二人の間に穏やかな沈黙が染み渡ってゆく。
シンバはあくまでも自然で、その言葉にウソ偽り無いことを示し続け、ルルリアもまた今の彼の言葉に軽口で返すべきではない事を理解していた。
どうだろう、我ながら直球すぎただろうか。
いや、すんなり出てきた言葉だ。ルルに届くと信じよう。
こっちを向いて目ン玉飛び出そうにびっくりしている彼女に。
というか、今まで言わなかったけど俺も結構態度に出してた気がするからなぁ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。
「え、今?」
「うん、今だから告った」
「あ、そう」
そう言ったきり、ルルリアは寝台の上で半身を起こしたまま俯き固まってしまった。
あきれるくらい真っ白な病室で、二人の息遣いだけが色を感じさせる。
自らの思いをやっと告げることが出来たシンバはある意味で満足していたが、まだルルリアから返事がこない。
そのルルリアは、というと寝台に半身を起こし上掛けをのシーツを両の指先でよりよりと弄りながら唇を尖らせている。
眉間にしわが寄って、眉毛も逆八の字でなにやらぷんすかしている様だが、そのほっぺたは毒々しいくらい真っ赤に染まっていた。
あれは、照れていると見ていいのだろうか。
よくわからん。
シンバは自分から告白したのは初めてのコトであったし、その相手がややこしい性格のルルリア嬢だというのもまたなんとも難儀なことだった。
どれくらいの無言時間が過ぎただろうか。
ゴム底の靴が立てる甲高い摩擦音と革靴の硬い靴底が響かせる音が近づき、それはドアを開け一気に静寂を追いやった。
当たり障りの無い言葉を口にしながら、その七三分けのいかにも生真面目な医師はルルの額に手を当て、口の中を覗き、その後聴診器を取り出して前を開けるように事も無げに告げ、ルルリアはその言葉にちらっとシンバを見たが直ぐにシャツをめくり上げる。
そのタイミングを計って身構えていたシンバはルルのシャツがめくれると同時にグキッと首を明後日の方向に向けた。
ブラジャーなどという気の効いたモノを着けているはずもないルルリアの生乳が露になっても医師は平然と診察をし、淡々とシャツを下ろして良いと告げる。
ルルが目の端で確認するとシンバは横を向いて目まで閉じている。
なんだろう、今彼のことをちょっとカワイイとか思ってしまった。
ついこないだ、わたしの胸にちょいと悪さしたクセにさ。
患者の身内と勘違いされたのか、医師はカルテをめくりつつシンバに向かってこう告げる。
「ちょっと熱っぽいですね。傷からくるものかもしれません。もう少し安静にしていてください」
そして返事も聞かず、彼らは次の患者の所へ向かった。
「……へっ、くしッ!」
医者と看護士がいなくなると同時にあからさまにウソくしゃみをしてごそごそと布団にもぐりこむルルリア。
さて、困ったのはシンバ君だった。
寝ちゃったよ、ルル。
いや起きてるだろうけど、あっち向いてるよ。
えー、っと……出、なおすかな?、かな?……それとももしかして、ボクの告白は無効ですか?
「な、なぁ。ルル」
「クサい台詞だった」
うっ、と言葉を詰まらせたシンバに起き上がって向かい合うルルリア。
なんだろう、その顔は嬉し恥ずかしいぞこのヤロウ、とでも言いたげなはにかみ色に染まっている。
と思うのは都合が良過ぎるかもしれないが。
「でも、ちょっと嬉しかったとルルリアは正直にお礼をいいます」
と、そうのたまったルルはニンマリと目を細め、くふふと笑った。
その心から溢れた笑顔にほっとしてシンバも微笑む。
なんだか告白に対する答えはスルー気味な気もしないでもないが、ルルが嬉しそうだからいいかなと緊張を解いた瞬間、ヤツはつむじ風のように上掛けをかなぐり捨てシンバの腕を掴んだ。
「んじゃ、愛してくれてるってトコ証明してよ!ね♪」
「うおっと!っと!」
急に振り回されたことにバランスを崩しながらもシンバは無様に転ぶ事は回避してルルに引っ張られるままに病室を出る。
「お、おい!おまえ熱っぽいんだろ?いいから寝てろって!」
自分の腕をつかんだままぎゅんぎゅんと速度を上げて廊下を疾走する彼女の背中に向かってテレ隠しな言葉をかけてみた。
「誰のせいで熱が上がったと思ってんのよ!」
一向に落ちないスピードにのった風と一緒に、ちょっと上ずった返答がぶつかってくる。
振り返らないツーテールからちらちら見える耳たぶが紅色なのが目に飛び込んでくる。
「あんただバカやろめ!」
と追い討ちの一声を発し、ルルはぎゅっとシンバの手首を握る手を強めた。
彼女の言葉を素で受け止めてしまったシンバはうろたえつつもガッツポーズだ。
俺はルルを精一杯幸せにしてもいいんだな、と思う。
きっと、シリに敷かれるだろうけど。
うん、確実に。
それでもきっと、それは楽しい毎日に違いない。
そんな二人の後ろでは。
わなわなと腕を振るわせる人影。
……せっかく新しいシーツに取り替えたのに、真っ白で清潔な寝具はぐしゃぐしゃ。
上掛け布団は床に無造作に落ちたまま。
そしてドアは開けっ放し。
埃を立てて廊下を爆走してゆくマナーもルールもへったくれもない小娘とそのお供を遠くに確認し、この病室を担当している不運な看護士は深く嘆息した後、カルテを挟んだクリップボードを床に叩き付けた。
そして間髪を入れず発せられた彼女の金切り声にルルが居た病室の両隣の患者達が飛び上がったのは言うまでも無い。
みんな、病院では静かにしようね♪