冒険者グラム。
その名のとおり数多くの狩りを行い、フィールドやモンスターたちのデータを記録し続けた男。
その情報は綿密にして的確で、今もって全てのギルドにおいて用いられている。
モンスターそれぞれの生態、活動範囲や発情周期、繁殖場所、食物や帰巣する場所、そして弱点に至るまでグラムに解らないことは無い、と賞された。
またグラムは、自ら蓄えたそれらの情報を綿密に纏め上げ、狩人組合と武器工房に働きかけ、後世のハンター達が効率よく、そしてより安全に狩りを行うことが出来るように今のギルドシステムの土台を作った立役者でもあった。
神殺しのナァル。
極々稀に観測される【古龍】と呼ばれる存在がいる。
それら古龍種は個体数は少ないものの、それぞれが、例えば天候を左右するとか、山一つを食いつぶすと言うような人知を超えた強大な力を持っている。
ゆえにある地方では"神”と崇められている古龍もいるくらいなのだ。
しかし、強大な力を持つそれらの怪物は決して神などでは無く、その飛び抜けたチカラゆえに人間社会にとって対処することの出来ない災いとなってしまうのだ。
それは余りにも危機的で普通の人間には抗うことが出来ない、まさに天災といえる自然の驚異。
だが、ナァルは、古龍種の討伐をほぼ専門で受け持っていたハンターだった。
そのハンティング内容ゆえに、誰しもが敬遠していた古龍種に対する依頼を彼女は率先して受け続け、そして帰還していた。
彼女が持ち帰る古龍種の貴重な資料と素材は多くの国の学者達がこぞって研究し、それによって得られた新技術も多くあった。
…だが、そんなグラムとナァルは或る時を境に、ぱったりと姿を見せなくなった。
行方不明になった彼らを捜索するチームが結成され、数多くのギルドがそれに協力し、たくさんの国々を巻き込んでの大騒動になったのだ。
それでも、その二人の凄腕ハンターの行方はつかめなかった。
それから十年余り経った今では、二人と懇意にしていた鍛冶師が、彼らが姿を消すクエストに出る直前に聞いたという言葉だけが伝えられている。
『伝説の【不死龍】。ソイツを追いかけてみるよ』
「結局、その旅から師匠と姐(あね)さんは帰ってこなかったんだ」
ジョッキを一度も傾けることはなく、ヴァンはとつとつと語っていた。
彼が師から最終訓練の通告を受け、それをこなして帰還した翌日の出来事だった。
自分が与えた紅龍単独討伐という過酷な試練を突破し、無事に帰還した愛弟子に一振りの大剣を渡しながら、グラムはこう言ったという。
『モンスターハンターというのは生き方だ。職業や娯楽ではない。お前には俺の生き方を全て見せてきた。それをどう受け取るかはお前自身が見つけるんだ。これからはこの剣の本当の使い方を理解できるように精進していけ』
ヴァリオンは、俺は未だにその言葉の意味が分からない。師匠の剣を使っていない理由はそこなんだ。と少し自嘲気味に笑う。
「じゃ、じゃあ、ルルは、ルルリアは、あのグラムとナァルの娘……なの?」
おそるおそる、といった感じでユゥナが言う。
その言葉にヴァンは一口、麦酒を呑み唇を湿らせて一呼吸置いて答える。
「師匠たちがその不死龍を探しに行くのに連れていったのが、一人娘のアイツだよ。まだ、ガキだったけどナァル姉に厳しく訓練されてたからな。でも、帰ってきたのはルルリアだけだった」
師の旅立ちから数週間後のことだった。
夜中に物音がするからと、ドアを開けたらそこに血塗れのルルリアだけが居た。
涙ぐみ、しゃくりあげながら、まだ幼い彼女はヴァンにこう言ったという。
『お父さんと、お母さんを、助けにいく』
自分の武器が壊されたからといって母の太刀を武器棚から引っ張り出し、きびすを返して宵闇の中に戻ろうとしたらしい。
ヴァリオンは、ルルリアの異常な姿と状況から、師匠たちの最期を悟った。
限界だったのだろう。
ルルリアはドアから出る事すらかなわず床に倒れこみ、高熱を出して一月余り寝込んだという。
そこでヴァリオンの話が途切れる。
アシュレー達は、目の前の仲間の過去をはじめて知ることとなった。
猟団は基本的に個人のプライバシーは保たれている。
団、とはいえなにも徒党を組んで戦争をしているわけではない。
モンスターをなんでもかんでも乱獲しているわけでもない。
ギルドによってきちんと管理されている組織なのだ。
実はモンスターハンターの他に一般の仕事を持っている団員もいる。
だがそれはあくまでも個人の事情。
ハンターとしての優秀さが第一に求められる団では個人の生活や素性までは関係が無かった。
ヴァリオンとルルリアがこの都市の狩猟団の扉を叩いたのが二年ほど前。
それからというもの、一緒に依頼をこなし、共に同じ釜の飯を食べ、酒に歓び、音楽を楽しんできた。
だが、その過去を聞くものはいなかった。
それはヴァンやルルも同じこと。
多くのハンター達が集う狩猟団の盲点とでもいうのだろうか。
仲間とはいえ、個人プレイも多いモンスターハンター達の哀しい常識、とも言えた。