酒場とはいえ猟団の施設であるここは団員達が仕事をしやすいように設計されている。
ダイニングでもある酒場の奥に増築されているドレスルームの扉を閉めたルルリアは、ちいさくため息を吐き、自分に割り当てられたブースの前で防具の留め金を面倒くさそうに外していく。
がしゃり、がしゃりと無骨な音を立て、紅い蟹の甲羅を使った鎧が床に投げ捨てられる。
落ちた傍からそれをメイドネコが拾い上げ、メインテナンスルームにさっさと運んでいく。
その猫が去る後姿を見ながら、彼女は今自分がくしゃみをしなかったことを不思議に思った。
「ネコアレルギー、じゃなかったの、かな?」
いや、とりあえず、クエストから無事に戻ったことを仲間に早く挨拶しなければならない。
ルルリアはとっておきにお気に入りのロビー装備を探してドレッサーボックスをごそごそと漁る。
ろくすっぽ整頓されていないその魔窟からはたして目当ての装備を見つけ彼女は、にっと笑った。
◆
「ぃやっほぉ~ぅ♪」
弾ける勢いでドレッサールームから飛び出たルルリアは、酒場中から注目を浴びる。
まぁ、それもそのはず狩猟時とは違い、彼女の普段の出で立ちは目のやり場に困るほどの際どいコスチュームだからだ。
ルルリアのお気に入りの普段着は【ガルーダスーツ】に【メラングリーヴ】それに【ヒプノフォールド】を腰に装備する、という常時サンバ祭りな装い。
ガルーダスーツは、襟口に【眠鳥ヒプノック】の上橙毛をふんだんにあしらい、ド派手なオレンジ色に飾ったレザービキニだったりする。
それ自体は地味でシンプルな構造ながら、そこに色鮮やかなヒプノックの羽毛素材が飾り付けられる事により、その注目度はただのビキニブラを遥か高次元で凌駕する。
そしてそのやや小さめなカップからこぼれそうな大きさの彼女の乳房は、居合わせた男性ハンター達の歓声を否応無しに引き出す。
余談だが、ルルの乳はデカい。
そりゃもう、たまらなく大きく、しかも形が良いのだ。
そして彼女が歩くたびにフリフリと揺れる腰のベルトから伸びた数本の上質な橙毛の隙間からは、ルルリアの形の良いお尻と張りのあるフトモモがちらりちらりとその存在を主張する。
それもまた、違う嗜好のヤツがGJサインを示しあう。
脛の部分に鋼の装飾が施されたロングブーツに黒い革のガーターベルト、それに鞣された蛇竜の皮でしっとりと仕上げられたアンダーパンツといった構成のメラングリーヴ。
そのタンガタイプのバックスタイルは“ハンターとして動きやすいように”切れ上がり、彼女の下半身を悩ましくガードする。
更には、背中の中程まであるシルバーブロンドを耳の上で結び、尾晶蠍の結晶をワンポイントとする【アクラコサージュ】のショートツインテールはルルリアの持つ童顔の幼さを必要以上に際立たせる。
まさしくそれは少女と女性の間で揺れるアンバランスをテーマとしたコーディネート。
まぁ、彼女は自分の見立てをはっきりと“ムダにエッチ”と理解しているので、ヴァリオンが幾度「はしたないから止せ!」と注意しても聞き入れる素振りすら見せない。
まったく困ったものである。
「わたくしルルっぺと、その愛犬ヴァンは、依頼を余裕でこなし、ただいま帰還いたしましたぁ!」
そして彼女は、コケティッシュな仕草をとりながら同姓異性問わずそれぞれの団員に「はぁい♪」だの「あふぅ♪」だのと愛敬を振りまく。
「アレが愛犬かよ!趣味悪ぅ」とのツッコミが入り、酒場にドッと笑い声が上がる。
ルルリアが、いわば【エロ装備】で登場したことでダイニングホールの中の温度がいくらか上昇する。
彼女の周囲には同じように【エロカワイイ】装備で身を飾った女の子ハンターが集まり、それぞれの装備談義に花を咲かせ始め、一種独特の不思議なピンク色の雰囲気が広がる。
ここは本当に狩猟団の施設なのだろうか?
一方、ヴァリオンはひら豆と【火竜リオレウス】の塩漬け肉の煮込みを食べていた。
【呑竜パリアプリア】の軟骨と【はじけイワシ】で合わせ出汁をとり、岩塩と胡椒で味を整えた香り高いスープを口に運びながら、妹分の動向を見やる。
ルルリアは感情の落差が激しいヤツだ。
今はあんな、ほえほえしたテンションで同じ団員の女の子ハンター達とエッチ装備自慢をしているが、狩猟の時は冷静さというより冷酷さが際立つ戦い方をする。
いや、するというより、好む。
散々な攻撃を受け、弱り、脚を引きずりながら巣に逃げようとする哀れなモンスターの姿を見ても全く躊躇せずに武器を振り下ろすことが出来るのだ。
その戦い方は、モンスターハンターとして頼もしい反面、簡単に裏返る非常に危うい部分も含んでいる。
ルルリアは、誰かがきちんと導いてやらねばならないのは明確だった。
彼女の兄貴分として常に彼女に訓練を施してきたのはまさしくヴァリオンだった。
確かに、アイツは飲み込みが良く、武器を扱うセンスも悪くない。
だが、性格だけはどうにも掴みきれないところがある。
「師匠……。自分にはルルを導くことが、出来るのでしょうか」
殆ど空になりかけたスープ皿に目線をおとし、ヴァリオンは一人ごちる。
横柄と取られても仕方ない大きな態度を崩さないヴァリオンだが、自分の師のことを思い出すたびに自らの存在の小ささと技術の無さを思い知ってしまう。
自分には師の厳しい部分は真似できても、ハンターとしての生き方を教えてくれた部分を伝えることが出来ていないように思えてしまう。
「なんだなんだ、でかい図体して。シケてんなぁ」
その覇気の無いヴァリオンの向かいの席に、どっかりと腰を下ろしたのは細面で長身の副団長アシュレー。
いつも眠そうな動きをしながらも、そのガンランス捌きはこの猟団随一の腕前だ。
彼のプライベートルームは所狭しと【ガンランス】と呼ばれる銃撃槍が並び、その機械仕掛けの戦槍に対する入れ込み様を物語っている。
彼はポケットを幾つか探りながら「あれ、ねぇなぁ」とか「どこだっけ」とか一人でぶつくさ言いながらやっと目当ての物を取り出した。
そのまったく大切にされていないしわしわの煙草箱を取り出すとズイ、と彼に突き出す。
「ん」
なかなか受け取らないヴァリオンを急かし、自分も一本咥える。
そしてまた「あれ、火打ち無ぇな」とか「こないだ捨てっちまったかな?」とぶつぶつはじめる。
いつものこと、と見かねたウェイトレスがあきれた顔で火を差し出し営業スマイルで微笑む。横から出された火打ち器に少しだけ引いてから、出所を確認して彼は礼をもごもごと言った。
「お、ありがと」
給仕の女の子はヴァリオンにも火を渡し、軽く会釈してカウンターに戻っていく。
「んで、なんだよ。依頼は達成したんだろ?」
話しながら煙を吐き出し、アシュレーはヴァリオンのスープ皿を覗き込む。
「なんだよもうないじゃん」とかつぶやきながら彼はせわしなく椅子に座りなおす。
「いや、クエストのことじゃないよ」
ヴァリオンは煙と一緒にため息を細く吹出しながら誰にともなく答える。
「まぁ、いいンじゃねぇの?アレはアレで。自分の中で切り替えきっちり出来てんじゃねぇの?アイツも」
一寸の沈黙の後に、アシュレーはそう言い放つ。
先だってのヴァリオンの視線から、気がかりを読み取っていたんだろう。
彼もルルリアに目を向け、咳払いをひとつ。
アシュレーはヴァリオンと嗜好が近いこともあってこの大きな猟団の中でも割とよく行動を共にする。
ヴァンがルルに手を焼いていることを知っている人間の一人だ。
曲がりなりにも副団長という上級幹部のアシュレーはこうして団員のケアをそっけなくもマメに気にかけている。
「別に思いつめるほど悩んでいるわけじゃないんだ。ただ、アイツの親父さん達のことを考えると、さ」
「ふぅん」と気の抜けた返事をしながらアシュレーは「……親父さん、ね」と繰り返し、隣にやってきた自分のパートナーのユゥナに「ヴァンと同じスープ、余ってないか見てきて」とか話しかけている。
「ルルのヤツがまともなハンターになってくれないと、俺はグラム師匠に顔向けできないんだよなぁ」
空になったスープ皿をいたずらにスプーンでつつき、ヴァリオンは「はぁ」と幾度目かの重いため息を漏らす。
しかしふと、周囲の空気が変わったことに気づき視線を上に上げると、アシュレーとユゥナが身を乗り出し、ヴァンに迫っていた。
「今、何て言った?」
ズイ、と寄ってくる二人に気圧されながらヴァンは同じ言葉を繰り返す。
「え?……る、ルルのヤツがまともなハンターになってくれないと、俺はグラム師s」
ヴァリオンが言い終わる前に、二人は声を揃えて言葉を放つ。
「「ぐ、グラム師匠ッ!?」」
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