突然、レウスが火球を吐き出しながら急上昇してゆく。
と同時に痛そうな叫び声が上がった。
荊琴がそのブレスをモロに食らったらしい。
彼女は大剣を地面に突きたて、それによりかかり肩で息をしている。
怒った火竜の一撃は彼女に痛恨の一撃を与えてしまったようだ。
中天をホバリングしながら、リオレウスは自分たち夫婦の大切なひと時を邪魔してくれた人間に怒りの声を振り撒く。
白い鎧の、しかもダメージが深く動けない荊琴はいい的だった。
彼女に狙いを付けた旦那竜は、その口を広げて炎気と呼気を織り上げる。
その必殺のファイアボールを地面に佇む憎らしい人間に向かって勢いよく吐き出した。
と同時に甲高い金属音が響き、ルルリアのシールドが後ろに吹き飛ぶ。
一応のところ、自分にも荊琴にも火球のダメージはない。
ちょっと腕が痺れている程度だ。
ルルリアは疼く左腕をぶんと振り、降下してくるレウスに向けて彼女は竜撃砲の安全装置を解除し、スロットルをオンにする。
かりかりとギアが小さく鳴り、ガンランス特有の砲撃回路に熱が走ってゆく。
だが、旦那竜の羽ばたきの風圧が思ったより強い。
小柄なルルリアはその勢いにちょっとふらついてしまう。
シールドで身を隠そうにも、アレ、さっき向こうに飛ばされたままだ。
そうこうしている内にもトライファイアの三つの銃口から種火が噴出し、メイン燃料の点火を今か今かと待ちわびている。
「ちょ、っと、待って…」
強風が砂埃を巻き上げ、思わず目を閉じてしまうルルリア。
体勢が崩れているのが自覚できる。
「ヤバいこのままじゃヘンなとこに撃っちゃうよ!」と焦ったルルリアの背中にやわこい圧力が感じられる。
荊琴が体を抱いてくれていた。
左腕でガンランスを支え、右腕で腰を押さえてくれている。
銃口がぴたりとレウスの胴体を捉えた……瞬間、トライファイアから強烈な一撃が放たれた。
轟音をあげて伸びる炎の螺旋はレウスの鱗を容赦なく突き破り、そのどてっ腹に大きな風穴を開ける。
血を流し悶絶する火竜。
それでもなお、その瞳から闘いの意思は消えない。
リオレウスは自らを奮い立てるように叫び声を上げていた。
ルルリアの背を支えた荊琴のダメージはいかがなものか。
トライファイアの竜撃砲の反動でか、彼女は膝をついてしまっている。
うつむいて肩で息をする彼女を見やり、少し休ませたほうがよいと判断したルルリアはシンバを探す。
彼は丁度レイアの尻尾をそのガンランスの切先で刎ねたところだった。
怒り狂うタフな雌火竜をものともせず、ダメージらしいダメージを受けずにひょいひょいとモンスターの足元をかく乱しながら攻撃を積み重ねるシンバにブランクの心配は無いようだ
リオレウスもリオレイアも、双方ともにボロボロだった。
ふいに二頭とも大きく羽ばたき、洞穴の上方に口を空けている火竜専用の入口めがけて上昇してゆく。
火竜夫婦も自らのキズを癒そうと水場に向かうようだ。
普段ならその後を直ぐに追うところだが、今は荊琴が心配だ。
ルルリアはそっと彼女を気遣う。
「大丈夫、ですわ……こういう、ものが、ありますの」
そう言って彼女は自らのポーチから真っ赤な液体の入ったビンを取り出し、蓋を開ける。
突如、むわぁんとイヤなニオイが洞穴に広がる。
「まったく、レウス相手にコレを飲むことになるとは…」となんだかイライラした様子でビンを傾ける荊琴。
こくり、と咽が動きそのドクドクしい薬が彼女の体内に入る。
その【いにしえの秘薬】の効果は凄まじく、数分後にはもう彼女は回復していた。
今まで杖代わりにしていた大剣をひょいと担ぎなおし、荊琴は涼しい顔で火竜夫婦の後を追うことを提案する。
その回復力のすごさに、開いた口が塞がらないシンバ。
自分がヒューマから受けた傷もコレがあればすぐに治ったのかもしれない……だが、先ほど嗅がされたニオイを思い出すと、かなり遠慮したい気持ちになる。
それよりは入院してルルリアに雑にだろうが何だろうが世話してもらった方が潤いがある人生だと思う。
一向は武器の切れ味を調え、自らの細かいキズの手当てをする。
ルルとシンバには彼らの行き先がわかっていた。
高台から下ったところに鬱蒼とした湿地帯があり、そこにある洞窟の泉を水場にしているモンスターが多いのだ。
だがそこには【メラルー】族の巣もある。
アイルーと同じ獣人族で、二足歩行するネコってのは変わらないが、いかんせんその手癖が非常に悪く、高いスリの技術を持ってハンター達の携行品を盗んでゆく。
思いのほかすばしこく、捕まえるのはなかなか困難なのだ。
スられる前にどうにかしておきたいところだ。
支給品の携帯食料をつまみながらフィールドを移動する三人。
レウスもレイアも瀕死だろう。
せっかくお楽しみ中だったのに申し訳ないが、いろいろとあきらめてもらおう。
と最初の初心い反応を棚にぶんなげ、血も涙もないことをのたまうモンスターハンターたちであった。
◆
思惑通り、木々に囲まれた泉のほとりで先程の火竜夫婦が水を飲んでいる。
周囲に対する警戒はしていない、無防備な様子だった。
特にレウスは先の竜撃砲のダメージが深刻のようで、少し移動するのにも脚を引き摺っていた。
レイアも自慢の毒棘が付いた尾を落とされ、しきりにその部分を気にしている。
ルルリアがその二頭に気付かれないうちにネコの巣穴の入り口にマタタビを束で突っ込む。
その小さな穴の中でマタタビをめぐりしっちゃかめっちゃかな物音が立ち、やがてメラルーが全て酔っ払ってしまったことを確認したルルがトライファイアのシールドでその穴に蓋をする。
結局、盾を手放した彼女を見てシンバがやれやれと肩をすくめ、荊琴がくすくす笑いをするのだった。
シンバが投げた閃光玉に気付いたレイアが洞窟の中を地響きを立てながら突進してくる。
その噛み付きをシンバはシールド受けつつ夫婦を分断することに成功する。
いくら手負いとはいえ、いや、手負いだからこそ反撃の一発に注意しなければならない。
複数相手の狩猟は先ず分断すること。
セオリーに従って行動を的確に選択するシンバであった。
「……なんだ?この、霧……あ、あれ?」
全く危なげなく雌火竜の相手をしていたシンバ。
ところが、急に彼を睡魔が襲う。
その眠気に抗うことは敵わず、彼はリオレイアの眼前で地面に突っ伏し、寝息を立て始めてしまった。
その周囲には怪しげなモヤが立ち込め、レイアも周囲の様子を伺っている。
だが、その眼光は依然、自分の尾を切り飛ばしたヤツに注がれていたのだった。
ルルリアは、向こうでシンバが倒れたのを目の端で捕らえた。
あのシンバがレイアごときに遅れをとるはずがない。
よくわからないが、何かが起きたに違いない。
と瞬時に判断し、いままさにシンバに食いつこうとするリオレイアに向かって自分のガンランスを投擲する。
その銃槍は、女の子の力で投げ放たれたとは思えない勢いで雌火竜の体に突き刺さった。
その衝撃で撃鉄が下り、弾倉に残っていた弾が二発、零距離でレイアの装甲に撃ち込まれる。
そのキックバックで槍は自らレイアを解放する。
重い銃身が地面にごとりと落ち、同時にリオレイアも地に倒れこんだ。
「荊姉、ちょっとお願い!」
共にリオレウスと対峙していた荊琴に場を頼み、ルルリアはシンバの元に駆ける。
レイアはいまだに健在だ。
かなり深いダメージを与えたとはいえ、もう一押ししないと彼女の戦意を消し去るのは無理だろう。
ルルはシンバの様子を確認し、息があることだけ確かめる。
とりあえず、シンバは大丈夫のようだ。
ルルリアは彼の無事に、思いのほか安堵している自分に気づく。
そして少しほっぺたを染めながら自分の投げたトライファイアを拾い上げると、続いて空いた手でシンバの使っていたデッドウィングスペシャルを掴むのだった。
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