ざばり、と即席の湯船から出て体についた水滴を拭いつつ、彼女はまだじゃれあっている二人に、主にルルリアに向けて言葉をかける。
「とりあえず、私は午後の狩りにはお付き合い出来ませんの。向こうに帰る準備をしなければなりませんので」
向こう、というのは当然彼らの地元の事だろう。
元はといえば交流会で呼ばれたゲストハンター達だから帰るのが当然であって、三ヶ月も逗留し続けた事自体が珍しいケースだったのだ。
だが、思いがけない荊琴の言葉に、ルルリアはしばしその動きを止める。
濡れた髪から水面に向かってぽちゃぽちゃと雫が落ちる音がやけに響く。
いつかは帰るのだろうと思ってはいたが、それをこのような形で聞かされるとは思ってもみなかった。
デイジーも、その急な話に驚きを隠せない。
先日、ローナ団長がこの二人を入団勧誘するかもしれないという話を聞いていたからだ。
確かにこの二人のハンター達から得られた戦技や情報は価値あるものだ。
猟団という物は異文化同士が出入する事によって発展していくものだからその勧誘もある種当然で、ここまでこの猟団に馴染んでいるのだから、二人もそれを承諾するものと思っていた。
「ず、随分、急な話……なんだね」
「ちょっと馴れ合いすぎましたからね」
少し突き放す感じの荊琴にルルリアが視線を落とす。
自分だけさっさと着替え、髪に残った水分を手のひらで絞り落とす彼女にルルは言葉を続ける事が出来なかった。
「……ルル、上がろう?」
うつむきぎみな彼女を気遣いデイジーがその腕をとった。
頷きを返し、のろのろと水中から上がって身支度を整え始めるルルにディズは少し心配になる。
どういう訳かルルリアは荊琴に懐いていたから今の彼女の『馴れ合い』という一言は結構キツいはずだ。
団員達がいくらルルリアを受け入れていても、ルルリア自身がソレを受け入れているとは限らない。
このルルリアというコは、開けっぴろげな性格の後ろで色濃い自己否定を抱えていることをデイジーは最近知った。
悪い言い方をしてしまえば、ルルは二面性のある性格をしているのだ。
他人の自分に対するイメージは崩さない、だけど自分の真意は絶対に表面に出さない。
いや、出してはいけない、と思い込んでいる。
時折、ルルリアは自分に対しても妙にヨソヨソしくなる時がある。
それはシンバも感じる事があると言っていた。
それが【龍化】とやらに帰属する後ろ暗さなら自分たちにはどうにも出来ないのか。
荊琴は少し離れたところにある倒木に腰掛け、爪を磨いている。
先に帰らないだけ、まだマシという態度。
普段目にしていたあの過剰なまでのフレンドリーさはどこにいったのか、その纏う雰囲気まで温度が下がってしまったように感じた。
◆
「僕ら明後日、帰りますわ」
「長らくお世話になりましたわぁ♪」
その言葉を聞いたトゥトゥに集まった【リューシェ】の団員達が大いに騒ぎ立てたのは言うまでも無い。
ルル達は樹海からその足で酒場に向かい今に至っている。
ルルもディズも、髪はまだ生乾きで小脇に着替えの袋なんかをぶら下げている。
ルルリアは未だに元気が無い。
その瞳の紅は濁り、肩も落ちぎみだ。
デイジーはヴァリオンの姿を探す。
こういう時はあの人に焚き付けてもらった方が断然いい。
果たしてヴァンは壁に寄りかかってアシュレー副団長となにやらボソボソと小声で言い合っている最中だった。
アレは自分がしゃしゃり出る雰囲気ではないな、と判断し次にシンバを探す。
だが、そこでふと今朝の出来事に思い当たった。
あのバカのおかげでルルが荒れたンじゃないか。
「あんなヤツに今のルルを任せられるもんか」と、思いつつもシンバが居たら脛を蹴飛ばしてやろうとディズは探し続けたが、シンバのヤツはトゥトゥに顔を見せては居なかった。
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