フィールドに迎えに来た気球がドンドルマ市に帰り着き、ギルドに報告もそこそこに彼らはルルリアの部屋に向かう。
だけどヴァリオンとシンバは彼女の部屋のドアを開けて言葉を失ってしまった。
二人がルルリアの部屋に入るのは意外にも初めてのことだった。
【鋼鉄のリューシェ】に所属するようになって、ルルリアとヴァリオンは初めて別々の個室を持つようになった。
ルルリアも一応、年頃の女の子だし、いくら兄貴みたいなものとはいえヴァリオンとルルリアは突き詰めれば他人の関係なんだし。
いつまでも同じ部屋では色々とマズかろうと思ってのヴァリオンの判断だった。
ルルリアも二つ返事で同意し、別に問題はなさそうだった。
だが、これは。
思った以上になにかが深刻な状態なのではないか。
ルルリアの部屋には粗末な木製のベッドが窓際にひとつ。
その隣に小さな丸いサイドテーブルがちょこんと置かれている。
部屋の隅にこれまた小さな箪笥が一棹適当に置かれているだけ。
なんの飾り気もない、シンプルな……いや、正直なところ殺風景な空間だった。
観葉植物や装飾品は一切見当たらず、少女らしいアクセサリーの類も全く存在していない。
生活感のあるものといえば、唯一、箪笥の上に銀のコップに歯ブラシが突っ込んであるだけ。
あの銀のコップはナァルの使ってたものだとヴァンはふと思い当たる。
「女の子の部屋じゃないな……」
ぼそりとつぶやいたシンバの言葉がひどく耳に痛い。
背中で寝息をたてているルルリアの普段の動向とは全くかけ離れた私室。
もしかしたら、この寒々しい部屋こそが本来の彼女の心象風景なのかもしれない。
だとしたら、ヴァリオンはこれまでルルリアの寂しさに全く気づいてやれていなかったことになるだろう。
ヴァンは「俺は今までこいつに何をしてきてやれたのだろう」と軽い自己嫌悪に陥る。
その安っぽいベッドにルルリアを寝かせ、薄っぺらい布団をかける。
この部屋には椅子という気の利いたものすらない。
ヴァンとシンバは手持ち無沙汰に立っていることしか出来なかった。
何か行動を起こそうという気すら起きない、とても他人行儀な部屋だった。
こんこん、とドアをノックしたにも拘らず返事を待たないでデイジーが顔を出した。
甲斐性のない野郎二人は気球発着場で出迎えてくれた彼女に『ルルがグラビモスの睡眠ガスに中てられて寝っぱなしになった』と嘘を吐き援助を求めていた。
手桶に熱いお湯と清潔なタオルを持ち込んだディズは慣れた風に部屋に上がりこむ。
そしてルルに近づくと「勝ってこいって言ったじゃんか」と微笑みながら軽くそのおでこを小突いた。
「それじゃ、とりあえず体拭くから、男共は出てってくださいな。って、なんてカッコなのよ、このコ」
シンバがせっかくかけた布団を遠慮なく捲り上げ、ルルリアの姿をみてデイジーがヘンな声をあげる。
それもそのはず、ルルリアはだぶだぶのTシャツに毒々しい色の男物のパンツを着させられていた。
シャツには『I LOVEフルフル』の文字とともに、その男性器を模した頭部がナニかを吐き出しているエグいタッチの稀白竜が描かれているかなりのセクハラTシャツだったし、トランクスの方も、アスールシリーズの防具を着たディフォルメされた女の子がパンチラしているイラストが描かれた、かなぁり微妙なアイテム。
布団を持ち上げたままディズはしばし固まり、じっとりした視線をそこで所在無げにしている男二人に向けた。
「…どっちの趣味?これ。まさか、ヴァンじゃないでしょうね?」
ドスの効いたデイジーの声に、男二人はぶんぶんとかぶりを振ってお互いを指差す。
そしてお互いに趣味の悪さを擦り付け合いながらド付き合う。
Tシャツはヴァリオン、トランクスはシンバの私物だったりするのは秘密だ。
とりあえず、着せたモノはどうあれ、金鱗が剥がれたルルリアは真っ裸だった。
男として嬉しい気持ちはどこかにあれど、一般論として意識の無い恵体美少女を裸のままにしておくわけにはいかない。
いくら妹みたいなもの、という認識があってもヴァンはルルのここ最近の発育の良さにもやもやと思うところはあったし、シンバに至ってはもうはっきりと好きな女の子のボディなわけで、緊急事態ゆえに着替えさせちゃいました!ラッキー♪…というのはどうなんだ、という理性という名のブレーキがどうにか働き、その等身大の着せ替えルルちゃん人形は一度きり、お兄ちゃんの手で手早くお召し物を装着させられるに留まったのだ。
実はルルの持って行ったバッグの中には当然彼女の着替えもあったのだが、帰りの気球に乗った後にそのことに気づいたバカな男二人だった。
ディズの腕に押され、廊下に押し出される男二人。
まぁ、とりあえずは大丈夫だろう、と【リューシェ】の女子アパートを後にする。
これからローナ団長に説明出来る部分だけではあるが、経緯報告をしなければならない。
任務失敗の報告をしなければいけないのは心苦しいが、仕方ない。
「メシ奢ってやるから、お前も付き合え」とのヴァリオンの言葉に、シンバは異論なくうなずき、二人はトゥトゥに向うのだった。
◆
デイジーはよくわからないTシャツとトランクスをルルリアから脱がせ、その二つをくず入れに突っ込んだ。
あんな下品な絵柄のモノを女の子に着せるなんて非常識にも程がある。
というか、アレを着せたということは、二人はルルの裸体を見たってことだろう。
ディズの脳裏に、裸のルルリアをじっくりまったり舐めるような目で視姦するスケベな顔の二人が浮かぶ。
「男って、ほんと馬鹿な生き物なんだから!」と想像の中の二人にビンタを入れるとルルリアの腕を取って優しく拭いだした。
デイジーから見ても、ルルリアは小柄だとおもう。
だが、その細い腕にはしっかりと筋肉が詰め込まれ力強さを感じる。
ふとももに触れてみても、ただ柔らかいだけでなく沢山の力が蓄えられている、そんな感じがする。
なりは小さくても立派にモンスターハンターなんだ、とディズはなんだかお姉さんな気分に浸っていた。
ディズの用意してきたちょっと熱めの湯に浸された綿布は、汗が乾いてじとついたルルの肌をさっぱりとふきあげ、彼女の体を清潔にしてゆく。
さすがに女の子同士、色々とわかっているのかディズの動きには慣れたものが見受けられた。
ただ、デイジーはルルリアの体に刻まれた傷痕を見る度に少し切なくなる。
確かに自分も工房の娘、ハンター達が誇りを持って危険に挑んでいることは知っている。
だけど、こうした女性ハンターたちが死地に出向くことを恐れていないことに、なんだか怖くなってしまうのだ。
だから自分と同年代のルルリアが狩りに出かけるときに一抹の不安を感じていた。
でも、同じくらい羨ましさも覚えている。
屈強な男たちに囲まれて、彼らと同等、いやそれ以上の働きをして自分よりずっと大きなモンスターと対峙する。
そんなルルリアを、ディズは羨望の気持ちで見てもいたのだった。
「さていいかな、これで。あ、髪も梳いておくか。はいルル、ごめんね」
ルルリアの体を隅々まで濡れタオルで拭き、手のひらで少し扇ぎながら乾かす気持ちになる。自らのポーチから白檀の木で拵えた櫛を取り出すと、ルルのシルバーブロンドに梳き入れた。火山の熱気にやられて、いつもの輝きがいくらか褪せている銀髪を何度も梳かし整えてゆく。お互いに顔をあわせるとつい口喧嘩っぽいことをしてしまうルルとディズだが、それぞれの良いところは認め合った仲の良い友達でもあった。