モンスターハンターオルタナティブ   作:雨垂夜詩乃

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019 竜化

 

「……遅かった、か」

 

自分たちの愛すべき少女が、物凄い形相でモンスターを解体している。

ヴァリオンとシンバは、自分たちの眼前で繰り広げられる凄惨な殺戮の情景を直視出来ずにいた。

ヴァンが心配していたのはルルリアの生死ではなく、まさしくこの“竜化”だったのだ。

 

「な、なんだよ……あれ、どういうことなんだよ!……なんだよあれ、説明しろよ、ヴァン!」

 

シンバのうろたえた言葉にヴァンは目線をそらす。

岩陰から様子を伺うと、ルルリアはアカムトルムの頭を両腕で叩き潰そうとしているところだった。

次の瞬間、がしゃりと覇竜の頭殻が砕かれる金属的な音が此処まで聞こえる。

 

ルルリアの、それこそ獣のような吼え声は体の芯から恐れを誘発するような響きに満ち、そこには普段のとぼけたしぐさでおっぱいを自慢している女の子の面影などどこにも残っていない。

 

シンバは自分の見ている全てのことを受け入れたくなかった。

自分が想いを寄せる彼女が、人間とは思えない異なった存在に変わっている。

アレはルルの元々の姿なのか、それとも何かの拍子にああなってしまったのか、どう考えても自分の理解を超えている。

 

「な、なぁ!……ヴァン!アレは、なんなんだよ!!」

 

再度、声を荒げ隣で突っ立っているハンターの胸座をつかみあげる。

自分よりいくらか長身のヴァリオンをにらみ上げ、その目線で説明を求めるも、ヴァリオンの唇は堅く閉ざされたままだ。

彼のはしばみ色の瞳にも哀しみが色濃く現れ、この状況を憂いているのがわかる。

だが、そんな程度では納得できない。

 

「なんとか言えよ!あんた、あいつの保護者なんだろ!!」

 

二人に出会ってスグの頃、シンバはヴァンに釘を刺されたことがある。

『ルルリアといい仲になりたいなら、まず俺を倒せ!』とかなんとか居丈高に宣言されたのだ。

「あんなにルルリアの保護者ぶったこと言ってたのはなんだったんだよ!」と、シンバは今一人で熱を吹いている。

この異常な状況で、ヴァンはなにもしない。

ルルリアはどんどん“変わって”いってしまうように見えた。

それはヴァリオン自身も解っているはずだ!それなのに!!

 

アカムトルムだった肉塊を前に、かろうじてルルリアだった面影を残すモノが一際大きな咆哮を放つ。

火山の連なる山々に響き渡る狂声は、覇竜の叫びと大差ない。

マグマはそれに呼応し、その噴火の勢いはいよいよ増しつつあった。

シンバはもう、黙っていられなかった。

ヴァリオンは動こうとしない。

ルルのヤツがこれからどうなってしまうのか、自分には予想もつかない。

でも、このまま放っておいていいはずはない!

 

体中を龍鱗が覆い、顔の一部くらいしか素肌が見えない。

瞳に灯る光に理性は感じられない。

正直、アレはもうルルリアではないのは解っている。

でも、そんなの、許せるわけないじゃないか!絶対に!

 

シンバの脳裏に、ルルリアの顔がいくつも浮かぶ。

無邪気に笑う彼女もいれば、ふてくされてそっぽを向く彼女もいる。

狩りに失敗して悔し涙を流している顔も、しょうもないイタズラを思いついた性悪な顔も、広場のベンチで無防備にうたた寝する寝顔も、高い食事を奢らされたときに向けてくれた満面の笑みも、狩りのときに見せる、真剣で気高い、あの眼差しも!!

 

「俺は、失いたくない!!」

 

「あいつを、こんなカタチで失うのはイヤだ!!」と、ヴァリオンに言うのか、自らに言い聞かせたのか。

それは図りかねる叫びを搾り出し、シンバは走りだす。

彼はもうヴァンの言葉を待たなかった。

岩陰から躍り出て、ルルリアの視線の中に自らを晒す。

ルルは自分を認識できないかもしれない、と一抹の不安がシンバの頭をよぎる。

 

彼女の瞳は既に龍の魔眼のようで温かさを微塵も感じさせない、凍えた光を放っている。

あの黄金の眼は好きになれそうもない。

あんな無機質な瞳、ルルリアには似合わない!!

『ルルリアに殺されるかもしれない』というリアルな不安をかぶりを振って強引に打ち消した彼は、アカムの処刑を終えて、ぼう、と立ち尽くしている彼女のもとに走った。

 

シンバは自分にこんな熱い想いがあったことにいまさらながら気づく。

今なら、全身全霊を込めてルルリアに想いを伝えられそうな気がしていた。

つい、と眼を上げた彼女と目線が交わる。

 

その瞬間、シンバは自分の死のヴィジョンを観た。

数秒たたずに、自分もそこの哀れな覇竜と同じように解体される。

ルルリアが、嬉々として自分の頭をいともたやすく胴から引きちぎる光景が脳裏に浮かぶ。

 

そのしなやかな細腕を腹に突き入れ、ハラワタを引きずりだすのを首だけになった自分が虚ろに見つめる……そんな場面。

ほんの一瞬、シンバはたじろいでしまう。

そのあまりにもリアルな死のにおい。

それに思わず躊躇ってしまった彼を、誰が責められようか。

 

ルルの金の魔眼がおびえた獲物を捕らえる。

刹那、その体はバネのように弾け一瞬のうちにシンバの眼前に迫っている。

振り上げた右腕にはためらいなど全く無く、その伸びた爪はシンバの血を啜らんとするべくその心臓に狙いを定めていた。

 

瞬間、物凄い衝撃音が辺りに響く。

 

死を覚悟し、堅く眼を閉じていたシンバは自分が無傷なのに気づく。

目の前には大きな背中が立ちはだかり、手には鋭く光る刃の剣を構えている。

ヴァリオンがヘビィスリーパーの切っ先を向ける相手は、その妹分、金色に輝く鱗を纏って重苦しく荒い息繰り返すをするルルリアだった。

ルルの鋭爪がシンバの胸を貫く前に、ヴァンの薙ぎ払った大剣が彼女の体を弾き飛ばしていた。

空中で体勢を立て直し、すた、と大地に下りるルルリア。

その鱗には何のキズも無く、ヴァリオンの一撃は通っていないのは明白だった。

 

「……前に、言ったよな」

 

ヴァンは、静かに言葉を紡ぐ。

「何を?」と尋ねるシンバを無視し、彼は言葉を続けた。

その形相は怒りと悲しみと、決意に満ち、ヴァンはそのモンスターハンターとしての自分を目覚めさせる。

 

狩るべき、相手に向けて。

 

「ルルリア、お前がもう一度“竜化”したら……俺が、お前を……」

 

そこで言葉を区切る。

シンバは、ヴァンが自分に語っていたわけではないことに気づき、息を呑んだ。

 

いま、ヴァンは“お前を殺す”と言わなかったか!?

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