「わほーい」
そこにやや遅れて脳天気な声でルルリアが更衣室から出てきた。
グリーヴのつまさきを地面でとんとんと馴染ませ、待ち人に向かって手を振っている。
自ら言ったとおり、ボーンシリーズの剣士。
背中には愛刀【三千大千世界無双刀】を担いでいる。
だが。
「ちょ、ルル!ずるい!なんで自分だけ『U』なの!?」
さすが、工房職人デイジー。
ルルリアの纏っている防具が自分と同じ【ボーンシリーズ】あってもスキルがさらに優秀な『U』タイプだと直ぐに気付く。
まぁ、所々強化されてカラーリングが違うから誰でも解るといえば解るのだが。
「だって、普通のボーン持って無いもん」
しれっと言い切り「いいじゃん、メリハリだよメリハリ♪」とよくわからない理屈でデイジーをなだめる。
Uタイプのボーンは普通のボーンと違い、血の色が濃い。
赤色が目立ち、より攻撃的な色合いとなっている。
防具を彩るペイントもサイケなイメージが前面に押し出されていてちょっと迫力がある。
同じような格好をしてやいやいと言い合う二人の女性ハンターをヴァンが暖かく見守る。
なんだかんだと言いながらルルリアとデイジーは良い友達になったものだ。
と先輩な気持ちに浸っていた彼は、視線の先に風牙が来たのを見つけ、二人がかぶっている頭骨を模したヘルムをコンコンと叩いて気を引き締めさせた。
◆
所変わって、宴会のニオイすら残っていないトゥトゥ内。
ヤツのターンである。
外はシン、としている。
とりあえず、今日の自分は空気が読めない病に感染していることは把握した。
ほんの少しだけ、ドアを開いて店内の様子を伺う。
ウェイトレスが数人、椅子をテーブルの上に逆さに置いて床を掃除しているだけだ。
自慢のブーメランパンツを洗濯籠に突っ込んで、普段の装備に戻したシンバは若干ブルーだ。
ここのところツイてない気がする。
それに狩猟装備に戻したはいいが、気分が乗らない。
このまま部屋に戻って不貞寝してしまおうか。
「ああ、そういや俺の部屋、【リューシェ】にあんのかな?」
独り言でぼそりと誰かに問う。
しかたない、その辺も含めて偉い人に聞きに行こう。
間違ってもボルドーさんには見つからないようにしたいところだ。
また説教されるのは勘弁してほしい。
ため息を吐きつつ、シンバは更衣室のドアを開ける。
と同時に、女性用更衣室のドアも開いた。
「ょう、シンバ」
「あ」
マリアはシンバに気付き、右手をシュタッと上げ気さくな挨拶を寄越す。
彼女の隣にいたミオがさっと身を隠し、Tシャツの裾を下に引っ張った。
二人の顔は上気し、着替えたシャツはその素肌にかいた汗でぴったりと貼り付いている。
そのせいで彼女たちの豊満なボディラインがくっきりと現れ、シンバはちょっとだけドキッとした。
とりあえずシンバが言葉を選んでいるうちにマリアが近づき耳打ちする。
「アタシらが、更衣室でイイコトしてたの、みんなには内緒だぜ?……これやっから♪」
「おねぇさま!恥ずかしいから言わないで下さいよぅ!」
マリアのTシャツの背中を引っ張り、くしゃくしゃにしながらミオは顔を真っ赤にしている。そういうマリア自身もちょっと頬を染め、シンバにウィンクを寄越した。
更衣室でなにやらイケナイ事をしていたらしい二人は、シンバが隣で聞き耳を立てていた、と勘違いしたようだ。
マリアは太もものポーチから一枚の紙切れ(スクリーンショット)を取り出すと、あっけにとられているシンバの手にねじ込み、ミオの手を引いてトゥトゥから出てゆく。
「口止め料だぜ」と渡されたその紙に写っていたものを見てシンバは大いに焦る。そこにはルルリアの着替えシーン、しかもガルーダスーツを外したばかりの無防備なところがバッチリとデカデカと写っていた。
「ちょ、ま、コレ…」
慌ててそのスクリーンショットを差し出すも、元の持ち主は既にいない。
いや、確かに嬉しいが、自分がこんな隠し撮りSSを持っていることがもし、ヤツに、ルルにバレたら今度こそ自分の命は無いのではないか?
だが、彼は捨てようにも捨てられない。
その小さな紙切れのフレームの中に納まっている彼女は、着替えという魅惑のシーンだということを差っ引いてもシンバにとっては魅力的な存在だったから。
彼はそのレアアイテムをそっとポーチにしまう。
無造作に突っ込んで落とす、という失敗が無いように慎重にポーチの中に保管場所を作るのであった。
◆
密林のフィールドは多種多様な生物の住処である。
今回ターゲットになっているイャン=クック等鳥竜種はもとより、雌火竜リオレイアといった飛竜種、盾蟹ダイミョウザザミなどの甲殻種、桃毛獣ババコンガら牙獣種も観測されるハンティングフィールドとしてまさしく狩りのメッカと言っても良い。
ハンターも歩けばモンスターに当たる、という感じだ。
「たったたかーん、たったたーんたかたーん、たたたーたたたーたーたーん」
「うは。マカライト鉱石、やっと♪うは♪」
脳天気な鼻歌を吟じながらルルリアが林の中を闊歩していく。
鞘に納まった無双刀を振り回しながらご機嫌な様子だ。
というかどこかにモンハンのサントラって無いの?神曲欲しいよ。
そんなルルの後にディズが続く。
普段はクールな彼女だが、ハンターとして自分で『素材』を集める喜びに目覚めてしまっているらしく、あっちの岩の裂け目、こっちの倒木の下、と忙しくうろついては様々なガラクタを拾い集めている。
その姿は素人新人ハンター丸出しで微笑ましい。
「……見ない大剣、ですな?」
「んぁ?ああ、俺の師匠がくれた物でな。正体不明なんだ」
好き勝手にはしゃぐ女二人の後ろからゆっくりついてゆくヴァンと風牙。
彼が話題にするのはヴァリオンの背中に縛られてる大剣だ。
やはりハンターは珍しい武装に目ざといのだろう。
それがどんな能力を持っていてどのような相手に効果があるのか生死を分ける重要なファクターであるからだ。
誰もが注目する珍しい武器をを所持していることはヴァリオンにとってもちょっと優越感が味わえていい気分だったりする。
「おい、ルル。あんまり先に行くなよ。クックに気付かれてあっちこっちにバラけられると面倒だからな」
「あいよー」
返事はしたものの全くもって馬耳東風なルルリアである。
イャン=クックのたむろする巣に向かって迷わず進んで行く。
あのまま単身で突っ込んで行くのは明白だ。
間違いない。
そんな妹分の態度を見て「しかたがねぇヤツだな、もう」と頭をガリガリと掻くヴァン。
デイジーはデイジーで今度は群生しているキノコにたかって、キノコ大好きなブタ【モス】のように楽しげに地面を漁っていたりする。
とりあえずクックが相手、しかも風牙は氷属性の弓【ソニックボゥⅦ】を担いでいる。
どんなに時間がかかっても日暮れまではかからないだろうと考え、ルルはとりあえず放って置いてかまわないと結論を出す。
そして自分も晩飯のつけあわせを採取していこうと一生懸命にキノコをより分けているデイジーの隣にしゃがみこむのであった。
キノコを採るのに集中している二人の後ろで風牙がヴァリオンの大剣【グラム=ブレイド(仮名)】にゆっくりと手を伸ばす。
ヴァンに気付かれないように気配を断ち、その指先を刀身に触れさせた。
「いっ……」
ピシリ、と腕全体に軽い電撃が走る。
ほんの爪の先程の接触でコレか。
強い静電気を直接流し込まれたようにズシリと残る関節の痺れに風牙は舌を巻いた。
はっきり言ってマズい状態だ。
もう八割方目覚めようとしていると思われる。
このままでは任務が失敗する可能性も出てきた、と彼にしては珍しく内心焦りを感じる。
すぐに『あの方』に知らせなければならない。
風牙は僅かなかすれ音を響かせ矢筒から一矢抜きソニックボゥにつがえる。
ソレをキリキリと引き絞り彼は青空高くに向かってひょう、と放った。
ビィン、と残響する弦音にヴァンとディズが顔を上げる。
その二人に「試し撃ちです」と微笑みを返し弓を背に戻した。
『おーい、あと五匹ー』
前方の洞窟からルルリアの間延びした大声が聞こえた。
既に一頭狩猟してしまったらしい。
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