戦果は以下の通り。
ルルリアが四頭、デイジーが一頭、風牙が一頭。
ガンナー二人は他にアシストをしっかりと行っており、十二分に役目を果たしていた。
「んで、ヴァンは何したの?」
「お、音爆弾投げてやったろ」
「ちゃんと仕事したろ」と口ごもるヴァンにルルリアが無双刀に砥石を当てながら「背中の大剣は飾りなんですね解ります」とニヤニヤしていた。
お約束の様に言い合いを始めた兄妹達はネコを呼び出さないようなので、代わりにディズがネコ笛を吹く。
風牙にも一応目をやったが、彼は洞窟の壁に寄りかかって目を閉じこの狩猟が終わるのを待っているようだった。
ギルドネコたちがいつものように現れ、事切れたクックを調べ始める。
中型の鳥竜種、とはいえいっぺんに六頭である。
それなりに丈夫そうな台車が運び込まれて一台に二頭を乗せ、彼らは仕事を手早く進めてゆく。
「えー、アンタがサインしてほしいニャ」
いきなり声を掛けられ、アイルーたちの仕事をぼさっと眺めていたデイジーは少し驚く。
下に目を向けるとリーダーネコと思しき一匹の濃緑色のくせ毛をしたアイルーが既にハンコを押した紙を差し出していた。
ああ、そうか。
ヴァリオンとルルリアはあっちで兄妹ケンカの真っ最中、風牙はゲストで、こういった雑事にはあまりかかわらない。
なるほど一番下っ端の私にしか声を掛けられなかったか。
「はい、これでいいですか?」
その紙切れにサインして差し出すも、ネコはディズを見ていない。
そのどんぐり眼を更に目いっぱいに見開き、洞窟の入口を凝視している。
彼の浮かべる表情は驚愕と恐怖。
その尻尾はパンパンに膨らみ、背中の毛も逆立っている。
このアイルーが何かに気付き、怯えているのが見て取れた。
「?……な、え?」
そして彼の視線の先に目を向けたディズはまさに自分の目を疑った。
そのリーダーネコは一瞬の内に仲間達に号令を出し、彼ら全員一目散に逃げてゆく。
クックの遺体も、台車も全て残したまま。
彼らは散り散りばらばらに獣道を脱兎の如く逃げてゆく。
それも当然の事。
デイジーが見つめる先、洞窟の入口。
その逆光の中、何かが佇みこちらを睨みつけている。
ソレは牙をむき出し、ハァハァと荒い吐息。
前脚の爪を地面に突き入れ、一歩づつ近づいてくる。
差し込む光の中から洞窟の中に姿をみせたソレはまさしく巨大な狼。
銀の毛並みも冷たく美しく、体の各所に生える鋭い棘が力を誇示する。
そしてその黄金色の視線には敵意をありありと浮かべた新たな脅威の登場であった。
自分の3倍もあろうかという獣が、咽を低い音で鳴らし姿勢を低くくする。
視線だけがギンギンに煌めきデイジーを見据えている。
彼女は無意識のうちに火竜弩を三脚から外しにかかった。
意味のない事だと頭のどこかで理解しつつも、極力音をたてないように慎重に動く体。
ベルトリンクもどうにか一巻きだけは確保する。
心臓が破裂しそうなくらい高鳴っている。
しかし、脳髄は凍りつくほど冷静なフリをしていた。
「……ひっ」
しかし、ギロリと睨まれた狼の眼光に押され、後ずさりしたとたん何かに肩をつかまれる。
思わず素で上げた悲鳴をディズはどうにかかみ殺す。
ヴァリオンが優しくディズを支えていた。
だが、彼も視線を狼に向けたままだ。
気づくと彼女は左右をヴァンとルルに挟まれ守られていた。
突然、ビュウと風斬り音を響かせ矢が頭上を掠める。
しかしソレは今しがた狼がたたずんでいた地面にめり込んだ。
背後から風牙の舌打ちが聞こえる。
それも最もだろう。
狼の横にスライドした動作を視認できなかった。
今の攻撃で、さらに殺気を濃くする銀毛の狼。
口を開けばイヤな鋭さをした牙が唾液でぬらりとネトついた顔をのぞかせる。
見ただけでアレに引き裂かれている自分を想像してしまうほどの迫力。
「……ルル」
「うん」
ヴァンはデイジーの肩を抱きながらグラムブレイドを前面に構える。
ルルリアに目配せをし、そのアイコンタクトを正確に把握した彼女が無双刀を構えて走る。
ルルの接近を見て取りヤツは「ぐるる」と唸り声を更に深くし尾の毛をばさりと広げる。
ソレは毛というには太く鋭い。
そしてヤツはその太く力強い尾をぶるりと振り回し、その鋭い先端を持つ棘を根元から撃ち出す弾丸に変えた。
「ちょ……ッ!」
向かう前方から鋭い針を撃ちだされ、ルルリアはその勢いづいた突進を横っ飛びで無理矢理進路変更する。
彼女の走っていたラインにそってズカズカと刺さる凶針。
かろうじて回避出来たルルリアだが、更に回避を余儀なくされる。
狼は先ほどの攻撃など威嚇に過ぎない、とばかりに洞窟いっぱいに針を撃ち出し始める。
一発一発が非情に早く、鋭く、正確な射撃。
ルルリアは地べたを転げ回ることしかできず、ヴァンはデイジーを庇いグラムブレイドを楯代わりに地に突き立てたまま動けなかった。
「ヴァンあっち!ルルが危ない!」
「お前を放っておけるか。あいつなら大丈夫だ」
経験の少ないデイジーを自らの体でかばいながらヴァリオンは謎の狼の攻撃を防御しつづける。
とりあえず飛んで来る針はガード出来る威力なので自分達は問題ない。
ルルと風牙の動きを目の端で捉えつつ、まだうろたえているデイジーの言葉を強めに切り返す。
ガツンガツンとグラムブレイドの刀身を叩く針のつぶて。
落ち着いた口調でありながら、ヴァリオンも狼の途切れない攻撃に内心焦りを感じる。
いま戦っている相手は初見、何をしてくるかわかったものじゃない。
風牙のヤツもいつもと違って苦虫を噛み潰したような顔を隠せていない。
ルルリアも表向き普段どおりに回避行動をとっちゃいるが、額に汗が滲んでいるのがここからでも見える。
「……マズいと言えば、マズいけどな」
しゃがみこんでミラバルカンフットの脛の部分をがっちり握っているデイジーに気付かれないようにごちる。
洞窟の入口に陣取って飛んだり跳ねたりしながら、満遍なく攻撃を振りまく狼。
なんだか楽しそうに見えるのは気のせいか。
「だぁッ!ちまちま、ぴゅんぴゅんとッ!そんなもん飛ばしてねーでお前が来いッ!!」
避けるのに飽きたのか、転げまわるのに飽きたのか。
狼に向かってビシリと中指を立て、ルルリアが吠える。
無双刀を振り回し、いまだに名前すら解らない新顔相手に対して大仰に威嚇する小柄なハンター。
「このルルさんが直々に相手になってやる!来いやこのチキン野郎!………ドッグ野郎かな?アレ」
「いやウルフやろ?」
びっし、と裏手でツッコむ風牙さん。
ルルの挑発に引っかかったとは到底思えないが、狼は動きを止めていた。
じーっとルルと風牙のやり取りを見ている。
「ウルフって狼でしょ?アレ狼って言うにはゴツくない?」
「アレを犬っていうにも過ぎるやろが」
「ええー?わんこのが可愛いじゃないスか」
「あんさん、コレだけヤラれてよぅ可愛いとか言えるなぁ」
やぃやぃと漫才が続きそうになるところで当の狼が苛立ったように吠え、皆は緊張を取り戻す。
.