二人の前に洞穴がぽっかりと口を空けている。
ひょうひょうと風が流れ、熱風が二人を誘う。
ヴァンもシンバも、はっきりと嗅ぎ取っていた。
むせ返るような、立ち込める血の臭い。
自分たちもハンターという看板を背負っている以上、血生臭いことを生業にしてはいるが、ここまで色濃い血の臭いは嗅いだことがなかった。
ここに来て、二人は立ち止まってしまっていた。
肩で息をし、息切れを抑えようとするもなかなかうまくいかない。
この、洞窟の中にアイツは、ルルリアはいるのだろうか。
無事に、生きているのだろうか……。
「いや、これは、人間の血の臭いじゃない」
ヴァンは自分に言い聞かせるようにつぶやく。
このニオイは鉄の色が濃すぎる。
アイツの血じゃない。
勢い失せてしまったが、ヴァリオンとシンバはその暗い洞穴に足を慎重に踏み入れる。
どうにもこうにも、いつもとは状況が違いすぎる。
マグマ溜まりが、長い年月を経て空洞を形成したと思われる、火山の腹の中の大空洞。
そのすぐ脇を流れる溶岩がこの空間におびただしい量の熱量を容赦なく吹き出していた。
その熱気はいとも容易く二人の戦意を奪ってゆく。
二人はそれぞれのアイテムポーチから、【にが虫】をすり潰したモノと【氷結晶】を削って粉にしたモノを煎じた【クーラードリンク】を取り出し一気にあおった。
そして二人同時にむせる。
ぺっぺと唾を吐き、ヴァンは「あいかわらずマズイな、これは」と文句をいう。
だが腹の中から冷気が体中に回り、いくらか暑気払いになる。
それでも暑いことには変わりないのだが、とりあえず、この飲み物?は重宝するから困る。
周囲を警戒しながら先を急ぐ二人の頭上に影が落ちる。
ソレは、過去の大噴火の跡であろう、天井の大穴から慣性のままぐんぐんと落ちてくる。
ふと、その影の行方に気づき、ヴァンはシンバを突き飛ばしつつ自らも横に転がり直撃を避けることが出来た。
ずずぅん……と重い地響きを立てソレは二人の眼前に横たわる。
その重量が地面に衝突した勢いは二人の足元を異常なまでに揺さぶり、立っていられないヴァンとシンバは思わず両手を地面についてしまう。
重みの下敷きとなったマグマの固まった岩が細かく砕け、粒子の粗い粉塵となって辺りに舞い上がる。
岩壁にびりびりと衝撃が走り、小規模な崩落が起こった。
ばらばらと崩れてくる天井の岩を左腕のシールドで防ぎながらシンバは今しがた落ちてきたモノに目を向け、愕然とした。
そのモノは明らかに生き物だったものだ。
というより、ソレこそ、彼らが狩猟対象にしていたモノ……。
体中至る所からその血液を流し、その流れの元には在り得ない程大きな風穴が空いている。
そのグラビモスだったモノの心の臓はまだ幾ばくか動いているのだろう。
傷口からはぶくぶくと泡混じりの赤い粘液が規則正しく噴出していた。
いち早く正気に戻ったヴァンは、もともと頭が付いていたであろう部分に近づき、その切り口を観察する。
頚椎部の切断面は、なにか力任せに噛み切られたように不ぞろいで荒い。
どうみてもルルリアの仕業ではない。
いくらなんでもこんな芸当は今のルルには出来ない。
だけど。
安堵と不安のため息をもらすヴァリオン。
「あたりまえじゃないか」と言うシンバにヴァンはかぶりを振る。
どうもさっきからヴァンの様子がおかしい。
ルルリアの身を心配する以上に、なにかに怯えているようにも見える。
シンバはその雰囲気を感じ取りつつも、それをヴァリオンに切り出すことは出来ずにいた。
グラビモスの体は、やがてその血液を出しつくしその活動を停止させた。
その亡骸はあまりにも無残。
屈強な体躯を誇る鎧竜がなぜこのような死に方をするのか、二人にはまったく想像もつかなかった。
刹那、キイン!と甲高い高周波が耳をつんざく。
二人は思わず耳を塞ぎ、アイコンタクトを交わす。
やはり、俺たちのわからないところで何かが起きている。
ルルリアがどうにも心配だ。
アイツはいったいどこに行ったんだ!