「ん-、いつ見てもでかいよねぇ」
エリーがルルリアの胸をしげしげと見やり、ため息をつく。
「あちしもそれくらい胸があればなぁ……」と自分の胸部を弄りながら誰に言うわけでもなくぼそぼそとこぼす。
そういう自分もチューブトップビキニスタイルの【シャランスーツ】を着ているので、可愛いヘソが丸見えでボディラインが強調され、それをそれとなく自慢げに晒しているのだが。
濃い目のワインパープルに染め上げたウルフカットに猫耳のついたヘアバンドを誇らしげに装備し、切れ長のクールアイが印象的な美人系のエリーは誰彼構わず容赦ない突っ込みを入れるので、ボケだらけの能天気な団員が多い中、ある意味非常に忙しい立場にいる。
「胸なんて飾りです!薄っぺたいのが好きな人だっているんです!」
肩があらわになったコルセットドレス調の【キノスメイル】を着込んだナツメがそう言って色めきだつ。
なるほどなるほど、彼女の胸囲は、言われてみれば少年と大差ないように見受けられる。
その分、こないだギルドが発表した新装備のキノスシリーズはゴシックロリータ調で彼女の中性的でキュートな長所を引き出している。
猟団の中でも子犬系の位置付けの彼女は、団のマスコット的存在としてからかわれながら愛されていた。
とはいえ、彼女も立派なモンスターハンター、ひとたびフィールドに立てば精密射撃の得意なスナイパーに変貌するのだが。
「うんとね、ナツミね、おっぱいは大きい方が強いと思うよ?女の子として」
ナツメの台詞を受けて、その姉のナツミが口を挟む。
そのナツミ自身は超有名エッチ装備【アスールシリーズ】のしかもガンナー装備の方を恥ずかしげもなく着用している。
ご存知だろうか。
アスールガンナーのレギンスはTフロント&Tバック、それに超がつくミニスカートがあわせられる、脚線美によほど自信がないと着こなせないハイレヴェルな逸品なのだ。
ついでにスーツもに注目してみよう。
アスールスーツは一見、変哲のないショートジャケット。
だが、上衿からフロントカットまでの線が短く、プラケットはボタンではなくシルバーチェーンでつなげるタイプなので胸元は“がばっ!”と開き、バストに絶対の自信がないと着てはいけないハイレヴェルをさらに飛び越えた逸品だったりする。
余談だが、ナツミはそれをアンダーウェア無しで着込むために胸の谷間がはっきりと目立ち、その豊かなバストを誰もが拝める状態なのだった。
ありがたやありがたや。
「姉は黙っててください!持っている者は持っていない者の気持ちなんて理解できるはずないんだぁ!」
「いつもあんたと比べられるボクはみじめなんだぞ!」とナツメは口を尖らす。
身長もスタイルも、姉にかなわないというコンプレックスは結構なプレッシャーのようだ。
「でも、ナツメの方がハンターとしての腕はあるでしょ」
エリーが痛いことをしれっと突っ込む。
とたんにナツメは満面の笑みを浮かべ勝ち誇ったように言い放った。
「そうだよね!こないだ姉が【ババコンガ】に求愛されて逃げ回ってたところ助けたの、ボクなんだからね!」
「いや、それはハンター関係ないだろ」
とあくまでもエリーは容赦ない。
「ババコンガに求愛?ナツミさん、なにやったの?」
「それ知らない」とルルリアは怪訝な顔でナツミに問いかける。
するとナツミは普段ののんびりした様子からは想像できないくらい取り乱し、あわあわしながら答える。
「だってね、あのときね、【カンタロス】に突っつかれてね、知らないうちにネ、破けちゃってたの!」
「「なにが?」」とルルリアとエリーが異口同音でたずねる。
「…、…つ」
もごりもごり、と口の中だけで答えるナツミ。
「なんだかわからないわよ」とエリーが更に言い終わるまえに、鬼の首を取ったようにナツメが大声で言い放つ。
「姉は、カンタロスにつつかれて、パンツ破れたンだよね♪」
ケタケタと嬉しそうに笑いながら言うナツメの頭を一発、ぽかりと叩き、ナツミは言い訳を続ける。
「うんとね、さすがに破けちゃったままね、戦えないからね、着替えてたの。そしたら、なんか」
姉が照れながらたどたどしく言葉を並べている間に、妹が真相をぶっちゃける。
「丸出しのお尻をババコンガに見られて、発情されたんだよねぇ♪」
「きゃはは」と腹を抱えて笑い転げる妹を、それこそ桃毛獣ババコンガのように真っ赤に怒ってゲシゲシと蹴りつけるナツミ。
それは酒場全体を会場とした姉妹鬼ごっこに発展するのにさほど時間はかからなかった。
鬼ごっこは他の団員をあーじゃねぇこーじゃねぇと巻き込みながら広がっていく。
エリーはとっくにナツメに盾にされ振り回されているし、とばっちりを食ったケビンとパトリシアのテーブルは無残にもひっくり返され、二人は料理の皿を持って隣のテーブルに移っていた。
だが、そんな彼らを含むほかの団員の顔はちっとも怒っていない。
今の状況を心から楽しんでいる様にも見て取れる。
彼らは……モンスターハンターは、いつも死と隣りあわせだ。
こんな下らない事で大いに盛り上がり、仲間と共に笑いあうことで、自らの命、生きている事を実感するのだ。
いかに鍛え上げた体を持ち、強力な武具を携えていても彼らの周囲には危険が常に付きまとう。
酒場の奥の部屋には数多くの使い古された武器や防具が納められている。
それらはみな、仲間の誰かが使用していた物。
狩猟中に命を落とし、還らざる者となった仲間達の遺品。
殉職したとしても、何か特別に弔われることもない、ハンター達の過酷な運命は時に容赦なく、そしてあっけなく命を奪っていく。
ここに集い、酒を楽しみ、笑顔を交わしている彼らも、仲間の死を少なからず見てきている。そしていつ、自分の命が終わってもおかしくないのだ……と理解していた。
ドタバタと楽しそうに駆け回るナツミとナツメをやや羨望の眼差しで見つめるルルリア。
その瞳の奥には周囲の喧騒とは反する、物悲しい光が灯っていた。
「「グラム師匠ッ!?」」
走り回る姉妹達を煽る声と野次る声の隙間から聞こえてきた言葉。
奥の席では、ヴァンとアシュレー、それにユゥナがなにやら話しているようだ。
だが、ルルリアはその方向に冷たい目線を向けただけで、扉に向かい、トゥトゥの外に出て行ってしまう。
からん、とドアに付いているベルが小さく音を上げたが、喧噪の中でそのささやかな主張に気づく者は誰も居なかった。
ルルリアが影のように居なくなったのに気づかず、酒場のイベントは姉妹鬼ごっこから防具自慢に変わり、ついで武器自慢、パートナー自慢へと発展する。
そこかしこで、やれ「お前の旦那の足は臭そう」だの「キミの彼女はよく食べる」だの、わぁわぁとバカ騒ぎが起きつつあった。
ただ、ヴァリオンの話を聞いていたアシュレー達の耳には、そんな周囲の喚声は入ってこない。
「あ、あれか?同じ名前の人間ってオチ、じゃないのか?」
まずそうに自分のジョッキを空にして、あい気と一緒に問いかける。
返ってくる答えは解っていても、とりあえずは聞いておく、という雰囲気だ。
その問いにヴァンは一言。
「いや。俺の師匠は間違いなく"冒険者グラム”だよ。ついでに言えば、師匠の奥さんは"神殺しのナァル”だ。」
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