「シンバさんは、ガンランスをお使いになるのですね?ルルちゃんにも教えてあげたらいいのに」
風影と荊琴のせいで甘ったるい雰囲気の昼食を終え、食後のデザートが運ばれてくる。
目の前に置かれた柑橘系のタルトを見て、女性陣は黄色い声を上げる。
いつもは食事に重きを置かないルルリアも、やっぱり女の子。
こういった手の込んだ甘味はやはり、嬉しいものだ。
そのタルトをつつきながら、荊琴が言う。
何度かルルリアと狩りに出たが、こいつが一向にガード武装を使わないのは何か意味があるのか、と続ける。
「えー。ガード武器嫌い。重いし、鈍いし、強くない」
フォークを咥えたままぶーたれるルルリアに、荊琴は「なんでも満遍なくこなさないと『いつか』困りますわよ」と微笑みながらシンバに目配せする。
どうしてこの新しい友人は不思議とルルの扱いが上手なのか。
彼女の言葉に、その細いあごをさすりながら結構な真顔で考え込むルルを見て、シンバがそんなことを考える。
「……じゃあさ、俺のリハビリに付き合ってくれないか。ランスでも、ガンスでもいいからどっちか担いでさ」
なにか言え、早く言え、と強い視線を荊琴から感じ、シンバはルルリアを狩りに誘う。
そのシンバの言葉に、あごに手を当てたまま目線だけ寄越すルルリア。
「じゃ、シンバ。何か良いガンス教えてよ。私持ってないから」
「ディズんトコでもらわないと」と続ける。
今まで何回ガンランスを薦めても一向に見向きもしなかった彼女が初めて見せた興味に、正直シンバは驚きを隠せない。
「それじゃ、善は急げ、ですわぁ♪…風さま、後ほどまた」
急かす様に席を立ち、相方となんらかのアイコンタクトを交わした荊琴の行動はすばやい。
レシートをひらりと掴み、さっさと精算まで済ませてしまう。
折角だからヴァリオンとデイジーとの四人で行こうと思っていたシンバは彼女が付いてくる気満々なのを見て、ソレを言い出すことができなかった。
そうしてトゥトゥを後にし、ガルデニア工房へ向かう途中、メゼポルタ広場に通りかかったとき、シンバは見知った二人組を見つける。
そういえば退院してからまだ一度も顔をあわせていない。
広場のクエスト募集掲示板の前で、黒髪の三つ編みとキャラメルブロンドのストレートが揃ってその貼り出された依頼を選んでいた。
ヴァンの背には見たことのない大剣が縛りつけられ、いやに目を引く。
あれはなんて武器だろう。
ディズの肩にも、恐らくライトボウガンと思わしき小銃が下がっているが、それも遠目でわからない武器だ。
デイジーかパパガイの新作だろうか。
それも非常に興味がある。
そういう意味で、ディズのヤツがハンターになったというのはお得感があるな。
きっと役に立つんだろうな、あいつが持っている職人としてのスキルは。
クエ最中に何か便利道具を作るってのもお手の物だろうし。
「おい、あれ。あの二人呼ぶか?」
ところが、そう言って広場に向かおうとするシンバの服の裾をつかみ、ルルリアは軽くかぶりを振る。
少しだけ濁ったその眼差しがどうも気にかかったが、先で立ち止まってこちらをにこやかに待っている荊琴に向かって歩みを速めたルルの後を追うシンバ。
背中でヴァンの笑い声が楽しそうに聞こえたような気もしたが、とりあえずシンバは先を急ぐのだった。
パパガイも、ルルリアがガンランスを見せてくれといった時に、自分の耳が壊れたかと思ったらしい。
「お前、熱でもあるのか?」と失礼なことを言いながらルルリア個人の素材台帳を引っ張り出し、彼女のストックしている素材とガルデニアの生産リストを見比べる。
そして「コイツなら持ってっていいぞ」と武器リストを突き出した。
「わがんね。シンバ選んで」
太刀やエロ防具に関してはスゴイこだわりを持つルルリアだが、とにかくランスやガンランス、そしてボウガンや弓には関心がない。
ヴァリオンから一通りの訓練は受けているが、いかんせん人には向き不向きというものがある。
その越えられない壁を、まさしく越える気もさらさらないルルリアは今まで本当にガード武器を使ってこなかった。
ルルの言葉に、シンバのみならず荊琴やパパガイも苦笑する。
ルルリアというハンターは高性能なんだかポンコツなのかよくわからない。
だが、こうしてキッカケはどうあれ自分を広げるのはどんなことでも損ではないはずだ。
シンバは赤マルが付けられたリストの中に、面白いガンランスがあるのを見つけてパパガイにソレを返した。
「ほほぅ、さすがシン坊だな。おーい【トライファイア】持ってきてくれ!」
奥の弟子に大声で呼ばわり、シンバに対してニヤリとその白い歯を見せた。
「ついでにお前の【デッドウィング】も今軽くメンテしてやるよ」と言い、シンバから真紅の銃槍を受け取り分解しだす。
五分とかからずにカウンターには太めの筒がごろんと転がされ、それと対になっているらしい厚めのラウンドシールドがその隣に置かれた。
【トライファイア】という名のそれは黒く輝く銃身に、金の金具で装飾された高級感溢れるガンランス。
気品さと重厚さを持ち合わせる、見た目も渋い一品。
そのバイアネットはダマスカス鋼の波紋も美しく、厚めの鉈のように幅広で鋭く重い。
その鈍く光る刃を見ただけで切れ味の良さを想像できる代物だ。
銃口が3口あり、それぞれが【愛、勇気、希望】現しているらしく、小径の弾丸を同時に三発発射出来る高性能なものだ。
銃身と対になる盾は、動きの邪魔にならないようにやや小さめ。
しかし、その惜しげもなくたっぷりと鋼を使って鍛えられた厚みのあるボディはモンスターのちょっとやそっとの攻撃など意に介さない防御力を持っている。
「へぇ、カッコいいね。これ、いいの?」
とりあえず新しい装備は嬉しいのか、いままで余り乗り気ではなかったルルが食いつく。
「持っていい?」とパパガイに聞き、彼が頷くとその黒い塊を背に担ぐ。
左手でシールドを掴むと工房の中をあっちこっちと軽く走ってみた。
身軽さが身上のルルリアにとって、機動力は大きな武器だ。
その利点をスポイルしてしまうことになりかねない重装備は極力避けてきた彼女だが「こうして体が包まれているような安心感を感じる装備というのもいいかもしれない」と考え方を変えてみるのだった。
ガルデニア工房から赤いガンランスと黒いガンランスが並んで出てくる。
新しい武装というのは、なんとなく自分が強くなった気がするものだ。
現金なもので、このガンランスを早く試したいという気持ちが大きくなっていくルルリアだった。
シンバも、師から受け継いだ歴戦の武装を早く使ってみたかった。
二人はなんとなく早足でメゼポルタ広場に向かうのだった。
数多く貼り付けられた依頼用紙の中から、荊琴が一枚ぷつんとその画鋲からちぎる。
勢いで一緒に抜けた画鋲をかがんで拾う彼女の胸の谷間がちょっと気になったシンバだったが、彼女が自分のリハビリ用になにを選んだかも気になる。
ルルリアの手に渡されたその依頼にはこうあった。
『夫婦竜狩猟』
キャラバン隊が通る森丘に、ここ最近【火竜】と【雌火竜】がツガイで現れるようになった。繁殖期だから何処かに巣を作っているらしいのだが、どうにも危険すぎて流通が滞ってしまった。
報酬は普通のレウスやレイアよりも倍出すから、あいつらをどうにかしてくれ。