「この大バカどもがぁああああああぁぁぁあああぁあぁああぁッ!げほげほ」
ボルドーの怒号が正座した四人の頭上にぶちまけられる。
咽が嗄れて咳き込むほどの大声でガミガミと説教するランスマスター。
いつもはクドクドだが、今回はガミガミ、というあたりにボルドーの怒りの強さが現れている。
マリアが慣れない正座でもぞもぞと動くのをミオが心配そうに覗き込む。
その八の字になった眉毛のミホに「だいじょーびだいじょーび♪」とブイサインを出したところでボルドーの拳骨がマリアの脳天に落ちる。
ついでにヴァリオンが「ルルリアの頭にも一発やっといてください」と余計な一言をいい、その言葉はボルドーによってすぐに実行された。
主犯、と思われるダブリア二人が同じように拳骨を食らって仲良くつんのめる姿は周囲からいくらか笑いを誘った。
だが、ボルドーの大きな咳払いはそのくすくす笑いすら許されない。
今度ばかりは風牙もフォローは入れないようだ。
やや遠めからこの説教会を関心無さそうに見ていた。
荊琴は存外平然とした様子でのほほんとしている。
かなり本気で叩かれたのか、前かがみになって痛がるルルの背中をぽんぽんと優しげにたたく。
彼女のその行為を見て、風牙が小さく舌打ちする。
なんだかお気に召さないようだ。
「おまえ達は何をやりたかったんだ」とぶつぶつ言うボルドーにルルリアは頭をさすりながらしれっと答える。
「【ねぎ踊り】ぐっだぐだにしてやんよ♪【踊ってみた】」
再びぶん殴られる銀髪であった。
ボルドーの説教はダブリア中心になっていく。
とりあえず荊琴とミオを解放したものの、彼は対象が絞れたことで更にツボをついたご高説をルルとマリアに述べ始める。
とかくモンスターハンターというのは生ぬるい世界ではない、時には人々の生活を守り、時には自らを高めるために技術を磨き…と、新米のひよっこハンター達に教え諭すように語り続けるボルドー。
ああなると、このおっさんの話は長っちりだ。
自分の話に酔って誰が聞いていようが聞いていまいが関係無しにべらべらと続く。
普段はおしだまっているくせに、説教好きにも程がある。
マリアは何度も欠伸をかまし、ルルに至っては既にこくこくと船を漕いでいる。
ああいう図太い神経ってのは逆に褒めるべきかもしれない、とデイジーは思う。
事実、ガチガチに凝り固まった思考のハンターは長続きしていないように思える。
モンスター達が自分の常識から外れた動きをするなんて当たり前だ。
その時、頼りになるのは柔軟な思考ではないかと駆け出しハンター、ディズは思う。
大物相手に対峙したことはまだ無いが、クックにしろババコンガにしろフルフルにしろ、大体の行動パターンはあれど、必ず同じ、とは限らない。
やっぱり『余裕』がないとダメだ、とちょっとづつ分かってきた。
その点、ルルリアはクエスト中に雑談もするし、欠伸だってする。
シンバは狩猟対象そっちのけで技の練習を始めるし、酷いものでヴァンは樹海で洗濯までしていた。
さすがにアレはどうか、とも思ったが狩猟を終えて帰る時に乾ききった洗濯物を忘れなかったところを見ると常習犯な気もする。
「アレはほれ、家で洗濯するヒマが無いからでな。仕方ないだろ?」
と、ヴァンの口からはもっともらしい言い分が出てきていたが、どう考えても日頃の怠慢が原因だろう。
誰かキチンとお世話してあげればいいのに……仕方ないなぁ、誰もいないなら私がしてあげようかな、うふふ♪いゃあん、もう♪
ルルリアたちをじっと見つめていたデイジーが急ににへら、と顔を崩し楯蟹のパスタをぐるぐるとかき回し始める。
このディズというコはなんだ、面白いな。
と彼女の正面に座ったヴァリオンがジョッキを片手に観察していた。
先ほどまで正面に座っていた団員はヴァンにビールを吹きかけられたことに憮然として「ぶっかけるなら自分の彼女だけにしといてよね」と言い捨て席を移動していた。
その言葉を適当にあしらいながらディズの正面に陣取ったヴァンは改めてこの【年下の彼女】をみやる。
いつの間にか、自分の隣にはルルリアではなくデイジーが居るのが普通になりつつある。
不思議なもので、それが普通だと思えるくらいに自然な関係だった。
サイドステージの下でボルドーの演説を聞き流している妹分が随分と遠く感じられる。
もちろんそれは錯覚だと分かっているのだが、ルルよりもディズという図式が成り立ち始めたのもまた真実。
師匠夫婦から預かったルルリアを放り出すつもりは毛頭無いが、この年齢で初めて出来た彼女だ。
デイジーを大切にしても罰は当たらないだろう。
団の中でもヴァリオンとデイジーがイイ仲だというのは知れ渡っている。
彼女のほうからラブラブ光線を出されて、それを嫌がるでもなくほいほいと構うヴァンの自然さ。
そのあたり全く空気を読めないヴァリオンの性格が功を奏したのか、ヘンな吊るし上げや混ぜっ返しも無く今日に至っている。
「ディズ、それ少しくれるか?」
「あ、うん。どぞ」
デイジーがテーブル中央に積まれた小皿を一枚取って自分の皿から料理を取り分ける。
いい頃合までかき混ぜたカニクリームのパスタを盛り付けてヴァリオンに差し出す彼女は、付け合せにミニトマトを一つ二つ乗せ、「野菜も食べるンだぜ」とニヤリとした。
そしてちょっと照れるデイジー。
その頬を染めた彼女に笑顔で礼を言いながらその細やかさ、女性らしさを感じるヴァン。
ルルリアではこうは行かない。
アレとデイジー、同じ性別だとはどうしても思えない位の差がある。
ルルの可愛さというのはなんだろう、動物的な、そう、アレはペットと言っていいだろう。
言っても通じないところがあるなんてのは正にそんな感じがする。
それに比べてどうよ、ディズのこの几帳面な心遣い。
段々と角が取れて素の自分を見せてくれるようになった気もする。
ルルも相手がいればこうなるのかね?……なんだか最近シンバといい雰囲気みたいだが、どうなんd
ばぁん!
トゥトゥの入口ドアが大きな音を発てて弾けた。
入口に仁王立ちになっている人影が視界に入った途端、ヴァリオンはまたもや口の中のものを盛大に噴出す。
ヴァンだけでなく、似たような行為がそこらで起きたのも事実だが。
「ちょ、ヴァン!」
細切れになったパスタと唾液が顔面に吹き付けられたデイジーが眉をしかめて彼に抗議する。いくら好きな人とはいえ、これは無い。
「す、すまん。ごめんよ、ディズ」
慌てて謝りながら手巾を取り出しなるたけ優しくデイジーの顔をふくごつい指。
デイジーはそんなに怒った風でもなく、彼からそのハンカチを受け取ると自分で顔を拭いながら事の原因となったドアを見やった。
「……あぁん?」
デイジーの口から半ばドスの利いた疑問符が出る。
右の眉がこれでもか、というぐらいに吊り上る。
彼女の、いや皆の視線の先には一人のモンスターハンターが立っていた。