見事(?)立派(?)に試験をパスしたデイジーを囲んでささやかながら祝勝会が開かれている。
彼女が入団希望申請を提出したのをキッカケにトゥトゥの一角を借りて行われたその集まりには【リューシェ】の連中も幾人かそのテーブルに顔を出していた。
「ウチのが逝ってから、お前は俺に気を遣ってばかりだったからなぁ。こうやって自分のやりたいことを見つけてくれて俺はうれしいよ」
デイジーのハンターライセンスを手にしたパパガイが、ガラにも無く湿っぽい話を始める。
「女の子が鍛冶職人になるっていうのもすごいなと思ったが、まさかモンスターハンターにまでなっちまうとはなぁ」と続け、小さな声で「血かね…」ともつぶやいた。
既にアルコールが入っているアシュレーとヴァンは肩を組んで大声で歌を吟じている。
幾分か調子はずれの歌声に揉み消されたパパガイのこぼしたその声はしかし、デイジーとルルリアにはしっかりと届いたようで、ユゥナがお酌してくれた幻の【黄金芋酒】をちびりと口に運んだ親父に娘が尋ねる。
「血、って?ママってハンターだったっけ?」
母親のことを『ママ』と呼んでいたことをルルにニヤリと突っ込まれ、ちょっと赤面しながらデイジーはパパの言葉を待つ。
そんな自立の道を歩き始めた愛娘に、パパガイは話を続ける。
「いや、かぁちゃんは普通の料理人だったさ。俺だよ。俺が昔ハンターだったのさ」
普段は呑まない高級な酒に酔ったのか、パパガイの口はいつもよりやや軽い。
ユゥナが調子よく酒をすすめ、その杯をパパガイはこれまた調子よく傾けてゆく。
「俺の家系は代々モンハンでな。親父も爺さんもハンターだったのさ。俺も二十代はバリバリのモンハンだったんだぜ?……おねぇちゃんさ、なにか湿りもの、ないかな?」
自分の言葉にぐい、と胸を張った後すぐ背中を丸めて、ユゥナが持ってきてくれた【サシミウオ】のお刺身を一切れ口に入れる。
「あるとき、酒場で食べた【オッタマケーキ】の美味さにまさしくおったまげてな?それを作ったかぁちゃんに惚れちまったわけだ!」
だんだんとパパガイの話が怪しくなってきた。
なんだが、ユゥナがクラブのホステスのようにその話に合わせながら酌を続け、パパガイの話をどんどん脱線させてゆく。
結局彼の話は自分と奥さんの馴れ初めから交際中の出来事から新婚生活の暴露まで至ってしまった。
そしてやっぱりというかなんというか、べろべろに酔ったパパガイもヴァンとアシュレーに混ざってひどいダミ声を酒場に響かせる仲間に加わってしまうのだった。
呆れ顔になりながら、ルルとディズがその様子をみて顔を見合わせてやれやれと肩をすくめた。
その二人にユゥナとパットの魔の手が迫っていた。
ルルリアに酒を呑ませようと、年上の権限を利用して二人が彼女をなだめすかし迫る。
「デジちゃんのお祝いなんだから、ルルも呑まないと、ねぇ?」
「そうそう、お祝いなんだからねぇ?……ルル、呑みなさいよ、ほら」
自分たちも酒気に中てられた顔で、ルルリアに迫る大人の女。
ルルはいつものガルーダ装備だから【キャストオフ】するのに二秒とかからない。
このままではまた皆の前で脱皮して蝶になって(意味深)しまう。
それはマズイ。
「い、いえ。ほら、その…あたし【お酒アレルギー】なんで…へっくしッ!」
嘘くさいくしゃみを連発し、二人の追撃を必死にかわすルルリアをデイジーは嬉しそうに見つめる。
こんなにもにぎやかで、楽しい仲間に囲まれている彼女と同じモンスターハンターになれた自分を本当に嬉しく思う。
これから、もっと技術を磨いて本当の意味でルルリアと親友になりたいと思う。
そうこうするうちに段々とトゥトゥの中は、収拾がつかなくなりつつあった。
ささやかなハズの集まりは限度を知らない酒呑み達のせいでどんどん規模が膨らんでゆく。
そこに狩りに出ていた連中も帰還しはじめ、仲間が楽しそうな酒盛りをしているのに気づく。
その空気を、ある意味【正しく読める】団員達は騒ぎに積極的に加わり始め、デイジーのライセンス取得を祝う個人的なはずの祝勝会はなぜか団を巻き込んだ大宴会になってしまった。
「え、と。これは、いくらなんでも…ねぇ?」
デイジーが引きつった笑顔を向ける先ではそこかしこで乾杯の音頭が取られ、あちこちでジョッキがぶつかって大盛り上がり。
主役のはずのデイジーはほったらかされて、所在無さげに端っこのテーブルで炒られたミックスビーンズの皿をつついていた。
一応、乾杯の前に『デジちゃんおめでとう!』という言葉がちらほら聞こえるが、その後直ぐに『デジちゃんって誰?』『さぁ?ま、いんじゃね?呑もう呑もう』という台詞が続く。
ただ騒ぎたいだけなのが丸見えだ。
「ねぇ、いつもこんな大騒ぎなの?」
ユゥナとパットの強引な勧めを断わりきれず、それぞれの杯を一回ずつ傾けて隣に帰ってきたルルリアにひそひそ声で聞いてみる。
ディズのその言葉をルルは否定しない。
「真面目な時とバカな時のギャップは大きいよ」というルルリアの言葉のとおり、今まで『武器職人』としてしか接点の無かったデイジーのモンスターハンター達の認識が新しく形成されてゆく。
良いのだか悪いのだかしらないが、再認識されてゆく。
ふと、気づくと隣のルルが頭をブンブンと振っている。
尾晶蠍の髪留めに結われたツーテールが勢いよく振り回され、壁のランタンの光をちらちらとコマ送りに映し出している。
ああ、アレか。
このコは酔いが回ると脱ぐ、というのは本当らしい。
それで必死にアルコールと戦っているのか。
「あんたね、頭なんか振ったら余計に回るわよ?…ほら」
カウンターで氷を入れてもらってキンキンに冷えた水を持っていく。
ちょっとした心意気にレモンを一切れ、タンブラーに突っ込んで。
それを一息に傾け、ルルリアは赤い顔で下品なあい気を吐き出す。
コレは本当に酒に弱いのではないか?
無理して呑む様なものではないのだが。
というより、あの小さな杯にたった二口の量でここまで赤くなれるなんて安上がりなヤツだ。
同い年とは思えない童顔な横顔を見ていると、その視線に気づいたのか彼女はこっちに向き直った。
そして今更な言葉を臆面も無くのたまった。
「デイジー、ライセンス取得おめでとうだよ!」
「やったね」と嬉しそうな彼女は、耐性のない酒気にほろ酔い、生意気さの無い笑顔。
そんなルルにディズはなんだか毒気を抜かれる。
こいつのふにゃりとした笑顔を見てると酒場の中の喧騒も、これはこれでいいかもしれない、と思えてくるから不思議だ。
奥のステージではハンターが弾いているとは思えない程上手な腕前のピアノ演奏が始まり、何組かのダンスで盛り上がっている。
そのともするとやかましく聞こえるBGMを聞きながら、デイジーは酒場の中を見渡してみる。
長椅子ではパパガイ親父が無様に寝姿をさらしている。
ヴァリオンもいろんなテーブルを渡り歩き、そこらでジョッキを空にしていた。
隣ではルルリアに酒を勧める輩が後を絶たない。
男連中のみならず、なぜに女性ハンター達までがルルのストリップを求めるのかが今一、理解しかねた。
自分もこの連中の仲間になったという、実感はまだ無い。
ただ、これからの狩猟生活を思うとき、不安より期待の方が大きく思えるのは嬉しかった。