モンスターハンターオルタナティブ   作:雨垂夜詩乃

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060 所詮先生

 

ヴァリオンとデイジーがキノコを袋に仕舞っているうちに風牙が弓を構えクックの巣に入ってゆく。

そして矢を雨霰の様に【怪鳥イャン=クック】に振りまき始めるのであった。

彼の左腕が構えたソニックボゥは微動だにせず、上下左右の照準はブレることがない。

右の腕が引き絞るその力は弦を引き千切るかの如くまで張りつめられ解き放たれる。

撃ちだされた矢は大気を穿ち、ビュウと音を立てながら獲物目掛けて真直ぐに飛んでゆく。

矢羽根が捻りを生み、その切先は鋭い螺旋となりクックの体に突き刺さる。

風牙は右の目を閉じ、左眼のみで狙いをつける。

ぴくり、と弓を動かしモンスターが動くであろう先を読み、そこに的確に矢を置いてゆく。

洞窟の中全てが見渡せる位置に陣取り、そこから一歩も動かずに残り五頭のイャン=クック全てにダメージを与える凄腕の弓士。

寸分も無駄が無い取り回しにヴァンとデイジーが思わず感嘆の声を上げる。

ローナ団長の弓も上手いが、風牙のそれはなんだか違う次元で迫力がある。

 

向こう端でルルリアがクックの大きな嘴を跳ね上げる。

よく見ると、彼女は抜刀していない。

無双刀はその自慢の切れ味を披露することなく、鞘に納まったままクックと戦わせられていた。

 

「……ねぇ、アレって、どうなの?」

「……放っておいてやれ……はぁ」

嬉々としてイャン=クックを『殴り』つづけるルルリアを指差し、ディズがじめっとした疑問をヴァンに言う。

当然、満足いく答えはヴァリオンから返ってこない。

ヴァン自身も眉間を押さえ、何かに耐えているようだ。

戦闘は始まっているにもかかわらず、彼の口から大きなため息がついて出たのがその証拠だ。

「ま、いいか。わたしもやろっと」

 

がしゃり、と重い音をたてデイジーが地面に荷物を降ろす。

ルルリアがクックの只中で暴れているのでガンナーサイドは比較的ゆっくりしていても逃げられる心配はない。

デイジーが担いできたライトボウガン【火竜弩】

貫通弾を速射出来る代物で、属性弾は火。

「イャン=クック相手に火炎弾を撃ってもあまり意味が無いのだが……」とヴァンが首をかしげる。

 

「火炎弾なんか撃たないもん。コレが合う銃身が他に無かったんだもん」

 

そう言いつつ、彼女がバックパックからじゃらりと取り出すベルト。

コレ、と言いつつディズが取り出したそれは貫通弾を一列に並べ帯状にしたベルトリンク。

その物騒なものを「よいしょ」と肩にかけ、彼女は火竜弩のレシーバーにベルトの先を突っ込み流れるように装填する。

 

「……な、なんだそれ」

「ごっつい……な」

 

男連中二人があっけにとられている間もデイジーの準備は進んでゆく。

火竜弩のフレームに三脚を取り付け、マズルにサイレンサーをキリキリと装着する。

ストックも自分用に新規に削りだしたようで、普通の形状ではない。

 

「さて、殺るか」

 

ガチリッ、とリロードしてルルリアに合流するべく小走りにたったか行ってしまった。

体中にベルトリンクを巻きつけてかなり重そうな様子。

しかしその後デイジーがとった行動はまた二人の口を開きっぱなしにさせる。

風牙の射線に影響が無いポイントにたどり着くと三脚を地面にしっかりと固定し、自らも腰を落としてグリップを握り照準を覗く。

いやさライトボウガンにあるまじきかな、彼女は名実共に固定砲台となり装填速度や残弾数を気にしない勢いで貫通弾を連射し始める。

 

銃口から勢いよく放たれる弾丸。

バレルが僅かに震えるもそれは銃身が地面にしっかりと固定された今の状況では些細な誤差も生み出さない。

試射が終わり調整が上手くいったことを確認するとデイジーはぺろりと唇をなめ、改めてリアサイトを覗き込みルルリアがかく乱している赤い怪鳥の一匹に狙いを定める。

 

ディズの触れるトリガーはデリケートなフェザータッチ。

彼女は連射する弾丸のキックバックを両肩に感じながら獲物をハチの巣にしてゆく。

特性のベルトリンクが機関部にどんどん飲み込まれてゆく。

火竜弩の中で命を与えられたとがった弾頭がささやかなマズルフラッシュを起こし、次々と撃ちだされる。

と同時にディズの足元には軽やかな金属音をたてて空になった薬莢が散らばっていく。

 

随分と派手な攻撃の割には岩陰と消音機のおかげでデイジーの姿はクックに見つかっていない。

まぁ、ルルリアが足元で立ち回っているせいもあるが、どこからか飛んで来る弾丸に連中が泡を食っているのは事実だ。

 

「……アレは、どうなんですのん?」

「……ほ、放っておいてやって……ください」

 

斬新過ぎる狩猟風景に弓を構えることも忘れ、風牙がべったりした声でヴァリオンに問う。

当然、ヴァンは頭を抱えるしかない。

 

「どうしてこう、俺の周りの女ハンターはヘンなのが多いんだ」

 

片や抜刀しない太刀を振り回す剣士、片やライトボウガンの限界を軽く斜め上に特化させたガンナー。

こいつ等にルールというものは存在しているのだろうか。

 

「んふ、面白いですな。こういう新しい発想が新時代を生み出すのやろな」

 

ニヤリと笑みを浮かべ、風牙も矢を一掴み弦につがえる。

一度に五、六発放つ心算のようだ。

いつも以上にギリギリと引き、頬に浮かべた微笑が僅かに歪む。

直後にビンッ、と放たれた矢全てがターゲットに命中したのは言うまでもない。

 

「しかたないな……やること無いぜ、俺」

 

ヴァリオンはグラムブレイドの柄にやりかけていた右手を下ろし、ポーチの中から【音爆弾】をいくつか取り出す。

そしてルルリアに向かってぽいぽいと放った。

弧を描いて飛んだソレはクックの耳元で破裂し、キーンと甲高い高音を発する。

 

【怪鳥イャン・クック】の特徴はその大きな嘴のほかに目立つ頭翼、通称地獄耳がある。

本来臆病な性格のクックは外敵の襲来をいち早く知るべく周囲に対しての警戒を怠らない。

その時に役立つのが集音機の反射板のように広げられる例の頭翼である。

それは言うなれば探知機のように働き、好物の【クンチュウ】がいる地中を探ったり、敵のいる方角や距離まで把握してクックは正確に向かってきたり、また逃亡したりする。

体力も攻撃力もそこそこで楽な相手、とはいえハンター達が相手にしなければならないモンスターであるゆえそこは一癖も二癖もあり、場合によっては戦い辛い時もある油断の怖さを地で教えてくれたりするのだ。

 

そんな敵や獲物の立てる僅かな音にも敏感で臆病なクックである。

耳元でそんな無粋な破裂音を立てられれば心底驚いてしまうのだ。

普段は前傾姿勢で歩きまわるその背筋をピンと直立させ、立ったまま気絶してしまう。

音爆弾が破裂すると同時にデイジーの放った弾丸に倒れたヤツと、丁度風牙の矢に気付いてこっちに向かって突進してきた一匹を除く三頭が音爆弾の音で目を回していた。

 

「チャーンス」

 

ルルリアは無双刀の鯉口に手をかけ左手を抜き放つ。

しゅりん、と鳴いて虹色に光る刀身が表れ、周囲に剣気が流れ出した。

一呼吸置いて、彼女はその太刀を振るう。

地面スレスレまで腰を落とし、無双刀を平に構えて力を溜める。

「はッ」と短く息を吐き、ルルリアはその小柄な体のバネを目いっぱい使い飛び上がる。

起立したクックをざん、ざん、ざん、と一息で三度斬り付け着地すると無双刀をブン、と振り僅かに付いた血糊を払う。

 

哀れな怪鳥はその攻撃で音爆弾で気を絶した混乱のまま事切れる。

他の二頭のたどる末路もまったく同じ。

彼らはたったいま自分に何が起きたのかそれすら気付くことなく、今までを考える間もなく地面に崩れ落ちる。

 

音爆弾を逃れた一頭も、攻撃をしかけた相手が悪すぎる。

風牙の放つ情け容赦のない射の餌食である。

残身を保ったままひょいひょいと体をかわし、彼は正確にクックに矢を射続け、まるで針ネズミのようにその体に矢をはやしてゆく。

いくらもたたない内にその最後の一頭も力なく倒れ、ここに無事『イャン・クック6頭討伐』は完了する。

 

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