トゥトゥの店内では大勢の団員が盛り上がっている。
随分と親しくなったゲストハンター達の送別会だ。
ここぞとばかりに高い酒の封が切られ、フルフルの極上の霜降り肉や珍味中の珍味である老山龍の尻尾肉などが大盤振る舞いされていた。
上座のテーブルに風牙と荊琴がおさまり、ローナ団長にボルドーといった団の幹部たちがもてなして、今までの団に対する貢献をねぎらっていた。
ステージ上では工房職人も兼ねるヌエがやたらと上手いギターの弾き語り演奏の真っ最中だ。
そのバラードに合わせて楽士達がアドリブを紡ぎ心地よい和音を奏でていた。
「ルルっぺ、ルルっぺ」
蒼天の様に澄んだ青髪をクラシックボブにまとめた女の子がルルリアの腕をつつく。
彼女の後ろには対照的に緋色の髪をスリークロングに整えているコが遠慮がちに青髪のコの裾を摘んでいる。
悪戯好きそうな目をした青髪のコはマリア。
ルルより一つ年下のお転婆なハンターだ。
ルルより年下、とはいえ彼女はなんと伝説の幻獣【キリン】を討伐したことがある非常に腕の立つ歴としたモンスターハンターだったりする。
しかも、いつも小言しか言わないというあのボルドーが唯一、褒めたことがあるというランス使いである。
そして後ろでもじもじとマリアの服をいじりながらこちらを窺がっているミオ。
その師匠という立場だったりする。
お師匠というのはまさしくその通りで、マリアは四六時中ミオと一緒に生活している。
食事も一緒、狩猟も一緒、部屋も一緒、ついでにベッドも一緒。
スパルタンな祖父にこの猟団に放り込まれて以来、ミオは常にマリアの後ろにくっついてモンスターの動きやフィールドでの立ち居地、太刀の振り回し方からボウガンの取り回しまで狩りのABCを教えられていた。
狩猟だけではない。
マリアはミオの育成係を任された事にはりきって、狩猟以外の事、つまり掃除や洗濯、料理といった生活全般まで面倒をみている。
とにかくいつも二人一緒に行動する彼女たちはある意味名物コンビであった。
まぁ、女性のコンビハンターも珍しくは無いがマリアとミオ……彼女らの温度は若干『そういうの』とは違っていたりするのだが。
「アレ、やろうぜ。今やんないでイツやんのサ」
マリアがルルリアの席に無理やり自分の尻をネジ入れ、彼女の耳元でぼそぼそとナニかを焚き付ける。
座る椅子がないミオがしゃがみこんでテーブルの縁に両手を引っ掛け、下から目だけでルルリアを見つめている。
ルルとマリアは最初そんなに仲が良かったという訳では無かった。
だが、ある時を境にガッチリと手を組み合う【同志】となったのだ。
マーちゃんがやりたい、と言うなら自分もやらない訳には行かない。
それに確かに、こういったお祭り的な状況でアレをやらないのはかえってもったいない。
だけど荊琴が帰ってしまう、という事実。
なんとなく突き放された感じを悟ってルルリアは若干ブルーだった。
水辺で聞かされた冷たい言葉は冗談などではなく、今このお別れ会にあってもなお荊琴も風牙もルルリアのテーブルには目線すら寄越さなかった。
その事実がまた、ルルに重くのしかかる。
あんなに一緒だったのに、と楽しかったこの数ヶ月に渡る彼女たちとの交流を思い返す。
そしてルルリアは一度ぱちん、と自らの両頬を叩く。
今まで楽しかったからこそ、今も楽しくしなくてはならないはずだ。
そして大好きになった二人に笑って帰ってもらうことにしよう!と、自分を励まし、勢いを取り戻すルル。
そして彼女はすっくと立ち上がり、息を合わせて同じように立ち上がったマリアとガシッと腕を組み合った。
「あたしたちの時代にしようぜ、相棒」
「ああ、ダブリア(マリア&ルルリア)の底力、見せてやんよ」
ニヤリと性悪な顔つきで下品な含み笑いをする銀髪と青髪。
その組み合った腕にあわてて赤髪が自分の両手を絡める。
「…わ、わたしもいますですぅ…」
そう言ってやや染まったほっぺたを膨らませた。
マリアはそんなミオの頭を開いている手でよしよしと撫で、ついでに彼女の鼻頭に口づけする。
ミオが熟れきった苺の様に真っ赤になったのを嬉しそうに見るとルルに『いいだろぉ♪』とにやける。
慣れたものでルルリアは彼女たちを軽くあしらいながら苦笑した。
そして三人はコソコソとドレッサールームの中に消えていくのだった。
◆
「ね、ヴァン。ルル、どこ行ったの?」
ドスビスカスの花をフレッシュサラダに仕立て上げた豪華な一皿を前にしたデイジーが、隣で白金魚のムニエルという趣味の悪い色の料理を口に運んでいるヴァリオンのわき腹をつついた。
さっきまで端っこの席でいつものゲリョスステーキを細かく切り刻んでいたようだが、今はその席はもぬけのからになっている。
その問いかけに、ルルの兄貴は改めて酒場を見渡してみるとなるほど、ルルリアの姿はどこにも無い。
「まぁ、アイツもガキじゃないんだ、トイレくらい一人でいくだろ」とおざなりな返事を金髪にこぼしてご馳走に戻る。
そんなヴァンの関心の無さ、空気の読めなさに鼻でため息を吐き、ディズは自分も視線を皿に戻す。
「先刻の荊琴の態度、引きずらなければいいけど」と口の中だけでつぶやいた。
ホール中央にこしらえられたメインステージの上ではアシュレーを筆頭に数人のハンター達が狩猟笛の演奏会を始め、和音は和音でも不協和音を垂れ流し皆からブーイングを受けているところだ。
身の丈ほどもある本来は武器である狩猟笛をぶん回し、それぞれが勝手に旋律を吹き鳴らす。
それはもう耳を塞ぎたくなる雑音であった。
アシュレーが恍惚としながら【呑竜パリアプリア】の素材で作られた、しかも笛のデザインがパリアの生首そのものといった【ドドン・オーボワ】を吹いている。
グワッグワッと鳴くパリア笛、その後ろでエリーが【棘竜エスピナス】の素材でこしらえたギター型の【ローゼンゼーレ】を掻き鳴らす。
ギュィイィン!ギュイィイィン!とトレモロアームをダウン・アップさせてエンジンノイズを発生させる。
かと思えば、ナツメが【眠鳥ヒプノック】の脚で出来た【マドロミオーボワ】を額に汗をかきながら力いっぱいに吹き鳴らし、単調なホイッスルサウンドで酒場の空気をビリビリと振動させ高音を響き渡らせる。
その後ろでは【桃毛獣ババコンガ】の毛のピンク色が眩しい太鼓【ウォーコンガ改】をナツミがポンポコポンポコと叩いて間の抜けた打撃音を奏でながらお尻をフリフリ嬉しそうに踊っていたりする。
なんというまとまりの無さか。
しかも狩猟笛というのは本来、狩りの時に気分を奮い立たせたり落ち着かせたりと様々な効果をもった『特別な音色』を紡ぐ物なのだ。
それをしっちゃかめっちゃかに聞かされた聴衆はたまったものではない。
トゥトゥのあっちこっちから『もう止めろ!』だの『うるせぇ!』だの『ひっこめ!』だのと段々本気の文句が聞こえ始めた時、ドレッサールームの扉が勢いよく開かれて一陣の風がサイドステージに駆け上がった。
「ぶー……っ!」
ヴァリオンがその風の正体に気づき、口に含んでいた麦酒を勢いよく噴出す。
正面に座っていた団員にモロにひっかかった白金魚混じりのビールを気にする間もなく、ヴァンは頭をかかえテーブルにつんのめった。
デイジーが口に運んだフォークをぽろり、と手から落としその金属音がやけに耳に響く。
ステージの上には、ルルリアとマリア、それにミオが立っている。
だが、彼女たちの姿はなんということか、まさに【ハレンチ隊】しか言い様の無い格好だったのだ。