鳴らすとその凶器は目を覚ました。
そうだ、忘れてはいけない。
ガンランス最大の特徴である【竜撃砲】の砲弾を専用のスロットに装填する。
グラビモスが必殺の熱線を撃ってくるならこっちも目の前で痛い一発をお見舞いするぜ、と強気だ。
装填用の弾丸のチェックを始める彼の眼差しは真剣で引き締まり、シンバが若いながらも一端のモンスターハンターだということを示していた。
ルルリアはというと、男二人が武器の調整に余念が無いのと対照的に、気球に備え付けられている木製のベンチの上で横になり、すぅすぅと寝息を立てている。
足元には蒼刃剣ガノトトスが無造作に立てかけられ、柄の部分にレウスヘルムが引っ掛けてある。
リオレウスの翼膜を模した鎧の胸元を緩め、腰防具を枕にして本気で寝入っている。
全くもっていいご身分である。
さっきまで散々ネタにされていたたわわなバストが呼吸に合わせ上下する。
腰装備を枕にしているため、レウスグリーヴとホットパンツの間の絶対領域が惜しげもなく晒されていた。
その無防備な寝姿は彼女が本当に一人前のモンスターハンターなのかと疑いを持ってしまう程のものだ。
だが、フィアラルスーツという見せるための装備を脱ぎ、光沢の無い銅色の鱗を用いた戦うための装備である火竜の鎧を纏ったルルリアは完全にモンスターハンターのスウィッチをオンにしている。
今のルルリアは、暗がりに怯える少女ではない。
自らの暗い記憶に惑わされる弱い女の子は完全になりを潜めていた。
彼女は、普段の格好がアレで、性格もアレなためによく誤解されてしまうが、別にルルは不真面目なわけでは無い。
ただ、感性がちょっと人と違うだけ。
それは、まさしく受け継がれたセンス。
レジェンドハンターを両親に持つ、その生粋のモンスターハンターとしての血が彼女の中で息づき、理屈ではなく、戦い方を知っているだけなのだ。
それ故に狩りの最中もマイペースな行動をとることもある。
だがヴァリオンもシンバもルルリアのそのハンティングセンスを知っているため特に何も咎めない。
逆に彼女をフリーにすることが、依頼達成の近道であることも理解しているのだった。
「相変わらず、狩り前に寝られるんだな」
ヴァリオンとルルリアの二人と久しぶりにパーティを組んで狩猟に向かうことになったシンバは、こちらに背中を向けて寝息を立てる彼女を見ながら昔を思い出す。
初めて一緒にクエストに出たときも、やっぱりこのベンチでうつらうつらと、船を漕いでいたルルリアが鮮明に記憶に残っている。
誰もが緊張し、気持ちが高ぶるクエスト前に「よく寝られるな、この女の子」と驚いたものだ。
「まぁな。そのかわり、始まったら別人になるのは知ってるだろ。アレも変わってないよ」
剥ぎ取り用のククリの刃先を確認しながら、シンバの言葉に続けるヴァリオン。
「いつものことさ」と言いつつナイフをしまう。
「どうせ、狩りが始まれば嫌でも動き回ることになるんだし、休ませておいてもいいだろ」
とヴァリオンは穏やかにこぼす。
自らの使命は、ルルリアの行く末を見届けることだと言う。
ヴァリオンは、それこそが大恩あるグラム師匠の言葉に対する返答であり、自分のモンスターハンターとしての【生き方】なのではないか、と思い始めている。
寝ているルルリアの頭を、そのごつい手のひらでそっと撫でつけ、柔らかな笑みを浮かべるヴァンはルルリアが十歳頃からずっと面倒を見てきたのだ。
ある意味、師匠と同じくらい父親みたいな立場と言っても過言ではない。
生意気な事に一端の口を利く様になって来たとはいえ、まだまだ自分が世話を焼いてやらなければいけないだろう。
普段の彼に似合わない優しげなヴァンの姿に、シンバは一つ気になっている疑問を投げかける。
「ルルリアはそれでもいいかもしれないけどさ、アンタ自身はどうなんだよ」
「ハンターとして、自らの業を完成させなくていいのか?」と続ける。
定年退職、といった概念はモンスターハンター達には無い。
死ぬまで現役、それが当たり前の世界だ。
だからこそ、活力あふれる若い時期に多くの挑戦を行うのだ。
経験を積み、知識や技術が増し加わったとしても、体力は加齢と共に減少する。
多くのハンターたちが自分の掲げた目標を成し遂げるのに一生懸命なのは、過酷なハンターという立場自体が自らの体の限界を早めてしまう事を理解しているからだった。
「まぁ、な。それは、それ、ってことだろうな」
少しだけ、本当に少しだけ寂しそうな表情をしてヴァリオンは答えを濁した。
彼もいくらか、葛藤するところがあるのだろう。
その答えは、もしかしたら永久に出ないのかもしれないが。
ヴァリオンとシンバが互いに無言になり、数刻が過ぎる。
気球の周囲にたちこめる空気が、段々と熱を帯びてくるのが解った。
そろそろ、鎧竜たちがわんさか居るという問題の火山地帯が近づいてくるころだろう。
二人は互いに目線を交わし、心を引き締める。
浮ついた気持ちで挑んではロクな結果になりはしないのだ。
彼らがこれからしようとしているのは遊びではない。
自分たちよりも遥かに強い、大自然の力を多く受け継いだモンスター達との命の取り合いなのだから。
案内役のアイルーが「もうすぐベースキャンプ予定地に着きますニャ」と声を張り上げる。
その言葉を受け、ヴァリオンはルルリアの肩を揺すり、彼女を起こしにかかった。
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