ルルリアに覆いかぶさっていた風牙がゆっくりと立ち上がり、狼に向かって残った左腕を突き出した。
オルガロンは二、三歩後じさり、渦巻いていた熱気と殺気を潜め怯えているように見える。
耳がへたりと折れ、尾もうな垂れている。
風牙の腕を咥えたまま、強靭な四肢を地面に折付けんばかりに低姿勢だ。
「……去ね」
荒い呼吸でぼそりと一言、額にはじっとりと脂汗を浮かべる風牙。
だがその眼光は今まで見た中で一番の鋭さを含み、狼に向けられていた。
上腕部で食いちぎられた腕から、心臓の拍動に呼応し規則正しく彼の命の源が流れだす。
それを留めることもせず、彼はオルガロンに向かって威嚇し続けた。
「……去ねッ!」
二度目に彼が吠えた時、狼は間を置かずに飛び上がり洞窟の天井の穴へ向かう。
彼の腕を咥えたまま疾風のように消えた狼。
それが見えなくなったとたん、風牙は地に片膝をつく。
左腕をわきの下に入れ、きつく締め上げるも出血はなかなか収まらない。
「ちょ、ヤバい……かな」
思わず体が動いてしまった。
まさかあいつが【捕獲対象】を殺す勢いで我を忘れるとは夢にも思わなんだ。
ルルリアを始末してしまったら、それこそなんの意味も無いじゃないか。
だが、どうだ。
自分がルルの前で自らを盾にした本心は、なんだかソコじゃあない気がする。
これだから軟弱な人間の体は……。
思考の渦に巻かれていた風牙は朦朧とする意識を取り戻すと、ルルリアが血塗れになるのも構わずに止血行為をしていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も繰り返す彼女の顔色は真っ青だ。
自らのボーンUメイルのマントを引き千切り、その当て布とそこらの棒で上腕部に止血帯を作ってゆく。
自身の責任の重さを感じているのか、震える指先に必死に喝を入れて作業を続けるルルリア。
「……そないに、気にせんでも、ええよ」
なぜだか自然と穏やかな声が出る。
第一、オルガロンを呼んだのは……風牙自身だ。
任務達成の為とはいえ、ルールを捻じ曲げた結果、こうなっただけ。
彼はこの結末を受け入れていた。
血を流しすぎたのか、自分でも脈拍が弱くなっているのが分かる。
吐き気も多分にある。
「今までいろんな事をしてきたけど腕が無くなったのは初めての経験だ」と朦朧とした頭で考える。
「かぜ、さん……?」
なでなでと自分の頭を撫で付ける風牙の手のひらが優しいのはなぜだろう。
彼の目はやや翳り、普段の鋭さは全く見られない。
皮膚は青白く、だんだん冷たくなっていく。
ルルの目から見ても彼が今、大量の失血によるショック状態にあるのは明白だった。
しかし、その表情は穏やかで優しく頭をなでてくれている。
噴出すような出血を止めることは出来たが、それでも彼の状態が最悪なのは一目瞭然だ。
早く病院に連れていかなければ……でも。
「荊、姉に……なんて言おう」
ふ、と意識が途切れた風牙を支えたが、ルルリアはその細身だがしっかりした男の体の重さによろける。
とりあえず、この洞窟から運び出して、ギルドに連絡しなければならない。
それはヴァリオンに手伝ってもらわないと無理だろう……そこまで考えて、ルルリアは背筋に凄まじい悪寒を感じる。
遠くでヴァンが何かを叫んでいる。
その大声は洞窟の壁を幾度も跳ね返り大音量で響き渡っていた。
彼の声はやっとのことでルルのオルガンを叩き、彼女は今の状況を一瞬で思い出した。
ルルリアの目に、地面に転がる無双刀の亡骸が映る。
そして背後から迫る、一頭のクック・ゾンビ。
しまった、と思う間もなく彼女は腹部に強い外力を感じる。
背からクック・ゾンビに喰らいつかれ、ルルはその小柄な体を空中に持ち上げられてしまい今まで支えていた風牙の体がずるずると地面に崩れていくのを眼下に見送った。
「う、ぐぅっ……!」
ヘソが丸出しのセクシー装備、ボーンUメイルはなんの意味もなさない。
クック・ゾンビの無遠慮な嘴がみりみりとルルのやわらかな腹部を締め上げる。
口腔内のぬめった舌がぬらぬらと動き回り、彼女の腰から背中にかけて露わになっている素肌部分をいやらしく舐め上げた。
ぞぞ、と背筋を這う悪寒。
ルルリアはキリキリとわき腹を締め上げる硬質な鋭嘴の感触よりもその舌が這い回る感触に濃い嫌悪感を抱く。
その明確になんらかの意思を持った舌先がぴとぴとと腹部をなめずり、肌理の細かな少女の肌を味わってゆく。
狂怪鳥の死んだ脳髄が獲物を味わいつくそうとありえぬ命令を送り続け、クック・ゾンビは嘴を締め上げつつ長い舌でルルリアを唾液まみれにしていった。
「ちょ、このッ!なにコレっ!?」
嘴の尖った部分で挟まれた彼女の腹に一筋の血が流れる。
ルルリアは空手、無双刀のきらめきははるか下だ。
死んだ刀とはいえ、あの刃先だけでも持っていれば少しは役に立ったかもしれないが、その後悔も後の祭り。
両手で嘴を広げようと必死に抗うも、その顎はびくともしない。
いくら鍛錬しているモンスターハンターとはいえ、女の子の力で獣の閉じようとする顎の力に敵うわけがない。
段々と鮮明になる腹部の鈍痛にルルリアは二度目の戦慄を覚える。
「ぅひゃっ!?」
腹から二分されて事切れる自分の幻想を必死に振り払う彼女は急に別の刺激を感じ、素っ頓狂な声を上げる。
クックの先細りの舌がボーンUフォールドの隙間に滑り込み、ルルの下腹部にそのぬとついた体液で膜を作る。
遠慮なしに這い回るその舌先がグリーヴの装飾の奥にある布切れの食い込みに届き、ルルリアは頬を朱に染め更に抵抗を強めた。
「ふ、ざける……ぅんっ、ちょ!あっ……んぅっ……くぅ」
ぴろぴろと刺激を送るクックのベロの動き。
性的に殆ど開発されていない少女はその感覚をいやがおうにも引き出されてしまう。
愛撫というには程遠い強烈な刺激を送る舌に加え、ぎりぎりと締め上げる凶嘴がルルに与える苦痛。
強烈な嫌悪感の中に甘さを含む刺激が股間から全身に広がる。
腹にまとわりつく痛みの中にも自分でも良く分からない感覚を覚えてしまい、彼女は状況に集中出来ない。
自分でイジったことすらあまりない秘めた部分を舐め上げられ、ルルリアはその太ももを擦り合わせた。
そうすることでこのイヤらしい舌先が自分の中に入り込むのを防ごうとするかのように両足に力を込める。
だが、しかしクック・ゾンビのザラついた、ネトついた舌はルルの抵抗をモノともせずにルルのアソコを味わおうと蠢き続ける。
死ぬことより、殺されることよりおぞましい事が起きるのではないかという本能的な危機感を感じるが、ルルの思考は千々に乱れて体がどんどん硬くなって動かない。
クック・ゾンビは卑しい唾液を撒き散らし、ルルリアの小柄な体を戦利品のように高く掲げ洞窟の奥に潜ろうと歩を進める。
ここの奥にある、生前使っていたプライベートな空間でこの柔らかい獲物を堪能するつもりだろうか。
死から蘇った空ろな存在と成り果てた今でもその本能はクックを突き動かすのか。