「なるほど。これはリハビリにはもってこいだな」
とりあえず、シンバも腕のあるハンターだ。
いくらリハビリとはいえ『【ファンゴ】10頭討伐』とか舐められた依頼だったら怒ってその胸、あ、いやその旨断固抗議しようと思っていた。
その点【火竜リオレウス】【雌火竜リオレイア】の二頭同時相手ならそこそこ面白いのではないか。
「よし、これいこう。ルル、大丈夫。俺がガンス教えてやるから、な?」
にこり、と爽やか笑顔のシンバを「はいはい、頼りにしてっから」と軽くあしらい、ルルリアは装備を纏め始める。
荊琴も自分の装備の中から緑色の刀身に赤い毒々しい色の棘がいくつも突き出た大剣を引っ張り出している。
アレは【棘竜エスピナス】の大剣か。
このあたりではあまり見かけない飛竜だ。
にこやかな顔でエグい武器を背負うアンバランスな荊琴に若干怖さも感じるが、とりあえず頼りになりそうな雰囲気だ。
更衣室から出てきたルルリアを見て、シンバは少し固まってしまう。
いつもの開けっぴろげなエロス全開のガルーダ装備ではない。
彼女はいつも装備している【メラングリーヴ】と【メランアーム】はそのままに、それらに本来合わせるべき【メランジャケット】と【メランフォールド】それに【メランウィッグ】という全身シックに統一されたフルコーデの黒い装備だった。
清潔な白い開襟シャツの短い裾からカワイイへそが見える。
いつも見ているはずのそのおヘソも、他の部分がかっちり決まった状態でソコだけ見せられると、抜群の破壊力を持つ。
腰防具もふわふわした橙色の羽毛ではなく、銀板の装飾もまぶしいブラックのロングスカート。
そしてその隙間にのぞくグリーヴとの絶対領域はまさしく神の領域。
シンバは自分がこんなにもスケベだったのか、と少し落ち込んでしまう。
女の子というより女性、という大人の魅力全開のルルはそれくらい、普段とのギャップが激しいアダルトな姿だったのだ。
ヘアスタイルも少女的なツーテールを下ろし、大きな金のイヤリングを付け、軽さの中に少し重さを残した重軽ストレート。
ブローで内巻きにし、毛先のみワンカールした銀髪は両サイドの輝きがきれいに整っている。
「る、ルルリア、あの・・・…そのだな。」
「な、なによ。ヘン?…・・・なの?」
双方赤い顔で、ガンランスを担ぎ、ギルドカウンターの前でもじもじとしている。
受付のギルドガールが白い目で見ていることにも気づかずにお互いのことを意識しすぎてしまう二人。
さすがに見かねた荊琴さんが「こほん」と咳払いをして二人を現実に引き戻した。
◆
アプトノスの牽く荷台に揺られる三人。
依頼のあった森丘まではそう遠くない。
御者ネコは駄獣を急かすこと無く、その車は街道をごとごとと進んでゆく。
ルルリアと荊琴が、なにやらきゃいきゃいと話している。
話題は、荊琴の着ている白く輝く防具についてのようだ。
【尾晶蠍アクラヴァシム】や【鎌蟹ショウグンギザミ】といった甲殻種の素材をベースにして、金属のコーティングを施し、要所には固い飛竜の装甲が用いられていて、さらに秘密の新技術を取り入れた【フェルムシリーズ】という防具らしい。
鎧としては珍しく、体のラインをくっきりと現すもので、重厚さの中により動きやすさもを追求してあるようだ。
だが、いかんせん胴防具には問題があるだろう。
ごつごつした金属のエッジが下腹部から下乳まで覆ってはいるものの、上乳は完全に露出している。
かろうじて、肩を守護するプレートが脇をカバーしているものの、荊琴のように胸の豊かな女性が着るとなんだか【いけない拘束具】のように見えてしまう。
ついでにグリーヴにも問題がある。
ルルリアの愛用しているメラングリーヴのパンツもハイレグなガーターベルトだが【フェルムフット】に組み込まれたパンツもそれに負けないくらいの切れ上がり方でビキニラインを主張する。
最近の武器工房はナニを考えているのだか。
工房組合は『動きやすさとフィット感』と声高にのたまうが、今眼前にいる二人の装備はどう見ても『狩りには不必要な艶っぽさ』を追求している気がして仕方ない。
ルルのへそといい、荊琴の胸といい、本当にハンターの装備なのだろうか。
「……まぁ、それはそれで構わないが」
荊琴のその魅惑の胸の谷間に指を突っ込み「すげぇ圧力だよ!ねぇさん!」とバカなことをやっているルルリアを見て、ちょっと羨ましいシンバであった。
◆
【火竜リオレウス】
オーソドックスな飛竜種ながら、侮れない機動力と高火力の火炎を吐く【天空の王者】である。
その爪には獲物を確実に仕留める毒があり、長い尾は強力な打撃武器。
赤銅にきらめくその鱗は火竜の名に恥じない火炎にたいする耐性を持ち、鍛えれば鍛えるほどに滑らかさと丈夫さを増してゆく上質な装備の素材ともなる。
アグレッシブに飛行を繰り返し、上空からの火炎ブレスや急降下からの爪での一閃など、攻撃方法も多彩でなかなかの技巧派な相手である。
【雌火竜リオレイア】
リオの名を持つ、緑の鎧を着たレウスのつがい。
双方を親しみと皮肉を込めて、ハンターたちは【旦那と嫁】やら【夫婦竜】やらと呼ぶ。
だがこの嫁さん、物凄い肝っ玉の持ち主で、旦那がいようがなんだろうがその尻尾の先端の毒針を振り回し、獲物に向かって女のイジを見せ付ける。
しかも彼女の体力はご主人よりも多分にあり、フィールドをあっちこっちと縦横無尽に走り続け、相手をするハンターたちは心底疲れきってしまうのだ。
まさしく【陸戦女王】の肩書きがふさわしい。
ベースキャンプで送迎ネコと別れ、シンバは一通りのガンランスレクチャーをルルリアに施した。
すばやい弾丸の込め方や竜激砲の使用タイミングといった自分の蓄積してきたコツを細かく教える彼に、ルルは真面目な顔で応じる。
だが最後に一言「やっぱりシールドいらないなぁ」と言い捨て、シンバをげんなりさせるのだった。
遠くまで青く澄んだ高い空に何頭かの火竜が舞っているのが見える。
確かに、あれは怖いだろう。
ゆうゆうと我が物顔で大空に翼を広げる彼らはまさしく飛竜種の代表者だ。
翼を持たない自分たちは彼らの巣を見つけてそこを叩くしかないのだ。
一向は街道とは逆の森深くに足を踏み入れる。
樹海ほどではないが、うっそうとした木々が湿った空気をたたえ、この先に待ち受ける危険と宝のニオイを教えてくれる。
非常に穏やかなフィールドとはいえ、断崖絶壁や何かの視線を感じてやまない洞窟もあり、ここ森丘は土地勘がなければ踏破しづらい場所でもあった。
ルルもシンバも、何度もここには来たことがある。
迷うことなく火竜夫婦の巣に向かって進む彼らの耳に、聞きなれたレウスとレイアの咆哮が聞こえる。
お互いに呼応するように交互に聞こえるその鳴き声は、徐々に間隔が狭まり、その炎気を纏う竜たちが間近に居ることをまざまざと感じさせた。
「……先ほどから、ずっと思っていたのですが」
おもむろに荊琴が話始める。
なんだろう、と歩みを止めて振り返ったルルリアとシンバに彼女はにっこりと微笑みながらさらに言葉を続ける。
「お二人とも、メランシリーズで統一した『ペアルック』お似合いですわぁ♪」
狩猟に関しての話題かと思いきや、まったく予想外の彼女の言葉に二人は面食らう。
思わずお互いの姿に注目し、自分たちが全く同じシリーズの防具を装備していることに今更気づき、やり場のない恥ずかしさを大いに感じてしまう。
示し合わせた訳では無いが『そういう意味』でペアルック、とか言われてしまうと、いやでもお互いを意識してしまうではないか。
「ちょ、荊琴さん、いきなりなんスか、別にそういうわけじゃないですよ!ほんとに」
「そ、そうだよ!あたしは別に、このトライファイアに合わせただけだもん!シンバなんか関係ないもん!」
ぐだぐだと同じような身振りでペアルックの事実を否定する二人に「若いですわねぇ♪」とあのニヤリ顔を向け、荊琴はさらにダメ押す。
「お二人があまり仲良くしすぎますと、あちらのご夫婦も張り合って燃えちゃいますから、程々になさってくださいね」