先手はシンバだった。
走りこんでノーモーションで得物を振り上げる。
機械槌は的確に雪獅子のアゴを捉える。
ヒットした瞬間に撃鉄が、がちん!と力強く戻り、ハンマーに内蔵された弾丸に命の炎がともる。
その爆発はいましがたヤツの下あごに叩き込まれた打撃の威力を更に増し加え、一発でドドブランゴの自慢の鋭牙を吹き飛ばした。
ドドはいま、何が起きたか全く解らなかった。
この目障りな人間どもを威嚇してやろうと吼えたとたん、顔面に物凄い衝撃と熱が叩きつけられた。
頭がぐらぐらする。
この人間たちは明らかに敵だということは解った。
もう、容赦はしない、食い殺してやる。
だがしかし、ドドブランゴが体勢を立て直す暇を与えずヒューマ渾身のぶん回しが大猿の腰骨に撃ち込まれる。
初っ端の攻撃ポイントをあえてシンバに譲り、ヒューマはそのドドブランゴに負けない太腕に力を集めていた。
シンバの初撃が部位破壊に成功したのを確認し、ヒューマは体ごと回転し始める。
屈強かつしなやかなヒューマの体に蓄えられたエネルギーは徐々にその回転速度を上げ、ドドブランゴの剛毛に守られた体を滅多打ちにしてゆく。
【毒怪鳥ゲリョス】の頭を模したその禍々しい打撃武器は、内蔵された劇毒袋から一発ごとにぶしゅぶしゅと猛毒を吐き出しながら猿の体に強烈な打撃を与え、ヒューマは毒液が自分にかかるのもお構いなしにその連打の回転を緩めない。
ドドブランゴの真っ白に光る毛並みは今や毒液に犯され、まさに毒々しい紫色に染まっていた。
シンバは容赦なく雪獅子の石頭に攻撃を続け、その頭の大きさの割りに容量の少ない脳髄を揺らし続けている。
ドドブランゴはもうなにも出来ずに倒れこみ、その威厳と同時に気を絶した。
この間、二分とかかっていない。
ドドブランゴはただ、一度吼えたのみ。
その豪腕を振るうことも、ジャンプ力を示すことも、氷結袋から必殺の冷凍息吹を吐くことも出来ず、だらしなく地べたに伸びてしまった。
その瞬間、判定ネコが三匹とも両手の旗を高く上げ、両者引き分けを宣告する。
そのサインを二人は目の端で捕らえ、それと同時に闘技場の隅に備え付けられた『対人用』アイテムボックスに走る。
まさしく【VSクエスト】である。
モンスターのみならず、そこにいるハンターすら敵というこの技量を競うクエストこそ、違えた互いの意見をねじ伏せるに相応しい物なのであった
ここからが、本当の勝負だった。
ドドブランゴなんぞ二人にとって前座か余興でしかない。
引き分けになるのは予想済み、というか、サスケもシンバもそうなるように息を合わせていたのだった。
メインターゲットの雪獅子狩猟が終わって、ギルドが内容協議している間のごく短い“待機時間”こそが彼らの勝負の時間だったのだ。
シンバは背後に殺気を感じ飛びのく。
今まで自分が立っていた場所が投げつけられた【小タル爆弾】によってえぐられた。
飛び退きざまに自分も同じように爆弾を投げるが、ヒューマは落ち着き払ってその小タル爆弾をハンマーで向こうの方に打ち上げ、上空で花火のように爆発が起きた。
シンバは連続して小タル爆弾を放り投げる。
それを全てことごとく打ち返す、もしくは跳ね返すヒューマ。
そこいら辺りは爆煙と火薬の臭いが立ちこめ、なにがなんだかわからなくなる。
ヒューマはその煙を避け目線を煙の中に佇む人影に向けたまま一歩後ろに下がった、が、ふとその素足の裏に不自然な感触が伝わる。
しまった、と思う間もなくかちりと発動した閃光玉がヒューマの視界を奪う。
シンバは小タル爆弾を闇雲に投げつけながら、閃光玉をヒューマの足元に転がしておいたのだ。
その内のひとつをタイガーマスクがうまく踏みつけ、ピカッと眼の眩む光が周囲に広がり、一瞬で消える。
思わずつむってしまったまぶたを開き、ヒューマは顔面に突きつけられる正式採用機械槌の弾倉をみやった。
このVSクエスト以外では、ギルドや官憲は対人間にむかって武器を振るうことを禁じている。
つまりシンバはその凶器を振りぬいても構わなかったのだ。
だが、彼はヒューマの顔面で寸止めした。
それは、勝者ゆえの傲慢さではなかった。
師からの恩を仇で返す、その罪悪感からだったのかもしれない。
彼は非情に徹し切れなかったのだ。
「師匠、俺は……」
シンバが口を開き、何かを話そうとした瞬間、ばがぁん!と物凄い衝撃音が闘技場に響き渡った。
ありえないくらい本気の一撃をモロに受け、遥か上空に吹き飛ぶシンバ。
真っ青な空を飛びながら、薄れ行く意識で地上に目をやると、ナイスショット的なフォームで【デスヴェノムヘッド】を振り上げ「ファーっ」と言うタイガーマスクの嬉しそうな声が聞こえた。
ブラックアウトする思考の裏側で「ありえねぇ……あのくそネコマスク……」と恨み節を思ったところで哀れなシンバくんは闘技場の地面に叩きつけられ、完全にその意識を途切れさせた。
地べたにつっぷして動かなくなった愛弟子を睨み付けながら自慢の筋肉をもりもりとアピールする容赦のないヒューマ師匠。
後ろではギルドネコが両手の旗をぶんぶんと振りホームランだニャ!と喜んでいた。