「まぁまぁ、そない落ちこまんでも良いじゃないですか。誰でもいつかはオジヤンやオバヤンになるんやし」
「なぁ?ケーキン?」と隣の彼女に同意を求めた風牙の足をガンと踏みつける荊琴。
女性に年齢および体重ネタはご法度だということか。
「うおぉ……」と足を押さえうずくまる風牙。
このドつき合いの掛け合いも、空気を読まないイチャ付きも今日明日で見納めか。
そう考えると本当にコイツ等は【リューシェ】に馴染んでいる。
「ルルも懐いているし、去ってゆくのは残念だ」と惜しむオッサン。
「あ、あの、荊琴さん、さっきは本当にごめんなさい。すいませんでした」
ルルリアがおずおずと切り出すも、相手に言葉を挟ませない速さで最後まで言い切り頭を下げる。
返事はいらないです、聞きたくないです、あたしの言いたい事だけ聞いてください。という雰囲気。
若干、ピリついた空気が流れる。
わやわやと煩雑な酒場の空気の中、彼らの周りだけが少し緊張した。
「わたくしも、少し大人げありませんでしたわ……許してくださいな、ルルちゃん」
ルルを以前のように『ちゃん』付けで呼び、荊琴はやんわりと言葉を紡ぐ。
彼女のその口調と台詞にヴァンとディズはほっとする。
これでヘンなわだかまりを残したまま別れる事は無いだろう、ルルリアも荊琴も明日は笑ってさよならできるはずだと安堵する二人だった。
「ほな、依頼行きましょか?」
風牙がさらりと言う。
彼のその急な言葉に不思議な感覚を覚えるも、シンバのヤツがアレだし、特に断る理由も無いとヴァンはそれを受け入れる。
しかしルルリアはもう何も言わない。
荊琴は『ルルちゃん』と呼んでくれたが、やはりどこか余所余所しい。
残念だが一緒に狩りに出るのはもう諦めていた。
宴会ムードが過ぎ去りつつあるトゥトゥを後にし面々はメゼポルタ広場に向かった。
その短い道中もルルと荊琴の間に接触は無く、普で無く異となった関係は若干わだかまりを残す。
だが、だれもそれに触れることは無い。
暗黙のうちに狩猟メンバーから荊琴が外れていることを当事者を含めみな理解していた。
◆
「コレで良いンじゃない?」
ルルリアがびっしり貼られたクエスト依頼の中から一枚はがすとデイジーに手渡した。
そこには【怪鳥イャン・クック討伐】とある。
「クック素材も欲しいけどさ、せっかく四人パーティーだし……違うの行きたいなぁ」
デイジーはちょっと不満げだ。
クックだったらヴァンと二人で散々狩ったし、ぶっちゃけ自分一人でも行ける。
それぐらいの自信は既にあった。
「や、や。狩猟数、見てみ?」
ルルリアがちょいちょいと受注票をつつく。
そこには『狩猟6頭』と記入されている。
「もしかして、いっぺんに六匹相手するの?」と新米ハンターのデイジーはちょっと引く。
その不安げなデイジーに「だから四人なんじゃん♪」と嬉しそうなルルリアであった。
「クックがラストクエか。すまないな、雑な相手になっちまって」
ヴァリオンが横でニコニコしている風牙に向かって謝る。
身内ならともかく、凄腕のゲストハンターに手伝ってもらうような内容ではない。
いくら数が居ようと、所詮はイャン・クック。
俺がグラムブレイド、ルルが無双刀でも担げばスグに終了するだろう。
だが夕方も近づき、大型のモンスターを相手にしていては風牙と荊琴、彼らが帰る準備をする時間も無くなってしまうだろう。
その辺、気を回したのかもしれないな、ルルリアも。
「いえいえ、気にせんで下さい。たまにクック先生も悪かないです」
そう言って自らの装備を確認し、雑貨屋に向かう風牙。
後ろに立っていた荊琴と二言、三言会話して彼は店に向かう。
荊琴はヴァンに会釈すると広場を後にする。
恐らく、宿舎で帰る準備でもするんだろう。
「んじゃ、デイジー。あんた【ボーン】装備ね。あたしもボーンにするから」
荊琴を振り切るように逆方向に向かうルルリアがデイジーの腕をひっぱり更衣室に行く。
ボーンって……相手はクックだぞ?とヴァンは妹の『装備しばり』の意味が解らない。
ボーン一式なんて「早食い」と「盗み無効」しかスキルつかないだろ。
だがデイジーはルルの勢いに押され頷いてしまっていた。
相変わらず自由なヤツめ。
どうせボーン装備は『ビキニ』だから決めた、とでも言うんだろう。
とりあえず、装備のストックがまだ少ないデイジーが先に着替え部屋から出てくる。
ルルリアの言ったとおり【ボーンシリーズ】に身を包んでいた。
だが、彼女は剣士ではなくガンナー装備をチョイスしていた。
『骨』と銘打つ通り、兜には動物の頭骨が用いられている。
一見殺伐とした猟奇的な防具だが、そこはキチンとデザインされている。
その頭蓋骨は磨かれ、ペイントされ、色々と装飾されている。
ガンナー用のボーンキャップには目立つ『ネコミミ』的なリボンがくっつき、デイジーがきょろきょろする度にソレが表情を変え、なんだか愛らしさすら感じる。
毛皮で作られたショートマントの中はフレッシュホワイトに染め上げられたビキニブラ。
そこに鉱石で作られた珠や加工された牙などが飾られ、野性味溢れるテイスト。
腰にもモンスターの骨を加工した装甲があしらわれ、コレがただ飾るだけの装いではなく戦うための装備である事を思い出させてくれる。
そして彼女は【火竜弩】を肩に掛けている。
自分ちの工房のストック素材をちょろまかして作ったいけない武器だったりする。
ディズは「実家が工房屋の特権」と言い切っていたが。
彼女はヴァンのところにトコトコと来るとその隣に無言で佇む。
それが当たり前のように、自然と相棒の立ち位置に収まっていた。
まぁ、二人は自他共に認める恋人同士なのだから当たり前といえば当たり前ではある。
だがその二人が並んでいる画面はどうだろう。
ヴァンとルルはまだ兄妹に見えるし、場合によっちゃ親子と見られるサイズ差がある。
だがヴァンとディズの並びはぶっちゃけ美女と野獣、いやさ使い古された表現ではあるがそんなテイストなのだ。
周囲が言うほどオジサンな風体ではないヴァリオンだが、それでもデイジーを隣に置くとそのアンバランスさがちょっと目立つ。
無精ひげすら魅力と言い切るデイジーの好意はヴァンに自信を与え、彼はいよいよ自分強度を増していった。
ハンターというストイックな世界に居ながらして護るものを手に入れた彼はここにきてその腕をさらに上げていたのだ。
ヴァリオンはいつも装備を変えない。
余程のことが無い限り彼は自分の防具を換える事はない。
師であるグラムが彼に課した試験。
【黒龍ミラボレアス】それも亜種である【紅龍ミラバルカン】と呼ばれる古龍の単身討伐。
その荒行を成し遂げた末に作り上げ、さらに鍛え上げて来た防具だからだ。
その装備には大仰で派手な装飾は一切ない。
しかし、細かなさざれ状に加工した紅龍の鱗を一枚一枚綿密に織り上げたその鎧具足はいかなるモンスターの攻撃すら跳ね除ける硬度を誇り、ヴァンの無茶な動きにも追従するしなやかさも備えている。
ヴァンはどんなに格下の相手にもこの【ミラバルシリーズ】の装備で立ち向かう。
それが自分のハンターとしてのモンスターに対する敬意だ、と考えていた。
加えて、ヴァリオンはデイジーの狩猟に付き合うようになってやっと師から受け継いだ大剣をクエストに持ち込むようになっていた。グラムの愛剣、というわけではない。
師がこの大剣を振るっている姿に覚えは無い。
だが、グラムはヴァンに「この剣の使い方を理解しろ」と言い残した。
ハンターとして師を越える高みに達するまで理解出来ないだろう、と思い込んでいたヴァンは、その話をした時にディズが『使わないと理解もなにも無いよね』とあっさり言い切ったことで彼はその意固地な自分を転換していた。
とりあえず、色々な武器工房で鑑定してもらったが一向に正体がわからない。
属性どころか名前すら不明のこの大剣の見た目は言わば【ただの鋼板】である。
長さ1.7メートル程で50センチ程の幅の長方形で重い銀色に輝く、おそらく両刃だと思われるエッジの部分は角度によって虹色にきらめく。
鍔の部分も厚めの金属が無機質な光沢を放ち、シンプルだが重厚な拵えだ。
ただ、その鍔には中太の鎖が幾重にも巻かれ、物々しい雰囲気を否が応にも感じずにはいられない。
なんだか呪いか何かを封じ込めてあるのではないか、と素人でも思ってしまう不思議な大剣だった。
そんな大仰な大剣を背負い、多数を相手にする狩猟のコツをデイジーに教えるヴァン。
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