ルルリアは自分の大人気のなさに少し自己嫌悪する。
だが、それ以上に"自分たちの過去”を話しているヴァリオンと同じ所には居たくなかった気持ちの方が大きかった。
「どうせまた、同じ事になるんだよね」
ルルリアは頭上の太陽を見上げ目を細める。
お昼をすこし過ぎた、やや強めの陽射しが眩しい。
その陽光の中、自分だけが取り残される、そんなデジャヴ。
あの流れだとヴァリオンはきっと自分達の素性と過去を話す。
そうすれば、きっと団の連中は自分達を特別扱いして離れていってしまう。
いくつかの都市を転々と移り住んできた今までの経験から、ルルリアはその結末が手に取るように解っていた。
皆、レジェンドハンターの名前に強いイメージを持ちすぎているのだ。
「……お父さん、お母さん……わたし、悲しいよ」
ぽつり、とこぼした彼女の呟きには、思慕と一緒に恨みの念がにじむ。
自分を護って逝った父母に対しての感謝。
自分一人を残し逝ってしまった両親への怒り。
そんな二人の仇を討ちたいという強い気持ち。
ルルリアは、そういった色々な感情が綯交ぜになったまま、トゥトゥの横にある楡の木の下に座っていた。
そこから見やる酒場の看板は、自分が初めて見た時より幾らか色褪せてくすんでいた。
その少し禿げた朱色の文字を見ながら、自分の思いを確認するように、彼女は目を瞑る。
「もう二年、か」
回想を独り言にして、ルルリアは立てた膝に顔を埋める。
猟団に所属し、多くのハンター仲間に囲まれているのはとても心地よい。
バカな事や嬉しい事を一緒に笑い合える存在が沢山居て本当に楽しい。
ギルドに所属するようになってそれなりに報酬金も溜まり、自分の生活も安定するようになってきた。
兄弟子のヴァリオンも何だかんだと言いながら自分の世話を焼いてくれる。
モンスターハンターとして、今の自分が置かれている境遇はとても理想的なのはわかっていた。
ただ、彼女の胸の中にはいつまでも消えない、いや消せないキズがあった。
それがどうしても枷になり、心から笑えない。
幼いころに見た、それは彼女の脳裏に強く焼き付けられ消え去ることは無い、あの日の記憶……。
全てを焼き尽くす赤黒い炎。
娘を庇い、背中を切り裂かれ倒れた母。
妻子を庇い、腕を食いちぎられてもなお脅威に立ち向かう父の姿。
両親の『早く、逃げなさい!』と繰り返される言葉。
そして……眼前に迫る、煌めく【黄金色の瞳】
「…つうっ…!」
ぶるっ、と体を寒気が襲う。
ただ、思い返すだけなのに、それは現実に起きている事柄のようにリアルなヴィジョン。
あの日以降、ルルリアは事あるごとにあの、黄金色の眼の幻影を見る。
それはヴァンも知らない、彼女の大きなトラウマ。
そしてその幻影の瞳は年を追うごとに鮮明になりつつある。
だが、その事実は恐怖を覚えると共に、ルルリアに一つの感情を目覚めさせつつあった。
「いつか、必ず……あいつを」
木の根元で膝に顔を埋めながら荒い呼吸を繰り返すルルリアを、一匹のアイルーが心配そうに覗き込んでいた。
「どうしましたニャ?具合が悪いのですかニャ?」
心底心配するような語調の言葉と一緒に、ひたりとやや冷たい肉球の感触が背中に感じられた。
「あ、ありがとう、ちょっと呑みすぎただけだから」
まったく気配を感じなかった。
無防備にも程がある。
自分の不安定な思考に喝を入れ、気遣ってくれたアイルーにちょっとしたウソを吐く。
とりあえず、一度酔った勢いで皆の前で真っ裸になってから酒は一滴も呑んでいない。
舐めてすらいない。
自分の痴態を後から聞かされた恥ずかしさは他にちょっと類を見ない。
自分に脱ぎ癖が在る事が解った時には流石にへこんだ。
「なら、良かったですニャ。お水をお持ちしますかニャ?」
そう言って彼は酒場に向かおうとする。
それを丁重に辞退してルルリアは木の根元から腰を上げた。
黄金の瞳の記憶に続いて、最近の自分の恥ずかしい記憶まで思い出してしまった。
少し気分を変えるために工房に行って愛太刀の手入れでもしてこようか。
そのやさしいネコに、気遣いの礼を改めて述べ、武器工房の方に足を向ける彼女をそのアイルーは「ちょっと待つニャ」と呼び止めた。
「ルルリア様とヴァリオン様にお届けものですニャ」
そう言ってそのアイルーは皮のポチ袋を一つ、ルルに差し出す。
先のゲリョスがサイズ更新したとかいう理由で、ギルドからボーナスコインが送られているとかなんとか説明を続けるネコに、ルルリアは疑問を一つ投げかける。
「キミ、なんであたしの名前解ったの?」
皮袋を受け取りつつ尋ねる彼女にそのネコは「乳丸出しのその格好ニャ」と実も蓋もない答えを返すのだった。
そして彼は「ヴァリオン様にも渡してこないといけないので失礼するニャ」と酒場のドアをくぐる。
その猫背に向かってルルリアは「……丸出しじゃないもん」と唇をとがらしながら、猫がきちんと閉めなかったゆらゆらと揺れる扉をぱたりと閉め、ルルリアは今度こそ工房に向かう。
「え、ギルドでも脱いでた、なんてこと無いよね……?」
ネコにまでガルーダスーツを愛用している事が知れ渡っているなんて、自分の評判は乳だけなのではないかと、一抹の不安で悶々としながら街道を行く彼女に道行く人々がそれこそチラチラと視線を飛ばす。
ここは大都市ドンドルマ、ハンターばかりではなく“一般の人々”ももちろん生活しているのだ。
そんな普通の人々が歩く中、オレンジ色の羽毛をふわふわさせながら半裸の女の子が闊歩していれば注目を浴びるのは必定。
しかもルルリア自身も女の子の中でも可愛い部類に入るコだ。
彼女には自覚が無いようだが、そんなんがそんなカッコでうろうろすんのはかなり目立つのだ。
とりあえず背中にくくりつけた双剣【ヒュプノクライシス】が彼女をモンスターハンターだと証明してはいるが、そうじゃなければただの露出好きな女の子だと思われても仕方ないいでたちですからね、キミ。