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トゥトゥ奥の事務所にまで伝わった違和感。
誰がドアを叩き、「ガキがヤベェ!」と幹部達を呼び出した。
ローナ、アシュレー、そして荊琴が店内に戻り――血まみれで笑ってる子供を見る。
「め、めぐ……る……」
普段飄々と穏やかな彼女、荊琴が初めて見せる青ざめた表情。
アシュレーがふらついた彼女を支えようと手を伸ばした、その時。
少年から光が弾けた。
少年の輪郭が歪み、膨れ、店の天井を押し上げる。
ばきり、と梁が折れて垂れ下がる。
少年だったモノが膨れ上がり、青白い雷光を纏った巨躯がトゥトゥを内側から引き裂く。
木材が軋み、壁が砕ける。
硝子窓が一斉に割れ落ちる。
「ベル、キュロス、だと……?」
荊琴の肩を支えたアシュレーの唇が動く。
しかし峡谷を根城にするベルキュロスにしては大きい、二十メートルはある身体、左右の翼から伸びる長い鉤爪のかえしの鋭さはより高い攻撃性を誇示し、尾の隣にそれぞれ並んで生えた副尾を帯電する輝きは鼓動と共に光を増している。
ピュウというローナの指笛が発した甲高い合図にハンター達が動いた。
武器を抜く者、瓦礫を退ける者、店外の野次馬を怒鳴りつけて遠ざける者。
パニックはほんの一瞬、彼らは直ぐに自らの役目を的確に判断し、街中に現れた強者に即応していく。
しかし、ルルリアにはその仲間たちの喧騒が遠かった。
混乱の中で、ルルリアだけが動かなかった。
また、ベルキュロスも動かない。
天井や壁が崩れ落ちた店の中で、ただじっと……ルルリアだけを、見つめている。
巨大な翼。
青白い電光。
長く伸びた尾。
違う――そんなものはどうでもいい。
黄金の瞳で……嗤っている。
ニタニタと、裂けた舌を垂らし、飛竜が嗤う。
知っている。
ルルリアは、この眼を――黄金の瞳を知っている。
血塗れの父。
動かなくなった母。
幼い自分を覗き込んでいた、あの――。
瞳。
あの目。
黄金の――。
「……あ」
喉から、意味のない声が漏れた。
視界が揺れる。
トゥトゥの床に散った料理が、零れた酒が、血溜まりに変わる。
折れた椅子が父の腕に見える。
折れた梁材の向こうに母が伏している。
あの日……。
父の上半身を咥えた竜。
母の身体に爪を突き立てた脚。
そして、ソレは幼いルルリアを、見ていた。
ずっと。
怖かった、あの――黄金の瞳。
「あ、あぁ……」
ルルリアの呼吸が崩れる。
誰かが名前を呼んでいる。
シンバか。
ヴァリオンか。
デイジーか。
分からない。
もう、聞こえない。
ただ、あの爛々と睨めつける目だけしか……あたしも、見えない。
「おまえ……」
「おまえ……」
ぶつん、と自分の中で何かが切れた。
「おまえかァッ!!」
歯が鳴った。
「おまえ、おまえ、おまえ……ッ!」
喉が裂けるほど叫んだ瞬間、ルルリアの両眼から紅が消えた。
黄金に……完全な金色に――。
銀髪が逆立ち、皮膚の下を何かが暴れ回る。
肩から腕へ鱗が走り、指先から鋭い爪が伸びる。
「ルルッ!止めろッ!待てッ!」
ヴァリオンだろうか、だが、そんな言葉は彼女には既に届かない。
「おまエがアアあァァッ!!」
背骨が軋んだ。
ルルリアの腰の後ろから肉が裂け、血飛沫と共に太い尾が伸びる。
床板を打ち砕き、テーブルを薙ぎ払い、金色のしなる鞭となり崩れた壁の残骸を打ち払う。
誰かが悲鳴を上げた。
そんなもの、耳に入らない、ルルはもう知らない。
ルルリアは泣いていた。
自分でも気づかずに。
剛尾が床を穿つ。
翼のない龍が咆哮する。
「殺ス……!」
その声にはもう、普段の少女の色はほとんど残っていなかった。
「おまエだケは、あたシガこロすッ!!」
黄金の眼を見開き、ルルリアはベルキュロスへ飛びかかった。
ルルリアの電光石火の接近に、一度怯んだベルキュロスだが、太い脚爪で床を踏み掴み攻撃に備えた。
ルルの両肘から鋭い異形の堅殻が伸び、ベルキュロスの屈めた首を目掛けて切りつける。
誰が見ているかなど、もう彼女の頭にはない。
人々の前で、ルルリアは龍になった。
以後不定期になります。申し訳ございません。