「でも、俺もヴァンも生きてるじゃないか。ルルだって『ごめん』って言ってたぞ?」
「そんな簡単にあいつをどうこうするなんて言うなよ!ルルだって苦しいんだぜ、きっとさ!」と、行く所まで思いつめているヴァンに、シンバは強く反論する。
それは殺されかけた事実よりももっと別の感情が強い、そんな発言。
確かに、ヴァリオンは早計なところもあるのだろう。
ルルの“竜化”とやらの原因や制御方法を探ることは全く手付かずなのだし。
だがその事実を知らないシンバがこうも熱を込める理由は、もう一つしかない。
「……おまえさ、アイツのどこに惚れたんだ?」
ヴァンの、ぼそりと言った一言に、シンバは、ぐっと言葉を飲み込み赤くなる。
この暗がりで、しかも焚き火の炎がちらちらと彼の顔を照らしている。
その火にあてられてか、それともアレか。
とにかく、シンバの気持ちの大部分はヴァンに伝わる。
「まぁ、実際おまえぐらいだけどな。ルルの奇抜な行動に笑って付き合っていられるのは。とはいえ、あいつと『そういう関係で』付き合っていくのはきっとしんどいぜぇ?それでもいいのか?」
シンバの返事を待たずに言葉を続ける兄貴分。
「確かにツラは可愛げだけどな、ルルリアはネコ以上に気まぐれだぞ?振り幅激しいぞ?普段エロい格好だからってスグにエッチなことさせてくれるわけじゃねぇと思うぞ?」
と下からにんまりと目を細め、シンバにまったりした視線を送る。
その何もかも見透かしたようなヌメりのある眼差しは、どう好意的にみてもシンバを弄っているようにしか見えない。
「い、いいだろ、別に。ルル可愛いじゃんか。ちっこくて、生意気でさ。お、俺はああいう娘、結構好きなんだヨ。あ、あんたこそ、どうなんだよ。デイジーのことはもう、食っちゃったのかよ?そこんとこどうなんだ。スケベじじいめ」
口をとがらせてヴァリオンの生暖かい視線に食って掛かるシンバ。
やられたお返し、とばかりにヴァンに想いをよせているディズのことを引き合いに出し「ええ?どうなんだこのやろ」と混ぜ返す。
「で、デイジーったって、おまえ、あの子はルルと同じ歳だぞ?俺と十個も離れてンだぞ?俺のことなんかオッサンだとしか思ってねぇって!」
と、顔前でぶんぶんと手を立てて振りまくるヴァリオン。
ああ、やはりデイジーの淡い心は通じていない。
「いやいやぁ。オッサン好きな女の子だっているんだぜ?ワイルドな加齢臭がたまんない♪濡れちゃう♪ってさ」
と、ここぞとばかりにやり返すシンバ。
自分の肩を両手で抱き、くねくねとしなを作る。
そんな奇特な女の子がいるかどうかは全く分からないが、それを言うシンバは【リューシェ】の若い女性ハンター達がちょいちょい話題にする、いわゆるモテる系のヤツだ。
そいつが言うってことはもしや……。
「いやいや、あれは俺が親方ンとこをひいきにしてるから懐いてるンであって、俺個人に向けたアレじゃねぇだろ」
ヴァンが悩み始める。
狩り一筋で生きてきたヴァリオン。
ヒューマ程ではないにしろ、殆ど女っ気のない生活をしてきた。
いや、いつも一匹近くに居たことはいたが、ヴァンはルルリアを妹としか見ておらず、血は繋がっていなくともそういう対象には程遠い存在だったわけで。
「いや、確かにディズはなにかと世話焼いてくれるんだな。こないだはわざわざ掃除と洗濯しに来てくれたしなぁ、俺の部屋があまりにも乱雑なのを見かねて来てくれたと思ってたが。そういや、いつだったかお手製の『貯古齢糖』とやらを持ってきてくれたが…。それって、どうなんだ?」
「どうなんだ…って、アンタがどうなんだよ…」
思いっきりニブチンなヴァリオンの態度を知り、シンバは深々とため息をつく。
茶化してみたものの、実際にこれじゃあ、余りにもデイジーが可哀想過ぎる。
あのブロンドのツンデレはこのオッサンのどこを気に入ったのかがわからん。
まぁ、ハンターとして一流なのはわかるけど、男としては甲斐性ってもんが…。
「あんた、バカだろ?」
色々とひっくるめて、シンバの口から素直な感想が漏れる。
「…んだと?」
あぁん?とヴァンが色めきたつ。
「そりゃ確かに俺には経験ねぇよ!なんだこのちっと顔が良いからって偉そうにしやがってこのやろぉ!」と、大人気ない先輩はあきれて肩をすくめた後輩ハンターにつかみかかる。
その売り言葉に「俺だってちっちぇルルの面倒見たかったぞちくしょうが!美味しいとこ持って行きやがってスケベじじい!返せ!!」と買い言葉を返すシンバ。
焚き火の穏やかな炎に照らされて、二人の立派なモンスターハンターが不毛な内容でがちゃがちゃと取っ組み合う。
そのまま夜はふけてゆく。
蒼い月が夜天に浮かび、冴え冴えとした光で世界を包む。
その物悲しげな月光は燃える山にも染み渡り、激戦のあったフィールドを癒そうとしているようだった。
やいやいと言い争う声が続くベースキャンプのテントの中に、一人の少女が眠っている。
ルルリアは外の騒ぎに気づく様子もなく、こんこんと眠り続ける。
金の鱗が具現した肌はいくらか痣が残り、自らが潰した左腕にはくっきりと爪あとが刻まれていた。
だが、その呼吸は穏やかで、たわわな胸をゆっくり、ゆっくりと上下させている。
彼女のその眠りは深遠で静寂な、永遠に続くかのようだった。
翌朝、ヴァリオンはルルリアの眠りに変わりがないことを確認すると、笛でギルドネコを呼び出し、彼らにマタタビを大量に配りながら、ルルリアの“竜化”のことだけは口止めする。
鎧竜を殲滅したのは覇竜だし、そのアカムトルムも骨すら残っちゃいない。
とりあえず、予想に反してアカムトルムが出てきたので装備上討伐は難しいと判断し帰還した。
と、アイルーたちと口裏をあわせることにする。
既にマタタビに酔っているギルドネコたちはおぼつかない手つきでその報告書に【依頼達成失敗】の判子を押し付け了承した。
そしてネコ道をふらふらと帰ってゆく。
「アレは報告自体忘れるな」とヴァンはつぶやく。
それはそれでかまわない。
ルルの“竜化”のことを公にするのは、もう少し後にしたい。
「ルルリアにシャツを着せてくる」という見え透いた下心を出したシンバのみぞおちに剛拳を叩き込み、悶絶する彼を捨て置きテントの中で彼女の世話をする。
この小さな体で、いったい何を背負っているんだか……俺はそれを汲み取ってやれるのだろうか?
ルルリア自身のことも心配だが、自分の立場をはっきりさせなければいけないのはヴァリオンも同じなのだった。