もう、火竜の巣は間近だ。
轟々と聞こえる彼らの咆哮もその威力を増し、緊張感が高まる。
はずなのに、彼女が混ぜっ返したせいでどうも狩りに集中できない。
シンバはルルリアがどうにも気になり、ルルリアもなんだかもやもやとしている顔つきだ。
ついでに、彼女が持ってきたのはガンランス。
殆ど慣れていない武装だ。
その事実も一抹の不安要素であった。
一向は(荊琴は相変わらず飄々としていたが)気持ちを切り替え、リオレウスとリオレイアがいると思われる大きな岩山の亀裂に近づく。
自分たちはまだ気づかれていない。
先手を取って先ず、レウスに集中攻撃をすることを打ち合わせる。
「俺が閃光、ルルがシビレ罠。荊琴さんが尻尾。いいですか」
「安生よろしゅうに」と言いながら棘竜の大剣を構える荊琴。
ルルも罠を用意して準備万端だ。
それぞれとアイコンタクトをして、シンバは巣穴の奥に身を躍らせた。
「なッ!?」
閃光玉を振りかぶった状態で、彼は絶句してしまう。
そして一向にめくらましの光線が出ない状況に「あのバカなにやってんの」とぶつぶつ言いながらルルも巣穴に入っていく。
「ぇ…う」
両手でシビレ罠を持ったまま、彼女は硬直する。
二人もハンターが足を踏み入れたのにもかかわらず、火竜夫婦のうなり声しか聞こえてこない変化の無さに首をかしげながら荊琴も巣穴に入る。
「あ、あらあら、まぁまぁ♪」
そして彼女にしてはちょっと珍しく頬をかるく染めた。
今は【繁殖期】である。
野には色とりどりの花が咲き乱れ、種子の受粉を虫たちに委託している。
その虫たちもまた、多くの子孫を残すために卵を産み付けるよりよい場所を探していた。
それは当然、モンスター達の生態にも影響し、砂漠では真っ黒な婚姻色に染まった【角竜ディアブロス】が走り回り、樹海では蒼い羽毛に変化した【眠鳥ヒプノック】がパートナーを探して飛び回っている。
一向の前では、夫婦火竜がまさしく『夫婦の営み』の真っ最中。
緑色した、夫より一回り大きいレイアの背中を赤い鱗のレウスの鋭い爪がしっかりと掴んでいる。
背中にのしかかる重みに、強靭な雌火竜の足がすこしふらつく。
ソレを優しい旦那竜が力強い翼でバランスをとりながら結合を深めていた。
お互いの息を呼応させながら、上気した鳴き声を断続的に上げる火竜ご夫婦。
その繋がった部分は惜しげもなく周囲に見せ付けられ、その行為が決して恥ずかしいものではないということを雄弁に語っている。
「…いや、あの…なぁ?」
「う、うん…そう、だよね」
眼前の光景に、シンバとルルリアが言葉を濁す。
とりあえず物陰に隠れはしたが、二人の背中のガンランスの先端は丸見えだったりする。
そんなことに気が回らないくらい、二人は微妙な空気を作り出してしまう。
「なんだか、邪魔しちゃ悪いよなぁ」とシンバがつぶやく。
それには、ルルリアも同意見だった。
「…なに言ってますの?あなたたち」
その二人に、今までとは別人のような冷たい声色で荊琴が言葉を投げつける。
彼女は交尾を続ける火竜から姿を隠していなかった。
言葉だけでなく、その視線は針のように鋭く、氷のように冷たい。
普段はほわほわしている荊琴が、突然別人になってしまったように感じ、ルルリアは驚きを隠せない。
そんなルルリアとシンバを無視し、荊琴はまぐわいを続ける夫婦に近づき、おもむろにその手に持った禍々しい大剣を振り上げる。既にレウスもレイアも彼女に気づいているが、種を残す行為を優先させている。
それは彼らにとって大切なこと。
生き物として、最優先すべきことであるからだ。
ざわッ……と荊琴の周囲の空気が泡立ち、彼女の気を吸い込んだ棘竜の大剣の棘が大きく伸びる。
その凶器を、荊琴は無言で雌火竜の頭部に振り下ろした。
頭部に受けた重い一撃に、雌火竜は地面にくずおれる。
リオレウスの方は相方が攻撃されたのを見て、上空に舞い上がり、激昂している。
その口から火球が吐きだされる前触れの黒煙が見え初めている。
しかし荊琴はそのレウスには構わず、目の前でもがいているレイアの方にもう一撃を加えようと更に大剣を振り上げ、その刃に波動を送り始めていた。
荊琴の冷酷な狩猟に我に返るルルリアとシンバ。
冷酷?……いや、自分たちこそ繁殖期のピンク色のまどろみに侵されていたようだ。
今の火竜夫婦に同情するのは偽善だと己の生業を思い出す。
こんなトカゲの交尾程度で動揺するような道を歩いてきたわけではないのだ。
狩るか、死か。
自分たちの選んだ生き方は……モンスターハンターという生き方は、そのどちらかしかない。
荊琴の大剣【ローゼンクラフト】がレイアに追い討ちをかけ、雌火竜の頭殻が弾け飛んだと同時に、辺りはシンバの投げた閃光玉の光がまばゆく照らす。
その突き刺さるような光線に驚いたレウスが落下し、地面に衝撃が走る。
巨体が落ちて来た風圧を荊琴がその巾広の剣で受けながらこちらに視線を向ける。
彼女のにやりとした視線とコンタクトしたルルリアが足元をすり抜け、トライファイアをもがくレウスの横腹に突き入れる。
一回、二回。
そのまま続いて尻尾の方にスライドしつつ、今度は暴れる尾にその刃を振り入れた。
一度、斬とバイアネットで鱗をはがし、そこに彼女は連続で弾丸を撃つ。
ドンドンッ、ドンッ!
間髪いれず全弾を撃ち込むと、彼女はとん、とバックステップしてその得物を二つに割り、弾丸を込めなおすのだった。
がちん、とリロードしてガンランスを構えなおすルルに向かって、荊琴はひゅうと口笛を吹く。
何が『ガード武器は嫌い』だ。
今の動きには殆ど隙がない。
先回見せてもらった太刀の扱いと同じくらいに鮮やかな銃槍捌きではないか。
その荊琴にちらりと視線を向けたルルリアは、彼女の向こう側でリオレイアが閃光の目くらましから立ち直ったのを見て取り、その足元に近づきトリガーを連続で引き絞る。
ついさっき込めなおした弾丸が勢い良く連射され、ルルの細い肩にその反動を感じさせた。
弾丸の衝撃で怯んだ雌火竜の脚のむこうにシンバが構えるデッドウィングスペシャルの巨大な銃口が見え、そこから青白い炎が見える。
「ルル!ガード!」
シンバの声が火竜たちのうなり声の隙間から聞こえる。
その声が終わる前に彼女はその左腕のラウンドシールドを体の前面に構え、膝と腰に力をためる。
瞬間、物凄い熱量がその楯に叩きつけられ、次いでレイアの巨体が倒れこんでくる。
ヒューマによって無茶な改造を施され、ついでにパパガイによってさらにピーキーにチューニングされたデッドウィングスペシャルの竜撃砲の威力は、撃ったシンバすら驚くほどバカバカしい攻撃力だった。
それをレイアの脚越しとはいえ、ルルリアの真正面で放ってしまった。
彼はそのことでちょっと焦りルルリアの安否を確認しようとするも、倒れたレイアの向こう側で何発か銃弾が放たれる。
とりあえずアイツは無事のようだから謝罪は後でいいだろう。
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